めぐり、つむぎ

竜田彦十郎

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はじまり

062 決意、もうひとつ

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(怖いんだな?)

 大宇宙昴の声に、圭の意識は明らかな揺れをもって反応した。

――怖がっている? 俺が?

 血気盛んな年頃の少年であれば、揶揄されるような言葉にはつい反意を示してしまう。
 圭も例外ではなく、自分に向けられた言葉に対し反射的に意識が尖った。

(誰だって死ぬのは怖いさ。ましてやあんな規格外もいいとこの侵蝕者だ。恐怖を感じても誰も責めやしない)

 怒りの感情を顕わにする圭を前にしても大宇宙昴の口調は変わる事はなく、圭も毒気を抜かれてしまった。

(だが、放っておけばお前は確実に死ぬ)

――死……。そうか、そうだよな……。

 侵蝕者との対峙は、常に生死の境に身を置いている事と同義だ。
 退魔師を志す者は、何よりもその認識を徹底させられる。
 長い歳月と訓練を経て退魔師となる者はともかく、ザナルスィバとなった事により突然に退魔師と同等以上の力を得た圭。
 この両者の間では、覚悟の差は歴然だ。

――死んだら、俺はどこへ行くんだ?

 この場合の死とは、侵蝕者との戦いの中での事だ。
 当然、肉体は滅びるだろう。火葬できるだけの肉体が残る方が稀だと、統計資料は語っている。

 では、精神は?
 ザナルスィバとなった以上、圭の記憶は次のザナルスィバへと受け継がれてゆくのだろうか。

(残念ながら、それはない)

 大宇宙昂は断言した。

(今のお前は、言ってみれば見習い期間だ。一人前として認められなければ消滅するだけだ)

――見習い……。

(そうだ。ザナルスィバの知識とは、過去の者達の経験の上に成り立っている。
 お前が侵蝕者相手に立ち回れているのは、そういった助力があってこそだ)

 返す言葉もない圭を尻目に、大宇宙昂はなおも続ける。

(少なくとも十年は生きろ。そして新たな経験をその身に盛り込め。そこで初めて一人前として認められる。
 ただ普通に生きているだけでは、ザナルスィバ失格だ)


『 失格! 』
      『 失格! 』
  『 失格! 』
    『 失格! 』
『 失格! 』
          『 失格! 』
  『 失格! 』


 突如として圭の周囲に重い声が木霊した。
 同じ言葉を繰り返しながらも、ひとつとして同じ声はなく、怒鳴るような声もあれば絶叫するもの、呻きに満ちたものもあった。

(気にするな。先達の思念の昏い部分がこびりついているだけだ)

 まるで圭を圧し潰そうと繰り返される叫喚の中で、大宇宙昂の声だけが明確な意志をもって圭へと届く。

(俺個人としては、お前には頑張って欲しいと思っている。
 ザナルスィバとして大成するかはともかく、宿主として選ばれたのだからな)

――でも、俺は…。

 正直なところ、ヒミカに勝てる気は綺麗さっぱり失せていた。
 多少攻勢に出てみたところで、あっというまにひっくり返されては押し込まれてゆく。
 まさに焼け石に水だ。

――そういえば、俺はどうしてるんだ?

 不意に疑問が湧いた。
 気を失って無抵抗の状態であるのなら、すぐさまヒミカの手が伸びてくるに違いないのだ。
 夢の中と現実との体感的な時間経過が違うのだとしても、問答をしている余裕はない筈だ。

(今は彼女が食い止めているからな。
 ただ、正直に言って芳しくはないな。俺としては逃げる事を勧めたいが)

――彼女…って誰の事だ?

 圭に代わって誰かが戦っているというのか。
 大宇宙昂の口ぶりからすると、アレイツァではない誰かのようだが。

(なんだ、覚えてないのか。あの侵蝕者が姿を真似ている……)

――緋美姉!

 閃くように思い出し、圭は己の不甲斐なさに舌打ちした。
 こんな重要な事を失念するとは。

(ほう、目の色が変わったな。まだ戦うつもりなのか?)

 言葉とは裏腹に、さして意外でもなかったのだろう。
 大宇宙昂の声は、圭の決意の確認のために発せられていた。

――ここで緋美姉を見捨ててまで、生き永らえたい訳じゃない。

 死に対する恐怖が消えた訳ではない。
 しかしそれを理由に逃げてみたところで、いつまでも逃げ続けられなどはしない。
 ならば、今しかない。今ここでヒミカを滅しなければ。

――大丈夫。緋美姉がいれば、何だってできるさ。

 根拠はなかったが、圭は本気でそう思った。
 目を閉じ呼吸を落ち着けると、周囲に響いていた声も掻き消え、身体が軽くなったように感じた。
 夢の世界から脱するのだ。

(本気になれる仲間がいるってのは羨ましいよ。俺は友達も少なかったし、どこか人外の存在として扱われていたからな。
 ……その絆、大事にしろよ)

 夢から現実世界へと切り替わる直前、感慨深げな声が圭の耳を掠めていた。
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