包帯妻の素顔は。

サイコちゃん

文字の大きさ
2 / 3

中編

しおりを挟む
ベイジル・リロルット男爵視点

 陛下の使者からの書簡を読み、俺は笑った。
 内容は“重大な知らせがあるから宮廷を訪れよ”というものだった。俺はついに成功の時が訪れたのだと思った。これは間違いなく、戦地で手柄を立てたため陞爵されるに違いない。数週間前に、邪魔なアデラインとは離縁が成立した。ミアには求婚して、承諾を受けてある。ここに来て陞爵されれば、大手を振って結婚式を挙げられる。ああ、もう輝かしい未来しか見えない。
 しかし宮廷にて、俺は呆然とした。

「奪爵……だって? なぜだ……!? 俺は魔王軍に勝ったんだぞ……!?」

 爵位剥奪を告げた役人に、俺は食ってかかった。
 しかし役人はにべもなく返す。

「そもそもあなたの手柄は一時凌ぎのようなものです。魔王軍の幹部を倒したとしても、代わりの魔物が掃いて捨てるほどいるのですよ」

 俺の功績を貶す言葉に、苛々する。
 こいつは戦場が分かっていない。あの地獄で、俺は英雄だったんだぞ。誰もが俺を持て囃し、頼っていたあの状況をその目で見ていないから言えるのだ。分からないなら分からせてやる。

「あんたは何も分からないんだ! 俺は英雄だぞ!? 今日だって陞爵されるつもりで来てやったのに、何が奪爵だ! 魔王軍幹部の首を今ここに持ってきて国王陛下に直訴したっていい! ともかく、俺は功績を上げた!」
「ですから、その功績以上に問題を起こしたということです。あなたは元妻の悪評をでっち上げ、一方的に離縁状を送りつけたでしょう?」
「な、なんだと……?」

 役人が何を言っているのか分からなかった。元妻とはアデラインのことだろうが、なぜあんなチンケな女にしたことが取り沙汰されるのだ。そもそもどうしてこの俺が悪評を流したことがバレているのだろうか。戦地から従者を使い、こっそりと噂を流させたというのに。
 呆然としていると、役人がぽつりと言った。

「戦況は今後変わりますよ。我が国は守護され、魔王軍は手を引かざるを得なくなるでしょう。それもこれもある一人の女性の手柄ですがね」
「ある女の力で戦況が変わる……? 聖女の到来か……? まさかミアが……?」

 聖女候補の中で最も力を発揮しているのはミアだ。まさかあいつが覚醒したのだろうか。そんなことを考えていると、役人が残念そうに目を細めた。

「違います。彼女も聖堂に呼び出され、破門を言い渡されている頃でしょう。兎に角、あなたとミアは処罰されました。今後、問題を起こせばもっと厳しい処罰もあり得るでしょう」
「ふ……ふざけるな! どうして俺達が!?」
「これは慈悲ある対応ですよ。心して受け入れて下さい」

 そう告げると、役人は俺を追い払った。俺は宮廷人に羽交い締めにされ、廊下を引きずられていく。しかし中庭に差しかかると、一人の女の悲鳴が聞こえた。

「離して! あたしが聖女よ! その偽物を見せなさいよ!」
「……ミア!」

 それは俺の愛しい相手だった。
 俺はすぐに駆け寄り、ミアの手を取る。

「ベイジル! この国を救うという女が現れたらしいのよ! 聖女に最も相応しいのはあたしだっていうのに!」
「俺も聞いたぞ! そんな女、お前以外いないだろう!? なのに、どうして俺達はこんな目に遭っているんだ!」

 その時、不意にファンファーレが聞こえた。向かいの大広間からだ。俺とミアは制止しようとする宮廷人達を振り切り、大広間に飛び込んだ――
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ここだけの話だけど・・・と愚痴ったら、婚約者候補から外れた件

ひとみん
恋愛
国境防衛の最前線でもあるオブライト辺境伯家の令嬢ルミエール。 何故か王太子の妃候補に選ばれてしまう。「選ばれるはずないから、王都観光でもしておいで」という母の言葉に従って王宮へ。 田舎育ちの彼女には、やっぱり普通の貴族令嬢とはあわなかった。香水臭い部屋。マウントの取り合いに忙しい令嬢達。ちやほやされてご満悦の王太子。 庭園に逃げこみ、仕事をしていた庭師のおじさんをつかまえ辺境伯領仕込みの口の悪さで愚痴り始めるルミエール。 「ここだけの話だからね!」と。 不敬をものともしない、言いたい放題のルミエールに顔色を失くす庭師。 その後、不敬罪に問われる事無く、何故か妃選定がおこなわれる前にルミエールは除外。 その真相は? ルミエールは口が悪いです。言いたい放題。 頭空っぽ推奨!ご都合主義万歳です!

はじめまして婚約者様  婚約解消はそちらからお願いします

蒼あかり
恋愛
リサには産まれた時からの婚約者タイラーがいる。祖父たちの願いで実現したこの婚約だが、十六になるまで一度も会ったことが無い。出した手紙にも、一度として返事が来たことも無い。それでもリサは手紙を出し続けた。そんな時、タイラーの祖父が亡くなり、この婚約を解消しようと模索するのだが......。 すぐに読める短編です。暇つぶしにどうぞ。 ※恋愛色は強くないですが、カテゴリーがわかりませんでした。ごめんなさい。

「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら

古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。 アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。 けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。 王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

「君を愛することはない」と言った夫と、夫を買ったつもりの妻の一夜

有沢楓花
恋愛
「これは政略結婚だろう。君がそうであるなら、俺が君を愛することはない」  初夜にそう言った夫・オリヴァーに、妻のアリアは返す。 「愛すること『は』ない、なら、何ならしてくださいます?」  お互い、相手がやけで自分と結婚したと思っていた夫婦の一夜。 ※ふんわり設定です。 ※この話は他サイトにも公開しています。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

処理中です...