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君を絶対…
聞きたいことっていうか
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◇◇◇
「……で。
聞きたいことって、何だよ。」
部屋を出た星がうみに聞く。うみは、爽やかに笑った。
「聞きたいことっていうか…なーんか、あの娘に対して2人が甘いような気がして。」
「どこが。」
「いつものあいるさんだったら、もっとズカズカ聞くはずなのに…今回は遠慮がちだったよね。
星さんだって。いつもはもっと、正論ぶつけてくるじゃん。何かあった?」
星は、うみをジッと見つめる。うみに、下手な隠し事は、通用しない。
「…変わりすぎだったんだよ。」
「ゆのかが?」
「ああ。俺らが昔、会っていた時と…大分様子が違う。」
星は難しい顔をした。
「もともと、気が優しくて大人しい奴ではあった。
だが今は…全然笑わねぇし、表情もずっと暗い。何より、痩せすぎ。」
「暴力を振るわれていないのだとしたら…ネグレクトか、精神的にショックなことがあったのかもね。」
大人しいの度を超えていたゆのかに、星とあいるは内心、動揺していた。
「あぁ。いくら初対面だからって…あそこまで人に対して、ビクビクするような奴じゃなかったよ。」
「よかった。あれが通常運転だと思ってた。」
「女たらしのうみがあそこまでビビられてんのも、中々見物だよな。」
「うわぁ。さりげなく貶された~」
うみがおどける。“女たらし”と他の船員から散々言われるので、あまり気にはしていない。
この容姿から分かる通り…うみに近寄る女は、数知れず。それを見たモテない船員達が嫉妬して、そう言うようになった。
(てか、よく言うよね。星さんだって、数多くの女の子泣かせてきたくせに。)
美しい顔立ちの星も、女に言い寄られることが多い。
だが、副船長という権力と、圧倒的な強さ…そして、怒ると怖いという理由で、船員達は誰も星のことを“女たらし”とは言わない。うみはそれが少し、不服だった。
とはいえ、星は女に対して淡々としているが、うみは比較的フレンドリーに対応し、彼女を作り続けた時期があったことも原因と言えるが。
「ゆのかはよく、人見知りもしてたけど…怯え方が尋常じゃねぇ。…それに」
「何か隠していることがある。」
言葉の続きを言い当てられて、星は目を丸くした。
「初対面でよく分かったな。」
「分かるよ。ゆのかの話、1つだけ矛盾してるから。」
「矛盾?」
うみは、ニヤリと笑った。
「幼馴染とした約束は4年前で、もう忘れているかもしれないって、ゆのかは言っていた。
そんな不確かな約束を、守れないって理由で、謝罪の手紙を投函しに行った挙句、逃げ遅れたのは…ちょっと杜撰すぎると思わない?何がなんでも成功させたい家出なら、尚更。」
星は目を見開いた。
「つまり……逃げ遅れてでも、手紙を出さなきゃならねぇ理由があった。」
「そ。
考えられるとしたら……幼馴染達が今でも律儀に約束を守っている確証が、ゆのかにはあったんじゃないかな。
もしそうなら、“幼馴染は約束を忘れているだろうから”家出ちゃえー……ってとこが嘘。きっと、もっと決定的な理由があって、家出したんだろうね。」
幼い頃からゆのかと付き合いがあった星は、ゆのかの挙動から、何かを隠していることにはすぐに気づいていた。
だが、ゆのかの様子を観察しつつ、あいるとハンドサインを送り合うことに集中していたため、こんな微妙な違和感までは、流石に気づけなかった。
(あの短時間で、しかも初対面の奴の嘘を見抜くのは……さすがだな。)
この若さで戦闘力もあり、頭が回るため、“女たらし”とからかわれる一方で、うみは他の船員に1目置かれている。
そうでなければ…力のないゆのかを連れて、見知らぬ地にギターを取り戻させに行くわけがない。
「学校でも家でも息苦しいと感じているなら……その約束だけが、生きがいだったはず。
それを反故しようとしてでも、家出しようとしたってことは…幼馴染に迷惑をかけてしまったか、幼馴染を待つこと以上に、辛くて耐えられない何かがあった…って考える方が、自然じゃない?」
星はまた、難しい顔をした。
「例えば、こんなのどう?
ゆのかは最近、ばったり例の幼馴染に会って、未だに約束を守ろうとしていることを知っ」
「はっきり言っておく。これ以上探るな。」
星がうみを遮る。一瞬きょとんとしたうみは、すぐに笑顔に戻った。
「へぇ。星さん達は、ゆのかが嘘を吐いている理由が、ヤバそうだって見当がついているんだ。
だからさっき、深く聞けなかったってこと?」
「……。」
探るなと言った直後にこの質問をしたうみを、星は睨む。
「ごめんって。そんなに睨まないでよ。」
うみは無意識につい追及してしまったことを、慌てて星に謝った。
「でもさ、見ず知らずの人ならともかく、それだけ大事な娘なんでしょ?
星さんも…本当のこと、知りたいと思わないの?」
「知りたいに決まってるだろ。」
普段ぶっきらぼうで、愛想のない星の目の奥に…怒りがこもっているのを、うみは何となく感じた。
遠くを見つめて放った言葉。おそらくその怒りは、うみに対してではない。
(あの星さんが、ここまで言うってことは、あの娘に相当思い入れがあるんだろうけど……深く突っ込まないってことは、事情が結構重めだって分かってるってこと。
こればかりは……仕方ないか。)
うみは折れることにした。
「分かった。あんま触れないようにするよ。」
「あと、くれぐれも手を出すんじゃねぇぞ。」
「……。
ん?」
話が突然、かつスムーズ変わったことに、うみは少し戸惑った。だが、星は気にせず、うみを睨む。
「ゆのかは可愛いからな。その上、性格も申し分ないだろ。手を出したり、何か間違いがあったりしたら、ただじゃおかねぇからな。
さっきのアレは許してやる。だが、今後ゆのかの半径1メートル以内に入ったら、ぶっ飛ばす。」
さっきのアレとは、ゆのかの隣にうみが座って、ギターの話をしていた時のことだろう。
突然、無茶苦茶なことを言い始めた星に、うみは困惑するしかなかった。
(……もしかして。)
実は星は、仲間から“女たらし”とは言われてないものの……陰で、とても不名誉な呼ばれ方をすることがあるのだ。
「ねぇ。星さんとゆのかが出会ったのって、いつ?」
「ゆのかの両親がまだ仲間の時に、ゆのかとののかが生まれたから、その直後が初対面だよ。当時のゆのかとののかは、それはもう可愛くて」
うみは激しく納得した。
(昔、“大事な妹”って話は聞いた気がしたけど……なるほど。
星さんはショタコンじゃなくて…元はロリコンだったんだ……)
美しい顔立ちの星は、エール号の副船長であり、戦闘力もあり、冷静沈着で、ありとあらゆる問題を解決してきた。前船長の孫であり現船長の甥という地位をも持つが、その地位に驕らず、勤勉で、医者でもないのに医学や薬学の知識も豊富だ。エール号の船員は、誰も頭が上がらない。
そんな船員達が、星をイジれる数少ないポイントの1つが……子ども好きだということ。
エール号には、まだ6歳の男児の船員がいるが…その6歳児に対する星の溺愛ぶりは凄まじい。
そうして陰でついたあだ名が……“ショタコン”だった。
だが、ゆのかとゆのかの妹のことも溺愛しているのなら、男児を愛する“ショタコン”の異名は、もう使えない。
星は未だに、ゆのかがいかに可愛いかったか話を続けている。間違いない。星はシスコン、もしくはロリコンだ。
「お前、さっきから黙ってるけど……まさかもう手を出したなんてこと、ないよな?」
そう言われ、ゆのかと出会った時のことを思い返してみたが……うみは、星の拳に瞬時に力が宿ったのを見逃さなかった。
即答せねば、心当たりがあると見なし、その拳が振り下ろされるに違いない。
「うん。」
「ならいい。その調子でいろよ。」
もし万が一、ゆのかが男に弄ばれたとなれば、たとえ仲間であろうとも、容赦しないだろう。
(ゆのかも大変だなぁ。これから男だらけの船で仲間になるっていうのに…副船長がこの調子じゃね。)
まだ、他の船員に会ってすらいないゆのかを、うみは哀れんだ。
「もし身の危険を感じたら、すぐに逃げろ。
ギター奪還は、後でもできる。くれぐれも慎重にな。」
ようやく、副船長の星らしさが戻ってきて、うみはホッとした。
「分かった。ありがと。
じゃ、俺も準備してくるよ。」
「助っ人は?」
「そうだな……
じゃあ、せっかくだから……スカイを、俺らが出た1時間半後に出発させてくれる?追跡できるようにはしとくから。」
「分かった。ゆのかのこと、頼んだ。」
「任せて。」
星はグーにした手を、うみの前に出した。
それに答えるように、うみも自分の手を星の手に、コツンとぶつけた。
「……で。
聞きたいことって、何だよ。」
部屋を出た星がうみに聞く。うみは、爽やかに笑った。
「聞きたいことっていうか…なーんか、あの娘に対して2人が甘いような気がして。」
「どこが。」
「いつものあいるさんだったら、もっとズカズカ聞くはずなのに…今回は遠慮がちだったよね。
星さんだって。いつもはもっと、正論ぶつけてくるじゃん。何かあった?」
星は、うみをジッと見つめる。うみに、下手な隠し事は、通用しない。
「…変わりすぎだったんだよ。」
「ゆのかが?」
「ああ。俺らが昔、会っていた時と…大分様子が違う。」
星は難しい顔をした。
「もともと、気が優しくて大人しい奴ではあった。
だが今は…全然笑わねぇし、表情もずっと暗い。何より、痩せすぎ。」
「暴力を振るわれていないのだとしたら…ネグレクトか、精神的にショックなことがあったのかもね。」
大人しいの度を超えていたゆのかに、星とあいるは内心、動揺していた。
「あぁ。いくら初対面だからって…あそこまで人に対して、ビクビクするような奴じゃなかったよ。」
「よかった。あれが通常運転だと思ってた。」
「女たらしのうみがあそこまでビビられてんのも、中々見物だよな。」
「うわぁ。さりげなく貶された~」
うみがおどける。“女たらし”と他の船員から散々言われるので、あまり気にはしていない。
この容姿から分かる通り…うみに近寄る女は、数知れず。それを見たモテない船員達が嫉妬して、そう言うようになった。
(てか、よく言うよね。星さんだって、数多くの女の子泣かせてきたくせに。)
美しい顔立ちの星も、女に言い寄られることが多い。
だが、副船長という権力と、圧倒的な強さ…そして、怒ると怖いという理由で、船員達は誰も星のことを“女たらし”とは言わない。うみはそれが少し、不服だった。
とはいえ、星は女に対して淡々としているが、うみは比較的フレンドリーに対応し、彼女を作り続けた時期があったことも原因と言えるが。
「ゆのかはよく、人見知りもしてたけど…怯え方が尋常じゃねぇ。…それに」
「何か隠していることがある。」
言葉の続きを言い当てられて、星は目を丸くした。
「初対面でよく分かったな。」
「分かるよ。ゆのかの話、1つだけ矛盾してるから。」
「矛盾?」
うみは、ニヤリと笑った。
「幼馴染とした約束は4年前で、もう忘れているかもしれないって、ゆのかは言っていた。
そんな不確かな約束を、守れないって理由で、謝罪の手紙を投函しに行った挙句、逃げ遅れたのは…ちょっと杜撰すぎると思わない?何がなんでも成功させたい家出なら、尚更。」
星は目を見開いた。
「つまり……逃げ遅れてでも、手紙を出さなきゃならねぇ理由があった。」
「そ。
考えられるとしたら……幼馴染達が今でも律儀に約束を守っている確証が、ゆのかにはあったんじゃないかな。
もしそうなら、“幼馴染は約束を忘れているだろうから”家出ちゃえー……ってとこが嘘。きっと、もっと決定的な理由があって、家出したんだろうね。」
幼い頃からゆのかと付き合いがあった星は、ゆのかの挙動から、何かを隠していることにはすぐに気づいていた。
だが、ゆのかの様子を観察しつつ、あいるとハンドサインを送り合うことに集中していたため、こんな微妙な違和感までは、流石に気づけなかった。
(あの短時間で、しかも初対面の奴の嘘を見抜くのは……さすがだな。)
この若さで戦闘力もあり、頭が回るため、“女たらし”とからかわれる一方で、うみは他の船員に1目置かれている。
そうでなければ…力のないゆのかを連れて、見知らぬ地にギターを取り戻させに行くわけがない。
「学校でも家でも息苦しいと感じているなら……その約束だけが、生きがいだったはず。
それを反故しようとしてでも、家出しようとしたってことは…幼馴染に迷惑をかけてしまったか、幼馴染を待つこと以上に、辛くて耐えられない何かがあった…って考える方が、自然じゃない?」
星はまた、難しい顔をした。
「例えば、こんなのどう?
ゆのかは最近、ばったり例の幼馴染に会って、未だに約束を守ろうとしていることを知っ」
「はっきり言っておく。これ以上探るな。」
星がうみを遮る。一瞬きょとんとしたうみは、すぐに笑顔に戻った。
「へぇ。星さん達は、ゆのかが嘘を吐いている理由が、ヤバそうだって見当がついているんだ。
だからさっき、深く聞けなかったってこと?」
「……。」
探るなと言った直後にこの質問をしたうみを、星は睨む。
「ごめんって。そんなに睨まないでよ。」
うみは無意識につい追及してしまったことを、慌てて星に謝った。
「でもさ、見ず知らずの人ならともかく、それだけ大事な娘なんでしょ?
星さんも…本当のこと、知りたいと思わないの?」
「知りたいに決まってるだろ。」
普段ぶっきらぼうで、愛想のない星の目の奥に…怒りがこもっているのを、うみは何となく感じた。
遠くを見つめて放った言葉。おそらくその怒りは、うみに対してではない。
(あの星さんが、ここまで言うってことは、あの娘に相当思い入れがあるんだろうけど……深く突っ込まないってことは、事情が結構重めだって分かってるってこと。
こればかりは……仕方ないか。)
うみは折れることにした。
「分かった。あんま触れないようにするよ。」
「あと、くれぐれも手を出すんじゃねぇぞ。」
「……。
ん?」
話が突然、かつスムーズ変わったことに、うみは少し戸惑った。だが、星は気にせず、うみを睨む。
「ゆのかは可愛いからな。その上、性格も申し分ないだろ。手を出したり、何か間違いがあったりしたら、ただじゃおかねぇからな。
さっきのアレは許してやる。だが、今後ゆのかの半径1メートル以内に入ったら、ぶっ飛ばす。」
さっきのアレとは、ゆのかの隣にうみが座って、ギターの話をしていた時のことだろう。
突然、無茶苦茶なことを言い始めた星に、うみは困惑するしかなかった。
(……もしかして。)
実は星は、仲間から“女たらし”とは言われてないものの……陰で、とても不名誉な呼ばれ方をすることがあるのだ。
「ねぇ。星さんとゆのかが出会ったのって、いつ?」
「ゆのかの両親がまだ仲間の時に、ゆのかとののかが生まれたから、その直後が初対面だよ。当時のゆのかとののかは、それはもう可愛くて」
うみは激しく納得した。
(昔、“大事な妹”って話は聞いた気がしたけど……なるほど。
星さんはショタコンじゃなくて…元はロリコンだったんだ……)
美しい顔立ちの星は、エール号の副船長であり、戦闘力もあり、冷静沈着で、ありとあらゆる問題を解決してきた。前船長の孫であり現船長の甥という地位をも持つが、その地位に驕らず、勤勉で、医者でもないのに医学や薬学の知識も豊富だ。エール号の船員は、誰も頭が上がらない。
そんな船員達が、星をイジれる数少ないポイントの1つが……子ども好きだということ。
エール号には、まだ6歳の男児の船員がいるが…その6歳児に対する星の溺愛ぶりは凄まじい。
そうして陰でついたあだ名が……“ショタコン”だった。
だが、ゆのかとゆのかの妹のことも溺愛しているのなら、男児を愛する“ショタコン”の異名は、もう使えない。
星は未だに、ゆのかがいかに可愛いかったか話を続けている。間違いない。星はシスコン、もしくはロリコンだ。
「お前、さっきから黙ってるけど……まさかもう手を出したなんてこと、ないよな?」
そう言われ、ゆのかと出会った時のことを思い返してみたが……うみは、星の拳に瞬時に力が宿ったのを見逃さなかった。
即答せねば、心当たりがあると見なし、その拳が振り下ろされるに違いない。
「うん。」
「ならいい。その調子でいろよ。」
もし万が一、ゆのかが男に弄ばれたとなれば、たとえ仲間であろうとも、容赦しないだろう。
(ゆのかも大変だなぁ。これから男だらけの船で仲間になるっていうのに…副船長がこの調子じゃね。)
まだ、他の船員に会ってすらいないゆのかを、うみは哀れんだ。
「もし身の危険を感じたら、すぐに逃げろ。
ギター奪還は、後でもできる。くれぐれも慎重にな。」
ようやく、副船長の星らしさが戻ってきて、うみはホッとした。
「分かった。ありがと。
じゃ、俺も準備してくるよ。」
「助っ人は?」
「そうだな……
じゃあ、せっかくだから……スカイを、俺らが出た1時間半後に出発させてくれる?追跡できるようにはしとくから。」
「分かった。ゆのかのこと、頼んだ。」
「任せて。」
星はグーにした手を、うみの前に出した。
それに答えるように、うみも自分の手を星の手に、コツンとぶつけた。
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