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はじまり
063 敗色濃厚の中で
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(強い……!)
全身のあちこちから上がる悲鳴を無理矢理に抑え込みながら、緋美佳はこの苦しい現状を認めなければいけなかった。
この侵蝕者は強い。
そもそもが緋美佳の複製体でありながら、人間を凌駕した身体能力を付加されているのだ。
虚を衝いた攻撃から一気に畳み掛けねば、ただの人間である緋美佳に勝ち目など無いに等しい。
そして、最初の奇襲で手持ちのカードは使い切ったも同然の緋美佳だった。
この戦闘の結果は、誰の目にも明らかだ。
(それでも……勝つ!)
ここで自分が斃れれば、圭の末路も決まってしまう。
そして大量の侵蝕者に囲まれている月菜達も後を追う事になるだろう。
そのような結末は誰も望んではいないし、そんな事にさせたりはしない。
たとえ刺し違えてでも――。
既に刀は緋美佳の手を離れて雑草のいずこかへと転がされており、身に付けている武器は左腕の手甲のみ。
その手甲にもヒミカの知らない仕掛けが組み込まれてはいるが、決定的な好機を掴めない以上はその性能を発揮できないまま終わってしまう事も考えられる。
緋美佳は両腕を大きく振り上げた。
結局のところ、最後に頼れるものは己の身ひとつでしかないのだ。
(ならば、この手で好機を作り出すのみ!)
肉体は苦痛に喘いでいたが、運動能力を低下させるほどのものではない。
大きく羽ばたくように宙を駆け、高い位置から獲物めがけて襲い掛かる。
「馬鹿の一つ覚えが」
呆れたように鼻を鳴らすヒミカは、既に目指す着地点から姿を消していた。
咄嗟に腕を畳みガードを固めた緋美佳だったが、その上からでも容赦無く叩きつけてくる衝撃に無様に転がされてしまう。
緋美佳は他人に思われている程に器用な人間ではない。
戦闘時の足の運びひとつを取ってみても、何度も研鑽と訓練を繰り返し、その結果として己の血肉としているのだ。
その緋美佳がどう動くかなど、複製体であるヒミカに分からぬ筈もなく、その動作の中に生じる僅かな隙を衝いてくるのだ。
常人であれば、完全無欠の動きにさえ見える中を。
「…まだまだっ!」
しかし緋美佳は己が長年かけて身につけたもの以外に頼る術を持たず、愚直なまでに四肢を動かすばかりだ。
転がりながらも体勢を整え、次なる動きへと移る。
「もう飽きたと言ったのだ!!」
突き出した拳をすり抜け死角へと移動する侵蝕者に、緋美佳は己の敗北を悟った。
かつて師に完璧だと言わしめた後も精進を怠らなかった結果がこれである。
所詮、人間の生み出した技術では、人外の存在には及ばないというのだろうか。
次の瞬間に襲いくる一撃は、間違いなく左腕を破壊するだろう。
伸びきった腕を戻そうと力を込めるも敵の攻撃の方が早く、緋美佳は体内に響く鈍い音と無惨に折れ曲がる腕を想像した。
「――ぶふっ!?」
だが実際に目にしたのは、己の死角から弾き出されたヒミカの姿だった。
何が起きたのか分からずに茫然とする緋美佳の前に、少年の背が躍り出た。
全身のあちこちから上がる悲鳴を無理矢理に抑え込みながら、緋美佳はこの苦しい現状を認めなければいけなかった。
この侵蝕者は強い。
そもそもが緋美佳の複製体でありながら、人間を凌駕した身体能力を付加されているのだ。
虚を衝いた攻撃から一気に畳み掛けねば、ただの人間である緋美佳に勝ち目など無いに等しい。
そして、最初の奇襲で手持ちのカードは使い切ったも同然の緋美佳だった。
この戦闘の結果は、誰の目にも明らかだ。
(それでも……勝つ!)
ここで自分が斃れれば、圭の末路も決まってしまう。
そして大量の侵蝕者に囲まれている月菜達も後を追う事になるだろう。
そのような結末は誰も望んではいないし、そんな事にさせたりはしない。
たとえ刺し違えてでも――。
既に刀は緋美佳の手を離れて雑草のいずこかへと転がされており、身に付けている武器は左腕の手甲のみ。
その手甲にもヒミカの知らない仕掛けが組み込まれてはいるが、決定的な好機を掴めない以上はその性能を発揮できないまま終わってしまう事も考えられる。
緋美佳は両腕を大きく振り上げた。
結局のところ、最後に頼れるものは己の身ひとつでしかないのだ。
(ならば、この手で好機を作り出すのみ!)
肉体は苦痛に喘いでいたが、運動能力を低下させるほどのものではない。
大きく羽ばたくように宙を駆け、高い位置から獲物めがけて襲い掛かる。
「馬鹿の一つ覚えが」
呆れたように鼻を鳴らすヒミカは、既に目指す着地点から姿を消していた。
咄嗟に腕を畳みガードを固めた緋美佳だったが、その上からでも容赦無く叩きつけてくる衝撃に無様に転がされてしまう。
緋美佳は他人に思われている程に器用な人間ではない。
戦闘時の足の運びひとつを取ってみても、何度も研鑽と訓練を繰り返し、その結果として己の血肉としているのだ。
その緋美佳がどう動くかなど、複製体であるヒミカに分からぬ筈もなく、その動作の中に生じる僅かな隙を衝いてくるのだ。
常人であれば、完全無欠の動きにさえ見える中を。
「…まだまだっ!」
しかし緋美佳は己が長年かけて身につけたもの以外に頼る術を持たず、愚直なまでに四肢を動かすばかりだ。
転がりながらも体勢を整え、次なる動きへと移る。
「もう飽きたと言ったのだ!!」
突き出した拳をすり抜け死角へと移動する侵蝕者に、緋美佳は己の敗北を悟った。
かつて師に完璧だと言わしめた後も精進を怠らなかった結果がこれである。
所詮、人間の生み出した技術では、人外の存在には及ばないというのだろうか。
次の瞬間に襲いくる一撃は、間違いなく左腕を破壊するだろう。
伸びきった腕を戻そうと力を込めるも敵の攻撃の方が早く、緋美佳は体内に響く鈍い音と無惨に折れ曲がる腕を想像した。
「――ぶふっ!?」
だが実際に目にしたのは、己の死角から弾き出されたヒミカの姿だった。
何が起きたのか分からずに茫然とする緋美佳の前に、少年の背が躍り出た。
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