『神々の沈黙と光の世紀』

leviathan

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【第三部:沈黙と再誕】

第三章:魂の継承者たち

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リヴィ・アインスは、夢を見続けていた。
それは明晰で、あまりにも具体的だった。

——山の雪原を越える黒髪の若者。
——火に包まれた教会。
——肩を寄せ合う男女。
——“剣を土に還す”という動作。

目覚めるたびに、彼は確信を深めていった。

「これは、過去の物語ではない。
記憶の中に埋め込まれた“経験”の断片だ」



リヴィは大学の研究室にこもり、過去10年間の夢記録と、祈りに関する民族伝承データを突き合わせ始めた。

その中に、ひとつの興味深い仮説があった。

「信仰は血統ではなく、“構造化された共感”として継承される」

つまり、「人が神を信じた」という体験は、記録としてではなく、
行動と感情の様式(リズム、沈黙、赦し)として人から人へと無意識に受け継がれるという理論。

リヴィはそれを、**“魂の継承”**と名付けた。



彼はある修道院の図書室で、さらに決定的な手がかりを見つけた。

それは12世紀の詩篇写本の端に、小さく書き込まれていたラテン語の一節。

「彼は剣を置き、
彼女は歌を重ねた。
二人は互いに耳を傾け、
その静寂が人々の中に灯を灯した」

注釈はなかった。誰が書いたかもわからない。
だが、あの夢の二人――“エイリクとレア”を指しているとしか思えなかった。



その夜、リヴィは修道院の礼拝堂でひとり静かに立ち尽くした。
天井に描かれた天使たちの姿を見上げながら、こう呟いた。

「神は、名前を持たないまま継承されていく。
でも、人は“神を信じた人の姿”を忘れない」

ふと、隣に誰かの気配を感じて振り返ると、
誰もいなかった。

だが、彼の心には確かにあった。

——土に剣を埋める感触。
——焚き火の前で誰かの手を握った温度。
——沈黙の中で、語らずに赦されるという奇跡。



リヴィは記録を書き続けた。
だが、それは論文ではなかった。
詩であり、祈りであり、歌だった。

「神を信じた人の声はもう聞こえない。
だが、彼らが語らずに伝えたものは、
今も私の内に囁いている。
だから私は、書き記す。
それが、沈黙の中に生きる者の祈りだと知ったから——」



彼の声は、誰に届くのでもなかった。
だが、それが大切だった。

記録されることを望まずとも、
信じた何かが“誰かの心に似たもの”を残す限り、信仰は続く。
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