上 下
3 / 3

3人目 内海さん

しおりを挟む
「こんにちは」
「」
「今日はどうされました」

内海たける、19歳。
肩幅が狭い細身の男性。
返事をするという教育はどうやら受けていないようだった。

「内海さん?」
「はい」
「今日はどういったご相談でしょうか」
「相談はありません」

そうですか。
ではおかえりください。
とは言えない。

自分から何かを発しない。
周りの空気を読みすぎる。
そういった類いのものか。

「ではこちらからいくつか質問させてください」
「はい」
「今日の朝ごはんは何でしたか」
「目玉焼きと、ご飯です」
「美味しかったですか」
「いえ、別に」

方向性を変えますか。

「内海さんは普段、何をしていますか」
「ゲームです」
「どんなゲームですか」
「普通のパソコンのゲームです」
「FPSですか」
「違いますよ。あんなのと一緒にしないでください」
「失礼しました」

ニートのくせによく吠えるものだ。

(すみませんね、先生)

隣の母親が小さく呟く。
お母さん、あなたの息子さんは悪いことはしていない。
勿論いい事もしていない。
人畜無害なだけです。

「そのゲームで、内海さんは強いんですか」
「ランキングでは上位0.28%に入ってます」
「それは強いと言っていいものですね」
「普通ですよ」
「大会などは出た事はあるんですか」
「あります。日本全国大会で3位でした」

サラッと言う。
ゲームに自信はあるし、実力もある。

今の時代ならプロゲーマーとして仕事がありそうなものではあるが。

(ゲームで働くなんて、うちの子は一族の恥ですよ)

ため息。

「内海さん、すみません。ちょっと外でお待ちいただいてもいいですか?」
「分かりました」

当事者の退場。
異例の出来事である。

「お母さん」
(はい)
「私は今日内海さんと話がしたいんです」
(でもうちの子は無口なので)
「そういう意味ではないんです」

「あの、先生。今誰と話しているんですか?」

井上ひかり。
つい最近雇った助手には、内海たけるの母親が見えていない。

内海たけるの母親は、数年前に亡くなっているのだから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...