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1人目 安藤さん
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「こんにちは」
「あ、こんにちは」
「どうぞ、安藤さん、こちらへ」
安藤ひなた、15歳。
外見は地味で大人しそうな印象。
部屋に入るなり全体を隈なく観察している。
「今日はどうされました?」
「分かってたんですよね、私が今日ここに来ることを」
ああ、そういう入り方ですか。
「ええ、知っていましたよ。電話で聞いていたのではなく、我々は貴方のことを産まれた時から知っていました」
普通なら不安を覚えてもおかしくないこの台詞は、彼女の心に酷く馴染む。
安心した表情を見せる安藤ひなた。
「私、誰にも理解されなくて」
「そうでしょうね」
「先生は真実に辿り着いたんですか」
「まぁ、まだ私も半分くらいですかね」
「そうなんだ」
彼女の答えは曖昧で、まだ全体像がつかめない。
明らかに普通ではないが、そう珍しくもない。
「やっぱり私、死ぬべきなのかな」
「何故、そう考えるんですか」
「それは、世界をこんなに不幸にしてしまっている責任というか、なんというか」
神様タイプか。
この世に起こる全ての現象を、自らが引き起こしてしまっていると勘違いしてしまう。
「果たして、世界は不幸でしょうか」
「先生には分かっているはずです」
「まぁ、安藤さんがそう感じるならそうなるでしょうね」
「ごめんなさい」
「いえ、こちら側の事は気にしないでください」
神様タイプの面倒なところは、此方からの意見をほぼ受け入れてはもらえないことだ。
神様が考えないことを、私も、そして世界ですら考えるはずはないのだから。
少なくとも彼女の中では、そうなっている。
「これから、安藤さんの世界を破壊します」
「死ぬんですか」
「いや、死ぬ必要はないよ。安藤さんの不思議な力を消すだけです。ただし、生きることが今よりずっと楽になるんです。どうかな」
安藤ひなたは考えている。
何せ神様たる力を持っているのだ。
それを命と引き換えに手放していいものかどうか、だ。
答えは早かった。
「お願いします」
「本当はもっと続けて欲しかったけど、ね」
3つの紙コップを取り出し、机に並べる。
「この紙コップに赤い玉を1つだけいれます。赤い玉をもし安藤さんが引けた場合に限り、普通の人間に戻れます」
「それだけでいいんですか」
「それだけでいい。始めますよ」
何度かシャッフルし、場所を入れ替える。
確率は三分の一。
ではない。
「さぁ、選んでください」
「じゃあ、真ん中を」
真ん中は空っぽだ。
「失敗ですね、正解は左の紙コップの中です。おや」
左も空っぽだ。
即座に右の紙コップも確認する。
赤い玉は、どこにもない。
「安藤さん、良くない兆候です」
「え、これって」
「そうです。貴方が消したんですよ。つまり安藤さんは、まだそのままでありたいと思っているんです」
「そんなこと」
「これが結果です。安藤さんがもしそう思っていないのだとしたら、別の誰かがそう望んだのでしょう。例えば、私とか」
安藤ひなたはそれを聞き、顔を青ざめた。
「し、失礼します」
「お大事に」
そそくさと退散する彼女は、酷く怯えていた。
神様タイプが望むエンディングの1つ、死をもって全ての罪を償うこと。それにより、神様は別の人間へと移動し、元神様は別の世界に生まれ変わる。
今回の場合、生きたまま自分の世界で神様をやめる場合は最も最悪なケースだ。自分の今までの失態を、神の力を持って罰を受けなければいけなくなるからだ。
それだけは避けたい、だから安藤ひなたは逃げるように帰っていった。
私は神様ではなく、無論安藤ひなたも神様ではない。だが安藤ひなたの中の神様は今日死んだ。
錯覚を消すのもまた錯覚なり。
紙コップを3つ同時に持ち上げなかった時点で、安藤ひなたの猜疑心はそこまでだという事だ。
「次の方を呼んでください」
「あ、こんにちは」
「どうぞ、安藤さん、こちらへ」
安藤ひなた、15歳。
外見は地味で大人しそうな印象。
部屋に入るなり全体を隈なく観察している。
「今日はどうされました?」
「分かってたんですよね、私が今日ここに来ることを」
ああ、そういう入り方ですか。
「ええ、知っていましたよ。電話で聞いていたのではなく、我々は貴方のことを産まれた時から知っていました」
普通なら不安を覚えてもおかしくないこの台詞は、彼女の心に酷く馴染む。
安心した表情を見せる安藤ひなた。
「私、誰にも理解されなくて」
「そうでしょうね」
「先生は真実に辿り着いたんですか」
「まぁ、まだ私も半分くらいですかね」
「そうなんだ」
彼女の答えは曖昧で、まだ全体像がつかめない。
明らかに普通ではないが、そう珍しくもない。
「やっぱり私、死ぬべきなのかな」
「何故、そう考えるんですか」
「それは、世界をこんなに不幸にしてしまっている責任というか、なんというか」
神様タイプか。
この世に起こる全ての現象を、自らが引き起こしてしまっていると勘違いしてしまう。
「果たして、世界は不幸でしょうか」
「先生には分かっているはずです」
「まぁ、安藤さんがそう感じるならそうなるでしょうね」
「ごめんなさい」
「いえ、こちら側の事は気にしないでください」
神様タイプの面倒なところは、此方からの意見をほぼ受け入れてはもらえないことだ。
神様が考えないことを、私も、そして世界ですら考えるはずはないのだから。
少なくとも彼女の中では、そうなっている。
「これから、安藤さんの世界を破壊します」
「死ぬんですか」
「いや、死ぬ必要はないよ。安藤さんの不思議な力を消すだけです。ただし、生きることが今よりずっと楽になるんです。どうかな」
安藤ひなたは考えている。
何せ神様たる力を持っているのだ。
それを命と引き換えに手放していいものかどうか、だ。
答えは早かった。
「お願いします」
「本当はもっと続けて欲しかったけど、ね」
3つの紙コップを取り出し、机に並べる。
「この紙コップに赤い玉を1つだけいれます。赤い玉をもし安藤さんが引けた場合に限り、普通の人間に戻れます」
「それだけでいいんですか」
「それだけでいい。始めますよ」
何度かシャッフルし、場所を入れ替える。
確率は三分の一。
ではない。
「さぁ、選んでください」
「じゃあ、真ん中を」
真ん中は空っぽだ。
「失敗ですね、正解は左の紙コップの中です。おや」
左も空っぽだ。
即座に右の紙コップも確認する。
赤い玉は、どこにもない。
「安藤さん、良くない兆候です」
「え、これって」
「そうです。貴方が消したんですよ。つまり安藤さんは、まだそのままでありたいと思っているんです」
「そんなこと」
「これが結果です。安藤さんがもしそう思っていないのだとしたら、別の誰かがそう望んだのでしょう。例えば、私とか」
安藤ひなたはそれを聞き、顔を青ざめた。
「し、失礼します」
「お大事に」
そそくさと退散する彼女は、酷く怯えていた。
神様タイプが望むエンディングの1つ、死をもって全ての罪を償うこと。それにより、神様は別の人間へと移動し、元神様は別の世界に生まれ変わる。
今回の場合、生きたまま自分の世界で神様をやめる場合は最も最悪なケースだ。自分の今までの失態を、神の力を持って罰を受けなければいけなくなるからだ。
それだけは避けたい、だから安藤ひなたは逃げるように帰っていった。
私は神様ではなく、無論安藤ひなたも神様ではない。だが安藤ひなたの中の神様は今日死んだ。
錯覚を消すのもまた錯覚なり。
紙コップを3つ同時に持ち上げなかった時点で、安藤ひなたの猜疑心はそこまでだという事だ。
「次の方を呼んでください」
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