4 / 18
第4話
エイリスは抵抗したが、王子は力でねじ伏せてくる。
嫌悪と快楽が入り混じり、エイリスは泣き出しそうだった。
私は……かつて王子が好きだった……――
でもこんなのは……――
霞む意識の中で、王子が自分の胸に手を伸ばしたのが分かった。
しかし手が触れる寸前、剣が抜かれる音がした。
「そこまでです。それ以上、我が姫君に触れれば、殺します――」
「ぐっ……貴様……」
ようやく王子の口づけから解放され、エイリスは周囲を見渡した。
そこには剣を首に突きつけられた王子――そして剣を持った従者コーディがいた。
コーディは剣をゆっくり動かし、エイリスから王子を引き剥がす。
やがて扉の前まで移動させられた王子はこう喚いた。
「言っておくがな、誘ったのはそいつだぞ! その女は俺のことを……」
「馬鹿なことを。エイリス様はあなたのような人間など相手にしません」
「チッ……! またの機会に会おう、エイリス」
「そんな機会は永久に訪れません」
それだけ言うと、王子は部屋を出ていった。
コーディはすぐに剣を仕舞うと、エイリスへ跪いた。
従者コーディ――彼はエイリスに忠誠を誓う美しき青年である。
金髪碧眼の彼は王子よりも王子らしい、エイリスはそう思っていた。
「ありがとう。助かったわ、コーディ」
「いいえ、礼には及びません……我が姫君……」
俯くコーディの顔を覗くと、怒りに震えているのが分かった。
それを見たエイリスの胸が締め付けられる。
彼はきっと私の唇があの粗野な王子に奪われたことを怒っているのだ。
もしかして彼は私のことを――
しかし今はそれよりも気になることがある。
王子が私へ触れるなんて有り得ないと思った――しかし今それは達成された。
体の奥底から溢れてくる感覚が、エイリスの期待を湧かせていた。
「ところでコーディ。あなた、怪我はない?」
「怪我……ですか?」
「ええ、かすり傷でいいのだけど」
「かすり傷なら今朝、仕事の途中で負いましたが……」
コーディは恥ずかしそうに腕を捲り、エイリスに見せる。
そこには赤い引っかき傷がいくつか走っていた。
きっと木の枝にでも引っ掛けたのだろう。
エイリスは息を飲むと、その傷に手を翳して聖力を流した。
「あ、ああ……温かい……」
「ええ、いいわ。もう治っているわよ」
「治って……?」
コーディが自らの腕を見ると、そこに引っかき傷はなかった。
すべすべとした白い肌があるばかりで、傷跡すらない。
「ひ、姫君……! これは……!?」
「聖女の力のひとつ、治癒よ。私は――聖女の力を取り戻したの」
エイリスは自らの従者を見詰め、にっこりと微笑んだ。
あえて試してみなくとも、他の力も同様に使えることが感覚的に解る。
私はもう欠陥聖女じゃない。
完全な聖女なのだ――
嫌悪と快楽が入り混じり、エイリスは泣き出しそうだった。
私は……かつて王子が好きだった……――
でもこんなのは……――
霞む意識の中で、王子が自分の胸に手を伸ばしたのが分かった。
しかし手が触れる寸前、剣が抜かれる音がした。
「そこまでです。それ以上、我が姫君に触れれば、殺します――」
「ぐっ……貴様……」
ようやく王子の口づけから解放され、エイリスは周囲を見渡した。
そこには剣を首に突きつけられた王子――そして剣を持った従者コーディがいた。
コーディは剣をゆっくり動かし、エイリスから王子を引き剥がす。
やがて扉の前まで移動させられた王子はこう喚いた。
「言っておくがな、誘ったのはそいつだぞ! その女は俺のことを……」
「馬鹿なことを。エイリス様はあなたのような人間など相手にしません」
「チッ……! またの機会に会おう、エイリス」
「そんな機会は永久に訪れません」
それだけ言うと、王子は部屋を出ていった。
コーディはすぐに剣を仕舞うと、エイリスへ跪いた。
従者コーディ――彼はエイリスに忠誠を誓う美しき青年である。
金髪碧眼の彼は王子よりも王子らしい、エイリスはそう思っていた。
「ありがとう。助かったわ、コーディ」
「いいえ、礼には及びません……我が姫君……」
俯くコーディの顔を覗くと、怒りに震えているのが分かった。
それを見たエイリスの胸が締め付けられる。
彼はきっと私の唇があの粗野な王子に奪われたことを怒っているのだ。
もしかして彼は私のことを――
しかし今はそれよりも気になることがある。
王子が私へ触れるなんて有り得ないと思った――しかし今それは達成された。
体の奥底から溢れてくる感覚が、エイリスの期待を湧かせていた。
「ところでコーディ。あなた、怪我はない?」
「怪我……ですか?」
「ええ、かすり傷でいいのだけど」
「かすり傷なら今朝、仕事の途中で負いましたが……」
コーディは恥ずかしそうに腕を捲り、エイリスに見せる。
そこには赤い引っかき傷がいくつか走っていた。
きっと木の枝にでも引っ掛けたのだろう。
エイリスは息を飲むと、その傷に手を翳して聖力を流した。
「あ、ああ……温かい……」
「ええ、いいわ。もう治っているわよ」
「治って……?」
コーディが自らの腕を見ると、そこに引っかき傷はなかった。
すべすべとした白い肌があるばかりで、傷跡すらない。
「ひ、姫君……! これは……!?」
「聖女の力のひとつ、治癒よ。私は――聖女の力を取り戻したの」
エイリスは自らの従者を見詰め、にっこりと微笑んだ。
あえて試してみなくとも、他の力も同様に使えることが感覚的に解る。
私はもう欠陥聖女じゃない。
完全な聖女なのだ――
あなたにおすすめの小説
実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです
サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。
朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。
そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。
「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」
「なっ……正気ですか?」
「正気ですよ」
最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。
こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
妹に婚約者を取られてしまいましたが、あまりにも身勝手なのであなたに差し上げます
hikari
恋愛
ハワード王国の第二王子セレドニオと婚約をした聖女リディア。しかし、背が高く、魔法も使える妹のマルティナに婚約者を奪われてしまう。
セレドニオはこれまで許嫁の隣国の王女や幼馴染と婚約を破棄していたが、自分の母方祖母の腰痛を1発で治したリディアに惚れ込む。しかし、妹のマルティナにセレドニオを奪われてしまう。
その後、家族会議を得てリディアは家を追い出されてしまう。
そして、隣国ユカタン王国へ。
一部修正しました。
過去の青き聖女、未来の白き令嬢
手嶋ゆき
恋愛
私は聖女で、その結婚相手は王子様だと前から決まっていた。聖女を国につなぎ止めるだけの結婚。そして、聖女の力はいずれ王国にとって不要になる。
一方、外見も内面も私が勝てないような公爵家の「白き令嬢」が王子に近づいていた。