天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん

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第9話 モニカ視点

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 竜車に戻るなり、私と国王陛下は小箱を奪い合った。

「貴様ッ! 小箱から手を離せッ!」
「国王陛下こそ、手を離して下さいッ!」

 私は国王陛下の脛を蹴り、国王陛下は私の髪を引っ張る。そんな攻撃をし合っても、お互いに小箱から手を離さない。本気で睨み合う。

「おい……儂は国王だぞ……?」
「この人形を作ったのは私ですよ……?」

 何なの? 何なの? このハゲデブおっさん、本当に邪魔! レディーファーストしなさいよ! アンタみたいな老いぼれが幸せになっても意味ないでしょ!?

 私が心の底から苛々していると、国王陛下は怖い顔をして脅してきた。

「貴様、処刑されたいのか? 儂の権限を使えば、公爵令嬢と言えど簡単に殺せるのだぞ? それとも、生きたまま苦しみたいか?」
「はあああぁぁぁ!? 何その脅し! 小箱を開ければ、こっちのもんでしょ!」
「何だと……? その言い様は何だ……?」
「これが素ですけどぉ!? このハゲデブおっさん!」
「ハ、ハゲデブ……――」

 すると国王は怯んで、手を弛めた。その隙に、全力で引っ張って小箱を手に入れる。やったわ! 奪ってやったわよ!

「最高の幸せが私の手に……――痛ッ!?」
「ふざけるなッ! 儂のものだッ!」

 ハゲデブおっさんは私の髪を引き千切り、落ちた小箱を掴み取る。しかし私は負けなかった。おっさんの顔面を蹴り、小箱を奪い返す。そのまま蓋を開こうとした時、おっさんが全身でぶつかってきた。

 小箱が宙を舞う。

「あっ……――」
「うわっ……――」

 コトンと転がり、小箱の蓋が開いた。

「あああッ! 幸せがッ!」
「うおおおッ! 何てことだッ!」

 私達は小箱に駆け寄って、激しく呼吸する。小箱の中からは紫色の煙が立ち上っている。これがヴィオラが付与したという加護なのね!? 早く! 早く吸い込むのよ! 最高の加護を! 加護……かご……か……ご……――



「国王陛下! モニカ様! どうなさいました!?」

 竜車の扉が開き、御者が入ってきた。そのお姿はとても神々しい。ああ、このお方が私のご主人様なのね? 私にご命令下さるのね?

「何なりとご命令を……」
「ご主人様の仰る通りに……」
「国王陛下!? モニカ様!?」

 その後、ご主人様は私達をビルンナ小国まで運んで下さった。そしてもっと神々しいご主人様達に会わせてくれたの。私ともうひとりの奴隷は、命じられるまま過去の罪を白状したのよ。

「儂とモニカは男女の関係にありました! モニカの美しさと可愛さに魅了されて、彼女を天才手芸家にしてやったのです! 王妃はババアなので嫌いです!」
「私は呪術師です! ヴィオラが憎いので、奴隷の呪いをかけた人形を作って渡そうとしました! でも最高の加護を付与されて返してもらったのです!」

 そう告げると、ご主人様達が冷たい表情をした。

「母上。父上とモニカの呪いですが……国中の魔術師を集めれば、解けるかと」
「今はその時ではありません。あなたが王位を継いだら、解呪しましょう」
「解呪後は、二人に罪状の書かれた看板を持たせて王都を歩かせた後、平民になってもらおうと思います。この二人を許しては国民に示しがつきませんから」
「それがいいでしょう。あなたは暗君になってはなりませんよ」
「無論です、母上」



 それから数ヶ月間、私達は小部屋にて待機していたわ。そしてようやく出られたと思ったら、大勢のご主人様の前に立たされて魔法を解かれたの。

「わ、私……今まで何をしていたの……!?」
「儂は何をしておったのだ……!?」

 私達は大いに狼狽える。だって竜車で小箱の取り合いした後の記憶がないんだもの。すると目の前に、手持ち看板が差し出された。そこには、“私達は男女の関係を持ちました。天才手芸家だと嘘を吐きました”と書かれていたわ。国王の方は、“愚かな政治をして国を潰しかけました”とも書いてあった。

「何よ、これ……!? こんなの持たせないで……やめてやめてやめて……――」
「これを持って王都を歩くだと……!? 嫌だ嫌だ嫌だあああぁ……――」

 私と国王に、拒否権はなかった。私達は看板を持って王都を練り歩き、罵倒され、笑われ、石を投げられた。やがてそれが終わると、平民となったことを告げられた。

「平民になっただと……? 儂らにあるものは、命だけなのか……?」
「はあッ!? ふざけないでッ!? 絶対に復讐してやるッ!」

 元国王は早々に諦めて物乞いに落ちたけど、私は執念深かった。呪術師として生計を立てながら、ヴィオラを呪い続けた。呪術師の修行をして、ありとあらゆる呪いをかけ続けた。まさに呪い漬けの日々だった。

 呪いの念は、隣国まで届くんだから! 今頃きっと苦しんでるわ!



………………
…………
……



 しかしヴィオラが病気になったとか、死んだとか、そんな知らせは全くなかった。むしろ他国の問題を解決して、ネッシーレ国の株を上げているという知らせばかりが聞こえてきた。

 そして馬鹿な私は、ようやく気が付いた。

 ヴィオラは私の呪いを何倍にもして返すような奴よ。つまり格が違うの。この私は初めから負けていた……手芸も……呪いも……完敗だった……――

「はは……あはははははは……」

 私はヴィオラを呪うのを諦めて、呪術師家業に精を出した。もう良い奴を呪うことはしない。悪い奴を懲らしめる呪いだけを請け負う。さらに、手芸品も作って売り出した。すると今までよりも、ずっとマシな暮らしができるようになったの。

 元国王は、たまに家に呼んで食事を振る舞っている。

 同じ立場になったんだから、少しくらいは優しくしてもいいでしょう……――?
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