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はじまり
044 保護された先は
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「おかえりなさい。面倒かけさせちゃって悪かったわね」
アレイツァを筆頭とした四人を迎えたのは千沙都だった。
常に身嗜みを気にかける彼女が、薄汚れた状態のスーツ姿でいるのは珍しいと穂は感じたという。
心なしかやつれたような表情も、理由を聞けば納得せざるを得ない事ではあったのだが。
「まったくだ。小娘どもまで居るとは聞いていなかったぞ」
愚痴をこぼすアレイツァの疲弊ぶりは、千沙都とはまったく違う理由からである。
保健室の惨状と放心する圭の原因がアレイツァにあると断定した穂が激しく騒いだためだった。
緋美佳の事が相当に衝撃的だった圭は生返事をするばかりで状況説明の役には立たず、アレイツァは穂を黙らせるために殴りつけてしまおうかとどれだけ考えた事か。
それを思い止まったのはこの短気女帝にしてみれば、奇蹟とさえ言って良かっただろう。
逃亡した緋美佳が戻ってこないと判断したアレイツァは、千沙都の依頼通りに圭の身柄を保護した上で帰還を果たした。
二人の少女の存在は予定外ではあったが、放置する訳にもいかずに同行させた次第である。
四人が到着したのはアレイツァの居住する屋敷だった。
近隣に叉葉山ギガンティックシティがあるために存在感が薄くなってはいるものの、叉葉山高の生徒ならば知る者も多い。
誰が言い出した事か、幽霊屋敷などとも噂される洋館であった。
門扉は常に閉じており、高い塀に囲まれた敷地内は人の手が入っていないために草木が鬱蒼としており、夜ともなればどこからか若い女の悲鳴が聞こえてくるのではないかという雰囲気に包まれるのだ。
居住者の情報を知る者はおらず、無人のままに放置され続けているのだと、まことしやかに囁かれている。
実際にはこうしてアレイツァが住んでいるとはいえ、管理に僅かばかりの興味も示さない結果、そうと知らぬ者が通りかかれば不気味な屋敷だと強く印象づけられてしまってもおかしくはない状態になっている。
「姉さん、私達にもちゃんと分かるように説明して貰えるんでしょうね?」
半眼で問い詰める穂を軽くあしらう余裕すら、今の千沙都には期待できないものだった。
目の前の生徒達から目を逸らすようにして一瞬の間を作った。
「……、ある侵蝕者討伐のために編成された実動チームが全滅したのよ。厳密には、連絡が途絶えた、なんだけどね」
電話越しに聞いた言葉と同じ内容に、圭の身体が大きく震えた。
確認はできていないのだとしても、連絡が途絶えたという事は全滅に等しい。
なにしろ侵蝕者相手なのだ。
僅かながらも期待を残そうというのは楽観に過ぎる。
「…そのチームに、鴫澤さんも加わっていたの」
圭の反応からその可能性も考え付いていた穂だったが、眞尋はそこに思い至らなかったらしい。眉根を寄せて首を傾げた。
「でも、鴫澤センパイならさっきまで学校に…」
そう。教室の異変を察知した圭と穂に頼まれ、緋美佳を発見して案内したのは他でもない眞尋自身なのだ。
保健室で目覚めた時には既に緋美佳の姿はどこにもなかったが、千沙都の語る内容と自分の目で見てきた事実との間には、明確なまでの齟齬が生まれている。
「もう少し詳しく話した方が良いかしらね」
千沙都は肩をすくめ、アレイツァに視線を向けた。
「…私は疲れたから少し休ませて貰う。屋敷の物はなんでも勝手に使ってくれ」
残念そうな表情を浮かべる千沙都を無視し、アレイツァは近くの階段を足早に登っていった。
事情を深く知ってしまえば便利に使われる事は必至であり、そうならないように釘を刺す意も含めてアレイツァは背を向けたのだ。
「仕方ないわね。場所を提供してくれただけでも有り難く思わないとね」
年少の圭達を前にして、少しずつ本来の調子を取り戻してきたのだろう。
軽く胸を張るように姿勢を正すと、既に使用している一室へと生徒達を招き入れた。
それにしても、千沙都は何時の間にアレイツァを頼る程に親しくなっていたのだろうか。
当然出てくる筈の疑問にも思い至らずに、圭は促されるままに足を動かしていた。
アレイツァを筆頭とした四人を迎えたのは千沙都だった。
常に身嗜みを気にかける彼女が、薄汚れた状態のスーツ姿でいるのは珍しいと穂は感じたという。
心なしかやつれたような表情も、理由を聞けば納得せざるを得ない事ではあったのだが。
「まったくだ。小娘どもまで居るとは聞いていなかったぞ」
愚痴をこぼすアレイツァの疲弊ぶりは、千沙都とはまったく違う理由からである。
保健室の惨状と放心する圭の原因がアレイツァにあると断定した穂が激しく騒いだためだった。
緋美佳の事が相当に衝撃的だった圭は生返事をするばかりで状況説明の役には立たず、アレイツァは穂を黙らせるために殴りつけてしまおうかとどれだけ考えた事か。
それを思い止まったのはこの短気女帝にしてみれば、奇蹟とさえ言って良かっただろう。
逃亡した緋美佳が戻ってこないと判断したアレイツァは、千沙都の依頼通りに圭の身柄を保護した上で帰還を果たした。
二人の少女の存在は予定外ではあったが、放置する訳にもいかずに同行させた次第である。
四人が到着したのはアレイツァの居住する屋敷だった。
近隣に叉葉山ギガンティックシティがあるために存在感が薄くなってはいるものの、叉葉山高の生徒ならば知る者も多い。
誰が言い出した事か、幽霊屋敷などとも噂される洋館であった。
門扉は常に閉じており、高い塀に囲まれた敷地内は人の手が入っていないために草木が鬱蒼としており、夜ともなればどこからか若い女の悲鳴が聞こえてくるのではないかという雰囲気に包まれるのだ。
居住者の情報を知る者はおらず、無人のままに放置され続けているのだと、まことしやかに囁かれている。
実際にはこうしてアレイツァが住んでいるとはいえ、管理に僅かばかりの興味も示さない結果、そうと知らぬ者が通りかかれば不気味な屋敷だと強く印象づけられてしまってもおかしくはない状態になっている。
「姉さん、私達にもちゃんと分かるように説明して貰えるんでしょうね?」
半眼で問い詰める穂を軽くあしらう余裕すら、今の千沙都には期待できないものだった。
目の前の生徒達から目を逸らすようにして一瞬の間を作った。
「……、ある侵蝕者討伐のために編成された実動チームが全滅したのよ。厳密には、連絡が途絶えた、なんだけどね」
電話越しに聞いた言葉と同じ内容に、圭の身体が大きく震えた。
確認はできていないのだとしても、連絡が途絶えたという事は全滅に等しい。
なにしろ侵蝕者相手なのだ。
僅かながらも期待を残そうというのは楽観に過ぎる。
「…そのチームに、鴫澤さんも加わっていたの」
圭の反応からその可能性も考え付いていた穂だったが、眞尋はそこに思い至らなかったらしい。眉根を寄せて首を傾げた。
「でも、鴫澤センパイならさっきまで学校に…」
そう。教室の異変を察知した圭と穂に頼まれ、緋美佳を発見して案内したのは他でもない眞尋自身なのだ。
保健室で目覚めた時には既に緋美佳の姿はどこにもなかったが、千沙都の語る内容と自分の目で見てきた事実との間には、明確なまでの齟齬が生まれている。
「もう少し詳しく話した方が良いかしらね」
千沙都は肩をすくめ、アレイツァに視線を向けた。
「…私は疲れたから少し休ませて貰う。屋敷の物はなんでも勝手に使ってくれ」
残念そうな表情を浮かべる千沙都を無視し、アレイツァは近くの階段を足早に登っていった。
事情を深く知ってしまえば便利に使われる事は必至であり、そうならないように釘を刺す意も含めてアレイツァは背を向けたのだ。
「仕方ないわね。場所を提供してくれただけでも有り難く思わないとね」
年少の圭達を前にして、少しずつ本来の調子を取り戻してきたのだろう。
軽く胸を張るように姿勢を正すと、既に使用している一室へと生徒達を招き入れた。
それにしても、千沙都は何時の間にアレイツァを頼る程に親しくなっていたのだろうか。
当然出てくる筈の疑問にも思い至らずに、圭は促されるままに足を動かしていた。
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