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第四章
リーヴァ=リバーヴァ-04
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「…ボクはさ、もともと神鋼石の薬莢集めで生活してたんだ」
ダシュタットへと出立する前夜、シェスターが不意に俺の元へやってきた。
「知ってると思うけど、薬莢集めってのは大変だけど、それなりに儲かる仕事でね。特にボクはその薬莢に精神力を封じる術を知ってたんだ。だから、これでもあっちこっちの騎士様のところで結構重宝されてたんだ。ボクの薬莢は質が良くて、破壊力が高いってね。それで人が死んでいくなんてことまでは考えてなかった。ちょっと考えりゃわかることだった。ボクの両親だって、その紛争で死んでいったわけだからね。でも、何よりも食べていくことが最優先だったんだ」
「ごめん、薬莢集めって職業がある事自体知らなかったよ」
「いいさいいさ、君はどこかズレてるからね。そういうところもご愛嬌だよ。そういや、ライヴ君って、ハンディ・カノンとか使ったこと見たことないよね?」
「そういや… そう、かな?」
「そうだよ。いつも大きな剣振り回して戦ってるもん。パイルバンカーも使ってないでしょ?」
「パイル… バンカー?」
「君のレクルートの両腕に付いてるでしょ? 飛び出す”爪”が」
俺はいつぞやの、アンターとかいう敵兵の言葉を思い返していた。
「うん、付いてる… らしいな。マトモに使ったことないけど」
「よくそれで今まで生きてこれたね~」
「運が良かったんだよ」
俺は夜空を見上げるように、仰向けに寝転んだ。そよそよと吹く風が心地よい。
「兄貴がいたんだ。双子の兄貴。コレがボクとは全く似てなくて、何をやるのもぶきっちょな兄貴だった」
「そうか。で、今は?」
「死んじゃった」
「……」
「ボクは拾った薬莢にマナを封入しては高値で買ってもらって、生計を立ててたんだ。そんな時だった。シマをよこせってね、劣悪な薬莢を売って荒稼ぎしてた連中に目を付けられてさ。お前の腕がほしいって。でもボクは断った! なんで売上を連中なんかに差し出さなきゃなんないんだってね。目一杯抵抗して… 気付いたら兄貴が拐われちゃってた。人質なんだって。ボクは連中に従うしかなかった…」
「そっか。苦労したんだな」
「苦労なんて苦労はしてないさ。ボクにはマナを封入する技術があったからね」
「で、どうしてお兄さんがそんなことに?」
「拐われた時点で殺されちゃってたんだ。なんにも知らずに、ボクは上前をはねられてたんだ。ローン様と出会ったのは、その時だよ。ボクの話を聞いてね、騎士たちを連れて、いっぺんに全てを解決しちゃった。流石だよね。で、暫くはアジ・ダハーカのメンテナンス班にいたんだけど、ある日ローン様が声をかけてきてね。空いてるドラグナーがあるんだけど、乗ってみないかって。最初は、怖くて断った。でも、何度も誘われて乗ってみたんだ。それが、今乗ってるラーヴァナ。ベース騎はあれ、クワットなんだよ? ボクが乗ったら、全然別の機体になっちゃった! …で、それからボクは剣術を叩き込まれて、騎士になったの。そういう意味では、変わり種なんだ、ボクって!」
「シェスターの話を聞いてると、なんだか他人事じゃないな。俺だって、行きがかり上乗ったのがレクルートだし」
「だからさ、余計に親近感を持ったんだよ。そんなボクからの忠告、聞いてくれるかな?」
「…なんだい?」
「大事な人がいるなら、その人のことを最優先に考えなさい。でないと、あとで辛い思いをするよ…」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸運である。心穏やかであろうから。だからこそ伝えよう、歴戦を戦い抜いた勇者たちの物語を。…皆さん、こんばんは。当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか? さて。前回の物語ではリーヴァ=リバーヴァが拐われ、ブラウ=レジスタルスは南下してダシュタットの地へと向かうことになりました。はたして、このダシュタットでリーヴァ=リバーヴァの手がかりを見つけることはできたのでしょうか?…そんな事、聞かずとも知っているよ! そういう声も聞こえてきそうですね。では、史実ではどうだったのでしょうか?」
「それを今、ここで解説するのは野暮でしょう?」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授である。
「このあたりの展開は、史実と見て間違いありません。そのようにオベリスクのレリーフにも、また物流を記録したバンバスの資料からも、これらのことが事実であったと語りかけています…」
◇ ◇ ◇ ◇
「ええ~…!? 今からアーサーハイヴへ向かう?」
ローンからの突然の発表があったのは、進撃開始から4時間が経った頃だった。誰もがその発表に驚きを隠せなかった。何故なら、ほんの半日前のブリーフィングではディーパ・ティイから南下、ダシュタットの同胞を助けに向かうという話になっていたからである。
「ローン様、一体どうしちゃったの?」
「言ったとおりだよ、シェスター。これからこのアジ・ダハーカは西に舵を切り、アーサーハイヴへ向かう」
「それにしても、突然だわ。これでは追従している騎士団が着いてこれないわよ!」
「フラウ、外をよく見てご覧」
「…ローン様、これって…」
「ああ、各中隊には一定の時間でアーサーハイヴへ向かうよう、書簡で指示してある。時間が来たら、印璽の封を切って内容を確認し作戦に付くようにとね」
「ライヴ… まさか?」
「ああ、俺の策だよ。ちょっとしたことがあってね、こういう方法を取らざるを得なかった」
「でも、ここからだとアーサーハイヴまで3時間はかかる計算よ?」
「ある情報があってね、ダシュタットにはアーサーハイヴの5割強の兵団が集まっている」
「それって、どうして…」
「情報をリークしたのさ」
「リーク? リークってなに?」
「それはね、シェスター。故意に敵に情報を流すってことさ」
「でも… 故意に情報を流しただけで、そんなに効果が出るもの?」
「ああ、フラウ。今はまだ言えないけれど、そういう事になってる。それに…」
「それに?」
「既にフィスクランド・フェアンレギオン砦にも援軍の要請を行っているんだ」
「なんてこと…!?」
「何か都合が悪かった? ヘリン」
「そんなことはないけれど…」
「だが、そんなことをしたら、俺達を待っているダシュタットの同胞たちはどうなる?」
「マーン、聞いて欲しい。ちゃんと彼らにも通達が行っている。抜かりはないよ」
「だけど…!」
「ダシュタットの人たちには、派手に陽動してもらえるように手配してる。心配はないよ」
「…ローン様!」
「マーン。先程言ったとおりだ。これからアジ・ダハーカはアーサーハイヴを目指し転進する!」
「クソッ!」
マーンは怪訝そうにブリーフィングルームから出ていった。ヘリンが心配そうにマーンを追おうとしたが、ローンが制止した。
「この作戦の立案者はライヴだ。その目的は、アーサーハイヴの開放と、リバーヴァ嬢の捜索である。何か、質問は?」
「…ライヴ君!」
「ライヴ…」
「…そういうことさ。黙っていて悪かった」
俺は改めて全員に向き合うと、作戦の概要を伝えた。
「情報をリークしたことで、ダシュタットにアーサーハイヴからの兵団が集中、当のアーサーハイヴは実情として最低限の兵士しか残っていない状況だ。これをフィスクランド・フェアンレギオン砦からの増援も加え、一気に落とす! そのうえで、ちょっとした小細工を仕掛けようかと思うんだけど… シェスター、ヘリンさん、お願いできますか?」
「ボクが何をすればいいの?」
「どうせろくなことではないんでしょ?…いいわよ」
「実は…」
◇ ◇ ◇ ◇
「ええ…!!」
ヘリンが思わず口に手を当てた。よっぽどビックリしたのだろう。それだけのものが目の前にあった。
「そう、これらの書簡をアーサーハイヴの上空からバラ撒いて欲しい」
「こんな枚数、一体どうやって短時間に…?」
「印刷だよ、ヘリンさん。とは言え、簡単に手に入るのはバンバスだからね。文字を裏から透かし彫りにして、インクをその上から塗ったんだ」
「でも、ライヴ君。これだけの枚数、空からバラ撒いても効果あるの?」
「そこは識字率の高さ、かな? 中から混乱させるのさ。こちらは大勢力の上に、更に数を盛って書いてある。一気に攻め滅ぼされたくなくば、城を明け渡せとね。それと、城下の市民には逃げる時間も必要だ」
「いかに上手くいったとしても、第13騎士団がいたらなんとする? 連中は手強いぞ」
「それこそ願ったり叶ったりだよ、ヘリンさん。そこにはリーヴァがいるってことだ」
「とにかく、時間がない。二人にはこの書簡をバラ撒いてもらう。いいな?」
「はい、ローン様!」
◇ ◇ ◇ ◇
果たして。
俺は時間を待った。アーサーハイヴの砦の外には、既にフィスクランドとフェアンレギオン砦からの援軍、加えて、ダーフ・バリエーラ民兵団の姿が待機している。集ったドラグナーは陸/空含め50騎を超え、騎士や兵士は6000を超えた。夜が明け切らぬ間に、城からは市民が逃げ出してきた。ひとり、またひとり…。そしてそれは大群をなし、民兵の手によって整理され安全な場所へと隔離されていく。後は場内の兵士だけだ。俺はアジ・ダハーカの舳先に立ち、大剣を振り上げた。
大きく、深呼吸。そして。
ローンの声が、全隊に届けられた! 突撃信号が上がる!
「レクルート・ファハン、ライヴ=オフウェイ、出る!」
◇ ◇ ◇ ◇
「このアーサーハイヴ攻略戦において、最も注目すべきはその戦い方でした」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「それまでは城内の住人も含めた全員が戦争に巻き込まれることが度々、いや、殆どでした。しかし、予告をすることで市民に殆ど被害が及ばなかったとバンバスの史書には書かれています。また、皆さんが御存知の通り、既に第13騎士団はこの場を離れたばかり。大きな抵抗もなく、アーサーハイヴは僅か数時間で落ちたのです」
「しかし、ライヴ=オフウェイ少年にとっては重大な発見もありました」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「スタディウム・ノーディスタン…この地方、グリーティスタン州の州都に、リーヴァが連れて行かれたという情報を手にするのです。それは、アーサーハイヴの領主によってもたらされました。もともと帝国に強い不満を持っていたアーサーハイヴの領主、フォンデン=フォーレン伯は駐屯していた第13騎士団を恐れるあまり、命令に従っていただけだったのです。それもこれもアムンジェスト=マーダーという一人の男の存在がそうさせたと言うべきでしょう」
◇ ◇ ◇ ◇
「…そうですか、リーヴァはもう…」
「だがね、希望を忘れちゃいかん。あのマーダーは恐ろしい男だが、有用であると考えた者については寛大であると聞いている。つまり、君が彼奴にとって容易ならざる者であり続ける限り、リバーヴァ嬢は安全であると言えよう」
「フォーレン伯の言うとおりだ、ライヴ。おそらく奴は彼女を生かしておこうとするだろう。私達も全力でバックアップする。一緒に奴を倒し、彼女を救い出そう」
「…ローンさん…、ありがとうございます」
「で、ボクも忘れてもらっちゃ困るんだけどな~」
「わ、私だって力になるぞ!」
「…シェスター、フラウ…」
「忘れるな、君には俺達もついている」
「ああ、ただし、美味い酒を忘れるなよ!」
「ハハハ、わかりました。アギル、シュタークさん」
「で、これからどのように動くのかしら?」
「現在ここに集った兵力の半分を残し、ダシュタットを目指します。ダシュタットにいる兵の半分以上はここアーサーハイヴの
方々ばかり。他は、敵となる第13騎士団の一部のみです。一気にいきますよ!」
俺は立案をしながらも、いつか聞いたリーヴァの言葉を思い返していた。
「お願いがあるの。もしあたしがお荷物となる時が来たら、その時は…」
たとえそんな時が来ても、俺は君を助けてみせる。…リーヴァ…。
ダシュタットへと出立する前夜、シェスターが不意に俺の元へやってきた。
「知ってると思うけど、薬莢集めってのは大変だけど、それなりに儲かる仕事でね。特にボクはその薬莢に精神力を封じる術を知ってたんだ。だから、これでもあっちこっちの騎士様のところで結構重宝されてたんだ。ボクの薬莢は質が良くて、破壊力が高いってね。それで人が死んでいくなんてことまでは考えてなかった。ちょっと考えりゃわかることだった。ボクの両親だって、その紛争で死んでいったわけだからね。でも、何よりも食べていくことが最優先だったんだ」
「ごめん、薬莢集めって職業がある事自体知らなかったよ」
「いいさいいさ、君はどこかズレてるからね。そういうところもご愛嬌だよ。そういや、ライヴ君って、ハンディ・カノンとか使ったこと見たことないよね?」
「そういや… そう、かな?」
「そうだよ。いつも大きな剣振り回して戦ってるもん。パイルバンカーも使ってないでしょ?」
「パイル… バンカー?」
「君のレクルートの両腕に付いてるでしょ? 飛び出す”爪”が」
俺はいつぞやの、アンターとかいう敵兵の言葉を思い返していた。
「うん、付いてる… らしいな。マトモに使ったことないけど」
「よくそれで今まで生きてこれたね~」
「運が良かったんだよ」
俺は夜空を見上げるように、仰向けに寝転んだ。そよそよと吹く風が心地よい。
「兄貴がいたんだ。双子の兄貴。コレがボクとは全く似てなくて、何をやるのもぶきっちょな兄貴だった」
「そうか。で、今は?」
「死んじゃった」
「……」
「ボクは拾った薬莢にマナを封入しては高値で買ってもらって、生計を立ててたんだ。そんな時だった。シマをよこせってね、劣悪な薬莢を売って荒稼ぎしてた連中に目を付けられてさ。お前の腕がほしいって。でもボクは断った! なんで売上を連中なんかに差し出さなきゃなんないんだってね。目一杯抵抗して… 気付いたら兄貴が拐われちゃってた。人質なんだって。ボクは連中に従うしかなかった…」
「そっか。苦労したんだな」
「苦労なんて苦労はしてないさ。ボクにはマナを封入する技術があったからね」
「で、どうしてお兄さんがそんなことに?」
「拐われた時点で殺されちゃってたんだ。なんにも知らずに、ボクは上前をはねられてたんだ。ローン様と出会ったのは、その時だよ。ボクの話を聞いてね、騎士たちを連れて、いっぺんに全てを解決しちゃった。流石だよね。で、暫くはアジ・ダハーカのメンテナンス班にいたんだけど、ある日ローン様が声をかけてきてね。空いてるドラグナーがあるんだけど、乗ってみないかって。最初は、怖くて断った。でも、何度も誘われて乗ってみたんだ。それが、今乗ってるラーヴァナ。ベース騎はあれ、クワットなんだよ? ボクが乗ったら、全然別の機体になっちゃった! …で、それからボクは剣術を叩き込まれて、騎士になったの。そういう意味では、変わり種なんだ、ボクって!」
「シェスターの話を聞いてると、なんだか他人事じゃないな。俺だって、行きがかり上乗ったのがレクルートだし」
「だからさ、余計に親近感を持ったんだよ。そんなボクからの忠告、聞いてくれるかな?」
「…なんだい?」
「大事な人がいるなら、その人のことを最優先に考えなさい。でないと、あとで辛い思いをするよ…」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸運である。心穏やかであろうから。だからこそ伝えよう、歴戦を戦い抜いた勇者たちの物語を。…皆さん、こんばんは。当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか? さて。前回の物語ではリーヴァ=リバーヴァが拐われ、ブラウ=レジスタルスは南下してダシュタットの地へと向かうことになりました。はたして、このダシュタットでリーヴァ=リバーヴァの手がかりを見つけることはできたのでしょうか?…そんな事、聞かずとも知っているよ! そういう声も聞こえてきそうですね。では、史実ではどうだったのでしょうか?」
「それを今、ここで解説するのは野暮でしょう?」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授である。
「このあたりの展開は、史実と見て間違いありません。そのようにオベリスクのレリーフにも、また物流を記録したバンバスの資料からも、これらのことが事実であったと語りかけています…」
◇ ◇ ◇ ◇
「ええ~…!? 今からアーサーハイヴへ向かう?」
ローンからの突然の発表があったのは、進撃開始から4時間が経った頃だった。誰もがその発表に驚きを隠せなかった。何故なら、ほんの半日前のブリーフィングではディーパ・ティイから南下、ダシュタットの同胞を助けに向かうという話になっていたからである。
「ローン様、一体どうしちゃったの?」
「言ったとおりだよ、シェスター。これからこのアジ・ダハーカは西に舵を切り、アーサーハイヴへ向かう」
「それにしても、突然だわ。これでは追従している騎士団が着いてこれないわよ!」
「フラウ、外をよく見てご覧」
「…ローン様、これって…」
「ああ、各中隊には一定の時間でアーサーハイヴへ向かうよう、書簡で指示してある。時間が来たら、印璽の封を切って内容を確認し作戦に付くようにとね」
「ライヴ… まさか?」
「ああ、俺の策だよ。ちょっとしたことがあってね、こういう方法を取らざるを得なかった」
「でも、ここからだとアーサーハイヴまで3時間はかかる計算よ?」
「ある情報があってね、ダシュタットにはアーサーハイヴの5割強の兵団が集まっている」
「それって、どうして…」
「情報をリークしたのさ」
「リーク? リークってなに?」
「それはね、シェスター。故意に敵に情報を流すってことさ」
「でも… 故意に情報を流しただけで、そんなに効果が出るもの?」
「ああ、フラウ。今はまだ言えないけれど、そういう事になってる。それに…」
「それに?」
「既にフィスクランド・フェアンレギオン砦にも援軍の要請を行っているんだ」
「なんてこと…!?」
「何か都合が悪かった? ヘリン」
「そんなことはないけれど…」
「だが、そんなことをしたら、俺達を待っているダシュタットの同胞たちはどうなる?」
「マーン、聞いて欲しい。ちゃんと彼らにも通達が行っている。抜かりはないよ」
「だけど…!」
「ダシュタットの人たちには、派手に陽動してもらえるように手配してる。心配はないよ」
「…ローン様!」
「マーン。先程言ったとおりだ。これからアジ・ダハーカはアーサーハイヴを目指し転進する!」
「クソッ!」
マーンは怪訝そうにブリーフィングルームから出ていった。ヘリンが心配そうにマーンを追おうとしたが、ローンが制止した。
「この作戦の立案者はライヴだ。その目的は、アーサーハイヴの開放と、リバーヴァ嬢の捜索である。何か、質問は?」
「…ライヴ君!」
「ライヴ…」
「…そういうことさ。黙っていて悪かった」
俺は改めて全員に向き合うと、作戦の概要を伝えた。
「情報をリークしたことで、ダシュタットにアーサーハイヴからの兵団が集中、当のアーサーハイヴは実情として最低限の兵士しか残っていない状況だ。これをフィスクランド・フェアンレギオン砦からの増援も加え、一気に落とす! そのうえで、ちょっとした小細工を仕掛けようかと思うんだけど… シェスター、ヘリンさん、お願いできますか?」
「ボクが何をすればいいの?」
「どうせろくなことではないんでしょ?…いいわよ」
「実は…」
◇ ◇ ◇ ◇
「ええ…!!」
ヘリンが思わず口に手を当てた。よっぽどビックリしたのだろう。それだけのものが目の前にあった。
「そう、これらの書簡をアーサーハイヴの上空からバラ撒いて欲しい」
「こんな枚数、一体どうやって短時間に…?」
「印刷だよ、ヘリンさん。とは言え、簡単に手に入るのはバンバスだからね。文字を裏から透かし彫りにして、インクをその上から塗ったんだ」
「でも、ライヴ君。これだけの枚数、空からバラ撒いても効果あるの?」
「そこは識字率の高さ、かな? 中から混乱させるのさ。こちらは大勢力の上に、更に数を盛って書いてある。一気に攻め滅ぼされたくなくば、城を明け渡せとね。それと、城下の市民には逃げる時間も必要だ」
「いかに上手くいったとしても、第13騎士団がいたらなんとする? 連中は手強いぞ」
「それこそ願ったり叶ったりだよ、ヘリンさん。そこにはリーヴァがいるってことだ」
「とにかく、時間がない。二人にはこの書簡をバラ撒いてもらう。いいな?」
「はい、ローン様!」
◇ ◇ ◇ ◇
果たして。
俺は時間を待った。アーサーハイヴの砦の外には、既にフィスクランドとフェアンレギオン砦からの援軍、加えて、ダーフ・バリエーラ民兵団の姿が待機している。集ったドラグナーは陸/空含め50騎を超え、騎士や兵士は6000を超えた。夜が明け切らぬ間に、城からは市民が逃げ出してきた。ひとり、またひとり…。そしてそれは大群をなし、民兵の手によって整理され安全な場所へと隔離されていく。後は場内の兵士だけだ。俺はアジ・ダハーカの舳先に立ち、大剣を振り上げた。
大きく、深呼吸。そして。
ローンの声が、全隊に届けられた! 突撃信号が上がる!
「レクルート・ファハン、ライヴ=オフウェイ、出る!」
◇ ◇ ◇ ◇
「このアーサーハイヴ攻略戦において、最も注目すべきはその戦い方でした」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「それまでは城内の住人も含めた全員が戦争に巻き込まれることが度々、いや、殆どでした。しかし、予告をすることで市民に殆ど被害が及ばなかったとバンバスの史書には書かれています。また、皆さんが御存知の通り、既に第13騎士団はこの場を離れたばかり。大きな抵抗もなく、アーサーハイヴは僅か数時間で落ちたのです」
「しかし、ライヴ=オフウェイ少年にとっては重大な発見もありました」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「スタディウム・ノーディスタン…この地方、グリーティスタン州の州都に、リーヴァが連れて行かれたという情報を手にするのです。それは、アーサーハイヴの領主によってもたらされました。もともと帝国に強い不満を持っていたアーサーハイヴの領主、フォンデン=フォーレン伯は駐屯していた第13騎士団を恐れるあまり、命令に従っていただけだったのです。それもこれもアムンジェスト=マーダーという一人の男の存在がそうさせたと言うべきでしょう」
◇ ◇ ◇ ◇
「…そうですか、リーヴァはもう…」
「だがね、希望を忘れちゃいかん。あのマーダーは恐ろしい男だが、有用であると考えた者については寛大であると聞いている。つまり、君が彼奴にとって容易ならざる者であり続ける限り、リバーヴァ嬢は安全であると言えよう」
「フォーレン伯の言うとおりだ、ライヴ。おそらく奴は彼女を生かしておこうとするだろう。私達も全力でバックアップする。一緒に奴を倒し、彼女を救い出そう」
「…ローンさん…、ありがとうございます」
「で、ボクも忘れてもらっちゃ困るんだけどな~」
「わ、私だって力になるぞ!」
「…シェスター、フラウ…」
「忘れるな、君には俺達もついている」
「ああ、ただし、美味い酒を忘れるなよ!」
「ハハハ、わかりました。アギル、シュタークさん」
「で、これからどのように動くのかしら?」
「現在ここに集った兵力の半分を残し、ダシュタットを目指します。ダシュタットにいる兵の半分以上はここアーサーハイヴの
方々ばかり。他は、敵となる第13騎士団の一部のみです。一気にいきますよ!」
俺は立案をしながらも、いつか聞いたリーヴァの言葉を思い返していた。
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