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3章:それぞれのテイマーの道

75. 興行の街

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 凄く今更の話をしよう。実は私、本当にこれまで殆ど強くなるための行動しかしておらず、この世界のことについて知らないことが沢山あったのだ。……そう、例えば自分が今までずっと居た街の名前とか。
 プログレス・オンラインではその特色に分けて複数の街が存在する。そしてプレイヤーの初回ログイン地点である街の名前が『商業の街』なのだ。
 このゲームでは珍しい事に、街に固有名詞が与えられていない。大体がその街の特色や役割を街の名前として使われている。そしてシュン君に連れられてやって来た街の名前は『興行の街』である。

「この街にはコロッセオや屋内劇場に屋外劇場、それに沢山のストリートパフォーマーが集まる中央広場なんかがあります。あとは、未成年者は入れませんがカジノなんかもありますね」

 コロッセオ等の施設は商業組合で手続きして使用料を払えば誰でも借りることができ、この街では日々様々な自主開催のイベントを行っているらしい。
 ちなみに公式イベントはここではしないのかと言うと、新規プレイヤーも含め全員がこの街にすぐ来れる訳ではないので、公式イベントなどはどの街からも入ることが出来る公式イベント専用エリアで行われる。

「うわぁ~、私が今までいた街と全然違うんだね! 商業の街も人が多くて活気に溢れてたけど、こっちは何て言うか活気に沸いてるって感じ?」

 街に入ってすぐ目についたのは色んな出店だ。街中の至る所で色んな出店があって、まるでお祭り見たい。
 それに道行く人の様子もちょっと違う。何と言っていいのか表現に困るが、商業の街でよく見るプレイヤーの雰囲気と興行の街で見るプレイヤーの雰囲気が、地元民と旅行客の違いに近いだろうか。

「そうですね。ここではいつも何かしらイベントやパフォーマー達の活動が行われていますから、他の街と比べると空気が弾んでいる感じがしますね。……もし良かったら、折角なんでこのまま街を案内しましょうか?」
「えっと、いいの? 今日1日で既に凄いお世話になってるんだけど、また甘えちゃって?」
「はい、大丈夫ですよ。今日はもうとくにやる事もありませんし、僕はこの街が一番好きなので、この街のいい所自慢がしたいです」

 そう、おどけて笑うシュン君に私も笑い返し、お言葉に甘えて街の案内を頼むことにした。

 ……

 …………

 ………………

「ここがコロッセオ。……思った以上に大きいね」
「ワフッ」「パルゥ」

 私が1番最初に案内を頼んだのはコロッセオだった。そこにはハイテイマーズ主催のイベントのチラシが貼られているとのことだったので、一度この目で見てみたいと思ったのだ。
 それと、折角の観光でモンスターが出る心配もないので、レキとパルもサモンリングから具現化している。

「そうですね。多分プログレス・オンラインの全施設のなかで一番大きいと思います。えっと、確か観客席が2万人は入る設計だったかな?」

 2万人……ロコさんはテイマーの大会で優勝してたって言ってたけど、それだけの人数の中戦っていたのだろうか。多分私だったら、大勢の視線が気になって戦いどころじゃなくなってしまいそうだ。

 コロッセオの入り口に向かうと、そこには目当てのチラシが置いてあった。入場料が3,000G、優勝予想のギャンブルが1口1万Gと高額だが、ギャンブルだとこれぐらいの値段設定は普通なのだろうか。私は勿論、両親もギャンブルは全くしないので全然予想が付かない。
 私はそのチラシを暫く見つめ、ここはゲームでありそういう需要もあるのだと認め割り切ろうとしたが、やはり嫌悪感が先に沸いてしまった。

「……やっぱり簡単には割り切れないね。ここがゲームの中でも、やっぱり私にとってペットは生きていると思えるから」
「それでいいと思いますよ? ここをゲームだと割り切って考えることが間違っている訳でも、ゲームの中でもリアルの1つだと考えることが間違っている訳でもないと思いますから」

 ちょっとしんみりしてしまったが、そこからは気分を入れ替えて他の施設も見て回った。途中出店でお菓子を買ってレキ達と食べたり、屋外劇場でやっていたのど自慢大会で少し聞き入ってしまったり、色々あって溜まっていたストレスがポーンと飛んでいくぐらい楽しんでいた。
 ちょっとだけ興味があるのでカジノの中にも入ってみたかったが、ここがゲームの中だったとしても、法律上の問題でカジノに入ることは出来ないそうで、そこだけが心残りだ。
 その後、最後に私達はパフォーマーの集まる中央広場へと向かった。

「ん? そこ行くかわい子ちゃんはナツちゃんじゃないかい?」

 中央広場で最初に見た光景は、四つん這いになって号泣する男性プレイヤーと……その背に座って紅茶を飲むミシャさんの姿だった。
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