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第五章
大草原血に染めて-02
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アーサーハイヴから西に32kmほどから、フラックフェルト平原が見えてくる。ここからダズアルト砦までは小さな集落が点在しているだけとあって、本当にだだっ広い平原しか見えない。それこそ、地平線しか見えないのだ。俺はアジ・ダハーカの甲板からいろんな心配事から逃げるように、遠くを眺めながら気分転換をキメていた。
「あ、ライヴ君ってば、ここにいたんだね! 何してんの?」
「ああ、シェスターか。いや、ちょっと気分転換」
「そんなところにいても気分が滅入るだけだよ? 見渡す限りの草原だもの。たまに集落や旅のキャラバン隊のベースキャンプが見えてくるだけで、後はなんにもないんだから!」
シェスターはそのクリっとした瞳をイタズラっぽく輝かせながら、俺を見上げてきた。
「あの… あのさ。もしライヴ君さえよければ、なんだけど。この先に大きなマーケットが開かれているらしいんだよね? ね、行ってみない? どうせ景色を眺めるくらいしか用事がないんでしょ?」
「まぁ、確かに用事らしい用事はないんだけどな。ま、それもいいか」
「やった!」
シェスターは小さくガッツポーズをすると、嬉しそうに笑いかけた。
「ああ、ライヴ。ここにいたのか! …ああ、シェスターもいたのか?」
フラウだった。なんとも形容し難い複雑そうな表情をしている。
「で、まさかと思うのだが、既にマーケット行きの話ができているとはいわないよな?」
「うん! 今誘って、OK貰ったところだよ!」
無邪気さというものは、時として非情なものである。フラウのこめかみがピクリ、と動いた。
「一体何を考えているんだ? ライヴはこの隊にとって、大切な軍師兼兵士なのだぞ? 彼の身に何かあったら同責任を取るつもりだ?」
「ふっふ~ん…。とかなんとか言って、フラウもホントはマーケットに誘いたかったんじゃないの?」
「なななななにを不謹慎なことを! 私はライヴとだなぁ… けけけ剣術をだなぁ…」
「舌が回ってないよ? さては、図星でしょ?」
「そ、そんなことはない! 私は、私はだなぁ…」
「…付いてきてもいいよ? ライヴ君を護衛する人は必要でしょ?」
「護衛って、シェスター…!」
「ライヴ君は黙ってて。これは女と女の勝負なの」
「で、どうするのかな? フラウおねえさん?」
「…いいわ! 受けて立ちましょう。私は勝負を持ちかけられたら、潔く受ける主義だ!」
「じゃ、20分で支度を整えて! マーケットにはドラグナーで行きましょう。ボクとライヴ君の外出届けは既に提出済みだけど、フラウのためにちょっぴり待っててあげる。この甲板に集合よ!」
「20分もあれば上等だ! すぐに出発できるよう準備を整えてみせる!」
「フラウ、頑張ってね~!」
シェスターは手をヒラヒラさせながら自室へと向かっていった。
「…ククク…ハッハッハ!」
ブリッジへつながる階段上から笑い声が聞こえた。俺はこの声に覚えがあるッ!
「アギル! 今の見てたな?」
俺は上を見上げて、その声の方を見やった。上空を飛ぶ空中空母:ルーカイランを背に、キザな笑いを浮かべている。
「本当に果報者だな、ライヴ。で? 年上と年下、どっちが好みだ?」
「いやいや、そういう問題じゃないから。それよか、見ていたんなら助け舟のひとつでも出してくれよ!」
アギルは人差し指で前髪を軽くなでつけると、困ったような笑顔で俺の問いに答えた。
「それは無理って問題だよ、ライヴ」
「そりゃ、どうしてだよ?」
「俺達兵士ってのはさ、勿論文民もそうなんだけど… この戦乱の中いつその命を落とすかもしれない。その一瞬一瞬が最後になるかもしれないんだ。命が燃え尽きるその瞬間に思い残すことがないように、みんな例外なく必死なんだよ。それは恋に関してもそうだ。ローン様が言ってなかったか?早く決着つけてやれってさ?」
「…確かにそのようなことは言われたけどさ…」
「経済力と体力、包容力さえあれば、何人でも妻や夫を娶ることができる。それはこんな実情から生まれてきた制度なんだ。…こう言えば、君は理解できるのかな?」
「……」
「価値観の違いは理解できるがね。君だって現在進行形でリーヴァという少女を追っている。上手く救出できたら、君はなんとする?」
俺は何一つ答えられなかった。必死…、確かにそうなのだろう。でも、俺のいた世界… 日本での価値観やら何やらが邪魔して、アギルの言葉に応えることができないでいた。
「とにかく、さ」
アギルはニカッと笑いながら言った。
「今は彼女らを楽しましてやりな。それが好かれた男の義務ってもんだ」
◇ ◇ ◇ ◇
「皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
さて。皆さんはダズアルト砦をご存じですか? 城塞都市アーサーハイヴと州都スタディウム・ノーディスタンとを挟むフラックフェルト平原。その中心に位置する、大きな砦です。このダズアルト砦はフラックフェルト大平原の実質的な中央に築かれ、各都市や集落をつなぐ街道の要所でありました。全ての人や物・文化が通過するこの砦では、城下に大きな市が開かれ大変賑わった土地であると言われています。今回は、このダズアルト砦を中心に物語を進めていきたいと思います」
「今私はフラックフェルト平原の入り口にあるスターファという街に来ています。何千年前もの遺跡がゴロゴロと眠るこの地では、ダズアルト砦に関する書簡が数多く出土しました」
そのように語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「アーサーハイヴとも交流があったこの集落は、当時とても大きな集落でした。ディ・エイカ山地に阻まれたフォフトヴァーレンやディーツァ、グリートレインツの三都市からの海や山の流通品がここに集まり、ダズアルト砦に向かうのです。内陸にあるアーサーハイヴやグランデ・ダバージスも例外ではありませんでした。それだけの力を保持していたダズアルト砦。落とすにはあまりにも大きな壁となってライヴ達の前に立ちはだかったのです」
「そして私は今、ツルック・ゴット山地の麓にあるグランデ・ダバージスの地に来ています。ここには数多くの鉱山があり、鉱石はダズアルト砦で加工されその財を蓄えてきました」
このように語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「このダズアルト砦はアーサーハイヴと同じく、フェアンレギオン砦やフィスクランドが万が一にもウィクサー首長国などによって落とされた時の為の防波堤の役目を担っていました。また、ここグランデ・ダバージスは当時、発掘兵器であるドラグナーや神鋼石も産出していたとあります。それらもダズアルト砦に集められ、各地へと配備されていたのでしょう。とにかく、ダズアルト砦はこのグリーティスタン地方にとって最後の砦であるという性格上からも、まず落とせないというのが当時の大筋の見方でありました」
◇ ◇ ◇ ◇
シェスターとフラウに振り回されながらも短い休暇をマーケットで楽しんだ俺は、ブリッジに上がって斥候からの報告を聞いていた。すぐ側にはローンの姿もある。フルッツファグ・リッター:ファグナックの艦長とルフト・フルッツファグリッター:ルーカイランの艦長、それと各々の副官の姿も見える。
「そんな訳で、ダズアルト砦は非常に大人しく、かえって不気味でさえあります。出撃と思しき動きも見られません」
「ふむ… これを君はどう解釈する? ライヴ君」
ローンはサングラスのブリッジを直しながら、俺に振ってきた。
「ダズアルト砦の西側の動きはわかりますか?」
俺は斥候の兵士に問うてみた。
「いいえ、全くです」
「…ローンさん、ダズアルト砦に常時配備されている戦艦や空母の規模はわかりますか?」
「少なくとも、空中戦艦:アイ・アバエクとフルッツファグ・リッター:チェルーべ、セェレの三隻を配備していることだけはわかっている。ドラグナーに関しては、ファハン、ヘイムダル、クワット合わせて75騎は確認されている。騎士・兵士に至っては、7500だ。それで?」
「対するこちらはルフト・フルッツファグリッター:ルーカイラン、フルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカ、ファグナックの3隻とドラグナーが陸空合わせて60騎、騎士と兵士が5000でしたね…」
「何か名案があるのですか?」
ルーカイラン艦長、ビアンテ=オポスニスティッヒが待ってましたとばかりに口を開いた。
「いえ、今はまだ何も。それよりも敵が何も仕掛けてこないことに疑問を感じているんです」
「確かに。しかし、現在の我らが同胞はここまでに膨らんでいます。一気に押し込んでしまえば…」
「ビアンテ艦長、それでは消耗戦になってしまいます。策としては、下の下だ」
「ハハハ…、ローン卿は相変わらず手厳しいですな」
「現在我々は、最も遅い歩兵や輸送兵団の速度に合わせて移動しています。補給線が伸びてサイドから退路を断たれれば、我々はおしまいです。その事をしっかりと認知しておいてください」
「分かりました、ライヴ殿」
「で、スターファとグランデ・ダバージスの動きは?」
俺は地図を見ながら、斥候要員のひとりに問いかけた。スターファはアーサーハイヴから見て北西、グランデ・ダバージスは南西に位置している。特にグランデ・ダバージスにはスタディウム・ノーディスタン直轄の鉱山がある。各地から駐屯している兵団が動いたならば、俺達はひとたまりもない。サンドイッチにされておしまいだ。
「…沈黙を保ったままです」
「様子見か…」
俺は頭をフル回転させた。ポク・ポク・ポクと木魚の音が脳内再生される。
「…グランデ・ダバージスの戦力は?」
「直轄のドラグナー10騎とルフト・フルッツファグリッター:クェラウァペリが一隻です。騎士・兵士はおよそ2000と思われます」
ルーカイラン副長:マンカン=ダスだった。
「ライヴ殿としては、ここをまず先に押さえますか?」
「そうですね。でもこれはあくまでドラグナーと空母を併用した電撃戦となります。空母には乗せられるだけの兵員を。そして2/3の俺達ランダー隊は全力で突っ走る。スカイアウフ隊は1/3を登用します。まだアーサーハイヴを立ってから20Giz(32km)ほどしか進んでいません。アーサーハイヴには全力出撃の要請を出しておいてください。残された本隊は進路をを南寄りに転進、遠回りになりますが、アーサーハイヴとグランデ・ダバージス、ダズアルト砦を結ぶ三角地帯の中点を目指してもらいます。以上のことをアーサーハヴへ打電してください。いいですか、これはスピードが物を言います。くれぐれも時間にはシビアになってください」
◇ ◇ ◇ ◇
「さて。私は今、グランデ・ダバージスの鉱山跡にいます」
ミンダーハイト=ギリアートン教授は、今でも時折この場所をよく訪れるという。
「この場所は神鋼石やドラグナーを産出した、と発掘されたバンバスの資料には書かれています。果たして、本当にこの場所であっているのでしょうか? …実際に私はこの場所を何年も、何度も機会を重ねて発掘調査を行っておりますが、実際にはドラグナーどころか、結晶体であるドラグーンの欠片ひとつも発見するに至っていません。しかし、分かっていることは、ここに大きな鉱山があり、ドラグーン及びドラグナーを発掘していたという書類上の事実だけなのです」
「確かに、仮定としてドラグナーがこの場所から発掘されたとしましょう。その様子を描いたオベリスクやバンバスの書類は事実として遺されています」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授だ。
「進みすぎた科学技術は、時として魔法以上の印象を我々に与えるものである。アルスディ=ラウムツェイトという、有名なSF作家の言葉です。この言葉は我々クーリッヒ=ウー=ヴァンの研究を進める者にとって頼みの綱でありました。それ程までにドラグーンを中心とした文明の異常性が、群を抜いていたのです。万が一、このドラグナーや… いえ、ドラグーンの欠片ひとつでも見つけることができれば、私たちはそれをどのように扱うでしょうか?…非常に悲しいことでしょうが、発見されたならば、私達人類は即軍事転用しようとするでしょう。故に、見つけたい一方で見つかってくれるなという想いがあるのも事実なのです」
◇ ◇ ◇ ◇
ファハン20騎とヘイムダル10騎、クアット10騎。そして、ルフト・フルッツファグリッター:ルーカイランとフルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカに積めるだけの兵士を詰め込んで、俺達別働隊は出発した。そのスピードは約60km/時、フルッツファグ・リッターの最大積載時の最大速度である。現在地からグランデ・ダバージスまでは約150km。おおよそ3時間強内には到着する予定だ。シェスターとヘリンが率いるクアット隊は進路上を索敵、狼煙などを発見次第に潰す任務を与えてある。また、作戦開始後はグランデ・ダバージスからダズアルト砦への救援要請が出ないよう、ツルック・ゴット山地とダズアルト砦方面へ転進して貰う予定だ。
『-じゃ、行ってくるね!-』
シェスターの元気な声がバイザーいっぱいに響き渡る。
「作戦、開始だ!」
俺はレクルート・ファハンを地面に降ろすと、ダッシュローラーの回転数を最大に、そして背面のブースターも目一杯ふかして走り出した。
キュイ… ン!
軽い音が心地よい振動とともに俺の体を震わせる。
実のところ、このドラグナーという代物は俺達人間の生命力を喰って動いている。故に、ちゃんと考えて運用しないと後でエラい目に会うことになるのだが、今回の作戦には特に、スタミナ自慢を揃えて配備していた。3時間休憩無しで走り通し、更に戦闘に入る。これがどれくらい大変かを例えるならば、休憩なしのフルマラソンをした後で、即時リングに上がるようなものだ。これはかなりの無茶である。
もっとも、体力というよりも精神的に参ってしまうのだが。
だからこそ、俺は先頭を切って走らなくてはならなかった。到着しても、敵ドラグナーは陸空合わせて10騎。こちらはその倍である。一騎にあたり数騎で当たれば、かなり優位に戦うことができる。果たして、こんな無茶にどれくらい着いてこれるか…。
◇ ◇ ◇ ◇
先行したクアット隊の先制攻撃により、煙たなびくグランデ・ダバージスとツルック・ゴット山地が見えてきた。俺は息を切りながら後ろを振り向いた。ここまで着いてこれたのは… ファハン8騎、ヘイムダル8騎である。やっぱり、というか、ファハンの乗り手の練度もあってか、途中で落伍した模様だ。勿論、着いてこれないと判断した場合は原隊へ戻るよう指示してある。
問題は… ない。多分!
敵ヘイムダルは2騎、ファハンは4騎を残すのみとなっていた。連中は俺達を指向すると、ダッシュローラーの速度を上げて、連れ立ってやって来た! 俺は大きく息をつくと、まず先頭の2騎に目をやった。騎体NoがGD-H02ヘイムダルとGD-F06ファハン。うち、GD-F06が先頭に立ち剣をおおきく振りかぶって水平に切ってくる。俺は足からのスライディングをしながらそれを避けると、次に控えていたGD-H02が左腕のダックピストル状のハンディ・カノンを俺に向けてきた。俺は大剣をスラリと抜くと、その勢いでハンディ・カノンを薙ぎ斬った。GD-H02と交差するように擦れ違うと、俺はレクルートのダッシュ・ローラーとブースターを利用して勢いを殺すように立ち上がる。そしてそのままGD-H02の背面を上段から、袈裟懸けに斬り伏せた!
振り返るヘイムダル。その隙をついて、俺は振り抜かぬままの大剣を胸部から貫いた。コクピットの透明なキャノピーが真っ赤に染まる。俺は一気にその大剣を引き抜くと、GD-F06を後からついてくる味方に任せ、更に奥へと踏み込んだ。
複数のハンディ・カノンが俺に向けられ、発砲される。俺の軌跡をなぞるように着弾した魔弾の炎が立ち上った。
「…おいおい、えらく破壊力高いじゃんか…」
つぶやきながら、俺はレクルートを左右に振りながら前進させた。やがて間合いにGD-F05が割り込んでくる。
「邪魔なんだよ! 死にたくなけりゃ…!」
『-貴様ら反乱軍に言われる筋などないわ!-』
「そうかよ!」
『-あまり舐めるものではない!-』
「!?」
俺がGD-F05の剣を弾こうとすると、不意にソイツは剣を手放した。空を切って飛んでいく剣。
「何を…!」
『-こういう事さね…!-』
剣を手放した右腕を泳がせて、左腕の”爪”が俺を指向していた。その爪の先には、レクルートのコクピット…!
パァァ…ン!
高速の”爪”が俺に向けて撃ち出された。俺は僅かに体を傾け、かろうじて避けた、しかし…!
パン!
透明なキャノピーが割れた! その破片が俺に降りかかる。
『-よく避けたな、小僧!-』
「危ねぇじゃねぇかよ! よく見て外しやがれってんだ!」
『-まだ小賢しい事を言えるだけの余裕があるようだな…-』
「この、ロートル野郎が!」
『-確かに若くはないがね…-』
GD-F05はその”爪”を引っ込めると、今度は右腕を俺に向けてきた。その手には固定式のハンディ・カノンがこちらを向いている。
『-…最後だ!-』
「こなくそ…ッ!」
パパァ…ン! 銃声二発。
『-…小癪なマネを…-』
「…俺はマネをしただけだよ。アンタのな!」
俺は肩で息をしながら笑ってみせた。GD-F05の遙か後ろに弾かれたハンディ・カノン付きの右腕が落下する。発砲の瞬間、俺はハンディ・カノンに向けて、”爪”… パイルバンカーを放ったのだ。これで、タイに持ち込めた。
俺はダッシュローラーを回転させ即時間合いを取り直すと、左手に引っ掛けた大剣を握り直す。
『-クフール=アルターマン、参る!-』
「ライヴ=オフウェイだ!」
俺は大剣を水平に構え、一気に間合いを詰めた! 現在の敵主兵装はパイルバンカーのみ。リーチにはこちらに分がある。だが、コイツにはよっぽど注意しないとヤバいって、俺の本能が警報を鳴らしていた…!
間合いを詰めた勢いもそのままに、俺は大剣を突きに行った。が、GD-F05は足のピックを交互に使い超々信地旋回をキメると、勢いを殺すことなく左腕のパイルバンカーを撃ち込んできた!
ギャリ…!!!
俺はそれを大剣の腹で受けた。が、その勢いに負けて、大剣を弾き飛ばされてしまった。
「くそッ…!」
クフールの駆るファハンの勢いは止まらない。そのまま前転すると、足のピックを俺に向けてきた。俺はそれをパイルバンカーで弾き飛ばす。もう片方のピックが上から落ちてきた! 俺は横に転がり、それを避けた。そして、クフールのファハンと平行に寝転がる形になった瞬間を、俺は見逃さなかった。俺は腕を伸ばし、そのままパイルバンカーを撃ち込んだ!
『-ぐぬ…ッ!?-』
パイルバンカーの”爪”はコクピットをスレスレで避け、脇から肩口に抜け、核となる結晶を砕いていた。
つまり。…このファハンは沈黙した。
「…おっさん、命拾いしたな…」
俺はレクルートの身体を起こすと、クフールのファハンを見下ろした。
『-…フン、次はないと知れ…!-』
「ああ、一昨日覚えておくよ…」
俺は立ち上がって、次の獲物を探そうと周囲を見渡した。だが、大体片付いていたようで、また、原隊に戻るよう言っていたドラグナーも加わって圧勝の体を成していた。
「…終わった… のか?」
『-ああ、終わったよ。グランデ・ダバージス内にも兵士が取り付いて、先程落としたとの報が来たばかりだ-』
雑音とともに、ローンの声が聞こえる。
『-…とんだところに手練がいたな。ご苦労だった-』
『-ライヴ! 無事か!?-』
ラウェルナが言葉の通り飛んできた。
「フラウ…。ああ、なんとか生きてるよ」
『-そうか、…そうか…-』
「心配かけたね」
『-…~~~…-』
「泣いて…る?」
『-こんな馬鹿者に流す涙などない!-』
「本当に心配かけたね、ごめん…」
『-知らん!-』
フラウの搭乗したラウェルナはそう言うと、プイッと何処かへ行ってしまった。
「…この戦乱の中いつその命を落とすかもしれない。その一瞬一瞬が最後になるかもしれないんだ。命が燃え尽きるその瞬間に思い残すことがないように、みんな例外なく必死なんだよ…」
アギルの言葉が胸をよぎる。そうか、そういうことなんだ。でも…。
俺は少しでも早く、リーヴァを取り戻さなくてはならない。そして、こんな生き死にがリアルに隣り合わせな、そんなクソッタレな世界をどうにかしたいと思い始めていた。次はダズアルト砦の攻略が待っている。そう簡単に死ぬわけには、いかない!
「あ、ライヴ君ってば、ここにいたんだね! 何してんの?」
「ああ、シェスターか。いや、ちょっと気分転換」
「そんなところにいても気分が滅入るだけだよ? 見渡す限りの草原だもの。たまに集落や旅のキャラバン隊のベースキャンプが見えてくるだけで、後はなんにもないんだから!」
シェスターはそのクリっとした瞳をイタズラっぽく輝かせながら、俺を見上げてきた。
「あの… あのさ。もしライヴ君さえよければ、なんだけど。この先に大きなマーケットが開かれているらしいんだよね? ね、行ってみない? どうせ景色を眺めるくらいしか用事がないんでしょ?」
「まぁ、確かに用事らしい用事はないんだけどな。ま、それもいいか」
「やった!」
シェスターは小さくガッツポーズをすると、嬉しそうに笑いかけた。
「ああ、ライヴ。ここにいたのか! …ああ、シェスターもいたのか?」
フラウだった。なんとも形容し難い複雑そうな表情をしている。
「で、まさかと思うのだが、既にマーケット行きの話ができているとはいわないよな?」
「うん! 今誘って、OK貰ったところだよ!」
無邪気さというものは、時として非情なものである。フラウのこめかみがピクリ、と動いた。
「一体何を考えているんだ? ライヴはこの隊にとって、大切な軍師兼兵士なのだぞ? 彼の身に何かあったら同責任を取るつもりだ?」
「ふっふ~ん…。とかなんとか言って、フラウもホントはマーケットに誘いたかったんじゃないの?」
「なななななにを不謹慎なことを! 私はライヴとだなぁ… けけけ剣術をだなぁ…」
「舌が回ってないよ? さては、図星でしょ?」
「そ、そんなことはない! 私は、私はだなぁ…」
「…付いてきてもいいよ? ライヴ君を護衛する人は必要でしょ?」
「護衛って、シェスター…!」
「ライヴ君は黙ってて。これは女と女の勝負なの」
「で、どうするのかな? フラウおねえさん?」
「…いいわ! 受けて立ちましょう。私は勝負を持ちかけられたら、潔く受ける主義だ!」
「じゃ、20分で支度を整えて! マーケットにはドラグナーで行きましょう。ボクとライヴ君の外出届けは既に提出済みだけど、フラウのためにちょっぴり待っててあげる。この甲板に集合よ!」
「20分もあれば上等だ! すぐに出発できるよう準備を整えてみせる!」
「フラウ、頑張ってね~!」
シェスターは手をヒラヒラさせながら自室へと向かっていった。
「…ククク…ハッハッハ!」
ブリッジへつながる階段上から笑い声が聞こえた。俺はこの声に覚えがあるッ!
「アギル! 今の見てたな?」
俺は上を見上げて、その声の方を見やった。上空を飛ぶ空中空母:ルーカイランを背に、キザな笑いを浮かべている。
「本当に果報者だな、ライヴ。で? 年上と年下、どっちが好みだ?」
「いやいや、そういう問題じゃないから。それよか、見ていたんなら助け舟のひとつでも出してくれよ!」
アギルは人差し指で前髪を軽くなでつけると、困ったような笑顔で俺の問いに答えた。
「それは無理って問題だよ、ライヴ」
「そりゃ、どうしてだよ?」
「俺達兵士ってのはさ、勿論文民もそうなんだけど… この戦乱の中いつその命を落とすかもしれない。その一瞬一瞬が最後になるかもしれないんだ。命が燃え尽きるその瞬間に思い残すことがないように、みんな例外なく必死なんだよ。それは恋に関してもそうだ。ローン様が言ってなかったか?早く決着つけてやれってさ?」
「…確かにそのようなことは言われたけどさ…」
「経済力と体力、包容力さえあれば、何人でも妻や夫を娶ることができる。それはこんな実情から生まれてきた制度なんだ。…こう言えば、君は理解できるのかな?」
「……」
「価値観の違いは理解できるがね。君だって現在進行形でリーヴァという少女を追っている。上手く救出できたら、君はなんとする?」
俺は何一つ答えられなかった。必死…、確かにそうなのだろう。でも、俺のいた世界… 日本での価値観やら何やらが邪魔して、アギルの言葉に応えることができないでいた。
「とにかく、さ」
アギルはニカッと笑いながら言った。
「今は彼女らを楽しましてやりな。それが好かれた男の義務ってもんだ」
◇ ◇ ◇ ◇
「皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
さて。皆さんはダズアルト砦をご存じですか? 城塞都市アーサーハイヴと州都スタディウム・ノーディスタンとを挟むフラックフェルト平原。その中心に位置する、大きな砦です。このダズアルト砦はフラックフェルト大平原の実質的な中央に築かれ、各都市や集落をつなぐ街道の要所でありました。全ての人や物・文化が通過するこの砦では、城下に大きな市が開かれ大変賑わった土地であると言われています。今回は、このダズアルト砦を中心に物語を進めていきたいと思います」
「今私はフラックフェルト平原の入り口にあるスターファという街に来ています。何千年前もの遺跡がゴロゴロと眠るこの地では、ダズアルト砦に関する書簡が数多く出土しました」
そのように語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「アーサーハイヴとも交流があったこの集落は、当時とても大きな集落でした。ディ・エイカ山地に阻まれたフォフトヴァーレンやディーツァ、グリートレインツの三都市からの海や山の流通品がここに集まり、ダズアルト砦に向かうのです。内陸にあるアーサーハイヴやグランデ・ダバージスも例外ではありませんでした。それだけの力を保持していたダズアルト砦。落とすにはあまりにも大きな壁となってライヴ達の前に立ちはだかったのです」
「そして私は今、ツルック・ゴット山地の麓にあるグランデ・ダバージスの地に来ています。ここには数多くの鉱山があり、鉱石はダズアルト砦で加工されその財を蓄えてきました」
このように語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「このダズアルト砦はアーサーハイヴと同じく、フェアンレギオン砦やフィスクランドが万が一にもウィクサー首長国などによって落とされた時の為の防波堤の役目を担っていました。また、ここグランデ・ダバージスは当時、発掘兵器であるドラグナーや神鋼石も産出していたとあります。それらもダズアルト砦に集められ、各地へと配備されていたのでしょう。とにかく、ダズアルト砦はこのグリーティスタン地方にとって最後の砦であるという性格上からも、まず落とせないというのが当時の大筋の見方でありました」
◇ ◇ ◇ ◇
シェスターとフラウに振り回されながらも短い休暇をマーケットで楽しんだ俺は、ブリッジに上がって斥候からの報告を聞いていた。すぐ側にはローンの姿もある。フルッツファグ・リッター:ファグナックの艦長とルフト・フルッツファグリッター:ルーカイランの艦長、それと各々の副官の姿も見える。
「そんな訳で、ダズアルト砦は非常に大人しく、かえって不気味でさえあります。出撃と思しき動きも見られません」
「ふむ… これを君はどう解釈する? ライヴ君」
ローンはサングラスのブリッジを直しながら、俺に振ってきた。
「ダズアルト砦の西側の動きはわかりますか?」
俺は斥候の兵士に問うてみた。
「いいえ、全くです」
「…ローンさん、ダズアルト砦に常時配備されている戦艦や空母の規模はわかりますか?」
「少なくとも、空中戦艦:アイ・アバエクとフルッツファグ・リッター:チェルーべ、セェレの三隻を配備していることだけはわかっている。ドラグナーに関しては、ファハン、ヘイムダル、クワット合わせて75騎は確認されている。騎士・兵士に至っては、7500だ。それで?」
「対するこちらはルフト・フルッツファグリッター:ルーカイラン、フルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカ、ファグナックの3隻とドラグナーが陸空合わせて60騎、騎士と兵士が5000でしたね…」
「何か名案があるのですか?」
ルーカイラン艦長、ビアンテ=オポスニスティッヒが待ってましたとばかりに口を開いた。
「いえ、今はまだ何も。それよりも敵が何も仕掛けてこないことに疑問を感じているんです」
「確かに。しかし、現在の我らが同胞はここまでに膨らんでいます。一気に押し込んでしまえば…」
「ビアンテ艦長、それでは消耗戦になってしまいます。策としては、下の下だ」
「ハハハ…、ローン卿は相変わらず手厳しいですな」
「現在我々は、最も遅い歩兵や輸送兵団の速度に合わせて移動しています。補給線が伸びてサイドから退路を断たれれば、我々はおしまいです。その事をしっかりと認知しておいてください」
「分かりました、ライヴ殿」
「で、スターファとグランデ・ダバージスの動きは?」
俺は地図を見ながら、斥候要員のひとりに問いかけた。スターファはアーサーハイヴから見て北西、グランデ・ダバージスは南西に位置している。特にグランデ・ダバージスにはスタディウム・ノーディスタン直轄の鉱山がある。各地から駐屯している兵団が動いたならば、俺達はひとたまりもない。サンドイッチにされておしまいだ。
「…沈黙を保ったままです」
「様子見か…」
俺は頭をフル回転させた。ポク・ポク・ポクと木魚の音が脳内再生される。
「…グランデ・ダバージスの戦力は?」
「直轄のドラグナー10騎とルフト・フルッツファグリッター:クェラウァペリが一隻です。騎士・兵士はおよそ2000と思われます」
ルーカイラン副長:マンカン=ダスだった。
「ライヴ殿としては、ここをまず先に押さえますか?」
「そうですね。でもこれはあくまでドラグナーと空母を併用した電撃戦となります。空母には乗せられるだけの兵員を。そして2/3の俺達ランダー隊は全力で突っ走る。スカイアウフ隊は1/3を登用します。まだアーサーハイヴを立ってから20Giz(32km)ほどしか進んでいません。アーサーハイヴには全力出撃の要請を出しておいてください。残された本隊は進路をを南寄りに転進、遠回りになりますが、アーサーハイヴとグランデ・ダバージス、ダズアルト砦を結ぶ三角地帯の中点を目指してもらいます。以上のことをアーサーハヴへ打電してください。いいですか、これはスピードが物を言います。くれぐれも時間にはシビアになってください」
◇ ◇ ◇ ◇
「さて。私は今、グランデ・ダバージスの鉱山跡にいます」
ミンダーハイト=ギリアートン教授は、今でも時折この場所をよく訪れるという。
「この場所は神鋼石やドラグナーを産出した、と発掘されたバンバスの資料には書かれています。果たして、本当にこの場所であっているのでしょうか? …実際に私はこの場所を何年も、何度も機会を重ねて発掘調査を行っておりますが、実際にはドラグナーどころか、結晶体であるドラグーンの欠片ひとつも発見するに至っていません。しかし、分かっていることは、ここに大きな鉱山があり、ドラグーン及びドラグナーを発掘していたという書類上の事実だけなのです」
「確かに、仮定としてドラグナーがこの場所から発掘されたとしましょう。その様子を描いたオベリスクやバンバスの書類は事実として遺されています」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授だ。
「進みすぎた科学技術は、時として魔法以上の印象を我々に与えるものである。アルスディ=ラウムツェイトという、有名なSF作家の言葉です。この言葉は我々クーリッヒ=ウー=ヴァンの研究を進める者にとって頼みの綱でありました。それ程までにドラグーンを中心とした文明の異常性が、群を抜いていたのです。万が一、このドラグナーや… いえ、ドラグーンの欠片ひとつでも見つけることができれば、私たちはそれをどのように扱うでしょうか?…非常に悲しいことでしょうが、発見されたならば、私達人類は即軍事転用しようとするでしょう。故に、見つけたい一方で見つかってくれるなという想いがあるのも事実なのです」
◇ ◇ ◇ ◇
ファハン20騎とヘイムダル10騎、クアット10騎。そして、ルフト・フルッツファグリッター:ルーカイランとフルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカに積めるだけの兵士を詰め込んで、俺達別働隊は出発した。そのスピードは約60km/時、フルッツファグ・リッターの最大積載時の最大速度である。現在地からグランデ・ダバージスまでは約150km。おおよそ3時間強内には到着する予定だ。シェスターとヘリンが率いるクアット隊は進路上を索敵、狼煙などを発見次第に潰す任務を与えてある。また、作戦開始後はグランデ・ダバージスからダズアルト砦への救援要請が出ないよう、ツルック・ゴット山地とダズアルト砦方面へ転進して貰う予定だ。
『-じゃ、行ってくるね!-』
シェスターの元気な声がバイザーいっぱいに響き渡る。
「作戦、開始だ!」
俺はレクルート・ファハンを地面に降ろすと、ダッシュローラーの回転数を最大に、そして背面のブースターも目一杯ふかして走り出した。
キュイ… ン!
軽い音が心地よい振動とともに俺の体を震わせる。
実のところ、このドラグナーという代物は俺達人間の生命力を喰って動いている。故に、ちゃんと考えて運用しないと後でエラい目に会うことになるのだが、今回の作戦には特に、スタミナ自慢を揃えて配備していた。3時間休憩無しで走り通し、更に戦闘に入る。これがどれくらい大変かを例えるならば、休憩なしのフルマラソンをした後で、即時リングに上がるようなものだ。これはかなりの無茶である。
もっとも、体力というよりも精神的に参ってしまうのだが。
だからこそ、俺は先頭を切って走らなくてはならなかった。到着しても、敵ドラグナーは陸空合わせて10騎。こちらはその倍である。一騎にあたり数騎で当たれば、かなり優位に戦うことができる。果たして、こんな無茶にどれくらい着いてこれるか…。
◇ ◇ ◇ ◇
先行したクアット隊の先制攻撃により、煙たなびくグランデ・ダバージスとツルック・ゴット山地が見えてきた。俺は息を切りながら後ろを振り向いた。ここまで着いてこれたのは… ファハン8騎、ヘイムダル8騎である。やっぱり、というか、ファハンの乗り手の練度もあってか、途中で落伍した模様だ。勿論、着いてこれないと判断した場合は原隊へ戻るよう指示してある。
問題は… ない。多分!
敵ヘイムダルは2騎、ファハンは4騎を残すのみとなっていた。連中は俺達を指向すると、ダッシュローラーの速度を上げて、連れ立ってやって来た! 俺は大きく息をつくと、まず先頭の2騎に目をやった。騎体NoがGD-H02ヘイムダルとGD-F06ファハン。うち、GD-F06が先頭に立ち剣をおおきく振りかぶって水平に切ってくる。俺は足からのスライディングをしながらそれを避けると、次に控えていたGD-H02が左腕のダックピストル状のハンディ・カノンを俺に向けてきた。俺は大剣をスラリと抜くと、その勢いでハンディ・カノンを薙ぎ斬った。GD-H02と交差するように擦れ違うと、俺はレクルートのダッシュ・ローラーとブースターを利用して勢いを殺すように立ち上がる。そしてそのままGD-H02の背面を上段から、袈裟懸けに斬り伏せた!
振り返るヘイムダル。その隙をついて、俺は振り抜かぬままの大剣を胸部から貫いた。コクピットの透明なキャノピーが真っ赤に染まる。俺は一気にその大剣を引き抜くと、GD-F06を後からついてくる味方に任せ、更に奥へと踏み込んだ。
複数のハンディ・カノンが俺に向けられ、発砲される。俺の軌跡をなぞるように着弾した魔弾の炎が立ち上った。
「…おいおい、えらく破壊力高いじゃんか…」
つぶやきながら、俺はレクルートを左右に振りながら前進させた。やがて間合いにGD-F05が割り込んでくる。
「邪魔なんだよ! 死にたくなけりゃ…!」
『-貴様ら反乱軍に言われる筋などないわ!-』
「そうかよ!」
『-あまり舐めるものではない!-』
「!?」
俺がGD-F05の剣を弾こうとすると、不意にソイツは剣を手放した。空を切って飛んでいく剣。
「何を…!」
『-こういう事さね…!-』
剣を手放した右腕を泳がせて、左腕の”爪”が俺を指向していた。その爪の先には、レクルートのコクピット…!
パァァ…ン!
高速の”爪”が俺に向けて撃ち出された。俺は僅かに体を傾け、かろうじて避けた、しかし…!
パン!
透明なキャノピーが割れた! その破片が俺に降りかかる。
『-よく避けたな、小僧!-』
「危ねぇじゃねぇかよ! よく見て外しやがれってんだ!」
『-まだ小賢しい事を言えるだけの余裕があるようだな…-』
「この、ロートル野郎が!」
『-確かに若くはないがね…-』
GD-F05はその”爪”を引っ込めると、今度は右腕を俺に向けてきた。その手には固定式のハンディ・カノンがこちらを向いている。
『-…最後だ!-』
「こなくそ…ッ!」
パパァ…ン! 銃声二発。
『-…小癪なマネを…-』
「…俺はマネをしただけだよ。アンタのな!」
俺は肩で息をしながら笑ってみせた。GD-F05の遙か後ろに弾かれたハンディ・カノン付きの右腕が落下する。発砲の瞬間、俺はハンディ・カノンに向けて、”爪”… パイルバンカーを放ったのだ。これで、タイに持ち込めた。
俺はダッシュローラーを回転させ即時間合いを取り直すと、左手に引っ掛けた大剣を握り直す。
『-クフール=アルターマン、参る!-』
「ライヴ=オフウェイだ!」
俺は大剣を水平に構え、一気に間合いを詰めた! 現在の敵主兵装はパイルバンカーのみ。リーチにはこちらに分がある。だが、コイツにはよっぽど注意しないとヤバいって、俺の本能が警報を鳴らしていた…!
間合いを詰めた勢いもそのままに、俺は大剣を突きに行った。が、GD-F05は足のピックを交互に使い超々信地旋回をキメると、勢いを殺すことなく左腕のパイルバンカーを撃ち込んできた!
ギャリ…!!!
俺はそれを大剣の腹で受けた。が、その勢いに負けて、大剣を弾き飛ばされてしまった。
「くそッ…!」
クフールの駆るファハンの勢いは止まらない。そのまま前転すると、足のピックを俺に向けてきた。俺はそれをパイルバンカーで弾き飛ばす。もう片方のピックが上から落ちてきた! 俺は横に転がり、それを避けた。そして、クフールのファハンと平行に寝転がる形になった瞬間を、俺は見逃さなかった。俺は腕を伸ばし、そのままパイルバンカーを撃ち込んだ!
『-ぐぬ…ッ!?-』
パイルバンカーの”爪”はコクピットをスレスレで避け、脇から肩口に抜け、核となる結晶を砕いていた。
つまり。…このファハンは沈黙した。
「…おっさん、命拾いしたな…」
俺はレクルートの身体を起こすと、クフールのファハンを見下ろした。
『-…フン、次はないと知れ…!-』
「ああ、一昨日覚えておくよ…」
俺は立ち上がって、次の獲物を探そうと周囲を見渡した。だが、大体片付いていたようで、また、原隊に戻るよう言っていたドラグナーも加わって圧勝の体を成していた。
「…終わった… のか?」
『-ああ、終わったよ。グランデ・ダバージス内にも兵士が取り付いて、先程落としたとの報が来たばかりだ-』
雑音とともに、ローンの声が聞こえる。
『-…とんだところに手練がいたな。ご苦労だった-』
『-ライヴ! 無事か!?-』
ラウェルナが言葉の通り飛んできた。
「フラウ…。ああ、なんとか生きてるよ」
『-そうか、…そうか…-』
「心配かけたね」
『-…~~~…-』
「泣いて…る?」
『-こんな馬鹿者に流す涙などない!-』
「本当に心配かけたね、ごめん…」
『-知らん!-』
フラウの搭乗したラウェルナはそう言うと、プイッと何処かへ行ってしまった。
「…この戦乱の中いつその命を落とすかもしれない。その一瞬一瞬が最後になるかもしれないんだ。命が燃え尽きるその瞬間に思い残すことがないように、みんな例外なく必死なんだよ…」
アギルの言葉が胸をよぎる。そうか、そういうことなんだ。でも…。
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