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スムース・クリミナル
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アルバータ・フィリップ:♂(25) 自己中な性格の詐欺師。
バネッサ・クリスティ:♀(24) 気の弱い情報屋。
カルロ・レオーネ:♂(27) 口の悪い殺し屋。ダニエルに雇われている。
ダニエル・ウィリアムズ:♂(34) 数千人の構成員を誇るギャング組織のボス。
イライザ・ウィリアムズ:♀(16) ダニエルの娘、凄腕のハッカー。
フィオナ・クラーク:♀(25) アルバータと古い付き合いの傭兵。武器商人を同時に営んでいる。
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アルバータ・フィリップ♂:
バネッサ・クリスティ♀:
カルロ・レオーネ♂:
ダニエル・ウィリアムズ♂:
イライザ・ウィリアムズ♀:
フィオナ・クラーク♀:
──────────
(風が少し肌寒くなってきた頃、ロサンゼルスに一人の男が。)
アルバータ:おっと!どうもすみません。
男(カルロ役):あぁ!いえいえ、こちらこそ申し訳ない。
アルバータ:……三か月も離れてると流石に懐かしく感じるね、この街も。
(アルバータは男性の財布を盗み金を抜き、何処かへ電話をかける。)
アルバータ:……やぁ!バネッサ、久しぶり。あぁ…仕事の話だ、いつものBARで待っててくれ。
────────────────────
ダニエル:…温い。
(ダニエルは椅子に座っている。目の前には数人程の男女が正座していた。)
ダニエル:なぁ分かるか?温いんだ、コーヒーが。
男(カルロ役):す、すみません!温度の調節を間違えてしまって…!すぐに注ぎなおしますので…!!
ダニエル:そうじゃない、そうじゃないんだ。
いいか?私は今!!熱いコーヒーが飲みたかったんだ!今じゃなきゃ駄目なんだよ。なんでそれが分からない!?
男(カルロ役):ひぃっ…!
ダニエル:…私は、コーヒーすらろくに注げない役立たずは犬の餌にでもなればいいと思ってるんだが…お前はどう思う?イライザ。
(イライザはソファに座りながらパソコンをカタカタと動かしている。)
イライザ:知らない。興味が無いわ。
ダニエル:全く、そう冷たくしないでくれ。
パパは嫌われ者だから…可愛い可愛い一人娘にくらい好かれたいんだ。
イライザ:嫌われるようなことしてるからでしょ…?ギャングなんてやってたら恨みくらい買うに決まってるじゃない。
ダニエル:ああ悲しい!悲しいよイライザ……ん?なんだお前、まだ居たのか。
(ダニエルは扉の前に立っていた護衛にしっしっとハンドアクションをする。)
ダニエル:そいつは廃棄処分だ、どこかにでも捨て置け。
イライザ:あーあ…また恨まれちゃうね、ダニエル。
ダニエル:あ!パパって呼べっていつも言ってるだろ?…パパはお前にだけ好かれてたらそれでいいよ、愛しい私のイライザ。
あっと、そうだイライザ、調べておいてって頼んでたやつはもう上がったかな?
イライザ:ううん。まだしっぽすら掴めてない…情報を隠してるのね、かなり強固なセキュリティが敷かれてる。
ま、アタシの敵じゃないわ。
ダニエル:そうか…イライザならきっと出来るよ、私は信じているから。
イライザ:あのさぁ、人の期待に応えるって、ダニエルが思ってるよりも重いことなんだからね。
ダニエル:またダニエルと呼んだね…まぁいい。にしても、期待か…私は生まれてこの方期待されたことがないから分からないな。
イライザ:それ…自慢できることなの?
ダニエル:ははは!自慢じゃないが、私が期待されなかったのは、期待される前に期待以上を見せつけてきたからさ。
イライザ:…自慢じゃん結局。
ダニエル:まぁまぁ、いいじゃないか。それで?いつになれば尻尾が掴めるんだ?
イライザ:急かさないでよ…辿ってはいるけれどそれらしい情報はまるで何も残ってない。相手はかなりの手練れね、中々やるわ。
ダニエル:イライザがそこまで言うとは…ますます興味が湧いてきた!イライザ、奴らを見つけられたら好きなものなんでも買ってあげよう!だから───────
イライザ:誰を探しているのかも分からないのに…もういいわ、ダニエルは向こうで温くてマズいコーヒーでも飲んで待ってて。
ダニエル:パパにそんな事言うなんて悪い子だ、ふふ…楽しみにしているよ。
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アルバータ:おぉー!久しぶりじゃないかバネッサ。
(アルバータは町外れにあるBARへ足を運んだ。)
バネッサ:久しぶりって…アルバータさん、三か月もどこに行ってたんですか?
(眼鏡をかけた女性、バネッサは資料を手でトントンと整えながらカウンターに座っている。)
アルバータ:はは、悪かったよ。”この前の仕事”のせいであまりここらをうろつく訳にはいかなかったんだ。
バネッサ:この前の…あぁ、あの間抜けな外交官から騙し取った時のあれですか。
アルバータ:そうそう、あの後色んな所から追手が来てね。それを撒くのに時間がかかったんだ。
バネッサ:そうでしたか…バックについてる裏の人達に狙われると大変ですね……それで?次の標的が見つかったんですか?
アルバータ:…あぁ、見つかったというか…見つかる、だけれどね。
バネッサ:見つかる…?それは一体────
(バネッサがきょとんとしているとBARの扉が開く。外から金髪碧眼の女性が現れる。)
フィオナ:やっほ~~!久しぶりねアルにバネッサ!何年ぶりだっけ!?
アルバータ:三か月ぶりだよフィオナ。相変わらずの記憶力だね、会えて嬉しいよ。
フィオナ:あれ、そうだっけ?まぁいいじゃない!
バネッサ:フィオナさん、お久しぶりです。
フィオナ:バネッサ~~!会いたかったわよ!最近全然顔見せないからついに殺られたのかと思ったわ。
バネッサ:私引きこもりなので…。
アルバータ:バネッサは年に3回しか外に出ないからね、追おうにも追えなかったんだろ?
バネッサ:ち、違います!今は年に4回です……。
フィオナ:大して変わってないわね…それで?どうして私達を呼んだの?
アルバータ:あぁ、もうそろそろかと思ってね。前からつけておいた汚れに、向こうが気付く頃だ。
フィオナ:アルって昔からだけどたまに何言ってるのか分からない時あるわよね。
バネッサ:たまにじゃないです…ずっと分からないですよ、この人は。
アルバータ:ははは、騙すのが仕事なのにバレちゃ僕の名が廃るだろう。
フィオナ:変にかっこつける癖は治ってないのね…。
アルバータ:かっこつけてなんてないよ!まったく…失礼だな。
バネッサ:そういえばアルバータさん…向こうって?
アルバータ:あぁ、こっちの話だ…さて、じゃあ三人揃った所だし…仕事の話をしよう。
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(ビルが立ち並ぶ街で、一際高いビルの最上階にダニエルとイライザがいる。)
ダニエル:…イライザ、進捗はどうだい?
イライザ:ダニエル、コーヒーはもう飽きたの?
ダニエル:パパと呼びなさい、もう不味いコーヒーは無くなってしまったよ。
イライザ:なぁんだ、それじゃあもう時間稼ぎできないじゃない。
ダニエル:そろそろ足取りくらいは掴めたんじゃないのかい。パパに成果を見せておくれ。
イライザ:だーかーら、さっきも言ったでしょ?それらしい情報が──────
(PCの前で固まるイライザ、目を丸くしながら指を動かす。)
ダニエル:…?どうしたんだいイライザ。
イライザ:これは……ねえパパ?
ダニエル:ん?なんだい?
イライザ:プレゼントは、シドニー旅行を頂戴ね。
ダニエル:…それは、つまり。
(イライザがダニエルにPCの画面を見せる。そこにはアルバータ達三人の姿が映ったカメラ映像がある。)
ダニエル:……彼らが。
イライザ:ええ、この三人が三か月前起きた例の件の犯人ね。
ダニエル:ふふ…ふははは!!よくやったイライザ!いい子だ。
イライザ:この眼鏡のいかにもな芋女が彼らのハッカーって所かしらね、用意周到で臆病者…だから何も情報を残さない、でも監視カメラを一つ見落としてた…少し、いや…だいぶ骨が折れたわ。
ダニエル:ああ、待ち望んだよ。
イライザ:ダニエル、それでこいつらは一体何なの?
ダニエル:イライザ…彼らはね、詐欺集団だ。
イライザ:詐欺…?
ダニエル:三か月前の事件、その後あの間抜けな外交官が逮捕されただろう?
イライザ:えぇ、文書偽造に収賄…外交官としての権力をフルに使った職権乱用のオンパレードだったわね。
ダニエル:そう、彼が何故逮捕されてしまったか。わかるかな?
イライザ:それは…自首したんでしょう?新聞に載ってたわ。
ダニエル:いいや、真実はそうではない。自首をしたのは確かだが…正確には自首”させられた”んだよ、彼らにね。
イライザ:自首…させられた?そんなことが可能なの?
ダニエル:可能だろうさ、彼ら…いや、あの男ならばね。
イライザ:あの男…って、この映像に映ってる男?
ダニエル:ああ、そうだよ。私はこの男に興味があるんだ。
彼の名はアルバータ・フィリップ…どこかで聞いたことあるんじゃないのかい?
イライザ:アルバータ・フィリップ…あ!あのニューヨークで突然名を馳せ始めた実業家のアルバータ…彼、詐欺師なの?
ダニエル:ふふ、私だってそうだが…裏社会のボスが実は大企業の社長だった、なんてのは割とあるんだよ。
もちろん、彼の裏の顔なんてのは同じく裏社会に棲まう私達のような者しか知らないがね。
イライザ:ふーん、そんなに凄いんだこの人。
(ダニエルはテーブルの上にある酒を飲み、ソファに腰掛ける。)
ダニエル:彼らは、根こそぎ奪うんだ。狙った標的の全てを。
イライザ:標的の、全てを…?
ダニエル:あぁ…そうだ、名誉も金も地位も権力も…命でさえも、彼らの掌の上って噂だよ。
イライザ:噂…ねぇ。有名人なの?ダニエルがそれだけ称賛するアルバータ・フィリップってのはさ。
ダニエル:ああ、アルバータだけじゃない。彼の優秀な仲間たちだってまた逸材だらけさ。
彼らに狙われたら最後…逃れられないという噂さ。
私達の様に狙われる側の人間は彼らの名前なら知っている奴は多い。
イライザ:また噂…名前なら、って…知られているのは名前だけなの?
ダニエル:彼らは正体不明なんだ。顔も年齢も体格も。分かっているのは男が一人に女が二人の三人組ということだけ、薄暗くてハッキリとは映っていないが、この映像は高く売れるだろうねぇ。
イライザ:またお金のこと考えてる…ろくな死に方しないわよ?
ダニエル:まさか!売るわけないじゃないか、他の奴らが狙われちゃあ私のところに来てくれないだろう?それに…こいつは私の獲物だ、譲ってたまるか。
(ダニエルはどこかに電話をかけると、ソファから立ち上がってジャケットを羽織り外に出る準備をする。)
ダニエル:イライザ、私の携帯にその映像を転送してくれ。それと…彼らに挨拶しなくては、”アレ”を使いなさい。
イライザ:あはっ…ダニエルったら、悪~い顔。
────────────────────
(街中をうろつくアルバータ達。)
フィオナ:ね~、そろそろ教えてくれてもいいじゃない!
バネッサ:そうですよ、話は大体分かりましたけど…標的が何なのか分からないまま仕事なんてしたくないです!
アルバータ:だから…何度も言ってるじゃないか、言わなくたっていずれ分かるって。今君達が聞いたって意味はないよ、僕は意味の無い事に時間を割くような馬鹿じゃないんだ。
(不服そうにバネッサとフィオナが小声で呟く。)
バネッサ:…私の協力が無ければシステムにハッキングして情報収集も出来ないのに…。
フィオナ:私が武器を売らなければ応戦どころか戦闘すら出来ないのに…。
アルバータ:あーもう、分かった分かった!ちゃんと説明するから、準備が終わってからな。
フィオナ:言ったからね!というか、アルは私達に隠し事しすぎなのよ。
バネッサ:確かに、私達いつもアルバータさんに振り回されてばっかりですもんね…。
アルバータ:仕方ないだろ…僕のやり方は君達が一手でも僕の計画通りに動いてくれないと狂うくらいに緻密なんだ。
フィオナ:ふーん?…まあ、アルが頭の中でどんなこと思い浮かべてるのかなんて、聞いた所で私達には想像もつかないのよね。
バネッサ:それで?私達なんでここにいるんでしたっけ?
アルバータ:いい質問だねバネッサ、僕らは今からこの目で次の獲物を拝みに行くのさ。
フィオナ:はぁ!?アル、あなた…自分が詐欺師で色んな人達から正体を掴もうと探されてるの知ってるわよね?
アルバータ:あぁもちろん、素晴らしく光栄なことだ。
フィオナ:だったら自分で標的の目の前に行くなんてそんなリスキーなこと…!
バネッサ:フィオナさん、何言っても無駄ですよ…アルバータさんはやると決めたことは必ずやり遂げるタイプでしょう?
アルバータ:バネッサの言う通りだ。僕はやると言ったらやる、ほら行くよ。
フィオナ:はぁ…もう、しょうがないわね…。
(アルバータはスタスタと道を歩いていく、バネッサとフィオナはため息混じりにその後を着いていく。)
────────────────────
(同時刻、薄暗い路地に面する一軒家、中には二人の男の姿が。)
ダニエル:やあカルロ!久しぶりだ。
カルロ:…その下手糞なイタリア語をやめろ、愛しい愛しい俺の母国を馬鹿にされてるような気分になる。控えめに言ってクソだ。
ダニエル:ふはは、相変わらず口が悪い…仕事の依頼さ。
カルロ:仕事…?てめえからの仕事は受けねぇって前言ったはずだが?
ダニエル:まあそう言わずに…ね?頼むよ~。
カルロ:数か月前のことをもう忘れたのか?アメリカ人ってのは女神だけじゃなくオツムまで銅像で出来てやがんのか?固い頭捻ってよく思い出せ、てめえは──────
ダニエル:オイ。
(ダニエルは拳銃を抜き、カルロに突きつける。カルロも同時にダニエルに銃口を向けている。)
ダニエル:黙って下手に出てりゃベラベラと…その使えない頭に鉛玉ぶち込まれたくなければ黙って私の駒になれ。これはお願いじゃなく命令なんだ、カルロ・レオーネ。
カルロ:カカ…依頼っつー話はどこいったんだ?もうボケが始まったか老害。
ダニエル:ふはは!この状況でもその強気な態度…流石だね、ただ…プロ意識が足りんな。
カルロ:あァ?プロ意識だ?
ダニエル:あぁ、そうだ。私が知っているプロの殺し屋は仕事ならば二つ返事で何でもこなすがね…?君は結局技術だけのアマチュアだったかなぁ。
カルロ:…いいぜ、その挑発乗ってやるよ。
ダニエル:助かるよ、君を入れる死体袋は生憎うちにはもう無いんだ。
(二人は銃を下ろしカルロはソファに座った、対面には飄々とした顔でダニエルが座る。)
カルロ:ケッ、言ってろボケ…んで?標的はどこのどいつだ。
ダニエル:ああ、これを。
(ダニエルのポケットからは有名なギャング達の顔写真が出てきた。)
カルロ:…こいつら、か?
ダニエル:そう、私のライバル組織ってやつさ。私はこれから楽しみがあってね、それを最大限楽しむのには彼らは邪魔なんだ…横取りなんてされたら堪ったもんじゃない。
だから手っ取り早く消してもらいたい、報酬は5000ドル。どうだ?
カルロ:くはっ!いいぜ、三日で終わらせてやる。
ダニエル:それじゃあ…よろしく頼んだ。
あー、そうだそうだ…また一か月後、依頼に来るよ。空けておいてくれ。
カルロ:一か月後?面倒くせえな……まあ、金次第でなんでも受けてやるよ、俺はプロだからな。
分かったらとっとと出ていけクソ野郎。
ダニエル:あぁ、"2コール"を忘れないでくれ。また一か月後に会おう。
(カルロの家から出たダニエルは、煙草に火を付けて車に乗り込む。)
ダニエル:さぁ、お願いだから私だけを見てくれよ…?ネズミ諸君。
────────────────────
(2日後、ギャング幹部の失踪や殺害事件などが相次いでテレビで放送されていた。)
バネッサ:結局…会えませんでしたね、ダニエル・ウィリアムズ。
アルバータ:全くだ!なんで留守なんだよ!
(ハンバーガー屋で食事をするバネッサとアルバータ。バネッサがふと目をやると、華奢で可憐な少女が1人歩いているのが見える。)
イライザ:うーん……。
バネッサ:あの子、どうかしたんでしょうか…。
アルバータ:んー?注文できなくて困ってんじゃないの?
バネッサ:私、ちょっと手伝ってきます!
アルバータ:ほっとけばいいのに…弱気なくせに人が困ってると助けちゃうんだもんなぁ。
バネッサ:あの!ど、どうかしました…?
イライザ:これ、頼みたいんだけど…。
バネッサ:あぁ…これは、向こうの方で頼んでからこっちで受け取るんですよ。
イライザ:あー、そういう事なのね!ハンバーガーショップなんて行ったことがないから分からなかったの、ありがとう!
バネッサ:いえいえ…!助けになれたなら、良かったです!
(2人が和気あいあいと会話している中、アルバータがイライザに軽くぶつかる。)
アルバータ:おっと、失礼。お嬢さん。
イライザ:あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?
アルバータ:あぁ、大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫かい?
イライザ:えぇ、ご心配ありがとう。
バネッサ:ちょっと、何してるんです────
アルバータ:いやぁ、にしても可愛らしいお姉さんだ。
ぶつかったお詫びとして、代金は支払わせてくれないかな?
イライザ:そんな、悪いからお気持ちだけ受け取っておくわ。
それと…2人共知り合いなの?
アルバータ:ん?あぁ、そうだよ。僕らカップルでね、ちょうどデートの途中だったんだ。ね?"ミッシェル"?
バネッサ:……えぇ、ロベルト。
イライザ:あら!カップルなのね、お邪魔しちゃったかしら…?
アルバータ:いやいやとんでもない!そんな事は無いよ。
ここで会ったのも何かの縁だ、よければ一緒に食事しないかい?
イライザ:いいの?彼女に悪いんじゃない?
バネッサ:いいんですよ、人が多い方が楽しいですし!
アルバータ:ほら、彼女もこう言っていることだし…どうかな?
イライザ:それじゃあ…折角だし、ご一緒しようかしら。
アルバータ:断られなくて良かったよ…あぁそうだ!まだ聞いていなかった、君の名前は?
イライザ:イライザ・ウィリアムズよ、イライザって呼んで。
バネッサ:それじゃあイライザさん、行きましょう。私、イライザさんの分買ってきますから。
ほらロベルト、席に案内してあげて?
アルバータ:おっと…ごめんよミッシェル、紳士としての意識が足りなかった。
イライザ:ふふ、面白いのね貴方達。
アルバータ:お褒め頂き光栄だね、歳はいくつなんだい?見た感じ…20手前ってところかな?
イライザ:あら、そんなに大人びて見える?私まだ16歳よ。
アルバータ:見えないな…お嬢さんだったか。
イライザ:あははっ、よく言われるわ。
大人びて見られるのも悪くは無いけど、私まだまだ子供でいたいの。
だからお嬢さん扱いされて嬉しかったわ。
アルバータ:そうかい、そりゃ良かった。
ここへは1人で?親御さんとかは一緒じゃないのかな。
イライザ:父と一緒に来たんだけれど…父が少し用事を済ませてる間に小腹が空いちゃったから。
(ハンバーガーを持ってバネッサが戻ってくる。)
バネッサ:お待たせしました~、さあ食べましょう。
アルバータ:おお、おかえりミッシェル。
イライザ:ありがとう、後でお金払うわね。
バネッサ:いえいえ!いいんですよ~、ご馳走させてください。それで…二人で何の話を?
アルバータ:あぁ、イライザがお父さんと一緒に来ているみたいでね、少し用事で外しているみたいだ。
バネッサ:用事…なんの用事なんでしょうか、この辺りは寂れてるから何処か寄るような所もないですし…。
イライザ:さぁ…仕事の用事だとは言っていたけど。
バネッサ:お父様はどんなお仕事を…って、すみません不躾な質問ばかり。
イライザ:いいのよ、仕事…そうね、実業家ってところかしら。
アルバータ:実業家ってところ…随分と濁した言い方をするね。もしかして…あまり公には言えないお仕事、かな。
イライザ:あら…貴方、よく頭が回るのね。
アルバータ:はははっ!よく言われるよ、だが安心してくれ…僕らは決して警察官やFBIじゃあない。
ただの一市民さ、だから君のお父さんが何をしていたとしてもどうこうするつもりは無いよ、表沙汰にできない職業なんて絞ろうと思えば絞れるしね。
イライザ:へぇ…それじゃあ、当ててみればいいじゃない。
アルバータ:おや、いいのかい?
イライザ:えぇ。どうぞ?
アルバータ:ふむ…そうだね、ピースが少し足りないけれど考えてみよう。
(アルバータはこめかみを指でトントンと軽く叩きながら思考を巡らせる。)
イライザ:ねえ、この人何者なの?
バネッサ:…ただの人ですよ、少し普通の人よりも頭が回りすぎるだけです。
イライザ:ふ~ん…いいわね。
アルバータ:ぷは!あ~、疲れた!集中すると一気に気力が無くなっていくね。
イライザ:ふふ、騒がしい人。それで?答えは分かったの?
アルバータ:あぁ、分かったよ。さ、それじゃあミッシェル!そろそろ行こうか。
(アルバータは少し残っていたハンバーガーをぽいっと口に入れ、席を立つ。)
イライザ:はぁ!?ちょっ、答え合わせは!?
バネッサ:そうですよ!答えが気になります!
アルバータ:答え合わせならすぐに出来るさ、”またね”イライザ。
(店を出るアルバータとその後ろを着いて出るバネッサ。)
イライザ:はぁ…なんだったのかしら、あの人達。
ダニエル:お待たせイライザ!相手側の社長がなかなか離してくれなくってね…どうしたんだい?
イライザ:んーん、ちょっと面白くなりそうだな~って思っただけ。
またね…だもの。
(イライザはバーガーを頬張りながら携帯を開き、アプリを起動させた。)
────────────────────
バネッサ:ちょ、アルバータさんっ!待ってくださいよ!
アルバータ:くっくっく…よーしバネッサ、フィオナに連絡を入れて!すぐに行動に移すよ。
バネッサ:え、あ…分かりました。…作戦決行はいつですか?
アルバータ:今夜だ、時間が無いから急ごうじゃないか。
バネッサ:なっ!アルバータさんてば、いつもいきなりなんですから…!
────────────────────
(同日、22:00。アルバータ達は動いていた。)
フィオナ:本当にそんな作戦で成功するの…?
アルバータ:大丈夫だって。さてバネッサ確認だ、敵の情報は?
バネッサ:はい、標的はダニエル・ウィリアムズ。DWコーポレーション会長として活躍する実業家です…しかし裏では薬物売買や数多の裏組織と繋がりがあり、ギャング組織を持っています。だからこそ。
フィオナ:たんまりとお金があるってことね。
アルバータ:そう。それを今夜僕らで根こそぎ奪う。それじゃ、ちょっと行ってくるよ…”彼”とは良いビジネストークが楽しめそうだ。
(アルバータは二人の元を離れ、目の前にある『DWC』と電光パネルが光るビルへと入っていった。)
フィオナ:あーあ、行っちゃった…それにしても、ただの詐欺に”こんなもの”必要なの…?
バネッサ:アルバータさんの考えです、何かに使うんでしょうか…。
フィオナ:さあね…アルの考えてる事とか多分私には一生分かんないわ。
バネッサ:とりあえず、私達は言われた事だけやってましょう…。
(そう言いながら二人は路地へと入る、するとそこには一人の男が立っている。)
カルロ:あーあ…憂鬱だぜ、こんな美人さんを二人も殺さなきゃいけないとは。アメリカの美人率がまた下がっちまう。でも俺のせいじゃねえよなぁ?
(薄暗い路地に立つカルロの手にはハンドガンが二丁握られていた。耳につけている通信機からはイライザの声。)
イライザ:『カルロ、ダニエルの言う通りにしないと殺されるのは貴方よ。』
カルロ:チッ、うるっせぇな…そうなったらお前らまとめて殺してやる。だがまぁ…金は貰ったからなぁ、やるだけやるさ。
バネッサ:な…なんですか貴方!
フィオナ:退いてバネッサ。こいつは私が相手するわ。あなたはさっきアルに言われた事を完遂するのよ。
カルロ:あーダメだダメだ、一人も逃がすわけにはいかねえんだ。
フィオナ:それも依頼内容の内?
カルロ:いいや?俺のポリシーとプライドの為だ。標的と目撃者はこの世に残さない、ご飯を残すのはお行儀が悪いだろ?
フィオナ:悪趣味なポリシーね。ちなみに、そこを通して貰いたいのだけど…。
カルロ:もちろんそれもダメだ、お前らに許された選択肢は二つ。ここで俺に殺されるか俺を殺すかだ。
フィオナ:ふうん…そーですかッ!!
(フィオナは懐から警棒を取り出し全速力でカルロに迫る。)
カルロ:おぉっ!?随分ヤる気じゃねえかお姉ちゃん!!
フィオナ:ふんッ!
カルロ:ッぶねぇなァ!!
(カルロはハンドガンで警棒を受け、そのまま後ろ飛びで下がる。)
カルロ:チッ…女は出来るだけ殺したくねぇんだがなぁ、でもま…しょうがねえよな!
フィオナ:なら見逃してくれると助かるんだけど…ッ!
(一早く危機を察知したフィオナはカルロから放たれた銃弾をギリギリで躱す。)
カルロ:やるねぇ。強くて美人!俺好みの女だ…本当、殺すのが惜しいぜ。
フィオナ:バネッサ!!早く行きなさい!
バネッサ:で、でも…っ!
フィオナ:アルの計画を崩さない!私達のルールでしょ!!
バネッサ:死なないで、くださいね…!!
(一瞬のスキを突き、バネッサが路地の脇から逃走する。)
カルロ:オイオイ、逃がすわけねぇ…だろッ!
バネッサ:きゃっ!!
(カルロが撃った弾丸が路地にあったビール箱に命中し砕け散り破片がバネッサの頬を掠める。)
フィオナ:バネッサ!!この……よくもやってくれたわね!
カルロ:おっと!仲間意識が強ぇよなァ、女ってのは!!
バネッサ:う…くっ!
イライザ:『カルロ、あっちの女が逃げるわよ。』
カルロ:あーあー!分かってんだよバーカ!!一々うるせぇ!黙って見てろ!
フィオナ:あら、戦闘中に呑気にお喋りかしら?随分と気が抜けてるわね!!
(フィオナがカルロに接近し警棒を振るう。)
カルロ:お前の方は分かってねぇみたいだなァ。呑気にお喋りできるくらいにはお前との戦いは楽だっつぅ事だろうがよ?綺麗な姉ちゃん。
(カルロは警棒を避け、フィオナの腹部に蹴りを入れる。)
フィオナ:ぐ、ぅっ……!私別に戦闘は得意じゃないのに…アルの馬鹿!
カルロ:さっきから名前が出てるアルってのがテメェらのリーダーか?
だとしたらとんだ腑抜けだなぁ。自分は戦わず女に戦わせるなんて、俺から言わせりゃクズだね。
フィオナ:…アルはクズじゃないわ。
カルロ:あん?
フィオナ:アルはクズなんかじゃない、彼には崇高な思惑がある。それを知らない貴方に貶される謂れは無いわ。
カルロ:へぇ…言うね、アンタ。
じゃあ見せてみな、アンタらのリーダーがどんな男なのか。
そんでそんな奴についていく信仰にも近い信頼をさァ。
よく知ってるか?お前らが狙ってるダニエル・ウィリアムズの事。
イライザ:『カルロ、何お喋りしてるの?早く始末しなさいよ。』
カルロ:まぁ黙ってろクソガキ、今面白ぇとこなんだ。
例えるならタイタニックで船が沈むシーンだぜ。
イライザ:『そこに面白さを感じる人間はあんた以外いないわよ。はぁ…いいわ、私は逃げた方の女を追うわ、精々しくじらないでね。』
カルロ:しくじったら慰めてくれよ。俺はこう見えてもナイーブな生き物なんだ。
(通信機から少しばかりの罵声が聴こえた後、ブチッと通信が切れる。)
フィオナ:…これで邪魔はいないわね。
カルロ:あぁ。だが殺し合う前にちょいと話をしようぜ。
ダニエルと…お前らが信仰してるアルとかいう男について。
───────────────
バネッサ:はぁ…はぁ…!うぁっ!
(路地を抜け駆けるバネッサ。小石につまずき転倒する。)
バネッサ:はぁ…う、フィオナさん……大丈夫でしょうか…。
(起き上がり路地の方を見つめ呟くバネッサ、しかしバネッサの目の前にドローンが浮遊する。ドローンからイライザの声。)
イライザ:『やっぱり周辺にドローンを待機させておいて正解だったわ。すぐに見つけれたわ…アンタ。』
バネッサ:なっ…!
イライザ:『あら?アンタ…バーガーショップで相席した人じゃないの。』
バネッサ:この声、もしかしてイライザさん…?
イライザ:『正解…まさかアンタが敵だとはね、そうすると隣にいた男がアルバータ・フィリップかしら?
もう察しているでしょうけど…アンタ達が狙ってる標的は、アタシのパパ。
パパが探してた人達があんな近くにいたなんてね。』
バネッサ:数日前、私のコンピューターに何者かが侵入した形跡がありました…あれは貴方の仕業なの?
イライザ:『それも大正解。
アタシってば凄腕のハッカーなの!褒めてくれてもいいのよ?アンタ達が用意していたパパの居所への侵入経路もアンタがシャットアウトした監視カメラも全部分かってる。
アタシが開発したソフトなのよ、凄いでしょ?ねぇ、ミッシェル。
あぁいえ……バネッサ・クリスティ、だったわね?』
バネッサ:フルネームまで抑えられてるんですね…遠隔でウイルスを侵入させるなんて芸当、どこの国家諜報員かとヒヤヒヤしてましたけどまさか貴方だったとは…。
イライザ:『あははっ!いい顔ねバネッサ!カメラ越しでも分かるわ。
焦燥と不安が入り混じっているアタシの大好きな表情だわ。
ねぇ、他人の掌の上で踊る気分はどう?悔しいわよね?』
バネッサ:えぇ、悔しい。
でもねイライザさん…貴方、それで勝った気でいるなんて早計なんじゃないですか?
イライザ:『はぁ?何その負け惜しみ…ダッサ。
まぁいいわ、アタシの勝ちは明白…ここからどうやって切り崩すのよ。』
バネッサ:負け惜しみというのは、負けてから初めて負け惜しみなんです。
だから私の発言は負け惜しみじゃない。
これは…ただの宣戦布告です。
(ポケットからスマートフォンを取り出すバネッサ、アプリを起動するとイライザの持つPCが大きな音を立て始める。)
イライザ:『なッ!?アンタまさか!!』
バネッサ:他人のコンピューターに遠隔でウイルスを侵入させる。
いい発想ですよね…だから、真似してみました。
(バネッサは笑みを浮かべる。イライザは慌てた様子でPCを開く、するとそこには「インストール完了、ファイルを削除」と文字が映る。)
バネッサ:私の機器にウイルスを入れた時、どういう経路で入れたのかが疑問でしたが…あのハンバーガーショップで会った時だったんですね。最近はUSB無しでもファイルのやり取りが出来る…あとは私がコンピューターを起動した時に遠隔操作でウイルスソフトも起動させるだけ。
自分のセキュリティの薄さに嫌気がさしましたよ。
イライザ:『クソッ!これ…どうやって消すの!?どうやって送ったのよ!!』
バネッサ:簡単なことです。
私のコンピューター、常時稼働で外部からのツールを検知して解析するプログラムを組んでるんです。
構成が分かればこちらのもの、少しばかり改良…いえ、改悪して元の経路を戻っただけです。
イライザ:『チッ…こんなんで勝ったなんて思わない事ね。
アタシは凄腕よ、それにこれは元々アタシが作ったウイルス…すぐに解除してやるわ。』
バネッサ:そうですか?なら早くした方がいいです。
私が改悪したそのウイルス…おおよその計算ですが、2時間後には貴方のPCを食い荒らす。
精々頑張って下さい。
イライザ:『な、この…ッ!!ただの時間稼ぎじゃない…アンタ、底意地が悪いわね!!』
バネッサ:ふふ、よく言われます…知ってました?女の子って、意外と意地を張りたい生き物なんですよ。
私のは…ただの意地悪ですけどね?
(喚くイライザを尻目にバネッサは夜道を駆け出した。)
────────────────
ダニエル:…あぁ、分かってる。
そうだね、十分に気を付けるよ。
ああ…うん、おやすみ。愛しているよ。
(DWコーポレーションのビル、最上階のオフィスにダニエルは座っている。)
ダニエル:…もうそろそろ、かな。
(コンコン、とドアをノックする音が響く。)
ダニエル:入りたまえ。
アルバータ:やぁ社長…今宵の月は綺麗だね。
にしても…不用心じゃないか?警備もろくにいないし僕が来る事は分かっていたんだろ、なのにあっさりと部屋に入れるだなんて…警戒心がまるで無いね。
ダニエル:君は暴力や武力に頼る様な男ではないと思ったからだ。
そんな事よりも…初めまして、アルバータ・フィリップ。逢いたかったよ。
アルバータ:こちらこそだダニエル・ウィリアムズ。
僕の名前を知っているんだね、驚いた。
いや…名前だけなら知っている人も多いだろうが。
ダニエル:ああ、君の会社のホームページに載っている写真は別人だろう?だから初めましてだ。
君はこう…雰囲気で何となく分かる。ドアを開けて私に姿を見せた瞬間に『あぁ、コイツがアルバータ・フィリップか』と思ったさ。
アルバータ:くく…褒められていると捉えていいんだよね?
…そこ、座ってもいいかな?
(アルバータは客用のソファを指す。)
ダニエル:あぁ勿論だ、君は客人だからね。
どれ、コーヒーでも入れようか?温くて不味いコーヒーしかうちには無いが。
アルバータ:おぉ、至れり尽くせりで申し訳ないね。
貰おうか、温くて不味いコーヒー…僕はそういうのが好きなんだ。
ダニエル:ははは!!前から思っていたが、君は変わっている。
(ダニエルは椅子を立ちコーヒーを淹れに行く。)
アルバータ:前からとは不思議な言い方だね、ダニエル…あんた、僕の事をいつから知っていたんだい。
ダニエル:話だけなら裏をうろついてたら嫌でも聞くさ、犯罪者ばかりを狙う最悪な詐欺師がいると。
その時から感じていたよ、君の異質性は。
アルバータ:詐欺師が犯罪者を狙うのがそんなに異常かな。
割とあると思うんだけどね、犯罪者が犯罪者を狙うってケースは。
ダニエル:ふふ、確かにありふれているだろうとも。
だが生憎私は狙われたことがなくてね。
アルバータ:へえ…それは狙われたとしても自分なら何とでも出来るからって自慢か…それとも、狙われることがない小物だって自虐かな。
ダニエル:ああいや、違うよ。自慢じゃあないさ…ただ、小物という訳でもない。
私が狙われた事が無いのは私に手を出せばどうなるか皆知っているからだ。
アルバータ:僕に脅しや嘘は通用しないと思った方がいい、見た感じあんたはそういう事が得意そうだから先に忠告しておいてやる。
ダニエル:ははは!!君のような男に私如きの嘘が通用するなんて思っていないさ、心理戦にもならないだろうね。
アルバータ:随分と自分を卑下するんだね…ならどうするんだい?僕を招き入れて何がしたい。
ダニエル:なに、ただのゲームさ。
アルバータ:ゲーム…?ババ抜きでもするかい?あ、テキサスホールデムでもブラックジャックでもいいよ。
ダニエル:そういうのじゃない、ルールは単純明快さ。
君と私の部下…どちらが勝つか賭けよう。
アルバータ:賭けるっていったって、賭けの対象は分かりきってる事じゃないか。
ダニエル:人の話は最後まで聞くべきだよ、賭ける”モノ”をまだ説明していないだろう?
アルバータ:はぁ、年長者の話ってつまんない癖に長いから嫌いなんだよね。
手短に済ませてよ。
ダニエル:ははは、私の前でそんな口を利く人間は初めて見たよ。案外豪胆だな。
まぁいい、簡潔に言うと…私の部下が勝った場合、君には自分達の力を過信し過ぎた罰として───
(ダニエルが内ポケットから拳銃を取り出しテーブルに放る。)
ダニエル:この拳銃で頭を撃ち抜いて貰おう、もちろん全員。
アルバータ:へぇ…訂正するよ。年長者の話もたまには悪くないね。
…それで?僕の部下が勝ったら君は何してくれるんだい?
ダニエル:それに関しては君に課した罰と同等のものを背負うつもりさ、同じように私も頭を撃ち抜こうか?
それか…君が決めてくれてもいい。
アルバータ:じゃあ決めさせてもらうよ。
そうだな…僕らが勝ったら、君の部下…イライザを貰おうか。
(アルバータが言い放った瞬間、ダニエルは鬼のような形相で拳銃をアルバータに突きつける。)
ダニエル:オイ…調子に乗るのもいい加減にしろよこのクソガキ。
いいか?イライザは私の全てだ…あの子の頭脳は一級品だ、貴様みたいな屑が気軽に触れていい存在じゃないんだ。
アルバータ:はは、ようやく本性を出したねオッサン。
あんたにとって彼女がどれだけ大切なものかなんて既に僕の理解の域だ…だけどね、あんた一つ誤算があるぜ。
僕はさ、そういうのを人から奪うのが大好きなんだ。
ダニエル:お前も、本性が出たな。
全く悪趣味な奴だ…ギャングやマフィアなんかよりもタチが悪い。まるで子供のように無邪気に他人の物を奪うのか。
アルバータ:ああ、僕はまだまだ子供気分でいたいんだ…それにね、子供ってのはこの世で一番残酷で綺麗な心の持ち主なんだよ。知ってた?
ダニエル:状況を理解してないのか?お前の命は私の目の前にある、私が少しばかり指を動かせばお前如きのチンケな命なんざすぐに消え失せるんだ。
(ダニエルが凄むと、アルバータは肩を震わせながら吹き出した。)
アルバータ:プッ…ハハハハ!!!
ダニエル:なにが可笑しい?命の危機に晒されてイカれたか。
アルバータ:くっくっ…いや、あんたの大根役者っぷりが面白くてさ…そんなザルな演技じゃ助演どころかエキストラにすらなれないぜ?
演るならもっと上手く演りなよ。
ダニエル:…演技、だと?私のこの怒りを演技だと言うか!!どこまで私を愚弄すれば気が済むんだッ!?
アルバータ:…怒り、ねぇ。なら…どうしてあんたは笑ってるんだ?
ダニエル:笑ってるわけ、ないじゃないか。
(ダニエルは邪悪さを孕んだ満面の笑みでアルバータを見つめる。)
アルバータ:まあ座れよ……にしても、自分の娘の生死がかかってるのに笑うなんて。
流石にそれは僕の理解の外だね。
っと、そんな事より!さっきあんた、人の話は最後まで聞くべきって言ってたな。
ダニエル:…言ったが、なにかね。
アルバータ:僕が勝った時の条件、イライザの身柄を貰うのともう一つ!
…僕が「よし」と言ったら、即座にイライザを撃ち殺せ。
ダニエル:…そんな条件を私が呑むとでも思っているのか、馬鹿馬鹿しい!
アルバータ:いいや、呑むかどうかはあんたが決めることじゃないよ。
呑ますか呑ませないかを僕が決めるんだ。
それに、最初に賭けを提案したのはそっちじゃないか。
ダニエル:どこまでも傲慢で、純粋で…食えん男だな君は。
アルバータ:僕にとってそれは最高の賛辞だ。ちなみにだけど、呑まないのなら今すぐにイライザを殺す事になる。
僕の部下は優秀でね、機械にも強いんだが毒の調合も出来ちゃうんだ。
ダニエル:バネッサ・クリスティ…いつ仕込んだ…!私の愛しいイライザに!いつ毒を盛った!
アルバータ:まだ『愛娘を想う良いパパ』を演じるんだねえ…残念ながら、答え合わせにはまだ早いよ。
シンキングタイムは長く取る方なんでね…それで?乗るのか乗らないのか、どっちだ?
ダニエル:…乗るしかないだろう。
全く、本当に悪趣味だな。
アルバータ:はは、あんただって悪趣味さ。
それじゃあ見届けようじゃないか…君の部下と僕の部下、どちらが信頼するに足るのかを。
(2人は対峙し笑みを浮かべ合った。)
─────────────────
(時を同じくして路地裏、フィオナとカルロの戦闘はまだ決着していない。)
カルロ:なるほどねぇ、そんな過去があった訳か。
フィオナ:えぇ、だから彼を悪く言うのは私が許さない。
命の恩人だもの。
カルロ:カカッ、いい友情じゃねえか。アツいねぇ。
フィオナ:さ、もう無駄話はいいでしょ。
早く行かなきゃいけないの。
カルロ:あー、そうだな。
んじゃまぁ…死んでくれ。
(カルロは弾丸を放つが、それと同時にフィオナが前進する。)
カルロ:マジか!突っ込んできやがった!
フィオナ:…あんたの使ってる銃、9ミリパラベラムね。
弾の種類と口径さえ分かればもう私の領分なのよ!ハンドガンだけで勝とうなんて甘いわ!
カルロ:うはっ、いい蹴りだ!
けど、残念…俺は殺し屋だぜ?ハンドガンだけで戦う訳ねぇだろうがよ!
(カルロがコートを翻すと何丁かの銃とナイフが宙に舞う。)
カルロ:おい女、どんな死に方がしてぇか言ってみな?
フィオナ:そうね…老衰かしら!
(フィオナは警棒をカルロに向けて振るう。)
カルロ:そいつも残念!てめぇにゃ無理な死に方だ!
(マシンガンを手に取り撃つカルロ、間一髪でフィオナは物陰に隠れる。)
フィオナ:もう!私今日銃持ってきてないのに!
カルロ:オラオラオラオラ!!どうしたどうした!銃ならそこら辺に落ちてるぜェ!?
フィオナ:なら拾う時間くらいくれないかしら!?紳士らしくないわよ!
カルロ:ハハハ!悪いが俺ァ紳士と程遠い悪党だぜ!?兎を狩るのにも全力を出すさ!!
フィオナ:私の事を兎呼ばわりだなんて…いい度胸じゃない!
(銃弾の嵐の中、フィオナはポケットから筒状の物を取り出しカルロに投げる。瞬間、カルロの視界が真っ白に光る。)
カルロM:なんだ?何をされた?目が開けられない…耳もキンキンしやがる。あの女が投げた物……閃光手榴弾か!
カルロ:クカカッ!随分戦闘慣れしてるじゃねぇか女ァ!!こんなモン使うってこたァさては傭兵上がりだな!?
(一時的に目が機能しなくなったカルロは虚空に向かって銃を撃ち続ける。)
フィオナ:…80点ね。
カルロ:そこかァ!?
(胸元にあるナイフを取り出し後方に向かって大きく振るうカルロ、しかしそこに手応えはなく、フィオナの気配すらも無い。)
フィオナ:訂正する、20点だわ。あんた…兎舐めすぎよ。
カルロM:また後ろから声…!?この女、最初から俺に乱射させない為に…!!
カルロ:う、おぉッ!!!
(カルロが薄らと光が見え始めた目を開きトリガーに指をかける。しかし、既に眼前にはフィオナの警棒が映っていた。)
カルロ:…畜生、なんだその目。狩る側じゃねぇか。
フィオナ:ありがと。もう寝てていいわよ、青二才くん。
(フィオナが渾身を込めて振るう警棒がカルロの顔を叩く。後方に飛ばされたカルロはそのまま糸が切れたようにぐったりと倒れた。)
フィオナ:はぁ…はぁ…答え合わせしてなかったわね、私は"傭兵上がり"じゃないわ……まだまだ現役よ。
───────────────
(社長室で対峙しているアルバータとダニエル。アルバータは足を組み口を開く。)
アルバータ:ところでさぁダニエル。
君の愛娘のイライザちゃん、今どこにいるのさ。
ダニエル:…それを、君に教えると思うかね?
もしかすると殺されてしまうかも知れない愛娘の居場所を易々と教える馬鹿がどこにいると言うんだ?
(ダニエルの問答にアルバータはニヤケ顔でダニエルを指す。)
アルバータ:ここにいる。
どうだい?他の奴らを待ってる間退屈じゃないか?僕とゲームをしようよ。
ダニエル:その気になれば私はお前を殺せる事を忘れないで欲しいんだが…まぁいいよ。
やろうじゃないか。
アルバータ:オッケー!トランプを持ってきたんだよ、ババ抜きでもする?テキサスホールデムでもいいよ?それともブラックジャック?
ダニエル:なんでもいい。君の余興に付き合ってあげてるんだ、君が決めて私を楽しませたまえよ。
アルバータ:はぁ…最近のおっさんはノリが悪いね。
んー、それじゃあ神経衰弱でどうだい?ルールは分かるよね?
ダニエル:あぁ。
アルバータ:じゃあ決まりー!それじゃあカード持ってくるよ。
(椅子から離れ、何処かに行こうとするアルバータをダニエルは制止する。)
ダニエル:待て。
お前が持ってきたトランプなら仕掛けがあってもおかしくないだろう?だから…私がトランプを持ってくるよ。
アルバータ:疑い深いなぁあんたは。
まぁ、そっちの方が助かるけどさ。
ダニエル:ほら、新品のトランプだ。
君と私、交互にシャッフルしてから並べようか。
アルバータ:念入りだね、いいよ。
(2人でトランプを1回ずつシャッフルし、机に並べていく。)
アルバータ:…ダニエル、あんたさ。
自分が殺される姿が想像出来るかい?
ダニエル:…出来ないね、殺された事がないものだから。
アルバータ:今まで何人も殺してきただろうに、それを自分に置き換える事も無かったの?
ダニエル:ハハハッ!ある訳ないだろう?殺されるのはいつも決まって弱者のみなんだよ、アルバータ・フィリップ。
私は強者だ、故に殺される未来など想像出来んね。
アルバータ:ふぅん。
なら良かったよ、初めて体験させてあげられそうで。
ダニエル:…どういう意味かね?
アルバータ:よし!並べ終わった。
ダニエルから先手でいいよ。
(2人は黙々と神経衰弱を開始する、開始して1分程でダニエルがミス、アルバータの手番となる。)
ダニエル:これ、先攻が不利なんじゃないか?
アルバータ:あんたは文句ばっかりだな…ほっ、と。
よいしょ。
お、これもだ。またまた揃った。
(何枚もペアを作っていくアルバータ。ダニエルの中に確信が生まれる。)
ダニエルM:こいつ、間違いなくイカサマをしている…後攻でカードの場所が少しわかるとは言えこれ程スムーズにペアが出来上がる確率なんてそうそう高くはない。
ダニエル:…なぁアルバータ。
アルバータ:なんだい?
ダニエル:この茶番はなんだ?イカサマだらけのこのゲームに何の意味がある。
アルバータ:茶番だのイカサマだの酷いな、僕は真剣にゲームを楽しんでるさ……にしても、運がいいね僕は。
(その時、ダニエルの携帯が2コール鳴る。)
ダニエル:……運がいい?それは違うよアルバータ。
君は私を狙った時点で運もクソも無い、狙う相手を間違えたよ。君は。
アルバータ:…それは、どういう意味かな。
(アルバータがトランプから目を外しダニエルの方を向くと、後ろからドアが開く音がした。)
カルロ:よぉ、ボス。終わったぜ。
ダニエル:おぉカルロ…始末したのかな。
カルロ:勿論、傭兵の姉ちゃんも眼鏡っ娘もな。
全部終わったぜ。
アルバータ:…フィオナとバネッサをどうした。
カルロ:アァ?なんだコイツは。
あー…お前がアルか?話は聞いてるぜ、傭兵の姉ちゃんが言ってた。
アルバータ:フィオナを殺したのかッ!
カルロ:そう声を荒げんじゃねえよ、まだ死んじゃいねーだろうさ。
殺そうとしたがもう少しの所で川に飛び込んで逃げちまいやがった。
眼鏡っ娘の方は縛り上げてイライザの元へ届けてきたとこだ。
アルバータ:そんな……。
ダニエル:ふ、ふふ…ふはははは!!!!
どうしたんだいアルバータ!さっきまでの威勢が嘘のようだね!?
さぁ、賭けは私の勝ちだ。
君の部下は負け、私の部下が勝った。
カルロ:あ?賭けなんかしてたのか。
ダニエル:あぁそうさ!コイツの部下が君達に負けたら私の勝ち!
約束は覚えているね?
(ダニエルは懐から拳銃を取り出し、机に放る。)
ダニエル:これで、君の頭蓋を撃ち抜いてもらおうか。
アルバータ:…ふはっ。
ダニエル…あんた、自分で言った事を忘れたのかよ?
ダニエル:あ?見苦しいねアルバータ・フィリップ!
いいだろう、付き合ってあげるよその戯言に。
教えてくれ、私が言った事…それはなんの事を言っているんだい?
アルバータ:ああ教えてやるよ。シンキングタイムは終了…答え合わせだ。
『君のような男に私如きの嘘が通用するなんて思っていない、心理戦にもならない』…そう言ったね。
当たりだよダニエル、心理戦にもならなかった。
(アルバータが手を叩く。するとオフィスのドアから縛り上げられたイライザとバネッサを連れてフィオナが出てくる。)
フィオナ:遅れてごめんなさいアル。
暴れられたものだから少し手間取ってしまったわ。
アルバータ:いやいや、上出来だよフィオナ。
それに…カルロもありがとう。
ダニエル:……は?何を、言っている。
カルロ:疲れたぜ今回の依頼は。
なんと言ってもダブルブッキングだったからなァ。
ダニエル:カルロ…貴様!!私を裏切ったのか!!
カルロ:裏切る?何言ってんだ。
俺はお前らの依頼をこなしたぜ?同時に、しっかりとな。
仕事を選ばねぇのがプロ、てめぇもそう言ってたなァ。
ダニエル:まさか…アルバータ、貴様。
アルバータ:もう分かったかな。
あんたの味方は初めからイライザしかいない。
あんたがカルロと接触し、フィオナとバネッサを始末しろと依頼した後…僕はすぐカルロと会ったんだ。
カルロ:「ダニエルからの依頼をこなしつつ、バネッサとフィオナを死なない程度に痛めつけろ」ってな。
こいつはイカれてると思ったぜ?自分の仲間を狙えってわざわざ依頼しに来たんだ。
フィオナ:アルは私には「カルロという男が君を狙いに行く、ある程度戦闘は覚悟して隙を見て逃げてくれ。」と言った。
アルバータ:その後、僕が2コール電話を鳴らしたらイライザの居場所に行って連れてきてくれって頼んだんだ。
ダニエル:…何故イライザの場所が分かった。
絶対に分かるはずがない!何故ならあそこは…!
アルバータ:君の隠れ家にいる、最初から分かっていたさ。
ダニエル:どうやって…!!
アルバータ:僕らは1度イライザに会って食事をしてるんだぜ?GPSなんていくらでも付ける機会があるじゃないか。
ダニエル:そんなはずは無い!イライザの服も、体も念入りに調べてから逃がしたのだ!
GPSなんてどこにも…!
アルバータ:服や体には、ね。
ダニエル…イライザが肌身離さず持っているものがあるだろ?
ダニエル:…コンピューター、か。
アルバータ:正解。僕らはイライザ自身にGPSを付けた訳じゃない。
コンピューターの内部にウイルスを送り返した時、同時に位置情報も抜き取った。
簡単な事だろ?
(アルバータが説明をしていると、イライザが目を覚ます。)
イライザ:ここ、は。
ダニエル:イライザ…!ああ、すまないイライザ……!私の、せいで…!
イライザ:…大丈夫よ、パパ。
私…どこも痛くないから。
バネッサ:う、ん……?
(バネッサも目を覚まし、周りを見渡す。)
バネッサ:あ、アルバータさん…フィオナさん!成功したんですね!って…なんで私、縛られてるんですか?!
フィオナ:…なんとなく?
アルバータ:やあ、おはようバネッサ。
もう少しそのままでいてくれるかな、ここからがフィナーレなんだ。
イライザ:あなたが、アルバータ・フィリップね。
……私達から、何を奪うの?
アルバータ:あー、違うよイライザ。
僕が奪うのは君自身だ、君は僕らの素性を探り出した唯一の人間だからね。
あまり放置する訳にはいかないんだ。
イライザ:…私を、殺すのね。
アルバータ:うん、物分かりがいい子供は好きだよ……けど残念だ、君を殺さなくちゃいけない。
ダニエル:頼む、アルバータ…イライザ以外なら何も要らない!私の命だって…だから…この子だけは殺さないでくれ!
アルバータ:ダニエル…あんた勘違いしてるよ。
僕が殺すんじゃない。殺すのは…。
(アルバータは机の上の拳銃を指でトントンと叩き、ダニエルに言う。)
アルバータ:あんた自身だ。
賭けの対象、罰として言っただろ?『僕がよしと言ったらイライザを撃ち殺せ』って。
イライザを殺すのは僕じゃない、君だよ。
ダニエル:な、ん…アルバータ・フィリップ。
お前は、一体いつから…。
アルバータ:最初から、君を狙おうと思った時からこうなる事は決まってたんだ。
運が悪かったね、ダニエル。
僕に狙われた時点で君は負けていた。
ダニエル:う…ぐ、ぅああぁぁ!!!
(ダニエルは拳銃を手に取り、自らのこめかみに押し付ける。)
イライザ:ダニエル!?何してるのよ!!私を撃ち殺せばいいじゃない!
ダニエル:…すまない、イライザ。
私は予測ができなかった…こうなる事を、予期していなかった。
私の失態は、私の命でケジメを付けるべきだ!
イライザ:駄目よダニエル!!やめて───
(銃声がオフィスに響く。頭部から血を流しながら、ダニエルは床に伏す。)
イライザ:あ、ぁ……ダニエル?ねえ…ダニエル!起きてよ!!ダニエルッ!!!嫌!嫌ぁぁぁあぁっ!!!
(泣き崩れるイライザを横目に、アルバータはため息をつく。)
アルバータ:はぁ……つまんない幕切れだな。
まあ!大事な物は奪えなかったけど、これでいいかな。どうだい?ダニエル…殺された側の気分は?って、聞こえやしないか。
さて…フィオナ、バネッサ。帰ろうか?
カルロ:オイ、俺はどうすればいい?それともここで依頼完了か?
アルバータ:あー、そうだね…イライザを始末しておいてくれ。
まぁ、もう生きる希望はないかもしれないけど…いや、復讐の為に生きるかもしれないね。
カルロ:カカッ、ゾクゾクするぜ。お前のそのイカれ具合…あらゆる可能性を考えて全て潰していく徹底ぶり。
ギャングや殺し屋なんかよりタチが悪ぃ。
そういや、お前あのガキンチョに毒を盛ったんだろ?大丈夫なのかよ?
アルバータ:ああ、あれなら嘘さ。
そうじゃなきゃ…ダニエルはきっと僕の誘いに乗ってくれなかっただろうから。
…褒め言葉は丁寧に受け取っておくよ。
それじゃ、またねイライザ…それにダニエル、とても楽しかった。
あぁ、そうだ。
…僕はイカサマなんてしてないよ、カードの順番を全部覚えているんだ。
さっきも言ったが…最初から君に勝ち目は無かったんだよ。
じゃあね、ダニエル・ウィリアムズ。
(アルバータはそう言い放ち、フィオナとバネッサを連れオフィスを後にした。)
─────────────────
(ダニエルが横たわる傍で、イライザは泣いていた。)
イライザ:う、ぅ………カルロ、もう彼らは行った?
カルロ:…あぁ。
イライザ:ふぅ…泣く演技って思ったより疲れるのね。
ほら!いつまで寝てるのダニエル、起きて!
(先程銃弾に倒れたはずのダニエルが、ムクリと起き上がる。)
ダニエル:いてて…空砲とは言え、まだ耳がキンキンしているよ。
いやぁ、助かったよカルロ!君から貰った血糊、まるで本物だね!
カルロ:そりゃ本物だからな…にしても、名演技だったぜ2人共。よくやり遂げれたなァ?
ダニエル:そんな事よりカルロ、君ちょっとやり過ぎじゃないのか?イライザに傷がついたらどうするんだ全く…。
本当なら殺してしまう所だけど、色々と手を回してくれたし…許すとしようか。
イライザ:大丈夫よ、どこも怪我してないわ。
にしても、よく考えたわねダニエル。
ダニエル:ふふ、彼には私如きの生半可な心理戦や嘘は通用しないからね。
カルロ:生半可なら……な。
あの野郎のイカれっぷりは本物だ、演技でもなんでもない。自分を楽しませなくなったテメェに対して全く興味が無さそうだったぜ、最も…この茶番が通用してるのかどうかも分かんねぇが。
ダニエル:通用しているよ、私だけの頭脳なら彼に太刀打ちできる気はしないけれど、今回はカルロも…愛しのイライザもいる。
それに……彼らは確実に標的の全てを奪う、誰一人として逃した事はない……ははは、どうだい?賭けは逃げ仰せた私の逆転勝ちさ。
私もイライザも生きていて、彼らは何も奪えなかったんだからね。
イライザ:さ、あまりここに長くいたら良くないわ…コンピューターは捨てなきゃいけないわね。
新しいの買ってくれる?パパ。
ダニエル:あぁ勿論。シドニー旅行と一緒にプレゼントしよう。
イライザ、チケットは持ったかい?
カルロ:んで?てめぇらシドニーに行ってどうすんだ?
ダニエル:そうだな、少し姿を消すよ。彼は恐らく追ってくるだろう…仲良くシドニーで熱いコーヒーでも飲むとするさ。
カルロ:ケッ、そうかよ。
悪魔が2人も消えりゃ、この街も随分住みやすくなるぜ。
ダニエル:悪魔だなんて…酷いなあ。
まぁ、君のその減らず口が聞けなくなるのは残念だけれどね。
殺される側の気分、なかなか悪くなかったよ…アルバータ・フィリップ。
…後で報酬を振り込んでおくよ、後処理はよろしくね、それじゃあ。
イライザ:じゃあねカルロ、また会いましょう。
(2人の悪党は、そうしてオフィスを後にして姿を消した。部屋に残された一人、カルロは呟く。)
カルロ:…結局、アルバータ・フィリップは何も奪えず、ダニエル・ウィリアムズは何も奪われず逃げ切った。
うーん、今回はダニエルのが1枚上手ってとこだな。
カカッ…面白くなってきたじゃねえか…なァ?"ボス"。
さぁ、これで依頼完了だ。
(ケラケラと笑い声を上げながら、カルロはオフィスに"ゴング"を鳴らした。)
───────────────────
(数日後、アメリカ某所のカフェには談笑している3人の悪党がいた。)
バネッサ:まったく!!酷いですよ!あの時私を縛り上げたまま帰ろうとしましたよね!?
フィオナ:まぁまぁ、落ち着きましょうよバネッサ。
アルも悪気があった訳じゃないわよね?
アルバータ:いやー、すっかり忘れてたね!
…けどまぁ許してよ。あの時は必死だったんだ、ダニエルが自殺してどうしようもなくなっちゃってさ。
フィオナ:…あれは、アルでも予想出来なかったの?
アルバータ:出来るわけないだろ?彼はイライザに対して何の愛着もないただのサイコ野郎だと思ってたんだよ。
それなのに僕としたことが……やられた、あのたぬきジジイめ。
バネッサ:ダニエルさん……本当に死んでしまったんでしょうか…?
アルバータ:バネッサ…君って情報を売りにしてる癖にニュースも新聞も見ないんだねぇ。
(アルバータは手に持っていた新聞を机に放り投げる。)
バネッサ:なんですか?これ…なになに、『DWコーポレーションで謎の爆発、犯人の足取りは依然として掴めず』…って、DWコーポレーションってダニエルさんの会社じゃないですか!
アルバータ:君のオツムで考えればすぐ分かるだろうけど、これは宣戦布告だよ。
…ダニエルは死んでなかった、僕に生きている事を証明する為にわざわざ会社を爆破させるなんて、大胆なおっさんだね。
バネッサ:確かに…死んでいるなら爆破なんて有り得ませんもんね…。
行方をくらます為に会社を破壊して…まるで"ゴング"のようです。
フィオナ:さしずめ第2ラウンド開始と言ったところね。
拳銃は空砲、血は血糊か何かかしら…あの殺し屋もグルなのかしら?
まさかアルが見抜けなかったなんて。
アルバータ:屈辱だよ…負けた!彼は僕を騙しきったんだ。
イライザもカルロも当然グルだろう、僕らが行く前から計画してたんだ。
はぁ……裏の裏をいかれた、最悪だよ…クソッ。
(机を叩き腕を組むアルバータ、帽子を深く被り不貞腐れていた。)
バネッサ:き、機嫌悪いですね…なんであんなに苛立っているんです?
フィオナ:騙せなかった人間は居ないって豪語してたのに逆に騙されて何も奪えず終いだもの。
でも、機嫌は悪くないわ。前にもあんな時があったのよ。
むしろ、彼は今凄く機嫌が良いのよ?アルがあんなに楽しそうなの、久しぶりに見たわ。
バネッサ:そうなんですか…私には、さっぱり分からないです。
アルバータ:イライザを脅しに使った時の激昂も、演技じゃなく本物だった…僕に嘘と思わせる為の嘘の上塗りだったんだ。
ふふ、面白いじゃないか。次だ…次こそは、僕が勝つよ。ダニエル・ウィリアムズ。
(帽子の下で、アルバータは窓を眺め微笑んでいた。)
フィオナ:ほら、嬉しそうでしょ?自分と同じくらい悪い奴が現れたんだもの…アルにとってこれ以上の楽しみは無いわよ。
バネッサ:ふふ、本当ですね。
なんか…負けちゃったけど、こうまで綺麗にやられると清々しいですね。
(バネッサの言葉を聞いた瞬間、アルバータが席を立つ。)
アルバータ:はぁ!?全く情報屋のくせにバカだな君は!
騙されたのに清々しい訳ないだろ!?
さあ、ちゃっちゃと行くよ!
バネッサ:い、行くってどこに!?
アルバータ:はいこれお会計!また来るよ!
さて、フィオナ!頼んでおいた航空券は?
(フィオナは鞄から航空券を3枚取り出した、そこには『シドニー』の文字がある。)
フィオナ:ここにあるわよ…シドニー行きの便、取るの大変だったんだからね?
アルバータ:でかした、それじゃあ行こう!そろそろ搭乗手続きに行かなきゃ。
バネッサ:え、い…今からシドニーに行くんですか!?ていうか、なんでシドニーなんですか!?
アルバータ:先日ダニエルのオフィスに行った時シドニーの旅行パンフレットとチケットが2枚あった。
だからまあ、逃亡先はシドニーで間違いないだろうね。
それに…僕らは喧嘩を売られたんだ、売られたものは僕は全部買うよ!
バネッサ:あの状況で良くそこまで見れましたね…というか、どちらかと言うと先に喧嘩を売ったのは私達の方ですけど。
フィオナ:はあ…この調子だとまだまだ振り回されそうね。
アルバータ:……こんなデカデカと名前を出しやがって。
僕への挑発だな?いいさ、受けて立つよ。
フィオナ:でも、イライザは奪えなかったんだし…2度も同じような手が通じるとは思えない、もう彼から奪えるものなんてないんじゃないの?
そこまで楽しめるものだとは思わないけれど?
バネッサ:そうですよぉ!わざわざ敵陣に行くなんてやめましょうよぉ…。
アルバータ:少し…やり残した事があるんだ。
フィオナ:やり残したこと…って?
(アルバータは帽子を取りながら、爽やかな笑顔で振り向く。)
アルバータ:…彼のコーヒーを飲み損ねた。
end.
バネッサ・クリスティ:♀(24) 気の弱い情報屋。
カルロ・レオーネ:♂(27) 口の悪い殺し屋。ダニエルに雇われている。
ダニエル・ウィリアムズ:♂(34) 数千人の構成員を誇るギャング組織のボス。
イライザ・ウィリアムズ:♀(16) ダニエルの娘、凄腕のハッカー。
フィオナ・クラーク:♀(25) アルバータと古い付き合いの傭兵。武器商人を同時に営んでいる。
──────────
アルバータ・フィリップ♂:
バネッサ・クリスティ♀:
カルロ・レオーネ♂:
ダニエル・ウィリアムズ♂:
イライザ・ウィリアムズ♀:
フィオナ・クラーク♀:
──────────
(風が少し肌寒くなってきた頃、ロサンゼルスに一人の男が。)
アルバータ:おっと!どうもすみません。
男(カルロ役):あぁ!いえいえ、こちらこそ申し訳ない。
アルバータ:……三か月も離れてると流石に懐かしく感じるね、この街も。
(アルバータは男性の財布を盗み金を抜き、何処かへ電話をかける。)
アルバータ:……やぁ!バネッサ、久しぶり。あぁ…仕事の話だ、いつものBARで待っててくれ。
────────────────────
ダニエル:…温い。
(ダニエルは椅子に座っている。目の前には数人程の男女が正座していた。)
ダニエル:なぁ分かるか?温いんだ、コーヒーが。
男(カルロ役):す、すみません!温度の調節を間違えてしまって…!すぐに注ぎなおしますので…!!
ダニエル:そうじゃない、そうじゃないんだ。
いいか?私は今!!熱いコーヒーが飲みたかったんだ!今じゃなきゃ駄目なんだよ。なんでそれが分からない!?
男(カルロ役):ひぃっ…!
ダニエル:…私は、コーヒーすらろくに注げない役立たずは犬の餌にでもなればいいと思ってるんだが…お前はどう思う?イライザ。
(イライザはソファに座りながらパソコンをカタカタと動かしている。)
イライザ:知らない。興味が無いわ。
ダニエル:全く、そう冷たくしないでくれ。
パパは嫌われ者だから…可愛い可愛い一人娘にくらい好かれたいんだ。
イライザ:嫌われるようなことしてるからでしょ…?ギャングなんてやってたら恨みくらい買うに決まってるじゃない。
ダニエル:ああ悲しい!悲しいよイライザ……ん?なんだお前、まだ居たのか。
(ダニエルは扉の前に立っていた護衛にしっしっとハンドアクションをする。)
ダニエル:そいつは廃棄処分だ、どこかにでも捨て置け。
イライザ:あーあ…また恨まれちゃうね、ダニエル。
ダニエル:あ!パパって呼べっていつも言ってるだろ?…パパはお前にだけ好かれてたらそれでいいよ、愛しい私のイライザ。
あっと、そうだイライザ、調べておいてって頼んでたやつはもう上がったかな?
イライザ:ううん。まだしっぽすら掴めてない…情報を隠してるのね、かなり強固なセキュリティが敷かれてる。
ま、アタシの敵じゃないわ。
ダニエル:そうか…イライザならきっと出来るよ、私は信じているから。
イライザ:あのさぁ、人の期待に応えるって、ダニエルが思ってるよりも重いことなんだからね。
ダニエル:またダニエルと呼んだね…まぁいい。にしても、期待か…私は生まれてこの方期待されたことがないから分からないな。
イライザ:それ…自慢できることなの?
ダニエル:ははは!自慢じゃないが、私が期待されなかったのは、期待される前に期待以上を見せつけてきたからさ。
イライザ:…自慢じゃん結局。
ダニエル:まぁまぁ、いいじゃないか。それで?いつになれば尻尾が掴めるんだ?
イライザ:急かさないでよ…辿ってはいるけれどそれらしい情報はまるで何も残ってない。相手はかなりの手練れね、中々やるわ。
ダニエル:イライザがそこまで言うとは…ますます興味が湧いてきた!イライザ、奴らを見つけられたら好きなものなんでも買ってあげよう!だから───────
イライザ:誰を探しているのかも分からないのに…もういいわ、ダニエルは向こうで温くてマズいコーヒーでも飲んで待ってて。
ダニエル:パパにそんな事言うなんて悪い子だ、ふふ…楽しみにしているよ。
────────────────────
アルバータ:おぉー!久しぶりじゃないかバネッサ。
(アルバータは町外れにあるBARへ足を運んだ。)
バネッサ:久しぶりって…アルバータさん、三か月もどこに行ってたんですか?
(眼鏡をかけた女性、バネッサは資料を手でトントンと整えながらカウンターに座っている。)
アルバータ:はは、悪かったよ。”この前の仕事”のせいであまりここらをうろつく訳にはいかなかったんだ。
バネッサ:この前の…あぁ、あの間抜けな外交官から騙し取った時のあれですか。
アルバータ:そうそう、あの後色んな所から追手が来てね。それを撒くのに時間がかかったんだ。
バネッサ:そうでしたか…バックについてる裏の人達に狙われると大変ですね……それで?次の標的が見つかったんですか?
アルバータ:…あぁ、見つかったというか…見つかる、だけれどね。
バネッサ:見つかる…?それは一体────
(バネッサがきょとんとしているとBARの扉が開く。外から金髪碧眼の女性が現れる。)
フィオナ:やっほ~~!久しぶりねアルにバネッサ!何年ぶりだっけ!?
アルバータ:三か月ぶりだよフィオナ。相変わらずの記憶力だね、会えて嬉しいよ。
フィオナ:あれ、そうだっけ?まぁいいじゃない!
バネッサ:フィオナさん、お久しぶりです。
フィオナ:バネッサ~~!会いたかったわよ!最近全然顔見せないからついに殺られたのかと思ったわ。
バネッサ:私引きこもりなので…。
アルバータ:バネッサは年に3回しか外に出ないからね、追おうにも追えなかったんだろ?
バネッサ:ち、違います!今は年に4回です……。
フィオナ:大して変わってないわね…それで?どうして私達を呼んだの?
アルバータ:あぁ、もうそろそろかと思ってね。前からつけておいた汚れに、向こうが気付く頃だ。
フィオナ:アルって昔からだけどたまに何言ってるのか分からない時あるわよね。
バネッサ:たまにじゃないです…ずっと分からないですよ、この人は。
アルバータ:ははは、騙すのが仕事なのにバレちゃ僕の名が廃るだろう。
フィオナ:変にかっこつける癖は治ってないのね…。
アルバータ:かっこつけてなんてないよ!まったく…失礼だな。
バネッサ:そういえばアルバータさん…向こうって?
アルバータ:あぁ、こっちの話だ…さて、じゃあ三人揃った所だし…仕事の話をしよう。
────────────────────
(ビルが立ち並ぶ街で、一際高いビルの最上階にダニエルとイライザがいる。)
ダニエル:…イライザ、進捗はどうだい?
イライザ:ダニエル、コーヒーはもう飽きたの?
ダニエル:パパと呼びなさい、もう不味いコーヒーは無くなってしまったよ。
イライザ:なぁんだ、それじゃあもう時間稼ぎできないじゃない。
ダニエル:そろそろ足取りくらいは掴めたんじゃないのかい。パパに成果を見せておくれ。
イライザ:だーかーら、さっきも言ったでしょ?それらしい情報が──────
(PCの前で固まるイライザ、目を丸くしながら指を動かす。)
ダニエル:…?どうしたんだいイライザ。
イライザ:これは……ねえパパ?
ダニエル:ん?なんだい?
イライザ:プレゼントは、シドニー旅行を頂戴ね。
ダニエル:…それは、つまり。
(イライザがダニエルにPCの画面を見せる。そこにはアルバータ達三人の姿が映ったカメラ映像がある。)
ダニエル:……彼らが。
イライザ:ええ、この三人が三か月前起きた例の件の犯人ね。
ダニエル:ふふ…ふははは!!よくやったイライザ!いい子だ。
イライザ:この眼鏡のいかにもな芋女が彼らのハッカーって所かしらね、用意周到で臆病者…だから何も情報を残さない、でも監視カメラを一つ見落としてた…少し、いや…だいぶ骨が折れたわ。
ダニエル:ああ、待ち望んだよ。
イライザ:ダニエル、それでこいつらは一体何なの?
ダニエル:イライザ…彼らはね、詐欺集団だ。
イライザ:詐欺…?
ダニエル:三か月前の事件、その後あの間抜けな外交官が逮捕されただろう?
イライザ:えぇ、文書偽造に収賄…外交官としての権力をフルに使った職権乱用のオンパレードだったわね。
ダニエル:そう、彼が何故逮捕されてしまったか。わかるかな?
イライザ:それは…自首したんでしょう?新聞に載ってたわ。
ダニエル:いいや、真実はそうではない。自首をしたのは確かだが…正確には自首”させられた”んだよ、彼らにね。
イライザ:自首…させられた?そんなことが可能なの?
ダニエル:可能だろうさ、彼ら…いや、あの男ならばね。
イライザ:あの男…って、この映像に映ってる男?
ダニエル:ああ、そうだよ。私はこの男に興味があるんだ。
彼の名はアルバータ・フィリップ…どこかで聞いたことあるんじゃないのかい?
イライザ:アルバータ・フィリップ…あ!あのニューヨークで突然名を馳せ始めた実業家のアルバータ…彼、詐欺師なの?
ダニエル:ふふ、私だってそうだが…裏社会のボスが実は大企業の社長だった、なんてのは割とあるんだよ。
もちろん、彼の裏の顔なんてのは同じく裏社会に棲まう私達のような者しか知らないがね。
イライザ:ふーん、そんなに凄いんだこの人。
(ダニエルはテーブルの上にある酒を飲み、ソファに腰掛ける。)
ダニエル:彼らは、根こそぎ奪うんだ。狙った標的の全てを。
イライザ:標的の、全てを…?
ダニエル:あぁ…そうだ、名誉も金も地位も権力も…命でさえも、彼らの掌の上って噂だよ。
イライザ:噂…ねぇ。有名人なの?ダニエルがそれだけ称賛するアルバータ・フィリップってのはさ。
ダニエル:ああ、アルバータだけじゃない。彼の優秀な仲間たちだってまた逸材だらけさ。
彼らに狙われたら最後…逃れられないという噂さ。
私達の様に狙われる側の人間は彼らの名前なら知っている奴は多い。
イライザ:また噂…名前なら、って…知られているのは名前だけなの?
ダニエル:彼らは正体不明なんだ。顔も年齢も体格も。分かっているのは男が一人に女が二人の三人組ということだけ、薄暗くてハッキリとは映っていないが、この映像は高く売れるだろうねぇ。
イライザ:またお金のこと考えてる…ろくな死に方しないわよ?
ダニエル:まさか!売るわけないじゃないか、他の奴らが狙われちゃあ私のところに来てくれないだろう?それに…こいつは私の獲物だ、譲ってたまるか。
(ダニエルはどこかに電話をかけると、ソファから立ち上がってジャケットを羽織り外に出る準備をする。)
ダニエル:イライザ、私の携帯にその映像を転送してくれ。それと…彼らに挨拶しなくては、”アレ”を使いなさい。
イライザ:あはっ…ダニエルったら、悪~い顔。
────────────────────
(街中をうろつくアルバータ達。)
フィオナ:ね~、そろそろ教えてくれてもいいじゃない!
バネッサ:そうですよ、話は大体分かりましたけど…標的が何なのか分からないまま仕事なんてしたくないです!
アルバータ:だから…何度も言ってるじゃないか、言わなくたっていずれ分かるって。今君達が聞いたって意味はないよ、僕は意味の無い事に時間を割くような馬鹿じゃないんだ。
(不服そうにバネッサとフィオナが小声で呟く。)
バネッサ:…私の協力が無ければシステムにハッキングして情報収集も出来ないのに…。
フィオナ:私が武器を売らなければ応戦どころか戦闘すら出来ないのに…。
アルバータ:あーもう、分かった分かった!ちゃんと説明するから、準備が終わってからな。
フィオナ:言ったからね!というか、アルは私達に隠し事しすぎなのよ。
バネッサ:確かに、私達いつもアルバータさんに振り回されてばっかりですもんね…。
アルバータ:仕方ないだろ…僕のやり方は君達が一手でも僕の計画通りに動いてくれないと狂うくらいに緻密なんだ。
フィオナ:ふーん?…まあ、アルが頭の中でどんなこと思い浮かべてるのかなんて、聞いた所で私達には想像もつかないのよね。
バネッサ:それで?私達なんでここにいるんでしたっけ?
アルバータ:いい質問だねバネッサ、僕らは今からこの目で次の獲物を拝みに行くのさ。
フィオナ:はぁ!?アル、あなた…自分が詐欺師で色んな人達から正体を掴もうと探されてるの知ってるわよね?
アルバータ:あぁもちろん、素晴らしく光栄なことだ。
フィオナ:だったら自分で標的の目の前に行くなんてそんなリスキーなこと…!
バネッサ:フィオナさん、何言っても無駄ですよ…アルバータさんはやると決めたことは必ずやり遂げるタイプでしょう?
アルバータ:バネッサの言う通りだ。僕はやると言ったらやる、ほら行くよ。
フィオナ:はぁ…もう、しょうがないわね…。
(アルバータはスタスタと道を歩いていく、バネッサとフィオナはため息混じりにその後を着いていく。)
────────────────────
(同時刻、薄暗い路地に面する一軒家、中には二人の男の姿が。)
ダニエル:やあカルロ!久しぶりだ。
カルロ:…その下手糞なイタリア語をやめろ、愛しい愛しい俺の母国を馬鹿にされてるような気分になる。控えめに言ってクソだ。
ダニエル:ふはは、相変わらず口が悪い…仕事の依頼さ。
カルロ:仕事…?てめえからの仕事は受けねぇって前言ったはずだが?
ダニエル:まあそう言わずに…ね?頼むよ~。
カルロ:数か月前のことをもう忘れたのか?アメリカ人ってのは女神だけじゃなくオツムまで銅像で出来てやがんのか?固い頭捻ってよく思い出せ、てめえは──────
ダニエル:オイ。
(ダニエルは拳銃を抜き、カルロに突きつける。カルロも同時にダニエルに銃口を向けている。)
ダニエル:黙って下手に出てりゃベラベラと…その使えない頭に鉛玉ぶち込まれたくなければ黙って私の駒になれ。これはお願いじゃなく命令なんだ、カルロ・レオーネ。
カルロ:カカ…依頼っつー話はどこいったんだ?もうボケが始まったか老害。
ダニエル:ふはは!この状況でもその強気な態度…流石だね、ただ…プロ意識が足りんな。
カルロ:あァ?プロ意識だ?
ダニエル:あぁ、そうだ。私が知っているプロの殺し屋は仕事ならば二つ返事で何でもこなすがね…?君は結局技術だけのアマチュアだったかなぁ。
カルロ:…いいぜ、その挑発乗ってやるよ。
ダニエル:助かるよ、君を入れる死体袋は生憎うちにはもう無いんだ。
(二人は銃を下ろしカルロはソファに座った、対面には飄々とした顔でダニエルが座る。)
カルロ:ケッ、言ってろボケ…んで?標的はどこのどいつだ。
ダニエル:ああ、これを。
(ダニエルのポケットからは有名なギャング達の顔写真が出てきた。)
カルロ:…こいつら、か?
ダニエル:そう、私のライバル組織ってやつさ。私はこれから楽しみがあってね、それを最大限楽しむのには彼らは邪魔なんだ…横取りなんてされたら堪ったもんじゃない。
だから手っ取り早く消してもらいたい、報酬は5000ドル。どうだ?
カルロ:くはっ!いいぜ、三日で終わらせてやる。
ダニエル:それじゃあ…よろしく頼んだ。
あー、そうだそうだ…また一か月後、依頼に来るよ。空けておいてくれ。
カルロ:一か月後?面倒くせえな……まあ、金次第でなんでも受けてやるよ、俺はプロだからな。
分かったらとっとと出ていけクソ野郎。
ダニエル:あぁ、"2コール"を忘れないでくれ。また一か月後に会おう。
(カルロの家から出たダニエルは、煙草に火を付けて車に乗り込む。)
ダニエル:さぁ、お願いだから私だけを見てくれよ…?ネズミ諸君。
────────────────────
(2日後、ギャング幹部の失踪や殺害事件などが相次いでテレビで放送されていた。)
バネッサ:結局…会えませんでしたね、ダニエル・ウィリアムズ。
アルバータ:全くだ!なんで留守なんだよ!
(ハンバーガー屋で食事をするバネッサとアルバータ。バネッサがふと目をやると、華奢で可憐な少女が1人歩いているのが見える。)
イライザ:うーん……。
バネッサ:あの子、どうかしたんでしょうか…。
アルバータ:んー?注文できなくて困ってんじゃないの?
バネッサ:私、ちょっと手伝ってきます!
アルバータ:ほっとけばいいのに…弱気なくせに人が困ってると助けちゃうんだもんなぁ。
バネッサ:あの!ど、どうかしました…?
イライザ:これ、頼みたいんだけど…。
バネッサ:あぁ…これは、向こうの方で頼んでからこっちで受け取るんですよ。
イライザ:あー、そういう事なのね!ハンバーガーショップなんて行ったことがないから分からなかったの、ありがとう!
バネッサ:いえいえ…!助けになれたなら、良かったです!
(2人が和気あいあいと会話している中、アルバータがイライザに軽くぶつかる。)
アルバータ:おっと、失礼。お嬢さん。
イライザ:あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?
アルバータ:あぁ、大丈夫だよ。君の方こそ大丈夫かい?
イライザ:えぇ、ご心配ありがとう。
バネッサ:ちょっと、何してるんです────
アルバータ:いやぁ、にしても可愛らしいお姉さんだ。
ぶつかったお詫びとして、代金は支払わせてくれないかな?
イライザ:そんな、悪いからお気持ちだけ受け取っておくわ。
それと…2人共知り合いなの?
アルバータ:ん?あぁ、そうだよ。僕らカップルでね、ちょうどデートの途中だったんだ。ね?"ミッシェル"?
バネッサ:……えぇ、ロベルト。
イライザ:あら!カップルなのね、お邪魔しちゃったかしら…?
アルバータ:いやいやとんでもない!そんな事は無いよ。
ここで会ったのも何かの縁だ、よければ一緒に食事しないかい?
イライザ:いいの?彼女に悪いんじゃない?
バネッサ:いいんですよ、人が多い方が楽しいですし!
アルバータ:ほら、彼女もこう言っていることだし…どうかな?
イライザ:それじゃあ…折角だし、ご一緒しようかしら。
アルバータ:断られなくて良かったよ…あぁそうだ!まだ聞いていなかった、君の名前は?
イライザ:イライザ・ウィリアムズよ、イライザって呼んで。
バネッサ:それじゃあイライザさん、行きましょう。私、イライザさんの分買ってきますから。
ほらロベルト、席に案内してあげて?
アルバータ:おっと…ごめんよミッシェル、紳士としての意識が足りなかった。
イライザ:ふふ、面白いのね貴方達。
アルバータ:お褒め頂き光栄だね、歳はいくつなんだい?見た感じ…20手前ってところかな?
イライザ:あら、そんなに大人びて見える?私まだ16歳よ。
アルバータ:見えないな…お嬢さんだったか。
イライザ:あははっ、よく言われるわ。
大人びて見られるのも悪くは無いけど、私まだまだ子供でいたいの。
だからお嬢さん扱いされて嬉しかったわ。
アルバータ:そうかい、そりゃ良かった。
ここへは1人で?親御さんとかは一緒じゃないのかな。
イライザ:父と一緒に来たんだけれど…父が少し用事を済ませてる間に小腹が空いちゃったから。
(ハンバーガーを持ってバネッサが戻ってくる。)
バネッサ:お待たせしました~、さあ食べましょう。
アルバータ:おお、おかえりミッシェル。
イライザ:ありがとう、後でお金払うわね。
バネッサ:いえいえ!いいんですよ~、ご馳走させてください。それで…二人で何の話を?
アルバータ:あぁ、イライザがお父さんと一緒に来ているみたいでね、少し用事で外しているみたいだ。
バネッサ:用事…なんの用事なんでしょうか、この辺りは寂れてるから何処か寄るような所もないですし…。
イライザ:さぁ…仕事の用事だとは言っていたけど。
バネッサ:お父様はどんなお仕事を…って、すみません不躾な質問ばかり。
イライザ:いいのよ、仕事…そうね、実業家ってところかしら。
アルバータ:実業家ってところ…随分と濁した言い方をするね。もしかして…あまり公には言えないお仕事、かな。
イライザ:あら…貴方、よく頭が回るのね。
アルバータ:はははっ!よく言われるよ、だが安心してくれ…僕らは決して警察官やFBIじゃあない。
ただの一市民さ、だから君のお父さんが何をしていたとしてもどうこうするつもりは無いよ、表沙汰にできない職業なんて絞ろうと思えば絞れるしね。
イライザ:へぇ…それじゃあ、当ててみればいいじゃない。
アルバータ:おや、いいのかい?
イライザ:えぇ。どうぞ?
アルバータ:ふむ…そうだね、ピースが少し足りないけれど考えてみよう。
(アルバータはこめかみを指でトントンと軽く叩きながら思考を巡らせる。)
イライザ:ねえ、この人何者なの?
バネッサ:…ただの人ですよ、少し普通の人よりも頭が回りすぎるだけです。
イライザ:ふ~ん…いいわね。
アルバータ:ぷは!あ~、疲れた!集中すると一気に気力が無くなっていくね。
イライザ:ふふ、騒がしい人。それで?答えは分かったの?
アルバータ:あぁ、分かったよ。さ、それじゃあミッシェル!そろそろ行こうか。
(アルバータは少し残っていたハンバーガーをぽいっと口に入れ、席を立つ。)
イライザ:はぁ!?ちょっ、答え合わせは!?
バネッサ:そうですよ!答えが気になります!
アルバータ:答え合わせならすぐに出来るさ、”またね”イライザ。
(店を出るアルバータとその後ろを着いて出るバネッサ。)
イライザ:はぁ…なんだったのかしら、あの人達。
ダニエル:お待たせイライザ!相手側の社長がなかなか離してくれなくってね…どうしたんだい?
イライザ:んーん、ちょっと面白くなりそうだな~って思っただけ。
またね…だもの。
(イライザはバーガーを頬張りながら携帯を開き、アプリを起動させた。)
────────────────────
バネッサ:ちょ、アルバータさんっ!待ってくださいよ!
アルバータ:くっくっく…よーしバネッサ、フィオナに連絡を入れて!すぐに行動に移すよ。
バネッサ:え、あ…分かりました。…作戦決行はいつですか?
アルバータ:今夜だ、時間が無いから急ごうじゃないか。
バネッサ:なっ!アルバータさんてば、いつもいきなりなんですから…!
────────────────────
(同日、22:00。アルバータ達は動いていた。)
フィオナ:本当にそんな作戦で成功するの…?
アルバータ:大丈夫だって。さてバネッサ確認だ、敵の情報は?
バネッサ:はい、標的はダニエル・ウィリアムズ。DWコーポレーション会長として活躍する実業家です…しかし裏では薬物売買や数多の裏組織と繋がりがあり、ギャング組織を持っています。だからこそ。
フィオナ:たんまりとお金があるってことね。
アルバータ:そう。それを今夜僕らで根こそぎ奪う。それじゃ、ちょっと行ってくるよ…”彼”とは良いビジネストークが楽しめそうだ。
(アルバータは二人の元を離れ、目の前にある『DWC』と電光パネルが光るビルへと入っていった。)
フィオナ:あーあ、行っちゃった…それにしても、ただの詐欺に”こんなもの”必要なの…?
バネッサ:アルバータさんの考えです、何かに使うんでしょうか…。
フィオナ:さあね…アルの考えてる事とか多分私には一生分かんないわ。
バネッサ:とりあえず、私達は言われた事だけやってましょう…。
(そう言いながら二人は路地へと入る、するとそこには一人の男が立っている。)
カルロ:あーあ…憂鬱だぜ、こんな美人さんを二人も殺さなきゃいけないとは。アメリカの美人率がまた下がっちまう。でも俺のせいじゃねえよなぁ?
(薄暗い路地に立つカルロの手にはハンドガンが二丁握られていた。耳につけている通信機からはイライザの声。)
イライザ:『カルロ、ダニエルの言う通りにしないと殺されるのは貴方よ。』
カルロ:チッ、うるっせぇな…そうなったらお前らまとめて殺してやる。だがまぁ…金は貰ったからなぁ、やるだけやるさ。
バネッサ:な…なんですか貴方!
フィオナ:退いてバネッサ。こいつは私が相手するわ。あなたはさっきアルに言われた事を完遂するのよ。
カルロ:あーダメだダメだ、一人も逃がすわけにはいかねえんだ。
フィオナ:それも依頼内容の内?
カルロ:いいや?俺のポリシーとプライドの為だ。標的と目撃者はこの世に残さない、ご飯を残すのはお行儀が悪いだろ?
フィオナ:悪趣味なポリシーね。ちなみに、そこを通して貰いたいのだけど…。
カルロ:もちろんそれもダメだ、お前らに許された選択肢は二つ。ここで俺に殺されるか俺を殺すかだ。
フィオナ:ふうん…そーですかッ!!
(フィオナは懐から警棒を取り出し全速力でカルロに迫る。)
カルロ:おぉっ!?随分ヤる気じゃねえかお姉ちゃん!!
フィオナ:ふんッ!
カルロ:ッぶねぇなァ!!
(カルロはハンドガンで警棒を受け、そのまま後ろ飛びで下がる。)
カルロ:チッ…女は出来るだけ殺したくねぇんだがなぁ、でもま…しょうがねえよな!
フィオナ:なら見逃してくれると助かるんだけど…ッ!
(一早く危機を察知したフィオナはカルロから放たれた銃弾をギリギリで躱す。)
カルロ:やるねぇ。強くて美人!俺好みの女だ…本当、殺すのが惜しいぜ。
フィオナ:バネッサ!!早く行きなさい!
バネッサ:で、でも…っ!
フィオナ:アルの計画を崩さない!私達のルールでしょ!!
バネッサ:死なないで、くださいね…!!
(一瞬のスキを突き、バネッサが路地の脇から逃走する。)
カルロ:オイオイ、逃がすわけねぇ…だろッ!
バネッサ:きゃっ!!
(カルロが撃った弾丸が路地にあったビール箱に命中し砕け散り破片がバネッサの頬を掠める。)
フィオナ:バネッサ!!この……よくもやってくれたわね!
カルロ:おっと!仲間意識が強ぇよなァ、女ってのは!!
バネッサ:う…くっ!
イライザ:『カルロ、あっちの女が逃げるわよ。』
カルロ:あーあー!分かってんだよバーカ!!一々うるせぇ!黙って見てろ!
フィオナ:あら、戦闘中に呑気にお喋りかしら?随分と気が抜けてるわね!!
(フィオナがカルロに接近し警棒を振るう。)
カルロ:お前の方は分かってねぇみたいだなァ。呑気にお喋りできるくらいにはお前との戦いは楽だっつぅ事だろうがよ?綺麗な姉ちゃん。
(カルロは警棒を避け、フィオナの腹部に蹴りを入れる。)
フィオナ:ぐ、ぅっ……!私別に戦闘は得意じゃないのに…アルの馬鹿!
カルロ:さっきから名前が出てるアルってのがテメェらのリーダーか?
だとしたらとんだ腑抜けだなぁ。自分は戦わず女に戦わせるなんて、俺から言わせりゃクズだね。
フィオナ:…アルはクズじゃないわ。
カルロ:あん?
フィオナ:アルはクズなんかじゃない、彼には崇高な思惑がある。それを知らない貴方に貶される謂れは無いわ。
カルロ:へぇ…言うね、アンタ。
じゃあ見せてみな、アンタらのリーダーがどんな男なのか。
そんでそんな奴についていく信仰にも近い信頼をさァ。
よく知ってるか?お前らが狙ってるダニエル・ウィリアムズの事。
イライザ:『カルロ、何お喋りしてるの?早く始末しなさいよ。』
カルロ:まぁ黙ってろクソガキ、今面白ぇとこなんだ。
例えるならタイタニックで船が沈むシーンだぜ。
イライザ:『そこに面白さを感じる人間はあんた以外いないわよ。はぁ…いいわ、私は逃げた方の女を追うわ、精々しくじらないでね。』
カルロ:しくじったら慰めてくれよ。俺はこう見えてもナイーブな生き物なんだ。
(通信機から少しばかりの罵声が聴こえた後、ブチッと通信が切れる。)
フィオナ:…これで邪魔はいないわね。
カルロ:あぁ。だが殺し合う前にちょいと話をしようぜ。
ダニエルと…お前らが信仰してるアルとかいう男について。
───────────────
バネッサ:はぁ…はぁ…!うぁっ!
(路地を抜け駆けるバネッサ。小石につまずき転倒する。)
バネッサ:はぁ…う、フィオナさん……大丈夫でしょうか…。
(起き上がり路地の方を見つめ呟くバネッサ、しかしバネッサの目の前にドローンが浮遊する。ドローンからイライザの声。)
イライザ:『やっぱり周辺にドローンを待機させておいて正解だったわ。すぐに見つけれたわ…アンタ。』
バネッサ:なっ…!
イライザ:『あら?アンタ…バーガーショップで相席した人じゃないの。』
バネッサ:この声、もしかしてイライザさん…?
イライザ:『正解…まさかアンタが敵だとはね、そうすると隣にいた男がアルバータ・フィリップかしら?
もう察しているでしょうけど…アンタ達が狙ってる標的は、アタシのパパ。
パパが探してた人達があんな近くにいたなんてね。』
バネッサ:数日前、私のコンピューターに何者かが侵入した形跡がありました…あれは貴方の仕業なの?
イライザ:『それも大正解。
アタシってば凄腕のハッカーなの!褒めてくれてもいいのよ?アンタ達が用意していたパパの居所への侵入経路もアンタがシャットアウトした監視カメラも全部分かってる。
アタシが開発したソフトなのよ、凄いでしょ?ねぇ、ミッシェル。
あぁいえ……バネッサ・クリスティ、だったわね?』
バネッサ:フルネームまで抑えられてるんですね…遠隔でウイルスを侵入させるなんて芸当、どこの国家諜報員かとヒヤヒヤしてましたけどまさか貴方だったとは…。
イライザ:『あははっ!いい顔ねバネッサ!カメラ越しでも分かるわ。
焦燥と不安が入り混じっているアタシの大好きな表情だわ。
ねぇ、他人の掌の上で踊る気分はどう?悔しいわよね?』
バネッサ:えぇ、悔しい。
でもねイライザさん…貴方、それで勝った気でいるなんて早計なんじゃないですか?
イライザ:『はぁ?何その負け惜しみ…ダッサ。
まぁいいわ、アタシの勝ちは明白…ここからどうやって切り崩すのよ。』
バネッサ:負け惜しみというのは、負けてから初めて負け惜しみなんです。
だから私の発言は負け惜しみじゃない。
これは…ただの宣戦布告です。
(ポケットからスマートフォンを取り出すバネッサ、アプリを起動するとイライザの持つPCが大きな音を立て始める。)
イライザ:『なッ!?アンタまさか!!』
バネッサ:他人のコンピューターに遠隔でウイルスを侵入させる。
いい発想ですよね…だから、真似してみました。
(バネッサは笑みを浮かべる。イライザは慌てた様子でPCを開く、するとそこには「インストール完了、ファイルを削除」と文字が映る。)
バネッサ:私の機器にウイルスを入れた時、どういう経路で入れたのかが疑問でしたが…あのハンバーガーショップで会った時だったんですね。最近はUSB無しでもファイルのやり取りが出来る…あとは私がコンピューターを起動した時に遠隔操作でウイルスソフトも起動させるだけ。
自分のセキュリティの薄さに嫌気がさしましたよ。
イライザ:『クソッ!これ…どうやって消すの!?どうやって送ったのよ!!』
バネッサ:簡単なことです。
私のコンピューター、常時稼働で外部からのツールを検知して解析するプログラムを組んでるんです。
構成が分かればこちらのもの、少しばかり改良…いえ、改悪して元の経路を戻っただけです。
イライザ:『チッ…こんなんで勝ったなんて思わない事ね。
アタシは凄腕よ、それにこれは元々アタシが作ったウイルス…すぐに解除してやるわ。』
バネッサ:そうですか?なら早くした方がいいです。
私が改悪したそのウイルス…おおよその計算ですが、2時間後には貴方のPCを食い荒らす。
精々頑張って下さい。
イライザ:『な、この…ッ!!ただの時間稼ぎじゃない…アンタ、底意地が悪いわね!!』
バネッサ:ふふ、よく言われます…知ってました?女の子って、意外と意地を張りたい生き物なんですよ。
私のは…ただの意地悪ですけどね?
(喚くイライザを尻目にバネッサは夜道を駆け出した。)
────────────────
ダニエル:…あぁ、分かってる。
そうだね、十分に気を付けるよ。
ああ…うん、おやすみ。愛しているよ。
(DWコーポレーションのビル、最上階のオフィスにダニエルは座っている。)
ダニエル:…もうそろそろ、かな。
(コンコン、とドアをノックする音が響く。)
ダニエル:入りたまえ。
アルバータ:やぁ社長…今宵の月は綺麗だね。
にしても…不用心じゃないか?警備もろくにいないし僕が来る事は分かっていたんだろ、なのにあっさりと部屋に入れるだなんて…警戒心がまるで無いね。
ダニエル:君は暴力や武力に頼る様な男ではないと思ったからだ。
そんな事よりも…初めまして、アルバータ・フィリップ。逢いたかったよ。
アルバータ:こちらこそだダニエル・ウィリアムズ。
僕の名前を知っているんだね、驚いた。
いや…名前だけなら知っている人も多いだろうが。
ダニエル:ああ、君の会社のホームページに載っている写真は別人だろう?だから初めましてだ。
君はこう…雰囲気で何となく分かる。ドアを開けて私に姿を見せた瞬間に『あぁ、コイツがアルバータ・フィリップか』と思ったさ。
アルバータ:くく…褒められていると捉えていいんだよね?
…そこ、座ってもいいかな?
(アルバータは客用のソファを指す。)
ダニエル:あぁ勿論だ、君は客人だからね。
どれ、コーヒーでも入れようか?温くて不味いコーヒーしかうちには無いが。
アルバータ:おぉ、至れり尽くせりで申し訳ないね。
貰おうか、温くて不味いコーヒー…僕はそういうのが好きなんだ。
ダニエル:ははは!!前から思っていたが、君は変わっている。
(ダニエルは椅子を立ちコーヒーを淹れに行く。)
アルバータ:前からとは不思議な言い方だね、ダニエル…あんた、僕の事をいつから知っていたんだい。
ダニエル:話だけなら裏をうろついてたら嫌でも聞くさ、犯罪者ばかりを狙う最悪な詐欺師がいると。
その時から感じていたよ、君の異質性は。
アルバータ:詐欺師が犯罪者を狙うのがそんなに異常かな。
割とあると思うんだけどね、犯罪者が犯罪者を狙うってケースは。
ダニエル:ふふ、確かにありふれているだろうとも。
だが生憎私は狙われたことがなくてね。
アルバータ:へえ…それは狙われたとしても自分なら何とでも出来るからって自慢か…それとも、狙われることがない小物だって自虐かな。
ダニエル:ああいや、違うよ。自慢じゃあないさ…ただ、小物という訳でもない。
私が狙われた事が無いのは私に手を出せばどうなるか皆知っているからだ。
アルバータ:僕に脅しや嘘は通用しないと思った方がいい、見た感じあんたはそういう事が得意そうだから先に忠告しておいてやる。
ダニエル:ははは!!君のような男に私如きの嘘が通用するなんて思っていないさ、心理戦にもならないだろうね。
アルバータ:随分と自分を卑下するんだね…ならどうするんだい?僕を招き入れて何がしたい。
ダニエル:なに、ただのゲームさ。
アルバータ:ゲーム…?ババ抜きでもするかい?あ、テキサスホールデムでもブラックジャックでもいいよ。
ダニエル:そういうのじゃない、ルールは単純明快さ。
君と私の部下…どちらが勝つか賭けよう。
アルバータ:賭けるっていったって、賭けの対象は分かりきってる事じゃないか。
ダニエル:人の話は最後まで聞くべきだよ、賭ける”モノ”をまだ説明していないだろう?
アルバータ:はぁ、年長者の話ってつまんない癖に長いから嫌いなんだよね。
手短に済ませてよ。
ダニエル:ははは、私の前でそんな口を利く人間は初めて見たよ。案外豪胆だな。
まぁいい、簡潔に言うと…私の部下が勝った場合、君には自分達の力を過信し過ぎた罰として───
(ダニエルが内ポケットから拳銃を取り出しテーブルに放る。)
ダニエル:この拳銃で頭を撃ち抜いて貰おう、もちろん全員。
アルバータ:へぇ…訂正するよ。年長者の話もたまには悪くないね。
…それで?僕の部下が勝ったら君は何してくれるんだい?
ダニエル:それに関しては君に課した罰と同等のものを背負うつもりさ、同じように私も頭を撃ち抜こうか?
それか…君が決めてくれてもいい。
アルバータ:じゃあ決めさせてもらうよ。
そうだな…僕らが勝ったら、君の部下…イライザを貰おうか。
(アルバータが言い放った瞬間、ダニエルは鬼のような形相で拳銃をアルバータに突きつける。)
ダニエル:オイ…調子に乗るのもいい加減にしろよこのクソガキ。
いいか?イライザは私の全てだ…あの子の頭脳は一級品だ、貴様みたいな屑が気軽に触れていい存在じゃないんだ。
アルバータ:はは、ようやく本性を出したねオッサン。
あんたにとって彼女がどれだけ大切なものかなんて既に僕の理解の域だ…だけどね、あんた一つ誤算があるぜ。
僕はさ、そういうのを人から奪うのが大好きなんだ。
ダニエル:お前も、本性が出たな。
全く悪趣味な奴だ…ギャングやマフィアなんかよりもタチが悪い。まるで子供のように無邪気に他人の物を奪うのか。
アルバータ:ああ、僕はまだまだ子供気分でいたいんだ…それにね、子供ってのはこの世で一番残酷で綺麗な心の持ち主なんだよ。知ってた?
ダニエル:状況を理解してないのか?お前の命は私の目の前にある、私が少しばかり指を動かせばお前如きのチンケな命なんざすぐに消え失せるんだ。
(ダニエルが凄むと、アルバータは肩を震わせながら吹き出した。)
アルバータ:プッ…ハハハハ!!!
ダニエル:なにが可笑しい?命の危機に晒されてイカれたか。
アルバータ:くっくっ…いや、あんたの大根役者っぷりが面白くてさ…そんなザルな演技じゃ助演どころかエキストラにすらなれないぜ?
演るならもっと上手く演りなよ。
ダニエル:…演技、だと?私のこの怒りを演技だと言うか!!どこまで私を愚弄すれば気が済むんだッ!?
アルバータ:…怒り、ねぇ。なら…どうしてあんたは笑ってるんだ?
ダニエル:笑ってるわけ、ないじゃないか。
(ダニエルは邪悪さを孕んだ満面の笑みでアルバータを見つめる。)
アルバータ:まあ座れよ……にしても、自分の娘の生死がかかってるのに笑うなんて。
流石にそれは僕の理解の外だね。
っと、そんな事より!さっきあんた、人の話は最後まで聞くべきって言ってたな。
ダニエル:…言ったが、なにかね。
アルバータ:僕が勝った時の条件、イライザの身柄を貰うのともう一つ!
…僕が「よし」と言ったら、即座にイライザを撃ち殺せ。
ダニエル:…そんな条件を私が呑むとでも思っているのか、馬鹿馬鹿しい!
アルバータ:いいや、呑むかどうかはあんたが決めることじゃないよ。
呑ますか呑ませないかを僕が決めるんだ。
それに、最初に賭けを提案したのはそっちじゃないか。
ダニエル:どこまでも傲慢で、純粋で…食えん男だな君は。
アルバータ:僕にとってそれは最高の賛辞だ。ちなみにだけど、呑まないのなら今すぐにイライザを殺す事になる。
僕の部下は優秀でね、機械にも強いんだが毒の調合も出来ちゃうんだ。
ダニエル:バネッサ・クリスティ…いつ仕込んだ…!私の愛しいイライザに!いつ毒を盛った!
アルバータ:まだ『愛娘を想う良いパパ』を演じるんだねえ…残念ながら、答え合わせにはまだ早いよ。
シンキングタイムは長く取る方なんでね…それで?乗るのか乗らないのか、どっちだ?
ダニエル:…乗るしかないだろう。
全く、本当に悪趣味だな。
アルバータ:はは、あんただって悪趣味さ。
それじゃあ見届けようじゃないか…君の部下と僕の部下、どちらが信頼するに足るのかを。
(2人は対峙し笑みを浮かべ合った。)
─────────────────
(時を同じくして路地裏、フィオナとカルロの戦闘はまだ決着していない。)
カルロ:なるほどねぇ、そんな過去があった訳か。
フィオナ:えぇ、だから彼を悪く言うのは私が許さない。
命の恩人だもの。
カルロ:カカッ、いい友情じゃねえか。アツいねぇ。
フィオナ:さ、もう無駄話はいいでしょ。
早く行かなきゃいけないの。
カルロ:あー、そうだな。
んじゃまぁ…死んでくれ。
(カルロは弾丸を放つが、それと同時にフィオナが前進する。)
カルロ:マジか!突っ込んできやがった!
フィオナ:…あんたの使ってる銃、9ミリパラベラムね。
弾の種類と口径さえ分かればもう私の領分なのよ!ハンドガンだけで勝とうなんて甘いわ!
カルロ:うはっ、いい蹴りだ!
けど、残念…俺は殺し屋だぜ?ハンドガンだけで戦う訳ねぇだろうがよ!
(カルロがコートを翻すと何丁かの銃とナイフが宙に舞う。)
カルロ:おい女、どんな死に方がしてぇか言ってみな?
フィオナ:そうね…老衰かしら!
(フィオナは警棒をカルロに向けて振るう。)
カルロ:そいつも残念!てめぇにゃ無理な死に方だ!
(マシンガンを手に取り撃つカルロ、間一髪でフィオナは物陰に隠れる。)
フィオナ:もう!私今日銃持ってきてないのに!
カルロ:オラオラオラオラ!!どうしたどうした!銃ならそこら辺に落ちてるぜェ!?
フィオナ:なら拾う時間くらいくれないかしら!?紳士らしくないわよ!
カルロ:ハハハ!悪いが俺ァ紳士と程遠い悪党だぜ!?兎を狩るのにも全力を出すさ!!
フィオナ:私の事を兎呼ばわりだなんて…いい度胸じゃない!
(銃弾の嵐の中、フィオナはポケットから筒状の物を取り出しカルロに投げる。瞬間、カルロの視界が真っ白に光る。)
カルロM:なんだ?何をされた?目が開けられない…耳もキンキンしやがる。あの女が投げた物……閃光手榴弾か!
カルロ:クカカッ!随分戦闘慣れしてるじゃねぇか女ァ!!こんなモン使うってこたァさては傭兵上がりだな!?
(一時的に目が機能しなくなったカルロは虚空に向かって銃を撃ち続ける。)
フィオナ:…80点ね。
カルロ:そこかァ!?
(胸元にあるナイフを取り出し後方に向かって大きく振るうカルロ、しかしそこに手応えはなく、フィオナの気配すらも無い。)
フィオナ:訂正する、20点だわ。あんた…兎舐めすぎよ。
カルロM:また後ろから声…!?この女、最初から俺に乱射させない為に…!!
カルロ:う、おぉッ!!!
(カルロが薄らと光が見え始めた目を開きトリガーに指をかける。しかし、既に眼前にはフィオナの警棒が映っていた。)
カルロ:…畜生、なんだその目。狩る側じゃねぇか。
フィオナ:ありがと。もう寝てていいわよ、青二才くん。
(フィオナが渾身を込めて振るう警棒がカルロの顔を叩く。後方に飛ばされたカルロはそのまま糸が切れたようにぐったりと倒れた。)
フィオナ:はぁ…はぁ…答え合わせしてなかったわね、私は"傭兵上がり"じゃないわ……まだまだ現役よ。
───────────────
(社長室で対峙しているアルバータとダニエル。アルバータは足を組み口を開く。)
アルバータ:ところでさぁダニエル。
君の愛娘のイライザちゃん、今どこにいるのさ。
ダニエル:…それを、君に教えると思うかね?
もしかすると殺されてしまうかも知れない愛娘の居場所を易々と教える馬鹿がどこにいると言うんだ?
(ダニエルの問答にアルバータはニヤケ顔でダニエルを指す。)
アルバータ:ここにいる。
どうだい?他の奴らを待ってる間退屈じゃないか?僕とゲームをしようよ。
ダニエル:その気になれば私はお前を殺せる事を忘れないで欲しいんだが…まぁいいよ。
やろうじゃないか。
アルバータ:オッケー!トランプを持ってきたんだよ、ババ抜きでもする?テキサスホールデムでもいいよ?それともブラックジャック?
ダニエル:なんでもいい。君の余興に付き合ってあげてるんだ、君が決めて私を楽しませたまえよ。
アルバータ:はぁ…最近のおっさんはノリが悪いね。
んー、それじゃあ神経衰弱でどうだい?ルールは分かるよね?
ダニエル:あぁ。
アルバータ:じゃあ決まりー!それじゃあカード持ってくるよ。
(椅子から離れ、何処かに行こうとするアルバータをダニエルは制止する。)
ダニエル:待て。
お前が持ってきたトランプなら仕掛けがあってもおかしくないだろう?だから…私がトランプを持ってくるよ。
アルバータ:疑い深いなぁあんたは。
まぁ、そっちの方が助かるけどさ。
ダニエル:ほら、新品のトランプだ。
君と私、交互にシャッフルしてから並べようか。
アルバータ:念入りだね、いいよ。
(2人でトランプを1回ずつシャッフルし、机に並べていく。)
アルバータ:…ダニエル、あんたさ。
自分が殺される姿が想像出来るかい?
ダニエル:…出来ないね、殺された事がないものだから。
アルバータ:今まで何人も殺してきただろうに、それを自分に置き換える事も無かったの?
ダニエル:ハハハッ!ある訳ないだろう?殺されるのはいつも決まって弱者のみなんだよ、アルバータ・フィリップ。
私は強者だ、故に殺される未来など想像出来んね。
アルバータ:ふぅん。
なら良かったよ、初めて体験させてあげられそうで。
ダニエル:…どういう意味かね?
アルバータ:よし!並べ終わった。
ダニエルから先手でいいよ。
(2人は黙々と神経衰弱を開始する、開始して1分程でダニエルがミス、アルバータの手番となる。)
ダニエル:これ、先攻が不利なんじゃないか?
アルバータ:あんたは文句ばっかりだな…ほっ、と。
よいしょ。
お、これもだ。またまた揃った。
(何枚もペアを作っていくアルバータ。ダニエルの中に確信が生まれる。)
ダニエルM:こいつ、間違いなくイカサマをしている…後攻でカードの場所が少しわかるとは言えこれ程スムーズにペアが出来上がる確率なんてそうそう高くはない。
ダニエル:…なぁアルバータ。
アルバータ:なんだい?
ダニエル:この茶番はなんだ?イカサマだらけのこのゲームに何の意味がある。
アルバータ:茶番だのイカサマだの酷いな、僕は真剣にゲームを楽しんでるさ……にしても、運がいいね僕は。
(その時、ダニエルの携帯が2コール鳴る。)
ダニエル:……運がいい?それは違うよアルバータ。
君は私を狙った時点で運もクソも無い、狙う相手を間違えたよ。君は。
アルバータ:…それは、どういう意味かな。
(アルバータがトランプから目を外しダニエルの方を向くと、後ろからドアが開く音がした。)
カルロ:よぉ、ボス。終わったぜ。
ダニエル:おぉカルロ…始末したのかな。
カルロ:勿論、傭兵の姉ちゃんも眼鏡っ娘もな。
全部終わったぜ。
アルバータ:…フィオナとバネッサをどうした。
カルロ:アァ?なんだコイツは。
あー…お前がアルか?話は聞いてるぜ、傭兵の姉ちゃんが言ってた。
アルバータ:フィオナを殺したのかッ!
カルロ:そう声を荒げんじゃねえよ、まだ死んじゃいねーだろうさ。
殺そうとしたがもう少しの所で川に飛び込んで逃げちまいやがった。
眼鏡っ娘の方は縛り上げてイライザの元へ届けてきたとこだ。
アルバータ:そんな……。
ダニエル:ふ、ふふ…ふはははは!!!!
どうしたんだいアルバータ!さっきまでの威勢が嘘のようだね!?
さぁ、賭けは私の勝ちだ。
君の部下は負け、私の部下が勝った。
カルロ:あ?賭けなんかしてたのか。
ダニエル:あぁそうさ!コイツの部下が君達に負けたら私の勝ち!
約束は覚えているね?
(ダニエルは懐から拳銃を取り出し、机に放る。)
ダニエル:これで、君の頭蓋を撃ち抜いてもらおうか。
アルバータ:…ふはっ。
ダニエル…あんた、自分で言った事を忘れたのかよ?
ダニエル:あ?見苦しいねアルバータ・フィリップ!
いいだろう、付き合ってあげるよその戯言に。
教えてくれ、私が言った事…それはなんの事を言っているんだい?
アルバータ:ああ教えてやるよ。シンキングタイムは終了…答え合わせだ。
『君のような男に私如きの嘘が通用するなんて思っていない、心理戦にもならない』…そう言ったね。
当たりだよダニエル、心理戦にもならなかった。
(アルバータが手を叩く。するとオフィスのドアから縛り上げられたイライザとバネッサを連れてフィオナが出てくる。)
フィオナ:遅れてごめんなさいアル。
暴れられたものだから少し手間取ってしまったわ。
アルバータ:いやいや、上出来だよフィオナ。
それに…カルロもありがとう。
ダニエル:……は?何を、言っている。
カルロ:疲れたぜ今回の依頼は。
なんと言ってもダブルブッキングだったからなァ。
ダニエル:カルロ…貴様!!私を裏切ったのか!!
カルロ:裏切る?何言ってんだ。
俺はお前らの依頼をこなしたぜ?同時に、しっかりとな。
仕事を選ばねぇのがプロ、てめぇもそう言ってたなァ。
ダニエル:まさか…アルバータ、貴様。
アルバータ:もう分かったかな。
あんたの味方は初めからイライザしかいない。
あんたがカルロと接触し、フィオナとバネッサを始末しろと依頼した後…僕はすぐカルロと会ったんだ。
カルロ:「ダニエルからの依頼をこなしつつ、バネッサとフィオナを死なない程度に痛めつけろ」ってな。
こいつはイカれてると思ったぜ?自分の仲間を狙えってわざわざ依頼しに来たんだ。
フィオナ:アルは私には「カルロという男が君を狙いに行く、ある程度戦闘は覚悟して隙を見て逃げてくれ。」と言った。
アルバータ:その後、僕が2コール電話を鳴らしたらイライザの居場所に行って連れてきてくれって頼んだんだ。
ダニエル:…何故イライザの場所が分かった。
絶対に分かるはずがない!何故ならあそこは…!
アルバータ:君の隠れ家にいる、最初から分かっていたさ。
ダニエル:どうやって…!!
アルバータ:僕らは1度イライザに会って食事をしてるんだぜ?GPSなんていくらでも付ける機会があるじゃないか。
ダニエル:そんなはずは無い!イライザの服も、体も念入りに調べてから逃がしたのだ!
GPSなんてどこにも…!
アルバータ:服や体には、ね。
ダニエル…イライザが肌身離さず持っているものがあるだろ?
ダニエル:…コンピューター、か。
アルバータ:正解。僕らはイライザ自身にGPSを付けた訳じゃない。
コンピューターの内部にウイルスを送り返した時、同時に位置情報も抜き取った。
簡単な事だろ?
(アルバータが説明をしていると、イライザが目を覚ます。)
イライザ:ここ、は。
ダニエル:イライザ…!ああ、すまないイライザ……!私の、せいで…!
イライザ:…大丈夫よ、パパ。
私…どこも痛くないから。
バネッサ:う、ん……?
(バネッサも目を覚まし、周りを見渡す。)
バネッサ:あ、アルバータさん…フィオナさん!成功したんですね!って…なんで私、縛られてるんですか?!
フィオナ:…なんとなく?
アルバータ:やあ、おはようバネッサ。
もう少しそのままでいてくれるかな、ここからがフィナーレなんだ。
イライザ:あなたが、アルバータ・フィリップね。
……私達から、何を奪うの?
アルバータ:あー、違うよイライザ。
僕が奪うのは君自身だ、君は僕らの素性を探り出した唯一の人間だからね。
あまり放置する訳にはいかないんだ。
イライザ:…私を、殺すのね。
アルバータ:うん、物分かりがいい子供は好きだよ……けど残念だ、君を殺さなくちゃいけない。
ダニエル:頼む、アルバータ…イライザ以外なら何も要らない!私の命だって…だから…この子だけは殺さないでくれ!
アルバータ:ダニエル…あんた勘違いしてるよ。
僕が殺すんじゃない。殺すのは…。
(アルバータは机の上の拳銃を指でトントンと叩き、ダニエルに言う。)
アルバータ:あんた自身だ。
賭けの対象、罰として言っただろ?『僕がよしと言ったらイライザを撃ち殺せ』って。
イライザを殺すのは僕じゃない、君だよ。
ダニエル:な、ん…アルバータ・フィリップ。
お前は、一体いつから…。
アルバータ:最初から、君を狙おうと思った時からこうなる事は決まってたんだ。
運が悪かったね、ダニエル。
僕に狙われた時点で君は負けていた。
ダニエル:う…ぐ、ぅああぁぁ!!!
(ダニエルは拳銃を手に取り、自らのこめかみに押し付ける。)
イライザ:ダニエル!?何してるのよ!!私を撃ち殺せばいいじゃない!
ダニエル:…すまない、イライザ。
私は予測ができなかった…こうなる事を、予期していなかった。
私の失態は、私の命でケジメを付けるべきだ!
イライザ:駄目よダニエル!!やめて───
(銃声がオフィスに響く。頭部から血を流しながら、ダニエルは床に伏す。)
イライザ:あ、ぁ……ダニエル?ねえ…ダニエル!起きてよ!!ダニエルッ!!!嫌!嫌ぁぁぁあぁっ!!!
(泣き崩れるイライザを横目に、アルバータはため息をつく。)
アルバータ:はぁ……つまんない幕切れだな。
まあ!大事な物は奪えなかったけど、これでいいかな。どうだい?ダニエル…殺された側の気分は?って、聞こえやしないか。
さて…フィオナ、バネッサ。帰ろうか?
カルロ:オイ、俺はどうすればいい?それともここで依頼完了か?
アルバータ:あー、そうだね…イライザを始末しておいてくれ。
まぁ、もう生きる希望はないかもしれないけど…いや、復讐の為に生きるかもしれないね。
カルロ:カカッ、ゾクゾクするぜ。お前のそのイカれ具合…あらゆる可能性を考えて全て潰していく徹底ぶり。
ギャングや殺し屋なんかよりタチが悪ぃ。
そういや、お前あのガキンチョに毒を盛ったんだろ?大丈夫なのかよ?
アルバータ:ああ、あれなら嘘さ。
そうじゃなきゃ…ダニエルはきっと僕の誘いに乗ってくれなかっただろうから。
…褒め言葉は丁寧に受け取っておくよ。
それじゃ、またねイライザ…それにダニエル、とても楽しかった。
あぁ、そうだ。
…僕はイカサマなんてしてないよ、カードの順番を全部覚えているんだ。
さっきも言ったが…最初から君に勝ち目は無かったんだよ。
じゃあね、ダニエル・ウィリアムズ。
(アルバータはそう言い放ち、フィオナとバネッサを連れオフィスを後にした。)
─────────────────
(ダニエルが横たわる傍で、イライザは泣いていた。)
イライザ:う、ぅ………カルロ、もう彼らは行った?
カルロ:…あぁ。
イライザ:ふぅ…泣く演技って思ったより疲れるのね。
ほら!いつまで寝てるのダニエル、起きて!
(先程銃弾に倒れたはずのダニエルが、ムクリと起き上がる。)
ダニエル:いてて…空砲とは言え、まだ耳がキンキンしているよ。
いやぁ、助かったよカルロ!君から貰った血糊、まるで本物だね!
カルロ:そりゃ本物だからな…にしても、名演技だったぜ2人共。よくやり遂げれたなァ?
ダニエル:そんな事よりカルロ、君ちょっとやり過ぎじゃないのか?イライザに傷がついたらどうするんだ全く…。
本当なら殺してしまう所だけど、色々と手を回してくれたし…許すとしようか。
イライザ:大丈夫よ、どこも怪我してないわ。
にしても、よく考えたわねダニエル。
ダニエル:ふふ、彼には私如きの生半可な心理戦や嘘は通用しないからね。
カルロ:生半可なら……な。
あの野郎のイカれっぷりは本物だ、演技でもなんでもない。自分を楽しませなくなったテメェに対して全く興味が無さそうだったぜ、最も…この茶番が通用してるのかどうかも分かんねぇが。
ダニエル:通用しているよ、私だけの頭脳なら彼に太刀打ちできる気はしないけれど、今回はカルロも…愛しのイライザもいる。
それに……彼らは確実に標的の全てを奪う、誰一人として逃した事はない……ははは、どうだい?賭けは逃げ仰せた私の逆転勝ちさ。
私もイライザも生きていて、彼らは何も奪えなかったんだからね。
イライザ:さ、あまりここに長くいたら良くないわ…コンピューターは捨てなきゃいけないわね。
新しいの買ってくれる?パパ。
ダニエル:あぁ勿論。シドニー旅行と一緒にプレゼントしよう。
イライザ、チケットは持ったかい?
カルロ:んで?てめぇらシドニーに行ってどうすんだ?
ダニエル:そうだな、少し姿を消すよ。彼は恐らく追ってくるだろう…仲良くシドニーで熱いコーヒーでも飲むとするさ。
カルロ:ケッ、そうかよ。
悪魔が2人も消えりゃ、この街も随分住みやすくなるぜ。
ダニエル:悪魔だなんて…酷いなあ。
まぁ、君のその減らず口が聞けなくなるのは残念だけれどね。
殺される側の気分、なかなか悪くなかったよ…アルバータ・フィリップ。
…後で報酬を振り込んでおくよ、後処理はよろしくね、それじゃあ。
イライザ:じゃあねカルロ、また会いましょう。
(2人の悪党は、そうしてオフィスを後にして姿を消した。部屋に残された一人、カルロは呟く。)
カルロ:…結局、アルバータ・フィリップは何も奪えず、ダニエル・ウィリアムズは何も奪われず逃げ切った。
うーん、今回はダニエルのが1枚上手ってとこだな。
カカッ…面白くなってきたじゃねえか…なァ?"ボス"。
さぁ、これで依頼完了だ。
(ケラケラと笑い声を上げながら、カルロはオフィスに"ゴング"を鳴らした。)
───────────────────
(数日後、アメリカ某所のカフェには談笑している3人の悪党がいた。)
バネッサ:まったく!!酷いですよ!あの時私を縛り上げたまま帰ろうとしましたよね!?
フィオナ:まぁまぁ、落ち着きましょうよバネッサ。
アルも悪気があった訳じゃないわよね?
アルバータ:いやー、すっかり忘れてたね!
…けどまぁ許してよ。あの時は必死だったんだ、ダニエルが自殺してどうしようもなくなっちゃってさ。
フィオナ:…あれは、アルでも予想出来なかったの?
アルバータ:出来るわけないだろ?彼はイライザに対して何の愛着もないただのサイコ野郎だと思ってたんだよ。
それなのに僕としたことが……やられた、あのたぬきジジイめ。
バネッサ:ダニエルさん……本当に死んでしまったんでしょうか…?
アルバータ:バネッサ…君って情報を売りにしてる癖にニュースも新聞も見ないんだねぇ。
(アルバータは手に持っていた新聞を机に放り投げる。)
バネッサ:なんですか?これ…なになに、『DWコーポレーションで謎の爆発、犯人の足取りは依然として掴めず』…って、DWコーポレーションってダニエルさんの会社じゃないですか!
アルバータ:君のオツムで考えればすぐ分かるだろうけど、これは宣戦布告だよ。
…ダニエルは死んでなかった、僕に生きている事を証明する為にわざわざ会社を爆破させるなんて、大胆なおっさんだね。
バネッサ:確かに…死んでいるなら爆破なんて有り得ませんもんね…。
行方をくらます為に会社を破壊して…まるで"ゴング"のようです。
フィオナ:さしずめ第2ラウンド開始と言ったところね。
拳銃は空砲、血は血糊か何かかしら…あの殺し屋もグルなのかしら?
まさかアルが見抜けなかったなんて。
アルバータ:屈辱だよ…負けた!彼は僕を騙しきったんだ。
イライザもカルロも当然グルだろう、僕らが行く前から計画してたんだ。
はぁ……裏の裏をいかれた、最悪だよ…クソッ。
(机を叩き腕を組むアルバータ、帽子を深く被り不貞腐れていた。)
バネッサ:き、機嫌悪いですね…なんであんなに苛立っているんです?
フィオナ:騙せなかった人間は居ないって豪語してたのに逆に騙されて何も奪えず終いだもの。
でも、機嫌は悪くないわ。前にもあんな時があったのよ。
むしろ、彼は今凄く機嫌が良いのよ?アルがあんなに楽しそうなの、久しぶりに見たわ。
バネッサ:そうなんですか…私には、さっぱり分からないです。
アルバータ:イライザを脅しに使った時の激昂も、演技じゃなく本物だった…僕に嘘と思わせる為の嘘の上塗りだったんだ。
ふふ、面白いじゃないか。次だ…次こそは、僕が勝つよ。ダニエル・ウィリアムズ。
(帽子の下で、アルバータは窓を眺め微笑んでいた。)
フィオナ:ほら、嬉しそうでしょ?自分と同じくらい悪い奴が現れたんだもの…アルにとってこれ以上の楽しみは無いわよ。
バネッサ:ふふ、本当ですね。
なんか…負けちゃったけど、こうまで綺麗にやられると清々しいですね。
(バネッサの言葉を聞いた瞬間、アルバータが席を立つ。)
アルバータ:はぁ!?全く情報屋のくせにバカだな君は!
騙されたのに清々しい訳ないだろ!?
さあ、ちゃっちゃと行くよ!
バネッサ:い、行くってどこに!?
アルバータ:はいこれお会計!また来るよ!
さて、フィオナ!頼んでおいた航空券は?
(フィオナは鞄から航空券を3枚取り出した、そこには『シドニー』の文字がある。)
フィオナ:ここにあるわよ…シドニー行きの便、取るの大変だったんだからね?
アルバータ:でかした、それじゃあ行こう!そろそろ搭乗手続きに行かなきゃ。
バネッサ:え、い…今からシドニーに行くんですか!?ていうか、なんでシドニーなんですか!?
アルバータ:先日ダニエルのオフィスに行った時シドニーの旅行パンフレットとチケットが2枚あった。
だからまあ、逃亡先はシドニーで間違いないだろうね。
それに…僕らは喧嘩を売られたんだ、売られたものは僕は全部買うよ!
バネッサ:あの状況で良くそこまで見れましたね…というか、どちらかと言うと先に喧嘩を売ったのは私達の方ですけど。
フィオナ:はあ…この調子だとまだまだ振り回されそうね。
アルバータ:……こんなデカデカと名前を出しやがって。
僕への挑発だな?いいさ、受けて立つよ。
フィオナ:でも、イライザは奪えなかったんだし…2度も同じような手が通じるとは思えない、もう彼から奪えるものなんてないんじゃないの?
そこまで楽しめるものだとは思わないけれど?
バネッサ:そうですよぉ!わざわざ敵陣に行くなんてやめましょうよぉ…。
アルバータ:少し…やり残した事があるんだ。
フィオナ:やり残したこと…って?
(アルバータは帽子を取りながら、爽やかな笑顔で振り向く。)
アルバータ:…彼のコーヒーを飲み損ねた。
end.
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