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プロローグ
ナフバシュタート侵攻!-02
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「シュネル=ツェスト、ツヴァイター=フェグナー、ドリッター=ティグの三名」
俺は眼の前にいる騎士たちの名前を次々と読み上げた。
「「「ハイ!」」」
「以前と変わらず、ロータ・メティオ隊に所属、なお三人で出る時はシュネルを隊長代理とする」
「「「ハイ!」」」
「シャッハ=シューター、シュッツェ=マーンの二名」
「「はい!」」
「あなた方はアギル隊に入ってもらう」
「「了解!」」
「クライネ=ホーシュネッカー、リハリング=ドゥハンの二名!」
「「はい!!」」
「あなた方は、フラウ隊だ」
「「了解!」」
「コリービ=フリーゲン、ラウト=パーゾンの二名!」
「「はい!」」
「あなた方はシェスター隊!」
「「了解!」」
「そして、シズカ=クラフ=ケーラ、エイサー=フラット、エーズ=ロイター、タレント=ツァズァイトの四名!」
「「「「はい!」」」」
「あなた方は当初の話通り、俺、ライヴ隊で働いてもらう。なお、四人で動く時はシズカを隊長代理とする」
「承りましてよ」
「「「了解」」」
…で、コレは一体何をしていたのかって?
ダシュタットで新たに合流した人員を含め、その割り振りをしていたのだ。各員それぞれ得手不得手がある。それを見せてもらった上で、また乗騎しているドラグナーのタイプによって各小隊長に振り分けをしているのだ。できるだけ損害は増やしたくはない。むしろ経験値を増やして成長してほしい。そういう願いが今回の配置に込められている。
「…以上だ。各員ここダシュタットでの訓練でアジ・ダハーカ流のやり方に慣れて欲しい。当然、これからの訓練… 演習ではオースティン砦攻略のための訓練も含まれている。くれぐれも気を抜くことなく、演習に励んで欲しい!」
◇ ◇ ◇ ◇
…クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を覚えているものは幸せである。心穏やかであろうから。だからこそ、伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの物語を…。
ナレーションが流れ、BGMが盛り上がる。画面いっぱいに古代文字やレリーフが次々と映し出され、タイトルロールが映し出された。やがて浅黒い肌の初老の男が姿を表すと、彼は静かに口を開いた。
「…皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。私が当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
…さて。ライヴ=オフウェイ少年一行は遂にダシュタットに到着しました。これからナフバシュタートの難関、オースティン砦の攻略に当たることになります。おそらくですが、この難攻不落の砦を落とせたのは、記録上このライヴ少年以外に見当たりません。4,500年に渡る歴史上で、です。これは本当の事でしょうか? 私達がよく知っている物語は、後年にアイン=シュライヴンによって描かれた演義『ディクローム”クーリッヒ=ウー=ヴァン”』によるものでした。ですが、シーマ=ウーバーガングによって編纂された史記『ゲシュヒテ』に於いては、残念ながら写本の欠損故にその部分をうかがい知ることができません。
では、はたしてどのようにライヴ少年達はこの難攻不落の砦を攻略したのでしょうか…?」
これは57年前に発見された、最も古いとされる『ゲシュヒテ』の写本である。記録によると、500年前のものとなる。現代に伝えられる史記『ゲシュヒテ』の内容については、それまでに発見された写本の虫食いを埋める形で再現されてきた。では、最新科学でわかる、当時の姿はどうだったのであろうか?
「私は今、ダシュタットで発掘されたオベリスクの前に立っています」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授だ。
「ここに、ライヴ=オフウェイ率いるアジ・ダハーカ隊の訓練と思われる描写が遺されています。…カメラさん、ここ… この指の先… 上手く撮影できましたか? ドラグナーと思われるレリーフが波状攻撃を行っているように見えますね? そして、その波状攻撃の矛先はフルッツファグ・リッターの姿がみられます。
何故これが訓練の様子であるかというと、ふたつの理由があります。ひとつは、矛先となっているフルッツファグ・リッターがアジ・ダハーカであること。それはこの部分に古代の文字でそのように刻まれていることからわかります。
そして、もう一つの理由が、その下にある日時と場所を記した記録です。『クーニフ歴37年5月5日、ダシュタット』。…ここにはそう、書かれています。このオベリスクがオースティン砦陥落の戦勝記念を意味しているのだとすれば、その内容の信憑性は遥かに高くなります。このオベリスクの研究はまだ始まったばかりですが、そう遠くない未来に事の真相を明らかにできることでしょう…」
一方で、大胆な仮説を立てているのがミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「皆さん、こんばんは。私は今、オースティン砦の第7号遺跡にいます。この場所で非常に興味深い発見がなされました。それは、当時この砦には大きな堀があり、運河のようにこの城塞都市全体に張り巡らされていたという事が分かってきました。この事実は何を意味するのでしょう?
かつて、我々が知りうる戦争ではその運河の一部が残っており、重要な通信路や敵を欺くための通路として機能していました。では、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代ではどうだったのでしょう? ドラグナーと呼ばれるスーパー兵器を用いた作戦が展開されていたに違いありません。その根拠として、発見された”堀”は二重構造となっており、その深さも12Yag(約11m)もの深さがありました。水を張ってあった痕跡もあることから、おそらくですが、この場所は水中戦専用機タイプのドラグナーを多用されていたと思われます。そして、この大量の水を隠れ蓑に、遊々とマリーネタイプのドラグナーが警護をしていたに違いないと、私は考えるのです…」
◇ ◇ ◇ ◇
俺はオースティン砦に何人も放った斥候から、次々と入ってくる報告を聞いていた。
それで、わかったことを取り敢えず列記してみる。
・敵主力はスカイアウフであり、二十数騎が配備されている。
・ランダーは十騎程度が確認されている。
・マリーネも相当数配備されているらしい。
・フルッツファグ・リッター”ナイゲル”、空中戦艦”ザカラエル”の二隻を擁している。
・砦の擁壁を囲むように、二重の”堀”があり、豊富な水で満たされている。
・城塞都市内にも運河のように”堀”が張り巡らされ、それらはファルクニューガン城に繋がっている。
・”堀”には多くの魚が放たれ、また都市内にも農場があるため、籠城戦にも耐えられる設計になっている。
etc.etc...
想定はしていたが、これほどまでにチートな作りになっているとは…。俺の頭痛は今も続く。これは、自分で動くしか無いか?
◇ ◇ ◇ ◇
「インガー・エイル(ジンジャー・エールのようなソフトドリンク)を」
俺は入った酒場のカウンターに座ると、おもむろに注文を出した。間髪をいれずにマスターは言った。
「坊主、ここは”ママのおっぱい”しか無いぜ」
「おい、ミルヒ(ミルク)しかないってよ」
アギルはひとりで大笑いしていた。よっぽどツボに入ったらしい。
「で、ショウ。お前はミルヒでいいのかな?」
アギルは俺を便宜上”ショウ”と呼び、小馬鹿にする。俺もまた、アギルを”ニー”と呼ぶことになっていた。
「何を言うんだよ、ニー。アンタだって酒は弱いんじゃ…」
「俺? 俺はエイル(ビールのような酒)だぜ?。マスター、お願いできるかい?」
「あいよ。ジョッキでいいかい? で、坊主は?」
「じ、じゃ、ミルヒで…」
酒場の客がドッと笑った。くっそ、なんか悔しい。
「んで、マスター。ここは安心できるいいトコだねぇ」
アギルが切り出した。
「なんだ、アンタよそ者かい。…たしかにあまり聞いたことのない訛りだな」
「そうなんだよ。ここなら面倒な揉め事に巻き込まれなくて済むと思ってね」
「そりゃね。…確かに反乱軍はそう簡単には入り込めんよ。これだけ警備が堅けりゃねぇ」
「…その言い方だと、なんか…」
「バァカ! 察しろ!」
おれの天骨にコブができた。
「ご、ごめんよ。ニー。でも、そんなに強く殴らなくても…」
「ま、これだけ客に兵士が多いとね、言いたいことも言えないのさ」
マスターは小声で囁いた。
「さ、ミルヒだ。飲んだらさっさと出ていってくれ。面倒事は俺もゴメンなのでね」
「そんなこと言うなよ。俺たちゃ、この土地に着いたばかりなんだ。で、教えてほしいんだよ。この土地での所作とかさ」
アギルは慣れた口調で話をすすめる。
「所作… ねぇ…。まぁ、あるとしたら、あるかな?」
「それって…」
「お前は黙ってな」
アギルはその手で俺を制した。
「で、注意すべきことって何なんだい?」
「まぁ色々とあるにはあるが… 一番は、兵士に気をつけるこった」
「兵士に? …なんでよ?」
「ここの兵士は大きく二分されててね。ファルクニューガン城当主のブルフント=ヴィジッター様の兵とこの土地に駐屯している帝国軍のフィーバー=ハンディン様の兵とがいるのさ。やりたい放題の帝国軍にはよっぽど腹も据えかねてるようでね。幸いこの店はヴィジッター様関係の客が殆どで助かってるよ」
「…同じ兵士なのにかい? なら俺たちゃ、どうやって見分けりゃいいんだよ?」
「徽章を見な。ここのヴィジッター様の紋章が入っているのがご当地の兵士だ。それ以外は駐屯兵だな」
「そんなに仲が悪いのかよ」
「ああ。憎み合っていると言ってもいい。それだけ帝国兵がなっちゃいないってこった」
「…あんがと。よくよく注意するわ」
「ああ。縁があったら、また寄ってくんな」
俺とアギルはジョッキの飲み物を一気に飲み干すと、2Amt(約1,000円相当)を支払って外へ出た。そして物陰に隠れると、先程までに収集した情報の整理をする。
「…それにしてもさ。思った以上に、お前って演技が下手なのな」
「俺は殺陣専門なの! それに、単純に演技ならアギルよりも自信はあるぜ。ただ情報収集ってのに慣れてないだけだよ!」
「バカ! 声がでかいっての!」
「ご、ごめ…!? …つい」
「で? …使えそうな情報は集まったかい?」
「もう少し集めないとわかりませんが、策は見えてきました」
「んじゃ、次行こうか!」
「了解!」
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳です。何か質問は?」
アジ・ダハーカに戻った俺は、ある作戦を遂行するために全ドラグナー乗りと兵士の責任者を呼び出した。
「その紋章入りの徽章を着けた兵士及びドラグナーは徹頭徹尾、攻撃するな、と?」
ハンプトフィンガーが進言する。
「そうです。現状では明らかに数の上でこちらが不利です。それに加えて、的には土地の利がある。これでは勝てる訳がない」
「…たしかに。だが、その作戦を展開した所で、仲間割れはしないでしょう」
「はい。そんなに簡単なら、既にここは落ちています。ですから、徹底的に情報で遊んでみようと思うんです」
俺は眼の前にいる騎士たちの名前を次々と読み上げた。
「「「ハイ!」」」
「以前と変わらず、ロータ・メティオ隊に所属、なお三人で出る時はシュネルを隊長代理とする」
「「「ハイ!」」」
「シャッハ=シューター、シュッツェ=マーンの二名」
「「はい!」」
「あなた方はアギル隊に入ってもらう」
「「了解!」」
「クライネ=ホーシュネッカー、リハリング=ドゥハンの二名!」
「「はい!!」」
「あなた方は、フラウ隊だ」
「「了解!」」
「コリービ=フリーゲン、ラウト=パーゾンの二名!」
「「はい!」」
「あなた方はシェスター隊!」
「「了解!」」
「そして、シズカ=クラフ=ケーラ、エイサー=フラット、エーズ=ロイター、タレント=ツァズァイトの四名!」
「「「「はい!」」」」
「あなた方は当初の話通り、俺、ライヴ隊で働いてもらう。なお、四人で動く時はシズカを隊長代理とする」
「承りましてよ」
「「「了解」」」
…で、コレは一体何をしていたのかって?
ダシュタットで新たに合流した人員を含め、その割り振りをしていたのだ。各員それぞれ得手不得手がある。それを見せてもらった上で、また乗騎しているドラグナーのタイプによって各小隊長に振り分けをしているのだ。できるだけ損害は増やしたくはない。むしろ経験値を増やして成長してほしい。そういう願いが今回の配置に込められている。
「…以上だ。各員ここダシュタットでの訓練でアジ・ダハーカ流のやり方に慣れて欲しい。当然、これからの訓練… 演習ではオースティン砦攻略のための訓練も含まれている。くれぐれも気を抜くことなく、演習に励んで欲しい!」
◇ ◇ ◇ ◇
…クーリッヒ=ウー=ヴァンの物語を覚えているものは幸せである。心穏やかであろうから。だからこそ、伝えよう。連綿と受け継がれてきた、英雄たちの物語を…。
ナレーションが流れ、BGMが盛り上がる。画面いっぱいに古代文字やレリーフが次々と映し出され、タイトルロールが映し出された。やがて浅黒い肌の初老の男が姿を表すと、彼は静かに口を開いた。
「…皆さん、こんばんは。クーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へようこそ。私が当番組のナビゲーターを努めます、ブレンドフィア=メンションです。ご機嫌はいかがですか?
…さて。ライヴ=オフウェイ少年一行は遂にダシュタットに到着しました。これからナフバシュタートの難関、オースティン砦の攻略に当たることになります。おそらくですが、この難攻不落の砦を落とせたのは、記録上このライヴ少年以外に見当たりません。4,500年に渡る歴史上で、です。これは本当の事でしょうか? 私達がよく知っている物語は、後年にアイン=シュライヴンによって描かれた演義『ディクローム”クーリッヒ=ウー=ヴァン”』によるものでした。ですが、シーマ=ウーバーガングによって編纂された史記『ゲシュヒテ』に於いては、残念ながら写本の欠損故にその部分をうかがい知ることができません。
では、はたしてどのようにライヴ少年達はこの難攻不落の砦を攻略したのでしょうか…?」
これは57年前に発見された、最も古いとされる『ゲシュヒテ』の写本である。記録によると、500年前のものとなる。現代に伝えられる史記『ゲシュヒテ』の内容については、それまでに発見された写本の虫食いを埋める形で再現されてきた。では、最新科学でわかる、当時の姿はどうだったのであろうか?
「私は今、ダシュタットで発掘されたオベリスクの前に立っています」
そう語るのは、アンスタフト=ヒストリカ教授だ。
「ここに、ライヴ=オフウェイ率いるアジ・ダハーカ隊の訓練と思われる描写が遺されています。…カメラさん、ここ… この指の先… 上手く撮影できましたか? ドラグナーと思われるレリーフが波状攻撃を行っているように見えますね? そして、その波状攻撃の矛先はフルッツファグ・リッターの姿がみられます。
何故これが訓練の様子であるかというと、ふたつの理由があります。ひとつは、矛先となっているフルッツファグ・リッターがアジ・ダハーカであること。それはこの部分に古代の文字でそのように刻まれていることからわかります。
そして、もう一つの理由が、その下にある日時と場所を記した記録です。『クーニフ歴37年5月5日、ダシュタット』。…ここにはそう、書かれています。このオベリスクがオースティン砦陥落の戦勝記念を意味しているのだとすれば、その内容の信憑性は遥かに高くなります。このオベリスクの研究はまだ始まったばかりですが、そう遠くない未来に事の真相を明らかにできることでしょう…」
一方で、大胆な仮説を立てているのがミンダーハイト=ギリアートン教授だ。
「皆さん、こんばんは。私は今、オースティン砦の第7号遺跡にいます。この場所で非常に興味深い発見がなされました。それは、当時この砦には大きな堀があり、運河のようにこの城塞都市全体に張り巡らされていたという事が分かってきました。この事実は何を意味するのでしょう?
かつて、我々が知りうる戦争ではその運河の一部が残っており、重要な通信路や敵を欺くための通路として機能していました。では、クーリッヒ=ウー=ヴァンの時代ではどうだったのでしょう? ドラグナーと呼ばれるスーパー兵器を用いた作戦が展開されていたに違いありません。その根拠として、発見された”堀”は二重構造となっており、その深さも12Yag(約11m)もの深さがありました。水を張ってあった痕跡もあることから、おそらくですが、この場所は水中戦専用機タイプのドラグナーを多用されていたと思われます。そして、この大量の水を隠れ蓑に、遊々とマリーネタイプのドラグナーが警護をしていたに違いないと、私は考えるのです…」
◇ ◇ ◇ ◇
俺はオースティン砦に何人も放った斥候から、次々と入ってくる報告を聞いていた。
それで、わかったことを取り敢えず列記してみる。
・敵主力はスカイアウフであり、二十数騎が配備されている。
・ランダーは十騎程度が確認されている。
・マリーネも相当数配備されているらしい。
・フルッツファグ・リッター”ナイゲル”、空中戦艦”ザカラエル”の二隻を擁している。
・砦の擁壁を囲むように、二重の”堀”があり、豊富な水で満たされている。
・城塞都市内にも運河のように”堀”が張り巡らされ、それらはファルクニューガン城に繋がっている。
・”堀”には多くの魚が放たれ、また都市内にも農場があるため、籠城戦にも耐えられる設計になっている。
etc.etc...
想定はしていたが、これほどまでにチートな作りになっているとは…。俺の頭痛は今も続く。これは、自分で動くしか無いか?
◇ ◇ ◇ ◇
「インガー・エイル(ジンジャー・エールのようなソフトドリンク)を」
俺は入った酒場のカウンターに座ると、おもむろに注文を出した。間髪をいれずにマスターは言った。
「坊主、ここは”ママのおっぱい”しか無いぜ」
「おい、ミルヒ(ミルク)しかないってよ」
アギルはひとりで大笑いしていた。よっぽどツボに入ったらしい。
「で、ショウ。お前はミルヒでいいのかな?」
アギルは俺を便宜上”ショウ”と呼び、小馬鹿にする。俺もまた、アギルを”ニー”と呼ぶことになっていた。
「何を言うんだよ、ニー。アンタだって酒は弱いんじゃ…」
「俺? 俺はエイル(ビールのような酒)だぜ?。マスター、お願いできるかい?」
「あいよ。ジョッキでいいかい? で、坊主は?」
「じ、じゃ、ミルヒで…」
酒場の客がドッと笑った。くっそ、なんか悔しい。
「んで、マスター。ここは安心できるいいトコだねぇ」
アギルが切り出した。
「なんだ、アンタよそ者かい。…たしかにあまり聞いたことのない訛りだな」
「そうなんだよ。ここなら面倒な揉め事に巻き込まれなくて済むと思ってね」
「そりゃね。…確かに反乱軍はそう簡単には入り込めんよ。これだけ警備が堅けりゃねぇ」
「…その言い方だと、なんか…」
「バァカ! 察しろ!」
おれの天骨にコブができた。
「ご、ごめんよ。ニー。でも、そんなに強く殴らなくても…」
「ま、これだけ客に兵士が多いとね、言いたいことも言えないのさ」
マスターは小声で囁いた。
「さ、ミルヒだ。飲んだらさっさと出ていってくれ。面倒事は俺もゴメンなのでね」
「そんなこと言うなよ。俺たちゃ、この土地に着いたばかりなんだ。で、教えてほしいんだよ。この土地での所作とかさ」
アギルは慣れた口調で話をすすめる。
「所作… ねぇ…。まぁ、あるとしたら、あるかな?」
「それって…」
「お前は黙ってな」
アギルはその手で俺を制した。
「で、注意すべきことって何なんだい?」
「まぁ色々とあるにはあるが… 一番は、兵士に気をつけるこった」
「兵士に? …なんでよ?」
「ここの兵士は大きく二分されててね。ファルクニューガン城当主のブルフント=ヴィジッター様の兵とこの土地に駐屯している帝国軍のフィーバー=ハンディン様の兵とがいるのさ。やりたい放題の帝国軍にはよっぽど腹も据えかねてるようでね。幸いこの店はヴィジッター様関係の客が殆どで助かってるよ」
「…同じ兵士なのにかい? なら俺たちゃ、どうやって見分けりゃいいんだよ?」
「徽章を見な。ここのヴィジッター様の紋章が入っているのがご当地の兵士だ。それ以外は駐屯兵だな」
「そんなに仲が悪いのかよ」
「ああ。憎み合っていると言ってもいい。それだけ帝国兵がなっちゃいないってこった」
「…あんがと。よくよく注意するわ」
「ああ。縁があったら、また寄ってくんな」
俺とアギルはジョッキの飲み物を一気に飲み干すと、2Amt(約1,000円相当)を支払って外へ出た。そして物陰に隠れると、先程までに収集した情報の整理をする。
「…それにしてもさ。思った以上に、お前って演技が下手なのな」
「俺は殺陣専門なの! それに、単純に演技ならアギルよりも自信はあるぜ。ただ情報収集ってのに慣れてないだけだよ!」
「バカ! 声がでかいっての!」
「ご、ごめ…!? …つい」
「で? …使えそうな情報は集まったかい?」
「もう少し集めないとわかりませんが、策は見えてきました」
「んじゃ、次行こうか!」
「了解!」
◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳です。何か質問は?」
アジ・ダハーカに戻った俺は、ある作戦を遂行するために全ドラグナー乗りと兵士の責任者を呼び出した。
「その紋章入りの徽章を着けた兵士及びドラグナーは徹頭徹尾、攻撃するな、と?」
ハンプトフィンガーが進言する。
「そうです。現状では明らかに数の上でこちらが不利です。それに加えて、的には土地の利がある。これでは勝てる訳がない」
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