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第六章
踊る人形-02
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「で、新しく装備を買い揃えたんですって?」
フラウさん、なんだか不機嫌そうに俺の目のまでわざわざやって来ていた。
「ああ、まぁ…」
「なぜ私を呼ばなかったの?」
「へ?」
「だから、何故私を頼ってこなかった?」
「…だって…」
シェスターに引っ張り回されただけだもん、そう言おうとした。しかし、
「何故シェスターで、私じゃなかったと聞いている!」
真っ赤な髪を振り乱して、その赤い瞳で訴えてくる。ああ、そーゆーことですか…。
「…すまなかった。今度はフラウに案内をお願いするよ。…それで、いいかな?」
俺はかつて芝居でやったように、その手をフラウの頬に優しくあてがった。フラウの肩が一瞬、ビクッとなるのがわかった。
「…よ、よし。今度は約束だからな。ちゃんと誘って欲しい。…それだけだ」
視線をそらしながらそう言うと、フラウは顔を真赤にして走り去ってしまった。
「…ククク…」
この笑い声には聞き覚えがある。
「…アギルだろ? 今の、見てたな?」
「ああ、見てた。お前、天性のたらしだな」
「見てたんなら、助け舟のひとつくらいだしてくれよ」
「そう言う割には、満更じゃないみたいに見えたけどなぁ…」
「そんな訳あるか! 今のはそういう劇のワンシーンを演じただけだよ」
「ゲキ? …ゲキってなんだ?」
「ああ、演劇って知らないか?」
「…わからん。そもそも何だよ、そのエンゲキってさ」
…そうか。この世界ではそういう大衆文化ってあまり発展してないのかな? 俺は補足説明を入れてみた。
「だからさ。いろんな物語を人がこう… 演じてお芝居にしてみせるんだよ。見た人は疑似体験できて、面白いんだぜ?」
「オシバイ… か。話を聞くと、オーパみたいだな」
「オーパ?」
「知らないかな? こう…歌を混じえていろんな物語を展開して見せてくれる…」
アギルは身振り手振りで説明してくれた。
「へぇ…。一応、そういうの、あるんじゃんか。そうだよ、そのオーパだよ」
「なんだよ。オーパならオーパだって言ってくれれば…。でもさ。お前がやったようなシーンはないぜ?」
「そうなんだ。一度、芝居やってみるか?」
「面白いなら、乗るぜ?」
「アギルは見栄えいいからなぁ… きっと女の子がキャーキャー言うぜ?」
「マジか!」
「ああ、きっと看板スターになれるよ」
「…そうか、ついに俺も春がくるのかぁ…」
「それに、ダンスができそうだから、ちゃんと仕込めばいい役者になりそうだよな」
「…かわいこちゃんかぁ… …いいッ! …で、いつやるんだ?」
「少なくとも、今の状況を打破してからじゃないと、無理じゃね?」
「…なんだ、糠喜びしてガッカリだよ…」
「ま、ダズアルト砦を開放すれば、一度演ってもいいよな」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸いである。心穏やかであろうから。だからこそ伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの生き様を。…皆さん、こんばんは。司会進行役を努めます、ブレンドフィア=メンションです。夏も本番となってきました、暑いですね。ご機嫌はいかがですか?
さて。ダズアルト砦攻略戦です。現代の軍隊でもそうであるように、ライヴ少年の立案には何度も重ねた演習を行ってきました。そうすることで自軍が被る被害を減らし、短時間で効果的な戦いを展開できるからです。しかし、このダズアルト砦は広大な敷地面積を誇っていました。果たして、ライヴ少年はこの局面にどう立ち向かうのでしょうか…」
「…今回もダズアルト砦の東面城塞の上に立っています。地上から10Yag(約9.1m)の高さは、実際に立った者にしかわからない迫力があるものです。この城壁の中ほどに大きな扉がありますね? ここにはガイスト・カノンが配置されていたと言われています。後世においては何度も修復され、やはり大砲が配置されるようになりました」
そのように語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「では、背面… 城塞の内側を見てみましょう。ちょうど見えますか? こちら側にも扉がありますね? この扉は今でこそ飾りとなっていますが、何千年も前、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代にはガイスト・カノンが内側にも向くように設計されていたといいます。このダズアルト砦はフィスクランド-フェアンレギオン砦ラインの第一防衛ライン、アーサーハイヴの第二防衛ラインを突破された際の最後の砦として、自給自足を含めた籠城も可能な、強大な城塞都市として設計されました。ありとあらゆる戦闘において難攻不落を誇っていたのです…」
「その城壁ですが、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代に一度大きく壊れた形跡が発見されました」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「この城壁は幅が8Yag(約7.3m)もあり、狭いながらも内部通路が確保されていました。それもかなり大規模に、です。もしフルッツファグ・リッターであれば、簡単に飛び越してしまうような高さの城壁を、ダズアルト砦の東面に約35Yag (約32m)にも渡り壊されていました。なぜその必要があったのか、今では伺い知ることもできません…」
◇ ◇ ◇ ◇
「斥候から伝令!」
アジ・ダハーカのブリッジに報告の声が響き渡った。
「現在ダズアルト砦には人影あらず。周辺の民家に至っても全く気配はなく、都市は機能停止の状態!」
「機能停止!?」
俺は意外なこの報告に戦慄を覚えた。
「…本当に誰も居ないのか? 何かのトラップじゃないのか?」
俺は言葉を区切るように、ゆっくりと尋ねてみた。
「ハイ、斥候の何人かが手分けをして砦内を回ってきましたので、確認は取れているかと思います!」
「ヒャッハー!」
ブリッジ内で歓声が上がった。
「連中、恐れをなして逃げちまったんだぜ!」
皆が好き好きに勝利を歌い上げた。しかし…。
「…どう思うね、ライヴ君」
ローンはひとり、冷静だった。
「はい、おそらくは罠だと…」
「君もそう思うか。」
「はい。ただ不思議なのは、あのマーダーがこのような策に出るというのが、理解不能ではありますね」
「と、いうと?」
「ヤツは敵兵に多大な恐怖を植え付けて、その効果が薄れぬ内に一気に畳み込むタイプの猛将です。このような罠は、似合わないというか… 正直言って不気味ですね」
「…成程。しかし、ここに入らなければ落とせなかった事になる。…君ならどうする?」
「ローンさんなら、どうしますか?」
「私であれば、罠だと分かっていても入る。その為の準備はしておくがね」
「…そうですね。少し、時間をください」
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳なんです、ヌッツさん」
俺は自室にヌッツを招くと、早速話を振ってみた。
「…確かに、この砦では数週間前… あなた方がグランデ・ダバージスを落としたあたりから、市民の疎開令が出されていましたね」
「疎開?」
「ハイ、疎開です。とはいえ、ここで非戦闘員と言えば、老人か子供くらいのもんですがね」
「それは、どういう事ですか?」
「いえね、この都市は成人とともに必ず兵役に着くことになっているんですよ。ですから、パン屋の主人がドラグナー乗りだったり、学校の教員がガイストカノンの技師だったりがザラでしてね。実際に疎開した者が何人いたかという話に至っては、正直把握できていません。我々商人のギルドにおいても全く分からないんでさ」
「では、質問を変えましょう。この砦の構造はわかりますか?」
「それこそトップシークレットですよ。あたしら一介の商人に扱える話じゃありませんや」
…それもそうか。だから罠だと分かっていても、敢えて入る。そういう選択肢か…
今の戦力はどうなっているだろう。
ルフト・フルッツファグ・リッター:ルーカイラン…健在
同:ハイド・ビハインド:アーサーハイヴで修理中
フルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカ…健在
同:ファグナック…健在
同:クァラウェペリ…健在
ランダー隊:
ファハン50騎
ヘイムダル35騎
SP騎各15騎
スカイアウフ隊
クアット35騎
SP騎各8騎
騎士(龍馬):3000
兵士:5000
よくもまぁ、これだけ集まりも集まったものだ。中には名だたる名士もいると聞いている。アーサーハイヴを始めとした同盟…、ディーツァやグリート・レインズ、フォフトヴァーレン、スターファ、グランデ・ダバージスなど各地からの増援もあってのことだ。これらを上手く扱わないと、犬死だけはさせてはならない。
『敵を減らし、敵にとっての敵を増やすこと。全ては相対性の問題であって、総合的に相手を上回ること。特に、情報の量と質には要注意』
『正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に成り立っている』
『戦略は正しいから勝つけれど、戦術は勝つから正しい。ゆえに、まっとうな軍人は戦術的勝利によって戦略的劣勢を挽回しようとは思わない』
俺は大好きな小説の主人公のセリフを繰り返していた。もし、ダズアルト砦の市民が全て敵に回っていたとしたら、俺はどうすればいいのだろう? 今まで俺は奇策と呼ばれる類のもので戦ってきた。それは、この世界での戦争のルールからは外れた行いでもある。だからこそ勝てた、その自覚はある。今度ばかりは厳しいな…。俺は髪をかきむしった。
敵の情報がほしい! その数や規模、将兵の特性…。どれもが足りない。
「私であれば、罠だと分かっていても入る。その為の準備はしておくがね」
ローンの言葉が脳裏をよぎる。いつまでも、ここでノンビリしている時間はないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「…本当に、それでいいのかね?」
ローンは俺の意思を確認するように聞いてきた。
「…はい、今回ばかりは随分と悩みました。が、正確な情報がなければ、こちらがアクションを起こすしかないんですよ。そのリアクションから、少しでも正しい情報を探り出さないと、いつまでたっても前進できないでしょう?」
「…そうだな。かなり厳しい判断をしたようだね」
「無駄に血を流させる訳にはいきませんからね。正直、キツいです」
「では早速、準備に取り掛かろうか?」
「はい、お願いします」
◇ ◇ ◇ ◇
「作戦が決まったって?」
アギルが廊下ですれ違いざまに聞いてきた。
「ああ。でも、今回ばかりはかなり厳しいものになるぜ」
「厳しい…か。確かに、今までとは違うよな…」
「だから、ランダー隊は演習を行う。その間に、スカイアウフ隊及び空挺部隊経験者、それとルーカイランにはには強行偵察にでてもらう事にしたよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「…つまり、そういうことです。何か、質問は?」
アジ・ダハーカのブリーフィングルームにて。俺は各地の代表者たちに集まってもらって、俺の立案した内容について説明を行っていた。
「と、言うことは、つまり…」
「ハイ、民兵が出てくる可能性があります。できれば彼らを巻き込みたくない。だからこその強行偵察です。そして、空挺部隊にはシュタークフォート城に侵入、内側からの制圧をお願いしようと思ってます」
「やれやれ、また機動戦ですかな?」
エッセン=ハンプトフィンガーだった。彼はフェアンレギオン砦以降、作戦に同行してくれている元帝国軍将校である。
「ええ、今回もよろしくお願いします」
「ああ、任された!」
「実際の空挺部隊の投入は、スカイアウフ隊及びルーカイランによる強行偵察のあとになります。そこで安全が確認されてはじめて、突入部隊が投入されます。そして、シュタークフォート城の陥落後に、フルッツファグ・リッターを使って壁を乗り越えましょう。この要塞は、後々のためにもできるだけ壊したくない」
「分かりました」
「で、我々ランダー隊の演習とは?」
スティンキー=タハオだった。アーサーハイヴ出身の彼は、ヘイムダルを駆る将校である。
「そうですね。全速スラロームを学んでもらいます」
「全速… スラローム?」
「そうです。二本のポールの間を交互に行き来しながら進むんですよ。つまり… こうですね」
「ナルホド、ジグザグに進むんですね。でもどうして…」
「俺、気付いたんですけど。この世界のドラグナーは …特にランダーは直線的にしか動いていませんよね」
「もともとラアンスピエルと言う戦い方が主でしたから…」
「ランスピエル?」
「はい。ランダーが大きな槍を持って、すれ違いざまに槍で勝負を決める… 伝統的な戦法です」
…ナルホド。
俺の知ってる世界じゃ、ジョストって言うんだよね、確か。あの単調な動きは、つまりその戦い方がベースにある訳な。
「…ですから、基本的にスカイアウフも槍がメインの武器になってます。すれ違いざまの一撃で勝負が決まるんですよ」
「んで、スカイアウフはスピードと微妙なコントロールに勝るからランダーに対して強いってわけ」
「…シェスター」
「そう、だからこそボクは生き残ってこられたの」
「それは、どういう意味で?」
「ボク、騎士じゃないもん」
「…ああ、そういう意味か」
つまり、彼女が言いたいのはジョストのルール外で戦ってきたから、生き残れたって意味な。そういう事なら、俺も同じようなものだ。この世界の”正しい戦い方”をしてないから、勝ち進んだだけのこと。それくらいの自覚はあるさ。
「とにかく!」
俺は全員に声が行き渡るように声を張り上げた。
「皆さんには、平面的な戦い方を知って貰う必要があります。可能な限り、生き残りたくば、必ず参加してください!」
フラウさん、なんだか不機嫌そうに俺の目のまでわざわざやって来ていた。
「ああ、まぁ…」
「なぜ私を呼ばなかったの?」
「へ?」
「だから、何故私を頼ってこなかった?」
「…だって…」
シェスターに引っ張り回されただけだもん、そう言おうとした。しかし、
「何故シェスターで、私じゃなかったと聞いている!」
真っ赤な髪を振り乱して、その赤い瞳で訴えてくる。ああ、そーゆーことですか…。
「…すまなかった。今度はフラウに案内をお願いするよ。…それで、いいかな?」
俺はかつて芝居でやったように、その手をフラウの頬に優しくあてがった。フラウの肩が一瞬、ビクッとなるのがわかった。
「…よ、よし。今度は約束だからな。ちゃんと誘って欲しい。…それだけだ」
視線をそらしながらそう言うと、フラウは顔を真赤にして走り去ってしまった。
「…ククク…」
この笑い声には聞き覚えがある。
「…アギルだろ? 今の、見てたな?」
「ああ、見てた。お前、天性のたらしだな」
「見てたんなら、助け舟のひとつくらいだしてくれよ」
「そう言う割には、満更じゃないみたいに見えたけどなぁ…」
「そんな訳あるか! 今のはそういう劇のワンシーンを演じただけだよ」
「ゲキ? …ゲキってなんだ?」
「ああ、演劇って知らないか?」
「…わからん。そもそも何だよ、そのエンゲキってさ」
…そうか。この世界ではそういう大衆文化ってあまり発展してないのかな? 俺は補足説明を入れてみた。
「だからさ。いろんな物語を人がこう… 演じてお芝居にしてみせるんだよ。見た人は疑似体験できて、面白いんだぜ?」
「オシバイ… か。話を聞くと、オーパみたいだな」
「オーパ?」
「知らないかな? こう…歌を混じえていろんな物語を展開して見せてくれる…」
アギルは身振り手振りで説明してくれた。
「へぇ…。一応、そういうの、あるんじゃんか。そうだよ、そのオーパだよ」
「なんだよ。オーパならオーパだって言ってくれれば…。でもさ。お前がやったようなシーンはないぜ?」
「そうなんだ。一度、芝居やってみるか?」
「面白いなら、乗るぜ?」
「アギルは見栄えいいからなぁ… きっと女の子がキャーキャー言うぜ?」
「マジか!」
「ああ、きっと看板スターになれるよ」
「…そうか、ついに俺も春がくるのかぁ…」
「それに、ダンスができそうだから、ちゃんと仕込めばいい役者になりそうだよな」
「…かわいこちゃんかぁ… …いいッ! …で、いつやるんだ?」
「少なくとも、今の状況を打破してからじゃないと、無理じゃね?」
「…なんだ、糠喜びしてガッカリだよ…」
「ま、ダズアルト砦を開放すれば、一度演ってもいいよな」
◇ ◇ ◇ ◇
「クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を知るものは幸いである。心穏やかであろうから。だからこそ伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの生き様を。…皆さん、こんばんは。司会進行役を努めます、ブレンドフィア=メンションです。夏も本番となってきました、暑いですね。ご機嫌はいかがですか?
さて。ダズアルト砦攻略戦です。現代の軍隊でもそうであるように、ライヴ少年の立案には何度も重ねた演習を行ってきました。そうすることで自軍が被る被害を減らし、短時間で効果的な戦いを展開できるからです。しかし、このダズアルト砦は広大な敷地面積を誇っていました。果たして、ライヴ少年はこの局面にどう立ち向かうのでしょうか…」
「…今回もダズアルト砦の東面城塞の上に立っています。地上から10Yag(約9.1m)の高さは、実際に立った者にしかわからない迫力があるものです。この城壁の中ほどに大きな扉がありますね? ここにはガイスト・カノンが配置されていたと言われています。後世においては何度も修復され、やはり大砲が配置されるようになりました」
そのように語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授である。
「では、背面… 城塞の内側を見てみましょう。ちょうど見えますか? こちら側にも扉がありますね? この扉は今でこそ飾りとなっていますが、何千年も前、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代にはガイスト・カノンが内側にも向くように設計されていたといいます。このダズアルト砦はフィスクランド-フェアンレギオン砦ラインの第一防衛ライン、アーサーハイヴの第二防衛ラインを突破された際の最後の砦として、自給自足を含めた籠城も可能な、強大な城塞都市として設計されました。ありとあらゆる戦闘において難攻不落を誇っていたのです…」
「その城壁ですが、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代に一度大きく壊れた形跡が発見されました」
そう語るのは、ミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「この城壁は幅が8Yag(約7.3m)もあり、狭いながらも内部通路が確保されていました。それもかなり大規模に、です。もしフルッツファグ・リッターであれば、簡単に飛び越してしまうような高さの城壁を、ダズアルト砦の東面に約35Yag (約32m)にも渡り壊されていました。なぜその必要があったのか、今では伺い知ることもできません…」
◇ ◇ ◇ ◇
「斥候から伝令!」
アジ・ダハーカのブリッジに報告の声が響き渡った。
「現在ダズアルト砦には人影あらず。周辺の民家に至っても全く気配はなく、都市は機能停止の状態!」
「機能停止!?」
俺は意外なこの報告に戦慄を覚えた。
「…本当に誰も居ないのか? 何かのトラップじゃないのか?」
俺は言葉を区切るように、ゆっくりと尋ねてみた。
「ハイ、斥候の何人かが手分けをして砦内を回ってきましたので、確認は取れているかと思います!」
「ヒャッハー!」
ブリッジ内で歓声が上がった。
「連中、恐れをなして逃げちまったんだぜ!」
皆が好き好きに勝利を歌い上げた。しかし…。
「…どう思うね、ライヴ君」
ローンはひとり、冷静だった。
「はい、おそらくは罠だと…」
「君もそう思うか。」
「はい。ただ不思議なのは、あのマーダーがこのような策に出るというのが、理解不能ではありますね」
「と、いうと?」
「ヤツは敵兵に多大な恐怖を植え付けて、その効果が薄れぬ内に一気に畳み込むタイプの猛将です。このような罠は、似合わないというか… 正直言って不気味ですね」
「…成程。しかし、ここに入らなければ落とせなかった事になる。…君ならどうする?」
「ローンさんなら、どうしますか?」
「私であれば、罠だと分かっていても入る。その為の準備はしておくがね」
「…そうですね。少し、時間をください」
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳なんです、ヌッツさん」
俺は自室にヌッツを招くと、早速話を振ってみた。
「…確かに、この砦では数週間前… あなた方がグランデ・ダバージスを落としたあたりから、市民の疎開令が出されていましたね」
「疎開?」
「ハイ、疎開です。とはいえ、ここで非戦闘員と言えば、老人か子供くらいのもんですがね」
「それは、どういう事ですか?」
「いえね、この都市は成人とともに必ず兵役に着くことになっているんですよ。ですから、パン屋の主人がドラグナー乗りだったり、学校の教員がガイストカノンの技師だったりがザラでしてね。実際に疎開した者が何人いたかという話に至っては、正直把握できていません。我々商人のギルドにおいても全く分からないんでさ」
「では、質問を変えましょう。この砦の構造はわかりますか?」
「それこそトップシークレットですよ。あたしら一介の商人に扱える話じゃありませんや」
…それもそうか。だから罠だと分かっていても、敢えて入る。そういう選択肢か…
今の戦力はどうなっているだろう。
ルフト・フルッツファグ・リッター:ルーカイラン…健在
同:ハイド・ビハインド:アーサーハイヴで修理中
フルッツファグ・リッター:アジ・ダハーカ…健在
同:ファグナック…健在
同:クァラウェペリ…健在
ランダー隊:
ファハン50騎
ヘイムダル35騎
SP騎各15騎
スカイアウフ隊
クアット35騎
SP騎各8騎
騎士(龍馬):3000
兵士:5000
よくもまぁ、これだけ集まりも集まったものだ。中には名だたる名士もいると聞いている。アーサーハイヴを始めとした同盟…、ディーツァやグリート・レインズ、フォフトヴァーレン、スターファ、グランデ・ダバージスなど各地からの増援もあってのことだ。これらを上手く扱わないと、犬死だけはさせてはならない。
『敵を減らし、敵にとっての敵を増やすこと。全ては相対性の問題であって、総合的に相手を上回ること。特に、情報の量と質には要注意』
『正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に成り立っている』
『戦略は正しいから勝つけれど、戦術は勝つから正しい。ゆえに、まっとうな軍人は戦術的勝利によって戦略的劣勢を挽回しようとは思わない』
俺は大好きな小説の主人公のセリフを繰り返していた。もし、ダズアルト砦の市民が全て敵に回っていたとしたら、俺はどうすればいいのだろう? 今まで俺は奇策と呼ばれる類のもので戦ってきた。それは、この世界での戦争のルールからは外れた行いでもある。だからこそ勝てた、その自覚はある。今度ばかりは厳しいな…。俺は髪をかきむしった。
敵の情報がほしい! その数や規模、将兵の特性…。どれもが足りない。
「私であれば、罠だと分かっていても入る。その為の準備はしておくがね」
ローンの言葉が脳裏をよぎる。いつまでも、ここでノンビリしている時間はないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「…本当に、それでいいのかね?」
ローンは俺の意思を確認するように聞いてきた。
「…はい、今回ばかりは随分と悩みました。が、正確な情報がなければ、こちらがアクションを起こすしかないんですよ。そのリアクションから、少しでも正しい情報を探り出さないと、いつまでたっても前進できないでしょう?」
「…そうだな。かなり厳しい判断をしたようだね」
「無駄に血を流させる訳にはいきませんからね。正直、キツいです」
「では早速、準備に取り掛かろうか?」
「はい、お願いします」
◇ ◇ ◇ ◇
「作戦が決まったって?」
アギルが廊下ですれ違いざまに聞いてきた。
「ああ。でも、今回ばかりはかなり厳しいものになるぜ」
「厳しい…か。確かに、今までとは違うよな…」
「だから、ランダー隊は演習を行う。その間に、スカイアウフ隊及び空挺部隊経験者、それとルーカイランにはには強行偵察にでてもらう事にしたよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「…つまり、そういうことです。何か、質問は?」
アジ・ダハーカのブリーフィングルームにて。俺は各地の代表者たちに集まってもらって、俺の立案した内容について説明を行っていた。
「と、言うことは、つまり…」
「ハイ、民兵が出てくる可能性があります。できれば彼らを巻き込みたくない。だからこその強行偵察です。そして、空挺部隊にはシュタークフォート城に侵入、内側からの制圧をお願いしようと思ってます」
「やれやれ、また機動戦ですかな?」
エッセン=ハンプトフィンガーだった。彼はフェアンレギオン砦以降、作戦に同行してくれている元帝国軍将校である。
「ええ、今回もよろしくお願いします」
「ああ、任された!」
「実際の空挺部隊の投入は、スカイアウフ隊及びルーカイランによる強行偵察のあとになります。そこで安全が確認されてはじめて、突入部隊が投入されます。そして、シュタークフォート城の陥落後に、フルッツファグ・リッターを使って壁を乗り越えましょう。この要塞は、後々のためにもできるだけ壊したくない」
「分かりました」
「で、我々ランダー隊の演習とは?」
スティンキー=タハオだった。アーサーハイヴ出身の彼は、ヘイムダルを駆る将校である。
「そうですね。全速スラロームを学んでもらいます」
「全速… スラローム?」
「そうです。二本のポールの間を交互に行き来しながら進むんですよ。つまり… こうですね」
「ナルホド、ジグザグに進むんですね。でもどうして…」
「俺、気付いたんですけど。この世界のドラグナーは …特にランダーは直線的にしか動いていませんよね」
「もともとラアンスピエルと言う戦い方が主でしたから…」
「ランスピエル?」
「はい。ランダーが大きな槍を持って、すれ違いざまに槍で勝負を決める… 伝統的な戦法です」
…ナルホド。
俺の知ってる世界じゃ、ジョストって言うんだよね、確か。あの単調な動きは、つまりその戦い方がベースにある訳な。
「…ですから、基本的にスカイアウフも槍がメインの武器になってます。すれ違いざまの一撃で勝負が決まるんですよ」
「んで、スカイアウフはスピードと微妙なコントロールに勝るからランダーに対して強いってわけ」
「…シェスター」
「そう、だからこそボクは生き残ってこられたの」
「それは、どういう意味で?」
「ボク、騎士じゃないもん」
「…ああ、そういう意味か」
つまり、彼女が言いたいのはジョストのルール外で戦ってきたから、生き残れたって意味な。そういう事なら、俺も同じようなものだ。この世界の”正しい戦い方”をしてないから、勝ち進んだだけのこと。それくらいの自覚はあるさ。
「とにかく!」
俺は全員に声が行き渡るように声を張り上げた。
「皆さんには、平面的な戦い方を知って貰う必要があります。可能な限り、生き残りたくば、必ず参加してください!」
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