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本編

37.バイトさん

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「歓迎会?」

「うん、今日仕事上がりに部長と先輩二人が街で飲もうって・・・行っていい?」
食堂でランチを食べながらアレクに確認する。

「俺の許可なんていらないだろ・・・が・・・先輩2人って男?」
許可なんてと言いながら嫌そう。

「うん、あとお店で女の子が一人合流するって。情報部の雑用をしてくれてるバイトさんなんだって。」

「あーそれは・・・いや、いいか。どうせ会うんだし。」
アレクの知り合いなのかな?
聞いても教えてくれなかったけど、確かにこの後会うし良いか。

「馬車で行くのか?」

「んー、各々騎馬で。途中で抜ける人もいるかもだし。」

「誰がどうしようと、お前は絶対にタークロックと一緒に行動しろよ?」

「部長と?」「フォードン隊長もご一緒にいかがです?」

いつの間にか後ろにいたマルコからお誘いの声がかかった。

「きちんとご挨拶させていただくのは初めてですね、マルコ・レイノルズと申します。半年前に分析官になりました。リュールとは僕がチームを組むことが多いと思いますのでよろしくお願いします。」

おお、こんなキリッとした顔もするのか、と思ったらすぐに人を煙に巻くようなヘラヘラとしたしゃべり方と表情に戻る。

「フォードン隊長のお噂はかねがね・・・・一度お話をしてみたかったのですよぉ。バイトさんの旦那さんも参加されますからお気兼ねなく。」

その『噂』って?ねぇマルコさん、何を聞く気なの?
少し、いや大分不安になって内心オロオロしているうちにアレクの参加は決まりマルコも席を離れていった。





「えっ、クリステル様!?」

「うふふ~エミレアさん、お久しぶりね!お元気そうで安心しましたわ」

「クリステル様が『バイトさん』!? えっ?どういうことですか!?」
なんてこと。副団長の奥様が情報部雑用係だなんて。


コリンが言っていたように、ここ数年で、消費するだけの貴族然とした貴族は次々に没落していっている。
貴族といえども働かざるもの食うべからず、という世の中になってきているのだ。
加えて女性地位向上運動の活発化。
それに触発されて働いてみたいと考えたクリステル様。
そこで、雑務をこなしてくれる人が欲しいが安易に人を入れるわけにいかない情報部で一月前から働き始めたらしい。

「お前が分析官を目指すって言ったとき、団長が驚いていたよ。お前がクリステル様に懐いてるのも知っていたからな。」

「君たち二人が一緒にいるところは久しぶりに見るな。ははっ、そういえばフォードンが前に君たちのことを『トイプードルに懐くメインクーン』と言ってたが確かに。言い得てるな。」

「プードル・・・この髪型のせいですか?」
「メインクーン・・・つり目のゴツイ女ってこと?」

「ちょっ、違う!違いますよ!?クリステル様のクリクリのつぶらな瞳もレアの凛とした猫目も、どっちも可愛いって意味でっ!!副団長、言わんでくださいよ!」

怒りたいけど可愛いと形容されてちょっと喜んでしまう私たちと、副団長を睨むアレクを見ながらマルコが感心したような声を上げる。

「さすがフォードン隊長。息をするように女性へのほめ言葉が出てきますね。」
あなたも朝、何でもないように『可愛い』とおっしゃってましたが。

「おい、余計な」
「なんでもいいから早く乾杯しましょうや!!」「ええ本当に」

待ちきれなくなった部長とヨハンの言葉で始まった歓迎会という名の飲み会はとても楽しいひと時だった。


アレクの隣をしっかりとキープしてコソコソと話しかけるマルコが気になる・・・。
聞かれるアレクは眉根を寄せて厳しい顔をしたり、チラリと私を見て片方の口角を上げてにやりと笑ってマルコに何かを耳打ちしたり。
一体何の話をしているのか、後できっちり確認しなければ。




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