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第四章 天使と悪魔
天使と認定されてもね~
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『ガハハハハハハ』
キャリヤは大声で楽しそうに笑い出す。
『オノレにマケタ ソノヨルに ワレはワレノ フガイナサに ゲキドしタ』
『イカリ スギて カミのイロまでカワッテ シマッた』
『ソシテ シンかシタ』
「どっかの戦闘民族かよっ!」
(レベルは私の方が上だが、総体的にヤツの方が強い!)
『コナイナラ イク』
『水の羽衣』
青い水膜に包まれたキャリヤは目にも止まらぬ速さで動く。
素早さも今ではほぼ変わらない。
そのスピードで目の前まで一気に距離を詰めて来た。
だが加奈子も戦闘力だけではなく精神も成長している。
さほど驚くことも無く、すぐに戦闘態勢を整える。
ヒュゴッ バキッ
キャリヤの蹴りに対して加奈子も脚を合わす。
重い。
明らかに前回とは違う。
そのまま態勢を低くしてキャリヤの足を狙い旋風脚を見舞う。
キャリヤは軽くジャンプして躱す。
そして上から両拳を結んで打ち下ろしてくる。
(これを受けたらいけない!)
加奈子はとっさに後ろに飛びのいて躱す。
ドッゴーン
加奈子が居た場所に小さなクレーターが出来る。
「フフフッ やっぱりあんたは強い!」
加奈子はそのままキャリヤに飛び掛かり真空飛び膝蹴りを放つ。
キャリヤは首をねじって避けたが、真空波は頬と耳を軽く切り裂く。
『グフフフフ』
『イマノはアブナ かっタぞ』
斬られた所を手で押さえながらキャリアは笑う。
加奈子は着地と同時に後ろ回し蹴りを顔面に向けて放つが、キャリヤは身体を反らし躱す。
反らした身体を戻す力を利用して、鋭いパンチを振り降ろすが腹に重い鈍痛がする。
「火球」
蹴りが空振った反動を利用して身体を素早く回転させ、キャリヤの腹目掛けて渾身の火の球を打つ。
この至近距離からの火の球は、一度致命傷になるくらいのダメージを与えている。
だが今回は火魔法耐性でダメージを半減する。
数歩分、後ろに飛ばされただけだった。
「くっ!」
『オナジてハ クワナイ グフフ』
『ダガ カナリ イタカッタぞ』
加奈子の火球も前とは比べようも無いくらいの高火力になっている。
しかしキャリヤの防御力や体力も段違いに上がっている。
そして水を纏っているので、火の属性はダメージを落とす。
万が一のとばっちりが来ないように匍匐の体制で戦いを観戦しているトオル達。
2人の戦いは、トオルと七和田の視界の中では何が起こっているのかほぼほぼ理解できない。
超早回しで映画を見ているような気分になってくる。
加奈子は一旦後ろに飛びのきキャリヤに問う。
「キャリヤよ、たった一日でどうやってここまで強くなった?」
キャリヤは戦う姿勢は崩さずに加奈子の質問に答える。
『フッ オナジことヲ オノレにキキタイ』
『キノウのママノ オノレナラ イマゴロはソコに コキュウもセズ コロガッテいるダロウ』
「私はおまえを倒す事しか考えてなかった」
「その結果がこうなっただけ」
『ワレも オナジ コタエに ナルダロウ』
ヒューーーーン
『水の盾』
バチッ
どこからか矢が飛んできてキャリアの頭に向かうが、水の盾に当たり砕けて落ちた。
それは七和田のグループの人間たちだが
まったく動かない七和田とトオルが倒されたと勘違いしていた。
そして、それが今戦ってるどちらかだと言うのは推測できるが、どちらかわからず今まで傍観していた。
だが、近くまで来ると背が高く筋肉質でガタイの良い男は人とはちょっと違う様相をしていた。
2人ともとんでもなく強いのは見てわかるし、素早すぎて矢など放てる状態じゃなかった。
けど、二人ともが止まった今がチャンスだと思い、素早く矢を撃った。
『水弾』
自分を狙ってきた男に、キャリヤはお返しの水弾を撃った。
無数の水の弾が男を襲い、身体を貫き、そしてその場に倒れ込む。
『チッ キが ソガレた』
『キョウは モウ ヤメダ』
『ツギに ヤルトキマデに モットツヨクナッテおケ』
『ワレも ドンドン ツよク ナる』
「このまま続けてれば私が勝っていたよ」
『フッ ウヌボれルナ マダ オウギもミセテ イナイノニ』
(そういえば龍鬼化ってスキルがあったなぁ)
「ふふっ 心配しなくて良い。私もまだ見せてない物が色々ある」
『フッ マケオシみヲ イウカ』
『オンナ よ オノレのナを トウ』
「私の名前は櫻庭加奈子、良く覚えとくがいい」
『オオバカ ナ コか オボエタ』
「変な所で切るな!!!」
キャリヤは颯爽と自分の巣へと帰って行った。
加奈子は倒れた男のもとに走る。
いくつも身体に穴があき、もう虫の息だ。
「ヒール」「ヒール」「ハイヒール」
見る見るうちに穴はふさがり、瀕死の状態だった男は息を吹き返した。
(間に合った)
加奈子は聖人君子を気取るつもりなどなかった。
偽善者精神を引け散らかす気も無い。
ましてや、ヒーローを気取るつもりもない。
だが、自分たちの戦いに巻き込まれたこの男を無視する事も出来なかった。
男は自分の身体を触り、助かったことを認識する。
そして、目をパチクリさせながら加奈子を見て驚いた顔をする。
(???)
「大丈夫ですかー?」
「て、てて、天使だーーーーー」
しばらくして七和田とそのグループの人間達に囲まれて加奈子は戸惑う。
「ありがとうございました」
「本当に助かりました」
「いえいえ、大したこともしていませんし、そんな仰々しいお礼など必要ないですよ」
「どうも初めまして。俺はこいつらの
「あ~それでは皆様お大事に」
そう言いかけた七和田を無視し、加奈子は早々に帰ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って下さいよー」
「おーいトオル君からも何か言ってくれよ」
(トオルちゃん?)
「トオルさんは何か用事があるって先に戻りましたが?」
「え~黙って帰らないでよトオル君~」
帰りかけた加奈子はその場で振り返り、七和田とは違う男に尋ねた。
「その、トオルって方は何トオルと言うのですか?」
「えっ?」
「櫻に庭と書いて櫻庭通さんと言います」
(ふふふっ)
「そうですか、では、皆さんはトオルちゃんとどういった御関係で?」
「トオルさんをご存じなんですか?」
「私は櫻庭加奈子と申します。櫻庭通は私の弟です」
「「「えぇぇぇぇーー?」」」
七和田に対しての態度を軟化させた加奈子だが、やはりナンパ男のイメージが消えない。
「それで、お姉さん、少しだけ話を聞いてもらえませんか?」
「ナンパ目的じゃなくてですか?」
「なっ? そ、そんな気持ちは全くないです!」
「あら、勘違いだったのかな?」
「でもそれはそれで女性に対して失礼なお返事ですね。ふふっ」
「す、すす、すみません・・・」
ペコペコと頭を下げるその男に少し可哀想に思ってしまう加奈子だった。
「ところで、あなたがリーダーさんなのですか?」
「はい、一応クランのまとめ役をやらせてもらっています」
「クラン?」
「はい、六アイ小学校と向洋町にある中学に避難しているグループの集まりをそう呼びます」
「今は大小80くらいのグループで1000人ほどが避難しています」
「え~っと、お名前は秘密なのですか?」
(鑑定スキルでもう名前は知っているけどねw)
「す、すす、すみませーん。七和田 亜生良と申しますー」
「自己紹介もしないで話を聞けとか、そりゃ不審に思いますよね・・・」
(ただ単にナンパ氏っぽいからだったけど)
加奈子は小柄ながらその美貌で、若いころから頻繁にナンパにあっている。
中にはとんでもなくしつこい男も居るので、どうしてもナンパ師は敬遠してしまう。
七和田の話は、イーストコートの未避難者の救出とモンスターの殲滅が今の活動内容だと言う。
「お姉さん、ぜひともうちのクランに来ていただけませんか?」
「その前に、そのお姉さんは辞めてもらえませんか?」
「ど、どうお呼びすれば?」
「普通に加奈子でいいですよ。トオルちゃんは下の名前で呼んでるんだし」
「わ、わかりました。加奈子さん」
「まずはトオルちゃんとお話ししてからじゃないとお返事は出来ないかな?」
「そ、それなら良い返事を頂けるんですね?」
「あの子が反対するなら無理ですよ?」
「それは大丈夫だと思います」
「彼はうちのクランでマインダーをやってもらっているんです」
「マインダー?」
(ほんと、知らない言葉ばかり)
「クランの相談役とか作戦参謀とか資源の管理とかやってもらってます」
「まあ頭の良い子だから、それくらいは熟せるんでしょうかね」
「彼が居なけりゃあのクランは立ち行かないですよ」
(もうトオルちゃんは立ち直ったのかな?)
(もしそうなら家での行いはストレスからかな?)
色々と思うところはあるが、トオルが人と接して頼りにされてることがほんの少し嬉しかった。
取り敢えず、向洋町にある中学に向かう事に決まった。
距離的にはすぐそこなんだけど、少し見て欲しい所があると言われて、コクンと頷く。
4番街に沿って道を南に歩いていくと、中学の西真横にある6番街が出てくる。
ここは14階ほどの中層で幅広のマンションが1~5番館まである。
5棟ながら、戸数はそこそこあるので大きなマンション群の部類に入るだろう。
そこはゴブリンの巣窟となっているらしい。
ゴブリンは学校回りに張り巡らされているフェンスを越えて来ることは無いのだけど、オークはフェンスを登って侵入する事があるらしい。
道路を挟んだ、6番街のすぐ北にある4番街は最近オークが増えてきている。
そのオークは人間が多くいる中学の隣の6番街を拠点にしたいと思っている。
そこで起こるのが、ゴブリンとオークの縄張り争いだ。
今日はその調査で、トオルと一緒に4番街に偵察に行っていたらしい。
「避難所のすぐ横にモンスターの巣があるって怖い事ですね」
「えぇだから本当は6番街も、南の7,8,9番街も人間が制圧したいんですが」
「そして、10番街も制圧して、さらに南の六アイ高校とカナディアンアカデミーに避難してるクランと合流したいんです」
現在、イーストコートもウエストコートも11番街まである。
だが、11番街は商業施設と隣接し、少し他のマンション群から離れている。
6番街のエントランスである1番館に入ると、すぐに ゴブリンの大群が襲ってくる。
「か、加奈子さん、下がってください」
先ほど助けた男が男気を見せ弓を構える。
だが、加奈子は気にせず魔法を撃つ。
「火弾」
「火弾」
「火弾」
3方向に火弾を撃ち込むと、そこに居た30体くらいのゴブリンがバタバタと倒れていった。
「・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「あっ、お、お疲れ様です」
「ありがとっ」
加奈子はそのまま開きっぱなしのオートロックゲートを軽やかに奥へと歩いていく。
ボケーと見ていた七和田他数名が慌てて付いていく。
すでに中庭辺りまで進んでいた加奈子が後ろを振り返り告げた。
「ちょっと殲滅するのでそこから動かないで下さいな」
「火絨毯」
ワラワラと湧いては焼かれるゴブリン達。
頭の中でヒュンヒュン言ってる。
レベルが上がってるんだろう。
グギャギャギャ
上の方から鳴き声が聞こえた。
顔を上げて見ると、そこには大人ゴブリンが並んでこちらを見ている。
Lv8からLv10と言ったホブゴブリンの群れは、多分ここを仕切っている奴らだろう。
(キャリヤと初めてやった時よりも強いゴブリンがこんなに居るんだなー)
とは言え、今のキャリヤの足元にも及ばないが。
そいつらが現れてから、むやみに突っ込んでくるゴブリンは居なくなった。
「結構、統率が取れてるんですよ」
七和田が言う。
「今日は引き揚げましょうか?」
「少しトオルちゃんと打ち合わせして、明日ここを殲滅しましょう」
「そうですね。深追いして死傷者出すのも嫌なので」
「えっ? 私一人でよろしいですよ?」
「な、何を言ってるんですかー」
「そうですよ。私の天使様を一人で行かせるなんて出来ません」
「そこは普通、女神様じゃないの? ふふっ」
キャリヤは大声で楽しそうに笑い出す。
『オノレにマケタ ソノヨルに ワレはワレノ フガイナサに ゲキドしタ』
『イカリ スギて カミのイロまでカワッテ シマッた』
『ソシテ シンかシタ』
「どっかの戦闘民族かよっ!」
(レベルは私の方が上だが、総体的にヤツの方が強い!)
『コナイナラ イク』
『水の羽衣』
青い水膜に包まれたキャリヤは目にも止まらぬ速さで動く。
素早さも今ではほぼ変わらない。
そのスピードで目の前まで一気に距離を詰めて来た。
だが加奈子も戦闘力だけではなく精神も成長している。
さほど驚くことも無く、すぐに戦闘態勢を整える。
ヒュゴッ バキッ
キャリヤの蹴りに対して加奈子も脚を合わす。
重い。
明らかに前回とは違う。
そのまま態勢を低くしてキャリヤの足を狙い旋風脚を見舞う。
キャリヤは軽くジャンプして躱す。
そして上から両拳を結んで打ち下ろしてくる。
(これを受けたらいけない!)
加奈子はとっさに後ろに飛びのいて躱す。
ドッゴーン
加奈子が居た場所に小さなクレーターが出来る。
「フフフッ やっぱりあんたは強い!」
加奈子はそのままキャリヤに飛び掛かり真空飛び膝蹴りを放つ。
キャリヤは首をねじって避けたが、真空波は頬と耳を軽く切り裂く。
『グフフフフ』
『イマノはアブナ かっタぞ』
斬られた所を手で押さえながらキャリアは笑う。
加奈子は着地と同時に後ろ回し蹴りを顔面に向けて放つが、キャリヤは身体を反らし躱す。
反らした身体を戻す力を利用して、鋭いパンチを振り降ろすが腹に重い鈍痛がする。
「火球」
蹴りが空振った反動を利用して身体を素早く回転させ、キャリヤの腹目掛けて渾身の火の球を打つ。
この至近距離からの火の球は、一度致命傷になるくらいのダメージを与えている。
だが今回は火魔法耐性でダメージを半減する。
数歩分、後ろに飛ばされただけだった。
「くっ!」
『オナジてハ クワナイ グフフ』
『ダガ カナリ イタカッタぞ』
加奈子の火球も前とは比べようも無いくらいの高火力になっている。
しかしキャリヤの防御力や体力も段違いに上がっている。
そして水を纏っているので、火の属性はダメージを落とす。
万が一のとばっちりが来ないように匍匐の体制で戦いを観戦しているトオル達。
2人の戦いは、トオルと七和田の視界の中では何が起こっているのかほぼほぼ理解できない。
超早回しで映画を見ているような気分になってくる。
加奈子は一旦後ろに飛びのきキャリヤに問う。
「キャリヤよ、たった一日でどうやってここまで強くなった?」
キャリヤは戦う姿勢は崩さずに加奈子の質問に答える。
『フッ オナジことヲ オノレにキキタイ』
『キノウのママノ オノレナラ イマゴロはソコに コキュウもセズ コロガッテいるダロウ』
「私はおまえを倒す事しか考えてなかった」
「その結果がこうなっただけ」
『ワレも オナジ コタエに ナルダロウ』
ヒューーーーン
『水の盾』
バチッ
どこからか矢が飛んできてキャリアの頭に向かうが、水の盾に当たり砕けて落ちた。
それは七和田のグループの人間たちだが
まったく動かない七和田とトオルが倒されたと勘違いしていた。
そして、それが今戦ってるどちらかだと言うのは推測できるが、どちらかわからず今まで傍観していた。
だが、近くまで来ると背が高く筋肉質でガタイの良い男は人とはちょっと違う様相をしていた。
2人ともとんでもなく強いのは見てわかるし、素早すぎて矢など放てる状態じゃなかった。
けど、二人ともが止まった今がチャンスだと思い、素早く矢を撃った。
『水弾』
自分を狙ってきた男に、キャリヤはお返しの水弾を撃った。
無数の水の弾が男を襲い、身体を貫き、そしてその場に倒れ込む。
『チッ キが ソガレた』
『キョウは モウ ヤメダ』
『ツギに ヤルトキマデに モットツヨクナッテおケ』
『ワレも ドンドン ツよク ナる』
「このまま続けてれば私が勝っていたよ」
『フッ ウヌボれルナ マダ オウギもミセテ イナイノニ』
(そういえば龍鬼化ってスキルがあったなぁ)
「ふふっ 心配しなくて良い。私もまだ見せてない物が色々ある」
『フッ マケオシみヲ イウカ』
『オンナ よ オノレのナを トウ』
「私の名前は櫻庭加奈子、良く覚えとくがいい」
『オオバカ ナ コか オボエタ』
「変な所で切るな!!!」
キャリヤは颯爽と自分の巣へと帰って行った。
加奈子は倒れた男のもとに走る。
いくつも身体に穴があき、もう虫の息だ。
「ヒール」「ヒール」「ハイヒール」
見る見るうちに穴はふさがり、瀕死の状態だった男は息を吹き返した。
(間に合った)
加奈子は聖人君子を気取るつもりなどなかった。
偽善者精神を引け散らかす気も無い。
ましてや、ヒーローを気取るつもりもない。
だが、自分たちの戦いに巻き込まれたこの男を無視する事も出来なかった。
男は自分の身体を触り、助かったことを認識する。
そして、目をパチクリさせながら加奈子を見て驚いた顔をする。
(???)
「大丈夫ですかー?」
「て、てて、天使だーーーーー」
しばらくして七和田とそのグループの人間達に囲まれて加奈子は戸惑う。
「ありがとうございました」
「本当に助かりました」
「いえいえ、大したこともしていませんし、そんな仰々しいお礼など必要ないですよ」
「どうも初めまして。俺はこいつらの
「あ~それでは皆様お大事に」
そう言いかけた七和田を無視し、加奈子は早々に帰ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って下さいよー」
「おーいトオル君からも何か言ってくれよ」
(トオルちゃん?)
「トオルさんは何か用事があるって先に戻りましたが?」
「え~黙って帰らないでよトオル君~」
帰りかけた加奈子はその場で振り返り、七和田とは違う男に尋ねた。
「その、トオルって方は何トオルと言うのですか?」
「えっ?」
「櫻に庭と書いて櫻庭通さんと言います」
(ふふふっ)
「そうですか、では、皆さんはトオルちゃんとどういった御関係で?」
「トオルさんをご存じなんですか?」
「私は櫻庭加奈子と申します。櫻庭通は私の弟です」
「「「えぇぇぇぇーー?」」」
七和田に対しての態度を軟化させた加奈子だが、やはりナンパ男のイメージが消えない。
「それで、お姉さん、少しだけ話を聞いてもらえませんか?」
「ナンパ目的じゃなくてですか?」
「なっ? そ、そんな気持ちは全くないです!」
「あら、勘違いだったのかな?」
「でもそれはそれで女性に対して失礼なお返事ですね。ふふっ」
「す、すす、すみません・・・」
ペコペコと頭を下げるその男に少し可哀想に思ってしまう加奈子だった。
「ところで、あなたがリーダーさんなのですか?」
「はい、一応クランのまとめ役をやらせてもらっています」
「クラン?」
「はい、六アイ小学校と向洋町にある中学に避難しているグループの集まりをそう呼びます」
「今は大小80くらいのグループで1000人ほどが避難しています」
「え~っと、お名前は秘密なのですか?」
(鑑定スキルでもう名前は知っているけどねw)
「す、すす、すみませーん。七和田 亜生良と申しますー」
「自己紹介もしないで話を聞けとか、そりゃ不審に思いますよね・・・」
(ただ単にナンパ氏っぽいからだったけど)
加奈子は小柄ながらその美貌で、若いころから頻繁にナンパにあっている。
中にはとんでもなくしつこい男も居るので、どうしてもナンパ師は敬遠してしまう。
七和田の話は、イーストコートの未避難者の救出とモンスターの殲滅が今の活動内容だと言う。
「お姉さん、ぜひともうちのクランに来ていただけませんか?」
「その前に、そのお姉さんは辞めてもらえませんか?」
「ど、どうお呼びすれば?」
「普通に加奈子でいいですよ。トオルちゃんは下の名前で呼んでるんだし」
「わ、わかりました。加奈子さん」
「まずはトオルちゃんとお話ししてからじゃないとお返事は出来ないかな?」
「そ、それなら良い返事を頂けるんですね?」
「あの子が反対するなら無理ですよ?」
「それは大丈夫だと思います」
「彼はうちのクランでマインダーをやってもらっているんです」
「マインダー?」
(ほんと、知らない言葉ばかり)
「クランの相談役とか作戦参謀とか資源の管理とかやってもらってます」
「まあ頭の良い子だから、それくらいは熟せるんでしょうかね」
「彼が居なけりゃあのクランは立ち行かないですよ」
(もうトオルちゃんは立ち直ったのかな?)
(もしそうなら家での行いはストレスからかな?)
色々と思うところはあるが、トオルが人と接して頼りにされてることがほんの少し嬉しかった。
取り敢えず、向洋町にある中学に向かう事に決まった。
距離的にはすぐそこなんだけど、少し見て欲しい所があると言われて、コクンと頷く。
4番街に沿って道を南に歩いていくと、中学の西真横にある6番街が出てくる。
ここは14階ほどの中層で幅広のマンションが1~5番館まである。
5棟ながら、戸数はそこそこあるので大きなマンション群の部類に入るだろう。
そこはゴブリンの巣窟となっているらしい。
ゴブリンは学校回りに張り巡らされているフェンスを越えて来ることは無いのだけど、オークはフェンスを登って侵入する事があるらしい。
道路を挟んだ、6番街のすぐ北にある4番街は最近オークが増えてきている。
そのオークは人間が多くいる中学の隣の6番街を拠点にしたいと思っている。
そこで起こるのが、ゴブリンとオークの縄張り争いだ。
今日はその調査で、トオルと一緒に4番街に偵察に行っていたらしい。
「避難所のすぐ横にモンスターの巣があるって怖い事ですね」
「えぇだから本当は6番街も、南の7,8,9番街も人間が制圧したいんですが」
「そして、10番街も制圧して、さらに南の六アイ高校とカナディアンアカデミーに避難してるクランと合流したいんです」
現在、イーストコートもウエストコートも11番街まである。
だが、11番街は商業施設と隣接し、少し他のマンション群から離れている。
6番街のエントランスである1番館に入ると、すぐに ゴブリンの大群が襲ってくる。
「か、加奈子さん、下がってください」
先ほど助けた男が男気を見せ弓を構える。
だが、加奈子は気にせず魔法を撃つ。
「火弾」
「火弾」
「火弾」
3方向に火弾を撃ち込むと、そこに居た30体くらいのゴブリンがバタバタと倒れていった。
「・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「あっ、お、お疲れ様です」
「ありがとっ」
加奈子はそのまま開きっぱなしのオートロックゲートを軽やかに奥へと歩いていく。
ボケーと見ていた七和田他数名が慌てて付いていく。
すでに中庭辺りまで進んでいた加奈子が後ろを振り返り告げた。
「ちょっと殲滅するのでそこから動かないで下さいな」
「火絨毯」
ワラワラと湧いては焼かれるゴブリン達。
頭の中でヒュンヒュン言ってる。
レベルが上がってるんだろう。
グギャギャギャ
上の方から鳴き声が聞こえた。
顔を上げて見ると、そこには大人ゴブリンが並んでこちらを見ている。
Lv8からLv10と言ったホブゴブリンの群れは、多分ここを仕切っている奴らだろう。
(キャリヤと初めてやった時よりも強いゴブリンがこんなに居るんだなー)
とは言え、今のキャリヤの足元にも及ばないが。
そいつらが現れてから、むやみに突っ込んでくるゴブリンは居なくなった。
「結構、統率が取れてるんですよ」
七和田が言う。
「今日は引き揚げましょうか?」
「少しトオルちゃんと打ち合わせして、明日ここを殲滅しましょう」
「そうですね。深追いして死傷者出すのも嫌なので」
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究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
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