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或いは夢のようなはじまり
40 別行動
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「ふんだっ! そんなの願い下げよっ!!」
黒髪の少女の言葉に、香月は拒絶の意志を即座に表した。
そうなるだろうと直樹も考えていたが、ここまで予想通りの反応をするあたりは香月の直情さを窺い知ることができるというものだ。
「そう」
黒髪の少女にしても、香月の返答は予想通りであったようだ。
素っ気ない一言で済ますと、背を向けて校舎へと歩んでゆく。
一瞬だけ直樹と視線がぶつかったが、その表情からは何かを読み取る事はできなかった。
(ごめーん。やっちゃったぁ)
直樹の傍に寄った香月は、ばつの悪そうな顔を見せながら囁いてきた。
その場の勢いに流されたのだろうと推測できてはいたが、そういった部分の自覚はあるのだという事に僅かながらも驚いた。
(いいよ、気にすんな)
強力な戦力を見送ってしまったのは残念であったが、同行したならば、それはそれで悶着は起きるのだろう。
香月の珍しい表情が見られたので良しとしようと、直樹も小声で返した。
「――おい!!」
これからどうしたものかと思案を始めようとした矢先、銀髪の男の呼び掛けが直樹の注意を引いた。
まだ校舎に入っていなかったのかと思う間もなく、直樹の顔を目掛けて飛んでくる小さな気配を感じた。
「――っと!?」
軽率だとは思ったが武器の類ではないと知覚できたので、半ば反射的に掌で受け止めていた。
掌に感じる僅かな質量。
投げられるだけのものでありながら、衝撃は感じない。
「……これは?」
直樹は掌を自分に向けて開く。そこには綺麗な錦による巾着袋が収まっていた。
銀髪の男はもとより、黒髪の少女と関わった場に神社があったため直樹は御守の類かと思ったが、全体的に丸みを帯びたシルエットは、どちらかと言えば匂袋を想起させた。
「御守だ。気休め程度だが、しばらく預けておく」
男は何事もないかのように言い放つが、その脇にいた少女はそうでもないようだった。
「ちょっと玲怏! なに渡しちゃってるのよ!?」
そんな表情もできるのかと直樹らが面食らってしまう程に、黒髪の少女は慌てふためく様子を隠そうともしない。
(………)
直樹は、自身の掌に収まった巾着袋を無言で見下ろす。
少女の様子から相当に価値のあるものだと察する事はできるが、返せと言われれば返すつもりではいた。
銀髪の男――玲怏が気休め程度と言っているのだ。
言葉を盛るような性格だとは感じなかったし、価値はともかく効果の程は本当にその通りなのだろう。
「どうせ俺達が持っていたところで、何にもならん。ならば、こいつらが持っていた方が効果も望めるというものだ」
「でも……!」
「あとできちんと回収する」
言い包められたという訳でもなかったろうが、少女は口を噤むと引き下がった。
玲怏は少女に対し追従している、そう思っていた直樹は考えを改める事にした。
今のやりとりを見る限り、二人は対等な関係であるのだと。
「香月が持っとけ」
巾着袋をいつでも投げ返せるようにしていた直樹だったが、その必要はなさそうだと判断すると黒髪の少女にではなく香月へと放り投げた。
御守というものが霊的な加護の類であるのならば、この場で一番に必要としているのは香月で間違いない。
香月の潜在能力がいかに高いものであるのだとしても、自在に扱えなければ無いも同然だ。
害意を持つ敵に相対した際に対し都合よく能力が覚醒するなど、夢物語もいいところだ。
「……う、うん」
直樹同様に黒髪の少女に対する印象が変わったせいもあり、すっかり毒気を抜かれた香月である。
釈然としないものを抱えたままであったが、素直に巾着袋を受け取ってスカートのポケットに収めた。
「よし、行こう」
その様子を見届けた玲怏が、不満顔の少女を促す。
少女はひとつだけ小さく溜息を吐くと、すぐさま表情を元に戻した。
「そうね」
改めて直樹らに背を向け、校舎内へと姿を消す少女。
その背を追い、玲怏も銀髪を揺らしながら霞の向こうへと溶け込んでいった。
これで、あの二人と合流するのは相当に難しいだろうと、直樹は確信にも近い思いを抱いていた。
もちろん可能性としてゼロではないが、意図して合流できるものでもないだろう。
たった今、直樹の見ている前で校門が霞の壁によって姿を消した。
これはつまり、空間が隔離されたのだと判断できる。
推論ではあるが、時間経過と共に空間と空間の繋がりも不規則に並べ替えられているのではないか。
その時間がどのくらいのものなのか、或いはそれすらも規則性を求めてはいけないのかもしれない。
黒髪の少女の言葉に、香月は拒絶の意志を即座に表した。
そうなるだろうと直樹も考えていたが、ここまで予想通りの反応をするあたりは香月の直情さを窺い知ることができるというものだ。
「そう」
黒髪の少女にしても、香月の返答は予想通りであったようだ。
素っ気ない一言で済ますと、背を向けて校舎へと歩んでゆく。
一瞬だけ直樹と視線がぶつかったが、その表情からは何かを読み取る事はできなかった。
(ごめーん。やっちゃったぁ)
直樹の傍に寄った香月は、ばつの悪そうな顔を見せながら囁いてきた。
その場の勢いに流されたのだろうと推測できてはいたが、そういった部分の自覚はあるのだという事に僅かながらも驚いた。
(いいよ、気にすんな)
強力な戦力を見送ってしまったのは残念であったが、同行したならば、それはそれで悶着は起きるのだろう。
香月の珍しい表情が見られたので良しとしようと、直樹も小声で返した。
「――おい!!」
これからどうしたものかと思案を始めようとした矢先、銀髪の男の呼び掛けが直樹の注意を引いた。
まだ校舎に入っていなかったのかと思う間もなく、直樹の顔を目掛けて飛んでくる小さな気配を感じた。
「――っと!?」
軽率だとは思ったが武器の類ではないと知覚できたので、半ば反射的に掌で受け止めていた。
掌に感じる僅かな質量。
投げられるだけのものでありながら、衝撃は感じない。
「……これは?」
直樹は掌を自分に向けて開く。そこには綺麗な錦による巾着袋が収まっていた。
銀髪の男はもとより、黒髪の少女と関わった場に神社があったため直樹は御守の類かと思ったが、全体的に丸みを帯びたシルエットは、どちらかと言えば匂袋を想起させた。
「御守だ。気休め程度だが、しばらく預けておく」
男は何事もないかのように言い放つが、その脇にいた少女はそうでもないようだった。
「ちょっと玲怏! なに渡しちゃってるのよ!?」
そんな表情もできるのかと直樹らが面食らってしまう程に、黒髪の少女は慌てふためく様子を隠そうともしない。
(………)
直樹は、自身の掌に収まった巾着袋を無言で見下ろす。
少女の様子から相当に価値のあるものだと察する事はできるが、返せと言われれば返すつもりではいた。
銀髪の男――玲怏が気休め程度と言っているのだ。
言葉を盛るような性格だとは感じなかったし、価値はともかく効果の程は本当にその通りなのだろう。
「どうせ俺達が持っていたところで、何にもならん。ならば、こいつらが持っていた方が効果も望めるというものだ」
「でも……!」
「あとできちんと回収する」
言い包められたという訳でもなかったろうが、少女は口を噤むと引き下がった。
玲怏は少女に対し追従している、そう思っていた直樹は考えを改める事にした。
今のやりとりを見る限り、二人は対等な関係であるのだと。
「香月が持っとけ」
巾着袋をいつでも投げ返せるようにしていた直樹だったが、その必要はなさそうだと判断すると黒髪の少女にではなく香月へと放り投げた。
御守というものが霊的な加護の類であるのならば、この場で一番に必要としているのは香月で間違いない。
香月の潜在能力がいかに高いものであるのだとしても、自在に扱えなければ無いも同然だ。
害意を持つ敵に相対した際に対し都合よく能力が覚醒するなど、夢物語もいいところだ。
「……う、うん」
直樹同様に黒髪の少女に対する印象が変わったせいもあり、すっかり毒気を抜かれた香月である。
釈然としないものを抱えたままであったが、素直に巾着袋を受け取ってスカートのポケットに収めた。
「よし、行こう」
その様子を見届けた玲怏が、不満顔の少女を促す。
少女はひとつだけ小さく溜息を吐くと、すぐさま表情を元に戻した。
「そうね」
改めて直樹らに背を向け、校舎内へと姿を消す少女。
その背を追い、玲怏も銀髪を揺らしながら霞の向こうへと溶け込んでいった。
これで、あの二人と合流するのは相当に難しいだろうと、直樹は確信にも近い思いを抱いていた。
もちろん可能性としてゼロではないが、意図して合流できるものでもないだろう。
たった今、直樹の見ている前で校門が霞の壁によって姿を消した。
これはつまり、空間が隔離されたのだと判断できる。
推論ではあるが、時間経過と共に空間と空間の繋がりも不規則に並べ替えられているのではないか。
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