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第10話
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アンセムの凶行の後のこと――
腹に傷を受けたルージュは三日三晩苦しみ、そして息を引き取った。それを知った獄中のルデマルク伯爵は悲しみのあまりおかしくなり、自殺を図って亡くなった。殺人罪で処刑が決まったアンセムは自らの死に恐怖し、喚き散らしているという――
ヴィオレットはこの成り行きに衝撃を受け、深い悲しみの中にあった。
しかしブラッドの心からの慰めが伝わり、徐々に元気を取り戻していった。
。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・゚・。。・゚・。
あの王宮舞踏会から数年が経った春の日。
王宮では国王と王妃主催のお茶会が開かれた。多く集まった貴族の中には、とっくの昔に学園を卒業したローランド、メルヴィン、サミュエルの姿もある。やがて招待者が揃うと、国王に即位したばかりのブラッドが姿を現した。王宮舞踏会の時点でかなり年老いていた前国王はついに王位を退いたのだった。やがてブラッドは招待者達を見渡すと、一礼して挨拶した。
「皆様、今日はお茶会へお越しいただき、ありがとうございます。こうして皆様と過ごせる時間は何よりの幸福です。さて、突然ですが、今ここで喜ばしい報告をさせていただきたいと思います。さあ、ヴィオレット――」
そして登場したのは王妃となったヴィオレットだった。
彼女はゆったりとしたドレスを着て、微笑んでいる。
それもそのはず、その下腹部はわずかに膨らんでいた――
「皆様にしたい報告と言うのは、ヴィオレットの懐妊です。医者によると、現在四カ月目だそうです」
そう言ってブラッドはヴィオレットと微笑み合った。招待者達は驚きと喜びの声を上げ、大きな拍手を送る。中にはヴィオレットのこれまでの不遇を思い、感動の涙を流す者さえいた。そんな相手にヴィオレットは心からの感謝を示し、喜びに満ちたお茶会が続いていった。
「おめでとう、ヴィオレット様!」
「ああ、こんなに嬉しいことはない!」
「どんな可愛い子が生まれるか、楽しみです!」
ローランド、メルヴィン、サミュエルが二人に声をかける。
ブラッドとヴィオレットはそんな三人とテーブルを囲み、昔話に興じる。
そこに遅れてやってきたガレッドも加わり、お茶会はより華やかになっていった。
「それにしても、俺はもっと早く妊娠すると思ってたぜ?」
ガレッドがブラッドへ微笑みかける。
「それはなぜですか? ガレッド?」
「だって聖女様から託された聖力をヴィオレットに注ぐって言ってただろう? つまりそれって……そういう意味だろう?」
ガレッドの下品な想像にブラッドは溜息を吐く。
「確かに、隣国から動けない聖女様はこの僕に聖力を託しました。そしてその聖力は僕の体へ浸透し、そして彼女に注がれた。……でもそれは、そんないかがわしい意味ではありませんよ?」
「え? そうなのか?」
「ええ、非常に健全な形で彼女に注がれました。唇を使ってね?」
「おいおい、のろけるなよ!」
テーブルが一気に笑いに包まれる。そんな中、ヴィオレットは幸せそうにお腹を擦っていた。彼女のお腹はふっくらと盛り上がり、数ヶ月後には元気な子が生まれてくることが誰の目にも明らかだった。ヴィオレットの母も孫の誕生を心から祝福し、今では共に王宮で暮らしている。やがてブラッドが、愛おし気に彼女のお腹を撫でた。
「僕達の愛の結晶はきっと女の子でしょうね」
「え……? 分かるのですか、ブラッド……?」
「分かりますよ、ヴィオレット。僕には聖女様の力がまだ残っていますから」
そして彼は遠い目をして語った。
「この子の次は男の子が生まれ、彼が王位を継ぐでしょう。そして王女は聖女様の住む隣国へ嫁ぎ、この国と隣国は友和でもって結ばれるのです。それが僕が聖力で見た未来です――」
「その未来が訪れるのが待ち遠しいですね、ブラッド。あなたと出会えたことは私にとって、本当に幸せなことでした」
涙ぐんでそう言ったヴィオレットの頬にブラッドは優しく口づける。
そして人々が囃し立てる中、二人は熱く抱き合ったのだった。
―END―
腹に傷を受けたルージュは三日三晩苦しみ、そして息を引き取った。それを知った獄中のルデマルク伯爵は悲しみのあまりおかしくなり、自殺を図って亡くなった。殺人罪で処刑が決まったアンセムは自らの死に恐怖し、喚き散らしているという――
ヴィオレットはこの成り行きに衝撃を受け、深い悲しみの中にあった。
しかしブラッドの心からの慰めが伝わり、徐々に元気を取り戻していった。
。・゚・。。・゚・。。・゚・。。・゚・。・゚・。。・゚・。
あの王宮舞踏会から数年が経った春の日。
王宮では国王と王妃主催のお茶会が開かれた。多く集まった貴族の中には、とっくの昔に学園を卒業したローランド、メルヴィン、サミュエルの姿もある。やがて招待者が揃うと、国王に即位したばかりのブラッドが姿を現した。王宮舞踏会の時点でかなり年老いていた前国王はついに王位を退いたのだった。やがてブラッドは招待者達を見渡すと、一礼して挨拶した。
「皆様、今日はお茶会へお越しいただき、ありがとうございます。こうして皆様と過ごせる時間は何よりの幸福です。さて、突然ですが、今ここで喜ばしい報告をさせていただきたいと思います。さあ、ヴィオレット――」
そして登場したのは王妃となったヴィオレットだった。
彼女はゆったりとしたドレスを着て、微笑んでいる。
それもそのはず、その下腹部はわずかに膨らんでいた――
「皆様にしたい報告と言うのは、ヴィオレットの懐妊です。医者によると、現在四カ月目だそうです」
そう言ってブラッドはヴィオレットと微笑み合った。招待者達は驚きと喜びの声を上げ、大きな拍手を送る。中にはヴィオレットのこれまでの不遇を思い、感動の涙を流す者さえいた。そんな相手にヴィオレットは心からの感謝を示し、喜びに満ちたお茶会が続いていった。
「おめでとう、ヴィオレット様!」
「ああ、こんなに嬉しいことはない!」
「どんな可愛い子が生まれるか、楽しみです!」
ローランド、メルヴィン、サミュエルが二人に声をかける。
ブラッドとヴィオレットはそんな三人とテーブルを囲み、昔話に興じる。
そこに遅れてやってきたガレッドも加わり、お茶会はより華やかになっていった。
「それにしても、俺はもっと早く妊娠すると思ってたぜ?」
ガレッドがブラッドへ微笑みかける。
「それはなぜですか? ガレッド?」
「だって聖女様から託された聖力をヴィオレットに注ぐって言ってただろう? つまりそれって……そういう意味だろう?」
ガレッドの下品な想像にブラッドは溜息を吐く。
「確かに、隣国から動けない聖女様はこの僕に聖力を託しました。そしてその聖力は僕の体へ浸透し、そして彼女に注がれた。……でもそれは、そんないかがわしい意味ではありませんよ?」
「え? そうなのか?」
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「おいおい、のろけるなよ!」
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「その未来が訪れるのが待ち遠しいですね、ブラッド。あなたと出会えたことは私にとって、本当に幸せなことでした」
涙ぐんでそう言ったヴィオレットの頬にブラッドは優しく口づける。
そして人々が囃し立てる中、二人は熱く抱き合ったのだった。
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