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1章:駆け出しテイマーの歩み方

18. ギンジ式ブートキャンプ 2

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 ギンジさんの後を追って歩いているとモンスターはすぐにやってきた。サイズは私より頭1つ分小さいぐらいで、最初にイメージしていた猿の姿より少し大きい。

「こいつの攻撃力はそんなに高くねぇから何発か貰ってもすぐに死ぬことはねぇ。けど、攻撃速度と機動性が高けぇから相手の攻撃を捌く訓練にはもってこいだ。最初は攻撃を仕掛けなくてもいいから、只管避けろ」
「は、はいっ」

 ギンジさんに促されるまま、猿のモンスターと対峙する。
 そういえばモンスターの名前聞いてなかった、鑑定スキルが低すぎてモンスター相手だと通用しないから、後でギンジさんに聞かないと。
 そんなことを考えていると、猿はウキャーっと威嚇の声を挙げて私に殴りかかって来た。

「うっ!は、速い、これ無理ですよ!?」
「避けることに徹していけば慣れる。なに、ダメージを食らってもポーションがあるから死ぬ心配はいらねぇ」

 初戦は本当にベコベコだった。碌に避けることも出来ず、殴られ転ばされ踏まれる。転んだ後に頭を踏まれた時は流石にイラっとして、相手の足を切り付けてやった。
 それと攻撃力が低いと言っていたが、猿の攻撃一発で私のHPは4割近く削れている。絶対今の私のレベルで来ていい所じゃないでしょ。
 猿に殴られてはポーションをぶっかけられるというルーチンを何度も繰り返したあと、おもむろにギンジさんが前にでて猿をスパッと一撃で切り捨てた。

「う~ん、訓練場の時はもうちっと出来てたんだがなぁ」
「いや、無理ですよ。ここ絶対今の私じゃ通用しない所です!」
「そんなことはねぇ。今回こんなにも攻撃を食らってたのはスキルレベルの問題じゃなくて、お前自身の問題だ」
「……どういうことですか?」

 ギンジさんが真剣な目で私に語り掛けてきたので、これは単なる精神論とかじゃなくて本当に私に何か問題があったのだと分かった。

「ナツ、お前さん攻撃を受ける度に目を瞑っていただろ。訓練場で俺の攻撃を受けていた時は必至に俺を見て、攻撃を避けようとしてたじゃねぇか」

 その言葉に私はハッとした。
 確かにあの時はしっかりとギンジさんの動きを見て、避けようとしていた……全く避けられなかったけど。

「これはテレビゲームじゃねぇから攻撃を食らう時に目を瞑っちまうのは普通のことだ。けど訓練場でお前さんは目を瞑らずに必死に俺の動きを見て避けようとしていた。俺はそれを見てナツの根性があれば、ここで急成長出来ると踏んでいたんだ」

 ギンジさんの時は出来て、何で猿の時は出来なかったのか考えた時、それはすぐに分かった。それは敵意だ。
 ギンジさんの攻撃には敵意が無くて怖かったけど怖くなかった。でも猿には強い敵意があって、私を殴り飛ばしてやるという強い感情が読み取れて怖かったのだ。

「たしかにお前さんのスキルレベルはまだ低い。けど、避けに徹していれば決して避けられねぇ程弱くねぇ。ナツ、腹をくくれ。お前さんならそれが出来る」
「はい」

 私は神妙にその言葉に頷き、次の猿を求めて奥へと向かう。
 そしてすぐに次のモンスターが現れたので、初戦の時と同じように私は前に出て猿と対峙した。猿は前と同じように威嚇の声を挙げるが、今度は絶対に目を瞑らないぞと目に力を入れる。
 それで全ての攻撃を避けられるようになった訳ではないが、綺麗に回避出来たり掠りダメージで済むことも増えて来た。
 そして、それからまた殴られてはポーションをぶっかけられるというルーチンを繰り返していると、少しずつ変化が生まれて来た。相手の動きが少しずつだがゆっくりに感じられるようになって来たのだ。

「機動力と回避のスキルが上がってきてるんだ。機動力はそのまま動きの速さだが、回避は反応速度に影響を与える」

 猿の攻撃を必死に避けながらギンジさんの声に耳を傾けていると、その回避の重要性がよく理解出来た。
 回避とはモンスターの攻撃を避けることによって上がるスキルで、相手と自分の機動力差が高いモンスターの攻撃を避ける程上がりやすいそうだ。
 そして回避スキルが上がると反応速度が上がり、相手の攻撃が避けやすくなる。これは回避行動だけでなく、攻撃時も含めて意識を集中した時に適用される効果なので、どんな戦闘スタイルだったとしても絶対にカンストさせた方がいいスキルなんだそうだ。
 そんな話を聞きながら回避行動を繰り返していると、猿の動きが少しずつ鈍くなっていく。モンスターにもスタミナが存在し、延々と無限の体力で襲ってくることは出来ないらしい。

「猿が疲れて動きが鈍くなってきたら、少しずつ攻撃を加えていけ。だが決して焦るな」

 私はその言葉に従い、基本は回避に専念して相手の隙を見て確実に攻撃を入れていく。

 ――焦らず、深追いせず、確実に!!

 そうして戦闘を開始してから30分近く経った時、私はやっと猿を倒すことが出来た。

「よし、良くやった。最初は時間が掛かるが、スキルが上がってくれば速く倒せるようになるし、奥に進めば更に強い相手と戦い成長速度が上がる」
「は、はい。でも……1戦だけですごく疲れました……」
「まぁ、死力を尽くした戦いっていうのはそんなもんだ。けど、その戦いの後の余韻は気持ちいだろ?」
「……いえ、そんなことは無いですね」

 確かに成長効率と言う点では優れているが、この戦闘狂のテンションには着いていける気がしない。
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