5 / 7
第五話
しおりを挟む
アリアが出産した時点で、ウィリアは妊娠四ヶ月目だった。つまり体の異常が治った頃に、ウィリアはイェールの子供を身籠ったのだ。そしてセクト国で“神人”たる子が産まれたという知らせを聞き、ウィリアは気を良くした。姉の子供がそうなら、自分の子供も同じに違いない、そう思ってニタニタと笑う。
「早く生まれていらっしゃい、私の“神人”ちゃん……うふふ……」
アリアがいない今、イェールの婚約者の座はウィリアのものだった。しかし不祥事を起こしたため、イェールは王位継承権を失っていた。だが、自分が素晴らしい子を産んだら、きっと国王はその意志を変えるだろう。いや、それどころか、自分が女王になれるかもしれない――ウィリアはそう踏んでいた。
そして六ヶ月後、ウィリアはお産で死にかけていた。
信じられないほどの痛み、狂いそうなほどの苦しみ……それが彼女を苛んでいた。
ウィリアは苦痛の八つ当たりとして産婆を叩き、罵り、ひとりの男の子を出産した。
しかしその子を見るなり、産婆は大声を上げる。
「これはッ……人間じゃありませんッ……! 魔族の子供ですッ……!」
ウィリアは愕然とし、首を捩って我が子を見た。
「う、うそ、嘘嘘嘘嘘……どうして“神人”じゃないの……――」
浅黒い肌、牙の生えた口、真っ赤な瞳……どう見ても魔族である。
ウィリアが失神すると同時に、魔族の子は不気味に微笑んだ。
その赤子は宙に浮かび上がると、宮廷を造り替えていく。庭園に生えた薔薇が巨大化して、禍々しい玉座を作る。地面から枝を出した魔樹が壁や床を突き抜けて、宮廷を絡めていく――やがてヴント国の宮廷は魔が支配する領地となった。
それを目にした王都民は悲鳴を上げて逃げていく。
国王も、イェールも、王族達も、ただただ立ち尽くしかない。
「これは……どういうことなのだ……――」
「陛下……! たった今、重要な知らせが入りました……!」
その時、セクト国の第一王子エンティの訪問の知らせが入った。彼はヴント国宮廷に起きた異常事態を説明できるという。国王達はエンティからの説明を求めて、宮廷から離れた公爵家にて話しを聞くことにしたのだ。
「残念ですが、ウィリア様の産んだ子は魔王です」
エンティはそう切り出すと、溜息を吐いた。
その場にいた者達は衝撃的な事実に目を瞠る。
そしてエンティは少々込み入った話をすると前置きして、話しを続けた。
「数百年前、ヴント国の勇者と聖女に手により、魔王は二つに裂かれて死にました。しかし二つに分かれた魔王の魂は、戦いで力の弱まった勇者と聖女の中に潜み、復活の機会を狙っていたのです。……ですが、“聖なる魂”が、その悪しき計画に気付きました。その魂は聖女の血に潜み、魔王を倒すべく機会を狙っていたのです。その聖なる魂の宿主となったのが、我が妻アリアです。そして魔王の魂の宿主となったのが、イェール様とウィリア様です」
エンティは黙り込むイェールと宮廷から救出されたウィリアを一瞥する。
「魔王は二人の子供となることで、裂かれた魂を融合させて復活しようとしました。ですから、イェール様とウィリア様の浮気で子供ができていたら、大変なことになっていたのです。しかしそれよりも先に、聖なる魂は生命を得ることに成功しました。聖なる魂、つまりオパールはアリアのお腹の中から魔王復活を妨害したのです」
そこでエンティは国王を見た。
敬意すら含まない冷えた視線である。
「ヴント国王陛下、これがどういう意味か分かりますか?」
「ど、どういう意味とは……? どういうことです……?」
その答えに、エンティは目を細める。
「イェール様に現れた勇者の印とウィリア様を染めた聖女の青味はオパールの守護魔法です。オパールは勇者と聖女の力を増幅させて、二人が魔王の親にならぬよう守護していたのです。……あなたはそれを何だと判断しました?」
国王の表情が、激しく引き攣る。
そしてタラタラと冷や汗を流し始めた。
あの怪奇現象を“呪い”と断じたのは、間違いだったのだ――
「早く生まれていらっしゃい、私の“神人”ちゃん……うふふ……」
アリアがいない今、イェールの婚約者の座はウィリアのものだった。しかし不祥事を起こしたため、イェールは王位継承権を失っていた。だが、自分が素晴らしい子を産んだら、きっと国王はその意志を変えるだろう。いや、それどころか、自分が女王になれるかもしれない――ウィリアはそう踏んでいた。
そして六ヶ月後、ウィリアはお産で死にかけていた。
信じられないほどの痛み、狂いそうなほどの苦しみ……それが彼女を苛んでいた。
ウィリアは苦痛の八つ当たりとして産婆を叩き、罵り、ひとりの男の子を出産した。
しかしその子を見るなり、産婆は大声を上げる。
「これはッ……人間じゃありませんッ……! 魔族の子供ですッ……!」
ウィリアは愕然とし、首を捩って我が子を見た。
「う、うそ、嘘嘘嘘嘘……どうして“神人”じゃないの……――」
浅黒い肌、牙の生えた口、真っ赤な瞳……どう見ても魔族である。
ウィリアが失神すると同時に、魔族の子は不気味に微笑んだ。
その赤子は宙に浮かび上がると、宮廷を造り替えていく。庭園に生えた薔薇が巨大化して、禍々しい玉座を作る。地面から枝を出した魔樹が壁や床を突き抜けて、宮廷を絡めていく――やがてヴント国の宮廷は魔が支配する領地となった。
それを目にした王都民は悲鳴を上げて逃げていく。
国王も、イェールも、王族達も、ただただ立ち尽くしかない。
「これは……どういうことなのだ……――」
「陛下……! たった今、重要な知らせが入りました……!」
その時、セクト国の第一王子エンティの訪問の知らせが入った。彼はヴント国宮廷に起きた異常事態を説明できるという。国王達はエンティからの説明を求めて、宮廷から離れた公爵家にて話しを聞くことにしたのだ。
「残念ですが、ウィリア様の産んだ子は魔王です」
エンティはそう切り出すと、溜息を吐いた。
その場にいた者達は衝撃的な事実に目を瞠る。
そしてエンティは少々込み入った話をすると前置きして、話しを続けた。
「数百年前、ヴント国の勇者と聖女に手により、魔王は二つに裂かれて死にました。しかし二つに分かれた魔王の魂は、戦いで力の弱まった勇者と聖女の中に潜み、復活の機会を狙っていたのです。……ですが、“聖なる魂”が、その悪しき計画に気付きました。その魂は聖女の血に潜み、魔王を倒すべく機会を狙っていたのです。その聖なる魂の宿主となったのが、我が妻アリアです。そして魔王の魂の宿主となったのが、イェール様とウィリア様です」
エンティは黙り込むイェールと宮廷から救出されたウィリアを一瞥する。
「魔王は二人の子供となることで、裂かれた魂を融合させて復活しようとしました。ですから、イェール様とウィリア様の浮気で子供ができていたら、大変なことになっていたのです。しかしそれよりも先に、聖なる魂は生命を得ることに成功しました。聖なる魂、つまりオパールはアリアのお腹の中から魔王復活を妨害したのです」
そこでエンティは国王を見た。
敬意すら含まない冷えた視線である。
「ヴント国王陛下、これがどういう意味か分かりますか?」
「ど、どういう意味とは……? どういうことです……?」
その答えに、エンティは目を細める。
「イェール様に現れた勇者の印とウィリア様を染めた聖女の青味はオパールの守護魔法です。オパールは勇者と聖女の力を増幅させて、二人が魔王の親にならぬよう守護していたのです。……あなたはそれを何だと判断しました?」
国王の表情が、激しく引き攣る。
そしてタラタラと冷や汗を流し始めた。
あの怪奇現象を“呪い”と断じたのは、間違いだったのだ――
93
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる