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1章:駆け出しテイマーの歩み方

23. 悔しい

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 ロコさんの訓練を受けてから今日で9日目、各種スキルは順調に育ち使える技能も増えて来た。
 猿洞窟の方はまだまだ先へ進めないけど、ゾンビクラブの方は『調教』『白魔法』『黒魔法』のスキルが30を超えれば、別のお勧め育成場所を教えてくれるらしい。ちなみに今の所は白魔法と調教は30にあったけど、黒魔法が27なので3足りない。
 と言うことで、今日も気合を入れてまずは猿洞窟からだ。

「ウキャー!」
「最初は怖かったけど、大分この威嚇も慣れてきたな」

 速さ自体は相手の方が速いけど、避ける事に専念して相手を観察し続けた結果、相手の予備動作や攻撃パターンが分かって来たのでかなり余裕を持って避けられるようになってきた。
 そして油断せずに1つ1つ丁寧に避けていき、相手が疲れて来たところに新たに覚えた技能を叩き込む。

「スラッシュ!からのスパイラルエッジ!」
「グギェェアアアア!」

 スラッシュは短剣で素早く切る技能で、スパイラルエッジは短剣で相手を素早く突く技能だ。両方ともダメージ補正は小さいけど、技能を発動した瞬間機動力にプラス補正効果が付くので、普通に攻撃するより断然速く切ることが出来る。
 私はスラッシュで相手の胴や脇腹を切って、相手が怯んだところに首に向かってスパイラルエッジを叩き込んでクリティカルダメージを出すのがここでの鉄板コンボになっている。なお、最近では各種スキル値上昇と敵の動きに慣れたこともあって、1対1ではほぼノーダメージで猿を倒せるようになってきた。私もなかなか強くなったものだ。
 猿に鉄板コンボを決めて倒し、出現する敵が複数同時になってくるいつもの折り返しポイントに辿り着いた。

 ――いつもならここで折り返して出口に戻るんだけど……今日はいつも以上に調子がいいんだよね。
 
 この先は、以前ギンジさんから「機動力と回避のスキルが30もあればいける」と言われていたエリアだ。そして今の私は機動力が27で回避が25とまだスキル値が足りてない。
 本来であればここでいつも通り折り返して出口に向かうのだが、今の私がどのくらい戦えるのか知るためにも一度挑戦してみてもいいかもしれない。などと若干調子に乗りつつあることを自覚しながらも一度この先に進んでみることにした。
 いつもの折り返しポイントを超えて先へと進んで行くと、いつもと同じ種類の猿が2匹同時に現れた。事前に分かっていたことだったとしても、やはり2匹の猿を前にすると緊張で体が強張る。
 よし!と気合を入れて無理やり体を動かし猿達へと突っ込む。これまでの戦いの経験から、私は棒立ち状態で相手から距離を詰められるより、こちらから距離を詰めた方がその後の行動がとりやすいことを肌で感じていたため、これまでのセオリー通りに行動する。

 ――まずは相手の動きをよく見て回避に専念……なっ!

 いつも通り相手との距離を詰め、その後は相手の動きを見ながら付かず離れずの距離感で回避に専念するつもりだったのだが、そこで1匹の猿が今までと違う動きをみせた。これまでの猿の行動パターンは本当に単調なもので、奇声を上げて威嚇してくるか、ただひたすら殴りかかってくるかしかなかったが、その猿は『しがみついてきた』のだ。
 猿の新たな行動パターンに困惑したが、その後すぐにもう1匹の猿が殴りかかってきたことでその行動の意図を察することが出来た。
 私は大馬鹿だったのだ。私はこのゲームを始めてからこれまで複数体のモンスターと同時に戦ったことがなく、そのために『モンスターが連携して攻撃してくる』というそんな簡単なことにも考えが至らなかった。
 私は猿から綺麗に右ストレートを食らい、HPを大きく減少させる。すぐにでも距離を離して体制を整えたいが、いまだに抱き着いている猿の所為で上手く身動きが取れない。必死になって右手のナイフで抱き着いている猿の腰あたりを切り付け抜け出そうとするが、猿も負けじと必死になって拘束してくる。あとは簡単、もう1度猿に殴られ試合終了だ。
 
「……悔しい」

 プライベートエリアのベッドの上で復活した私は、両手で顔を覆いながら自身の中で渦巻く感情を声に出して発露した。
 確かに事前に言われていた推奨ステータスに届いていない状態での挑戦ではあった。だけど今回の負けはステータスが足りなかったからとかそういう負け方では無かった。最近少しずつ戦えるようになってきて、勝てないまでもここまで手も足も出ずに負けるとは思っていなかったのだ。
 暫くの間ベッドの上でくしゃっとなった気持ちを慰め、その後ガバっと起き上がりサモンリングからレキを呼び出した。呼び出されたレキはナツの深刻そうな顔を見て首を傾げながら心配そうに近づいてくる。私はそんなレキを優しく撫でながら、これ以上心配させないように出来るだけ普段通りに語り掛ける。

「ごめん、レキ。今日の湿地帯へのお散歩なんだけど、お休みにしてもいいかな?」
「クゥーン?」
「実は今日ね、モンスター相手に酷い負け方しちゃったの。それでね……私、そのモンスターにリベンジしたいんだ」

 レキは大人しく私の話を聞き続け、そして聞き終わると私の頬をペロリと舐めて「ワフッ」と吠えた。多分了承、もしくは応援してくれているのだと思う。であれば私はしっかりと準備をしてリベンジを果たそう。
 それから私は先ほどの猿達の行動を思い出して、どのように対処すればいいのかを考える。

 ――しっかりと観察して避けるにしても、私は2匹の猿からの攻撃を綺麗に避けられるほど速くはない。
 
 ――そもそも連携して襲って来る相手にソロで挑むというのが……でも、ギンジさんは成長すればソロでも奥へ行けるって言ってるし、何か戦い方があるはずなんだよね、きっと。

 2匹の連携した攻撃は多少ステータスが上がったからといって綺麗に避け続けられるとは思えなかった。
 そして悩んだ結果、相談する方が早いとギンジさんに戦闘について相談がしたいとメッセージを送る。するとその後すぐに返信が届き、冒険者組合の訓練場で待ち合わせをすることになった。
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