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本編

43.再会

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アレクが出航して3日が過ぎた。
そろそろ作戦開始だろう。



夜に一緒に夕食をとった後に団長が部屋まで送ってくれる。
上司に何をさせているんだと申し訳なくなるが、断って何かあってはアレクに怒られるどころではすまないので甘えることにしている。

「ありがとうございます、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。すぐにカギをかけるんだぞ?」
そう言って後頭部に手をまわして撫でながらおでこにキスをしてくれる。

これがここ3日の一連の流れ。
あのクズ親父にはそんなことされたことがなかったので最初はちょっと驚いたけど、ベッドでおやすみと言う相手がいない今、このやり取りは心が軽くなる。


お茶を淹れて、カウンターで本を読み、適当なところでベッドに入る・・・という予定だったが扉をノックする音が響いた。

こんな時間に誰かが訪ねてきたことなどアレクがいた時にはなかった。
少し警戒しながらドアの前に立つ。

「・・・はい?」

「開けろ」

「申し訳ございません、どなた様でしょうか?」

「ハーモンだ・・・上官命令だ、さっさと開けろ」

ハーモン少佐、最初の任地での上官で今回の処分対象者の一人だ。
私へのセクハラで減給処分となったくせにこんな時間に私室を訪れるなんて非常識過ぎないだろうか。
そう思いながらカギと扉を開ける。

「久しぶりだな・・・・・全く、砦内の寮に来るものなど軍関係者しかありえんだろう?開けろと言われたらさっさと開けんか。どこまで非常識なんだ、貴様は。」
そう言いながら中に入ろうとする。

「申し訳ございません、お話でしたらこちらで伺います。必要でしたら会議室まで参りますが?」
中に入るのを阻止しようとするが力任せに入ってきて扉を閉める。
さらにカギをかける音がした。

「・・・なぜカギを?」
その問いには答えず自分勝手に話を進めていく。

「ふんっ貴様たかだが軍曹だろう。下士官のくせにこんな上級士官の部屋を使うとはな。大佐をその身体にくわえ込んだのか?
・・・・・・こっちにいる部下がお前を『寸胴女』と呼んでいたのが不思議だったが、なんだそれは?さらしでも巻いてるのか?でかい胸しか取り柄がなかったのに、阿呆なのか?」

ずいぶんな言われようだわね。

14歳の時、父親からすぐにでも娼婦として客が取れると言われるほどに発育がよかった。
そのせいで学園の同年代の男の子たちからいやらしい目で見られている事はわかっていたが、まさか大人の軍人たちにまでそういう対象として見られるとは思っていなかった。
立派な軍人さんというのは騎士道精神を叩き込まれていると思っていたのよ。

私がこの特殊なコルセットを使うようになったのは最初の任地でのセクハラを受けての最初の異動の時だ。
一番セクハラが酷かったのがこのハーモン少佐だった。


「・・・・ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「脱げ」

「は?」

「聞こえんのか?脱げ」

「・・・・・嫌です」

「貴様っ!はんっこれだから女は本当に。男なら上官命令は即行動にうつせなければ即刻除隊ものだというのに。」

「ここはレミオンクライフで、責任者はウルキラス・ソニーファン団長です。私は情報部所属で部長はタークロック大佐です。ご命令は彼らを通してください。」

「下士官の分際で偉そうに!所属など関係ない、私は少佐で貴様はたかが軍曹だ!いいからさっさと脱がんか!」

「嫌です!」

「強情な。貴様の裸はすでに見てるんだ。何を今さらグズグズと・・・。そのせいで私は処分を受けたんだぞ?どうしてくれるんだ、もう少しで中佐になれたものを。
本来なら貴様のほうからせめてもの謝罪として身体を差し出すのが筋ってもんだろうが。」

そんな道理は聞いたことがないわよ。
「・・・・・・・・。」
精一杯の思いを込めて睨みつける。

「しばらく会わんうちにずいぶんと生意気になったもんだな。
あの頃はメソメソ泣きながら裸を晒していたくせに。
どうしてもと頼むから最後まではせずにおいてやったのに、恩をあだで返しおって。
・・・いつまでそうやっているつもりだ?貴様を守ってくれるフォードンはここにはおらんのだぞ?・・・自ら脱ぐのではなく、乱暴されたと言ってあの男が戻ってきたら泣きつくつもりか?・・・残念だがそれも無理だろうな。」

ニヤニヤと笑っている。

「無理、とはどういう意味ですか?」

「ふっ・・・無理なんだよ。あれは戻ってこん」

「なっ!? なんということをおっしゃるんです!所属など関係ないとおっしゃるなら彼はあなたの上官です。任務の失敗を望むような発言は控えてください!」

はっきりと批判するとバチンっと頬を平手ではたかれた。

「女のくせに私に口答えするな!」

「しますよ!彼は戻ります!きちんと任務を全うして戻ります!!」

「戻らんと言っただろうが!いいか、これは決まっているんだ。あの男は失敗するんだよ。貴様らは奇襲をかけたつもりだろうが、あいつは篝火に飛び込む羽虫みたいなもんだ!」

「なっ・・・・・・どう、、どういう意味で・・・。」

予想外のセリフにオロオロとする私の様子に気をよくしたのか、怒声が幼子をあやす様な優しい声色に変わる。

「海賊どもには大佐はすぐには殺さず捕らえておくように言っている。あの男にまた会いたいか?なら、自分が何をすべきかは分かるな?」

「・・・『言っている』?どういう・・それは・・・あなたが海賊に指示できる立場ということですか?」

「・・・・・・。」

「ほ、本当に?アレ、、フォードン隊長は無事なんですね?お願いです、彼に乱暴しないで、、させないで。お願い、お願いします。」

「『お願い』をしたいなら、それなりのやり方ってものがあるだろう?」

「・・・・・・・。」

「エミレア?」

「こ・・・ここは明るいので・・・。し、寝室でよろしいですか?」

「ああ、いい子だ。最初からそう言っていれば。」
そういって赤く腫れた頬をスルリと撫でてキスをしようとしてくるのに気づかなかったふりをして躱し、寝室へと続くドアへ向かう。

「ふふふ・・・エミレア、お前はそうしていれば可愛いのに。」

震える手でドアを開け、先に入るように少佐を促す。
少佐はおしりをヌルっと撫でつつ寝室に一歩足を踏み入れる。


その瞬間に、少佐の背中を思いっきり蹴り飛ばした。





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