夢の音を奏でます!〜第1話 始まりの唄〜

水澄 涼海

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再会

ひとりぼっちの4年間

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 その後……結局、航と祖母は、幼馴染達に会うことを許してくれなかった。
 ゆのかに、頼み込む時間も心の余裕が一切なかったのも、幼馴染達に会えなかった原因の1つだろう。
 ゆのかが入学した中学校は、近隣の州の中でもトップレベルの中高一貫の女子校で、少しでも気を抜くと、すぐに学力の順位が落ちてしまう。
 ゆのかが立派な州長になるために、学力を落とすことを祖母は決して許さなかった。
 少しでも順位を落とすと

『出来損ない。こんな順位で、よく平然と帰ってこれたわね?!!
 満点を取るのが当たり前なんです。今日は寝ずに勉強なさい!!』
『あぁ…恥ずかしい!これじゃあ、今度のお茶会で、州長である私が馬鹿にされるわ!!
 あなたはっ、どこの誰か分からない父親の血が流れているだけで、恥ずかしいのに……どうしてくれるの?!!』

と、怒鳴られた。酷い時は、何か物を投げつけられたこともあった。
 だから、毎日毎日、勉強ばかりしていた。祖母の機嫌を損ねないように。そして、平穏に暮らすために。
 家に、ゆのかの味方はいなかった。仲の良かった執事やメイド達は全員辞めさせられて、代わりに、体格が良くて怖い男達ばかりが、使用人として雇われた。
 彼らは、祖母と航に忠誠を誓い、ゆのかを“高貴なお嬢様”として扱った。彼らがお金で操られているか、弱みを握られていることも、ゆのかは全部知っていた。

 息苦しい家。でもそれは、学校でも同じだった。
 学校は、由緒正しいご令嬢ばかりが通っていた。設備は良く、この学校の卒業生は皆、エリートばかり。憧れを抱く人はたくさんいる。
 そんな中学で、幼馴染のような友達は、1人もできなかった。
 仲良くしてみたい。そう思う人もいたけど…祖母や航が選んだ人だけとしか、交流を持つことを許されなかった。
 だから

『ゆのかさん、頭が良いのね!流石は州長様のお孫さんだわぁ~』
『お顔立ちも美しくて、本当にステキ!』
『ゆのかさんは、私の憧れなの~!
 ねぇ、今度の州長様の家で開催されるパーティー、招待してくださらない?』

 ゆのかの周りは、ゆのかの肩書だけを重要視する人達だらけだった。
 たまに、祖母にどこかへ連れ回されると思ったら……上品なパーティーに連れて行かれたり、行きたくもない展覧会に行かされたりしていた。
 こんな生活に…ゆのかは正直、うんざりしていた。

 何年か経って、ゆのかはようやく、広大なトワのテストで100位以内に入るくらいの学力はついた。
 だけど気づけば……ゆのかの周りに、大切なものは、1つもなかった。
 形見である大切なギターでさえ、いつの間にか祖母に奪われてしまった。

 孤独で、完璧を求められる日々が続いて…気づけばゆのかは、16歳になっていた。
 約束を交わしたあの日から、4年。幼馴染には、まだ会えていない。
 ののかに会わせると約束した祖父も、亡くなってしまって…きっともう、本当の家族にすら、会えないだろう。
 禁海法きんかいほうは、呆気なくホペ州で施行されて…大好きな海へ行くことさえも、できなくなっていた。

(私の…頑張る意味、って……何だろう……?)

 頭の片隅に…“家出”という単語が、何度もよぎる。

(幼馴染のみんなは…あの日交した約束なんて、きっともう、忘れているんだろうなぁ……)

 4年も前に交した幼い頃の約束。会える確証もないまま、頑張り続ける意味なんて、きっとない。

(だったら、こんな意味のない生活から…逃げちゃえばいい。)

 もう、ひとりぼっちは、我慢できない。
 逃げ道は……ホペ州と隣州をつなぐ、ただ1つの橋だけ。もし、その橋が封鎖されたら、逃げ道がなくなる。

(そうなったら…世界で1番大好きな場所に……行きたい。
 故意で海に行けば、確実に死刑。でも、ひとりぼっちより全然いい。)

 ゆのかの人生が、終わってもいいと……覚悟の上だった。
 祖母と航が出かけて、家にいない夜を見計らって、ゆのかは家を出た。
 昔の記憶を辿って、幼馴染に向けて書いた手紙を、大和の家のポストに入れた。

“私は今日、この州を出ます。”
“家出に失敗したら、大好きな場所へ行きます。”
“私のことは忘れてください。”

 こんなようなことを書いて。
 もちろん大和が、ゆのかを匿っているんじゃないかと、家の人に怪しまれた時のために、名前は書かなかった。
 この行動に、時間がかかってしまい、ゆのかが橋に行こうとした時には、橋は既に使用人が集まっているようだった。

 もう、これ以上、どうするもできなくて…ゆのかは海に来た。
 始まりの唄を歌って…この海を渡れたら、世界で1番会いたかった妹に、会えそうな気がした。
 家出とか、自由になりたいとか、存在価値とか……いつの間にか全部忘れて
 ゆのかは、夢中で海に……足を踏み入れていた。


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