『黄金の記憶 ー 金に魅せられた人類の物語』

leviathan

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第5章:幻想と市場

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金はもはや手で触れるものではなかった。
それは、数字となって浮かび上がる幻になった。

21世紀。
人々は“現物”よりも“信号”を信じるようになった。
金塊は倉庫に眠り、
画面の中でその価値は一日に何度も増減する。

「ここに金はあるのか?」
投資家の少年が問う。
「あることになっている」と、アナリストは答える。

金は“実物資産”という名前の幻想を纏った。
ETF(上場投資信託)、金先物、デリバティブ――
市場は、金の所有すら疑似的に行う手段を次々と生み出した。

1オンスの金塊に、
100人が「これは私のものだ」と権利を主張する。

だが、それでも価値は崩れなかった。
なぜか。

「金は唯一、信用の外にあるものだからだ」

ドルが揺らげば、円が沈めば、ユーロが焦げつけば――
人々は金にすがった。
それは物質的な“安全資産”であると同時に、
心理的な“信仰対象”となった。

リーマン・ショックの夜、
市場が崩壊する中、金だけが静かに値を上げ続けた。
誰もが混乱していた。
だが金だけは、黙っていた。

それは言葉を持たぬ預言者。
滅びゆく信用社会を、静かに見下ろしていた。

そしてビットコインが登場する。

「金は物質の限界、仮想通貨は概念の解放」
新たな世代はそう語った。

しかし、その仮想通貨ですら
“デジタルゴールド”と呼ばれた。

結局のところ、人は今もこう問うのだ。

「この価値は、金と比べて信じられるか?」

金は、比喩となり、基準となり、
ついには象徴となった。

だが――それは本当に“永遠”なのだろうか?

ある物理学者が呟いた。

「そもそも、金はどうやって生まれたんだろうね」

「地球に金があるのは……奇跡じゃないか?」

そして、舞台は地球の外へと移る。
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