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第8話
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私は、エヴァン様にちょっかいをかけ始めたモニカ様をそっと見詰めます。
「それにしても、またエヴァンに会えるなんて……いえ、エヴァン様はネッシーレ国の王子なのよね! 余計に愛おしくなりますわぁ!」
「はあ……? どちら様で……?」
「わ、私を忘れたの!? モニカよ!」
片眼鏡のレンズに、モニカ様の個人情報が表示されました。ふむふむ……モニカ様は呪術師なのですね。そして私へ恨みを抱き、呪いを込めた人形を編んだ。その人形に仕込まれた奴隷化の呪いは遅効性で、小箱を開けると噴射される仕組みとなっている。しかし修行不足のため、呪いの成功率は十八パーセント……ショボいですね。
それにしても、謝罪の際に呪物を贈るだなんて、有り得ません。少々意趣返ししても宜しいでしょうか……――?
私はビルンナ国王とモニカ様に向き直り、申し上げました。
「ビルンナ国王陛下、モニカ様、私に謝罪する必要はありません」
「な、なぜだ……!? 怒っているのか……!?」
「どうして……!? 小箱を開けてちょうだい……!」
私は静かに首を横に振りました。
「いいえ、怒っていません。むしろ謝罪とプレゼントに感謝しているのです。なので、お二人に加護を与えようと思っております」
私は小箱の蓋を開けないまま、中の人形へ【効果一億倍】の加護を付与しました。私は基本的に、ポジティブかニュートラルな加護しか付与することができません。しかし贈り物が呪物であったため、私の加護は最凶最悪にネガティブなものとなったのです。今やモニカ様の編んだ人形は、完全無比な呪物でした。
私は二人に向かって、説明します。
「実は、私はあらゆるものに加護を付与できるスキル持ちなのです。だから、ブフル国王が私の手芸品を高値で買ってくれたのです」
「ほ、本当か……!? 凄いじゃないか……!?」
「そ、そうね。悔しいけど、凄いわ」
ここで、モニカ様の人形が入った箱を差し出します。
「それで、この小箱の中のアイテムに“最高の加護”を付与しました。この小箱を開けた人物は、この世で最も幸せな存在になれます。天才手芸家など必要ないほどです」
「最高の加護だと!? それは五百兆ゼベより価値あるものか!?」
「はい。あらゆる富と名誉と地位と幸福と魅力を得ることができます」
「本当に!? 私の人形が最高の加護持ちアイテムになったの!?」
「はい。モニカ様が幸せを願って下さったお陰です」
その途端、二人は小箱を奪い合うように受け取り、背を向けました。
「それでは、儂は国に帰るぞ」
「私も帰るわ。またね、エヴァン様」
そして小箱を掴んだまま広間を出ていきました。現金な方々ですね。
それにしても――
モニカ様が本心から幸せを込めた贈り物でしたら、あの人形は少なからず祝福されていたはずです。そこへ私が【効果一億倍】の加護を付与したなら、あなた達は最高の幸せを手に入れられたはずなのです。呪いをかけたモニカ様、そんな彼女を選んだビルンナ国王、一億倍の呪いは自業自得として受け取って下さいね。
本当にさようなら。
「ヴィオラ……あいつらに加護を与えたのか……?」
エヴァン様が疑うように尋ねてきます。勘の良いお方です。
「いえ、小箱の中身は呪われた人形でした。ですので、【効果一億倍】の加護を付与して返して差し上げたのです。きっと二人は強烈な呪いにかかりますよ」
それを聞いたエヴァン様は唖然とし、やがて笑い出しました。
「まさか……そんな加護を付与するとは……! きっとあいつらすぐに小箱を開けて、酷い目に遭うぞ……! くっ……くくく……流石、ヴィオラだ……!」
エヴァン様は笑い上戸なのですよね。私もいささか愉快になって、微笑みを浮かべました。すると彼は、さらに嬉しそうに笑います。
「そうだ、もっと笑うといい。ヴィオラは笑顔が素敵だ」
「勿体ないお言葉です」
「冷静だな。しかし俺は嬉しい」
そしてエヴァン様は私へ手を差し出しました。
「腹立たしい相手には何倍にもしてやり返す。難しい依頼をいとも簡単に成功させる。俺は、それをやってのける君を見ていると楽しくて堪らない。ずっと傍で君を眺めていたい、そう思ってしまう。これからも、一緒に居ていいだろうか?」
そう語る彼の笑顔は、本当に素敵です。もし精神面の加護を手放した私が彼を目にしたら、嬉しくて震えてしまうでしょう。しかし私は差し出された手を取らず、恭しくお辞儀をしました。
「――身に余る光栄です。ご命令通りに致します」
エヴァン様の笑みは陰り、その顔に悲しみが浮かびました。しかしこの私に何ができるというのでしょうか。私は公爵で、相手は王子なのですから、ご命令に従うのが当然なのです。それに、私がエヴァン様の手を取るには早過ぎます。
なぜなら、まだ覚悟が決まっていないのですから――
………………
…………
……
そして翌日、ビルンナ国王と公爵令嬢モニカ様に関する知らせが、ネッシーレ国に広まりました。
その知らせとは……――
「それにしても、またエヴァンに会えるなんて……いえ、エヴァン様はネッシーレ国の王子なのよね! 余計に愛おしくなりますわぁ!」
「はあ……? どちら様で……?」
「わ、私を忘れたの!? モニカよ!」
片眼鏡のレンズに、モニカ様の個人情報が表示されました。ふむふむ……モニカ様は呪術師なのですね。そして私へ恨みを抱き、呪いを込めた人形を編んだ。その人形に仕込まれた奴隷化の呪いは遅効性で、小箱を開けると噴射される仕組みとなっている。しかし修行不足のため、呪いの成功率は十八パーセント……ショボいですね。
それにしても、謝罪の際に呪物を贈るだなんて、有り得ません。少々意趣返ししても宜しいでしょうか……――?
私はビルンナ国王とモニカ様に向き直り、申し上げました。
「ビルンナ国王陛下、モニカ様、私に謝罪する必要はありません」
「な、なぜだ……!? 怒っているのか……!?」
「どうして……!? 小箱を開けてちょうだい……!」
私は静かに首を横に振りました。
「いいえ、怒っていません。むしろ謝罪とプレゼントに感謝しているのです。なので、お二人に加護を与えようと思っております」
私は小箱の蓋を開けないまま、中の人形へ【効果一億倍】の加護を付与しました。私は基本的に、ポジティブかニュートラルな加護しか付与することができません。しかし贈り物が呪物であったため、私の加護は最凶最悪にネガティブなものとなったのです。今やモニカ様の編んだ人形は、完全無比な呪物でした。
私は二人に向かって、説明します。
「実は、私はあらゆるものに加護を付与できるスキル持ちなのです。だから、ブフル国王が私の手芸品を高値で買ってくれたのです」
「ほ、本当か……!? 凄いじゃないか……!?」
「そ、そうね。悔しいけど、凄いわ」
ここで、モニカ様の人形が入った箱を差し出します。
「それで、この小箱の中のアイテムに“最高の加護”を付与しました。この小箱を開けた人物は、この世で最も幸せな存在になれます。天才手芸家など必要ないほどです」
「最高の加護だと!? それは五百兆ゼベより価値あるものか!?」
「はい。あらゆる富と名誉と地位と幸福と魅力を得ることができます」
「本当に!? 私の人形が最高の加護持ちアイテムになったの!?」
「はい。モニカ様が幸せを願って下さったお陰です」
その途端、二人は小箱を奪い合うように受け取り、背を向けました。
「それでは、儂は国に帰るぞ」
「私も帰るわ。またね、エヴァン様」
そして小箱を掴んだまま広間を出ていきました。現金な方々ですね。
それにしても――
モニカ様が本心から幸せを込めた贈り物でしたら、あの人形は少なからず祝福されていたはずです。そこへ私が【効果一億倍】の加護を付与したなら、あなた達は最高の幸せを手に入れられたはずなのです。呪いをかけたモニカ様、そんな彼女を選んだビルンナ国王、一億倍の呪いは自業自得として受け取って下さいね。
本当にさようなら。
「ヴィオラ……あいつらに加護を与えたのか……?」
エヴァン様が疑うように尋ねてきます。勘の良いお方です。
「いえ、小箱の中身は呪われた人形でした。ですので、【効果一億倍】の加護を付与して返して差し上げたのです。きっと二人は強烈な呪いにかかりますよ」
それを聞いたエヴァン様は唖然とし、やがて笑い出しました。
「まさか……そんな加護を付与するとは……! きっとあいつらすぐに小箱を開けて、酷い目に遭うぞ……! くっ……くくく……流石、ヴィオラだ……!」
エヴァン様は笑い上戸なのですよね。私もいささか愉快になって、微笑みを浮かべました。すると彼は、さらに嬉しそうに笑います。
「そうだ、もっと笑うといい。ヴィオラは笑顔が素敵だ」
「勿体ないお言葉です」
「冷静だな。しかし俺は嬉しい」
そしてエヴァン様は私へ手を差し出しました。
「腹立たしい相手には何倍にもしてやり返す。難しい依頼をいとも簡単に成功させる。俺は、それをやってのける君を見ていると楽しくて堪らない。ずっと傍で君を眺めていたい、そう思ってしまう。これからも、一緒に居ていいだろうか?」
そう語る彼の笑顔は、本当に素敵です。もし精神面の加護を手放した私が彼を目にしたら、嬉しくて震えてしまうでしょう。しかし私は差し出された手を取らず、恭しくお辞儀をしました。
「――身に余る光栄です。ご命令通りに致します」
エヴァン様の笑みは陰り、その顔に悲しみが浮かびました。しかしこの私に何ができるというのでしょうか。私は公爵で、相手は王子なのですから、ご命令に従うのが当然なのです。それに、私がエヴァン様の手を取るには早過ぎます。
なぜなら、まだ覚悟が決まっていないのですから――
………………
…………
……
そして翌日、ビルンナ国王と公爵令嬢モニカ様に関する知らせが、ネッシーレ国に広まりました。
その知らせとは……――
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