夢の音を奏でます!〜第1話 始まりの唄〜

水澄 涼海

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再会

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「ゆのかぁっ!!!」

 なぜか、ゆのか名前を大声で叫びながら、勢いよく部屋に入ってきたのは…背が高い、茶髪の大人だった。
 肩で息をして、驚きの表情を浮かべている。

(誰……?まさか、知り合い………?)

 びっくりしながらも、ゆのかは考えた。

(短い…茶髪で…身長は、さっきの人と、同じくらい…
 年上の、格好いい女の人…そんな知り合い、いたっけ……………あれ?)

 トクン、と心臓が動く。

(私…なんで…女だって…分かったの…?)

 女性にしては、背が高く、体格もそこそこいい。綺麗に焼けた肌。声は中性的だった。
 顔立ちもスタイルも、男性とも女性ともとれる。

(でも、この人は…女の人……)

 ゆのかの中で、懐かしさと愛おしさが込み上げてきた。
 その瞬間、稲妻が走ったように…ゆのかの頭の中に記憶が、流れ込んだ。


 それは、まだ……ゆのかが両親の元で、ののかと幸せに暮らしていた頃。
 毎年年末に、“両親の後輩”という2人が、家に遊びに来ていた。双子は、たくさん遊んでもらい…その後輩によく懐いていた。

『おにーちゃんだぁ!!』
『あそんでぇ!!』

 まだ幼い双子に、“おにいちゃん”と呼ばれたかっこいい人は、眉間に皺を寄せた。

『あのなぁ。前来た時、教えただろ?!
 あたしはオンナだ!!』
『えええーーっ!?』
『おねーちゃんなの??』

 幼いとはいえ、失礼極まりない発言だったにも関わらず、その人は双子を怒ることはなかった。

『アンタ達、いいか?
 あたしのことは、こう呼んでくれ!』


「あい…る…さん……?」


 その昔、教えられた呼び方を、ゆのかはポツリと呟いた。
 涙混じりのかすれた、小さな声。それでも、目の前の女──あいるには、確かにゆのかの声が聴こえたようで、目を見開いた。

「ゆのか…なのか…?
 本当にっ…ゆのかなんだな?!」

 大きな目。笑顔がよく似合う白い歯。
 あの頃より、大人びているが…目の前の女は、紛れもなく、ゆのかの知っている“あいるさん”だった。

「あ…い、る………さ…ん…!」

 遊んでもらったこと
 悲しい時、慰めてもらったこと
 楽しくて仕方なくて、ずっとずっと、笑顔だったこと
 幸せだった記憶が、溢れてやまない。

「ひっ…く……あいる…さん…あいるさんっ……」

 言いたいことはたくさんあるのに、止まらない涙が邪魔をする。あいるは、そんなゆのかを、ギュッと抱きしめた。

(あったかい……
 なんだか…お母さんみたい……)

 そのぬくもりに、安心して…今までたくさん我慢した涙が、一気に溢れ出した。

「ごめん…ゆのか、ごめんな。
 迎えに行けなくて…遅くなって、本当にごめん……」

 なぜか、あいるが謝った。

(どういう…こと……?)

 訳を聞こうとしても、ゆのかの呼吸が乱れて、それどころではない。

 あいるは、ゆのかを少し離して、寝ていたベッドに座らせた。
 そして、ゆのかを落ち着かせるように背中をさすった。

波花なみかさんと奏多かなたさん……ゆのかの母さんと父さんが事故で亡くなったこと、あたし達に全く知らされてなくて。
 その年の暮れに、いつものようにゆのかん家に行ったら、もう誰もいなくて……その時初めて、2人が引き取られたことを知った。
 いろんなツテを、当たったけど…知ったのがあまりにも遅すぎて……アンタ達の居場所が、全然掴めなかったんだ。
 もしものことがあったら、ゆのか達のことを頼まれてたのに…本当にごめん…!!」

 あいるはもう一度、ガバッ!とゆのかを抱きしめた。

「ずっと、捜してたっ……会えて…本当に、よかった…!」

 目にほんの少しの涙を浮かべながら、満面の笑みで、ゆのかの頭をわしゃわしゃと撫でた。

(よかった…だなんて……私に、言ってくれる人がいるんだ………)

 奇跡のような再会が嬉しくて、ゆのかもあいるに抱きついた。

「ずっと…捜して…くれたの…?」
「おう!…見つかるまで、6、7年もかかっちまったけどな。」

 あいるの顔を見ると、申し訳なさそうにしている。

(そんな顔……しないで…?)

 本来なら苦手だが、ゆのかは一生懸命、言葉を考えた。

「私…も……会えて、嬉しい……
 捜して…くれて……ありが…とう…」
「~~っ!!」

 わしゃわしゃわしゃ!!と、あいるに頭を何度も撫でられる。

「その辺にしとけよ。髪がぐしゃぐしゃになるだろ。」

 低い声。ドアの方に目を向けると、銀髪の綺麗な男がいた。
 身長はあいるよりも高く、少しツリ目で、愛想はあまりよくないように見えるが…ゆのかは、少しも怖いと思わなかった。

(もしかして……この人って…)

 あいるが、むくれた顔で男を睨んだ。

「別にいーじゃん!感動の再会なんだからさぁ!!!」
「感動の再会…か。」

 男はゆのかの前でしゃがんだ。

「ゆのか。久しぶり。」
せい…さん…?」

 男は笑って、ゆのかの髪をとかすように、頭を撫でた。

「ひゃっ……」
「そうだよ。
 会いたかった。」

 止まっていたはずの涙が、また零れ落ちた。
 この星という男も、ゆのかの大事な人だった。

「ふっ。
 泣き虫なところは、変わらないな。」
「だっ…て……っ、だって…ぇ…!」
「言っとくけど、星が来る前は泣き止んでたんだからな??
 やーい、泣かせてやんの!」

 星はあいるにデコピンをした。

「いってぇ!何すんだよ!!」
「うるせぇ。」

 まさかここで、星にも会えるなんて…ゆのかは、思ってもいなかった。

(でも、よく考えたら…当たり前…か……
 星さんは…あいるさんと一緒に、私の家に遊びに来てくれた、お兄ちゃんだから……)


『せぇーおねーちゃん!
きょーは、なにして、あそんでくれるの?』
『ののか、おひめさまゴッコ、したい!』

 双子が、目を輝かせて星に聞く。
 現在の星は、髪が短いが…ゆのかの家に遊びに来た頃は、腰ぐらいまで髪が長かった。
 1つに縛っていることが多く、顔立ちも美しく綺麗だったため、双子はよく星の性別も間違えていた。

『おい。あいるは“あいるさん”で、俺が“お姉ちゃん”なのはおかしいだろ。』
『だってぇー、おねぇーちゃん、すっごくかわいいんだもんっ!』
『かみのけながいしー、おかおがかわいいしー、あとはー……』
『それ以上言うな。』

 星が頭を抱え座り込む。ちなみに当時、星とあいるは、20代前半というお年頃だ。

『おっ!2人に“かわいい”って言ってもらえて、いーなぁ~星は!
 あたしはまだ、“かっこいいっ!”しか言われてねぇぞ??』

 “かわいい”より、“かっこいい”と言われたいあいるは、ご満悦の様子だ。
 星は、はぁ…と溜め息をくと、無邪気に笑う双子の頭をグリグリし始めた。

『ゆのか、ののか。
 俺も“星さん”って呼べ。』


(それから…“せぇーさん”って呼ぶようになったんだっけ………
 もし、お父さんもお母さんも生きてたら…2人は変わらず、遊びに来ていたんだろうなぁ……)

 ゆのかは、懐かしい気持ちになった。

「ゆのか。この州での生活はどうだ?」
「あたしも聞きたい!
 困ったこと、何かないか?」

 何気ない、2人の問いかけ。
 だが、ゆのかの心臓は、ドクン、と大きく脈打った。

(私の話をして…いいの…?)

 2人との再会が嬉しくて、すっかり忘れてしまっていたが…もともとゆのかは、迷惑をかけないために、“責任者”に会って
 私に会ったことを忘れて欲しい。そう、言うつもりだった。

(この2人が“責任者”…なら……)

 大好きな2人を…ゆのかの事情に、巻き込みたくはなかった。

「大…丈夫……
 普…通に…生活、してる…」

 ゆのかは、自分の気持ちを引き締めるように…グッ、と拳を握りしめる。

「ふ…ふた、り…に……お願いっ、あって………」

 喉から熱いものが、込み上げてくる。
 2人は優しく、ゆのかを見つめていた。その視線に、甘えてしまいそうになる。

(これ以上っ…泣いちゃ、駄目…2人に心配かけちゃう……)

“せっかく会えて嬉しいけど、私に会ったことは誰にも言わないで”
“服が乾いたら、ここから出ていくから”

(早く…言わなきゃ………!)

 唇が震える。

「っ………………」

 声を出したら、涙が零れ落ちそうで……ゆのかは、何も言うことができなかった。


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