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本編
56.ワインを飲みながら
しおりを挟む作ったご飯はどれも美味い美味いと言って食べてくれた。
誕生日に送ったワインもいけるなと嬉しそうに飲んでくれる。
でも、何かが違う。
心ここにあらず、というほどではないけれど、ここだけに心があるわけでもない感じ。
聞いてもいいのかしら・・・。
ひとまず私は片付け、アレクはお風呂に。
ワインがまだ半分くらい残っていたので、おつまみにピクルスやチーズをお皿に盛ってグラスと一緒に寝室に準備していたらアレクがお風呂から上がってきた。
「お、いい感じだな」
「ワインが残ってるんだけど、まだ飲める?それとももう休む?」
「飲む飲む。さっきまで寝てたからな・・・・・お前は?体、大丈夫か?」
「ふふ、私もしっかり食べてしっかり寝て、またしっかり食べたもの。もう大丈夫。」
そうして二人、ベッドで再びグラスを合わせてゆっくりとワインを飲みながら、この一ヶ月間のお互いの様子を伝え合う。
「そばにいてやれなくて悪かったな・・・」
沈痛な面持ちで私のほほをゆっくりと撫でながらアレクが謝ってくる。
「アレクも団長も、なんでそんなに謝るの?私は気持ちよかったのに・・・いや、気持ちいいって変な意味じゃないからね?しょう、、元少佐をやり込められてすっきりしたって意味よ?」
「お前な・・・あいつの張り手一発で鼓膜をやっちまったやつだっているんだぞ?大した事なかったのは運がよかっただけだ。それに・・・叩かれたことだけじゃなくて、嫌なこと言われたろ?いくら予想してたことだからって、そんなもん言われて平気なわけがねぇだろ。」
うーん・・・それが本当に平気だったのよねぇ。
驚くほど何も響かなかった。
右から左。あの男の言葉はただ私の中を素通りしただけ。
「あの時、部屋の中にはアレクが信頼している人たちがいてくれて、ドアの外には団長がいてくれたでしょ?だから絶対大丈夫って思ってたから、ちゃんとあの人と向き合えたの。
全然怖くないって思って会ってみれば、体がおっきいだけの小物にしか見えなかった。それで、その小物がつば飛ばしながらなんかわめいてるな~って感じだったの。本当に全然傷ついたりしてないのよ?」
「ククッ 小物、ね」
「うん。でもね、昔の私ならそんな風には思えなかったと思う。部屋の中に誰がいたって、ドアの外に誰がいたって、その人たちを信用することなんてできなかった。人を信じて頼りにできるようになったのはアレクのおかげ。
アレクのおかげで人を、、ううん、自分を信じることができるようになったの。
自分に多少でも存在価値があるって、アレクが思わせてくれたから、守ってもらえる、助けてもらえるって思えるようになったの。」
「レア・・・」
ほほを撫でていた手が首の後ろに回されて引き寄せられ唇全部を食べられそうなキスをされる。
アレクはキスをしたまま私のグラスを取りあげてベッドサイドに置きながら覆いかぶさってきて、そのまま優しく甘く抱いてくれた。
だけどやっぱりアレクはアレク。
どんなに優しい抱き方であろうとも、一度では終わってくれないのよね。
ベッドサイドに置いたワインを口移しで一口飲ませてくれた後、再び挿入を、と体制を整え始めたので待ったをかける。
「・・・・なんだよ。」
「アレク、何か言いたいことあるんじゃないの?」
「・・・・・。」
「今日の晩御飯の時から、時々うわの空になるよね? どうしたの? 討伐戦で何かあったんじゃないの? 隊長の重責を分かるなんて軽々しく言えないけど、何でも聞くよ? ため込まな」
「違う。」
「違う?」
「ああ、確かにちょっと考えてることがあるが・・・討伐はうまくいった。部下に死者も出てねぇし、お前が心配してるようなことじゃない・・・ありがとな。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・言えないことなのね?無理に聞く気はないけど、大丈夫?」
「大丈夫だ、、し、言えないことでもねぇ・・・・・・あのな、、、レア。もしだ。もしもの話なんだけどな?だん」
アレクがそこまで言ったところでコンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
部屋のドアではなく、この寝室のドアだ。
誰か、なんて聞くまでもない。
ここまで入ってこられるのは一人しかいないもの。
アレクも誰か分かっているようで「どうぞ」と答えている。
え、待って。どうぞじゃないよ!いま服着てないから!!
前もこんなことあったけど、あの時は頭がとんでたからひたすら団長に助けを求めることしか考えてなかったけど、今はまだ余裕があるの!
理性があるの!
そんなことを考えている間に団長は入室して、もうベッドのすぐそばまで来ていた。
アレク!? 団長!? なに考えてるの!?
いや、確かに私から誘った気がするけど、あの時は自分が裸だってことを失念してたの!
お願い二人とも気付いて!!私たち裸!!!
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