『黄金の記憶 ー 金に魅せられた人類の物語』

leviathan

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第2章:征服と血と金

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「金はどこにある?」
男は、笑っていた。

鉄の鎧、十字架、銃。
彼の背にあるのは遠き異国の神。だが、この大陸にとってはただの“悪魔”だった。

スペインのコンキスタドールたちが南米の岸に上陸した時、彼らの目には黄金しか映っていなかった。
太陽の民、インカ。彼らの神殿はまばゆい光で満たされ、壁は金で覆われていたという。

「我らが王は、富を欲している。神の意志だ」
彼らは祈るふりをして剣を抜き、
信仰を説くふりをして砦を築き、
微笑みながら帝国を喰らっていった。

その頃、インカ帝国の神官は天を仰いでこう言った。

「我らの神が試しておられる。
 黄金は太陽の贈り物、人に与えるには早すぎたのだ」

儀式の金面具、祭壇の杯、亡骸を覆う金の衣。
それらは神々と交信する“回路”であり、信仰の中核だった。

だが、コンキスタドールたちはそんな“意味”には興味がなかった。

「意味? それが銀貨に換えられるのか?」

彼らは金を溶かし、塊にし、数を量り、
海を越えて船に積んだ。
嵐で沈んだ黄金船の数は、今も語り草だ。

かつて神々の祈りを受けた金は、
今や戦争の資金として流通し始めた。

そして――

滅びた神殿の跡地に、
一つの碑文が残されたという。

「神の血を飲み干した者よ、
 その輝きがやがて、お前を焼き尽くす。」

金は記憶していた。
奪われ、殺され、裏切られ、
人類がどこまで堕ちていけるのかを。

だがそれでも、
金は光を失わなかった。

人類は信じていたのだ。
この“輝き”の先に、楽園があると。
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