妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん

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第8話

「ふっ……こんなものね」

 イザベルが広げていた手を握ると、水は止まった。その奇跡を目にした召使達は大いに騒めき、彼女に手を合わせる者まで現れた。そんな中、ミーファとユイラは恐怖に震えるアナベルを強く抱き締め、イザベルを睨み付けていた。
 その時、拍手の音が響いた――その出所はファースである。

「素晴らしい。それが聖女の力ですか」

 そう言ってサレクを伴い、イザベルへ歩み寄る。
 彼女は優雅にお辞儀をして二人を迎えた。

「どう? 私は紛れもなく聖女だったでしょう?」
「そうですね。あなたは間違いなく奇跡を起こした」

 その瞬間、イザベルは壮絶な笑みを浮かべながら遠くの姉を見た。
 “私は勝った。この先、お前がどうなるか楽しみだ”――そんな言葉が頭の中に響いてくるようで、アナベルは眩暈を起こした。やはり駄目だった、ファースも妹に取り込まれてしまった。このままでハーレムが滅茶苦茶になり、自分は殺されるだろう。そう思った時、ファースが言った。

「そう、奇跡……ただしペテン師なりの奇跡をね」
「はあっ!? って、ちょっと……! 離しなさいよ……!」

 サレクはイザベルの横に回ると、手首をねじり上げる。
 するとその手首から透明な細長い管が垂れ下がった。

「失礼――」

 そう断りを入れ、サレクはナイフを取り出してイザベルの服の脇部分を切り裂く。そして服の切れ目に手を突っ込むと、水が入った袋を取り出した。その袋にはさっき見えた透明な管がぶら下がっている――

「随分と初歩的なペテンだね。脇の下に水入りの袋を入れておき、手首に通した管から水を溢れさせる……よくもまあ、そんな子供騙しが通用すると思ったものだ」
「あんたッ……淑女の服を切り裂くなんてッ……! 無礼だわッ……!」
「無礼で結構。ところで、このままだと国へ強制送還となるが、いいのかい?」
「くッ……!」

 するとイザベルはカードの束を取り出した。
 それを目の前に掲げ、大声でアピールした。

「私は表を見ずに、カードを言い当てることができるわ! 聖女の奇跡でね!」
「それはカードの表を人に見せる時、あらかじめ裏返しておいた次のカードを確認するという手法ですね。手品なら、私も何通りかできますが……勝負しますか?」

 サレクがそう言って、種明かしをする。
 完全に読まれていた――イザベルの力は全てペテンである。
 すると彼女は鬼の形相でサレクを睨み付けた。

「うるさいうるさいうるさいッ! アンタなんて死ねばいいッ!」

 次の瞬間――イザベルはスカートを捲り上げ、太腿に仕込んでいたナイフを抜いた。あまりにも間合いが近過ぎて、サレクと言えど避け切れなかった。イザベルが繰り出すナイフの切っ先が彼の頬を掠め、血が溢れる。あとほんの少しずれていたら、眼球を傷付けられていたような際どい攻撃だった。

「クッ……――」
「早く! あの女を捕らえろ!」

 ファースはすぐさま召使に命じて、イザベルを取り押さえさせた。
 そして数人の男に取り囲まれたイザベルは瞬く間に床へ押し付けられたのだった。

「サレクさんッ……!」

 アナベルはサレクへ駆け寄ると、その頬に手を当てた。
 血が一瞬で止まり、傷が塞がる――サレクの頬は完全に元に戻っていた。
 彼女の起こした治癒はイザベルのちゃちな奇跡とは明らかに格が違っていた。

「素晴らしい……! 本物の聖女だ……!」
「妹はペテンだが、姉は本物だ!」
「アナベル様、万歳!」

 聖女の力を目にした召使達は興奮して、声を上げる。
 そんな歓声の中、ファースはイザベルを冷たく見下ろしていた。

「どうやら、ハーレムへ入ることはできなかったようだね。それでは君を隣国へ帰し、姉のアナベルをこの国の聖女として認めることにしようか」
「な……何ですって……姉が聖女に……!? 私の男を奪って王妃になった上に、聖女の座まで奪う気なの……!?」

 するとファースは歪んだ笑みを浮かべて、こう言い切った。

「残念だったねぇ、イザベル様。君は姉に全てを奪われたんだよ」
「あ……ああ……あああああぁああああぁああぁッ……――」

 “姉に全てを奪われた”――その言葉を耳にした途端、イザベルは絶叫した。それは姉に対する呪詛のようで、ファースは心の底からおぞましいと感じた。もしここでこの獣を取り逃がしたら、アナベルは命を失うだろう。そんなことは絶対にさせまいと、すぐさま彼女を運んでいくように命じたのだった。
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