尽くしすぎの僕がスパダリに会ってざまぁして幸せになるまで。

鳥海あおい

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続★ざまぁされた俺(バリタチ)がネコにされてしまいヒンヒンいわされてまう話。③

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「それはご指名どうもぉ♡」

まぎれもないカンナの声だった。

「えっ?えっ…」

次の瞬間、セィァ!と野太く気合をいれる声がしたと思うと、ガシャンという音と共にトイレのドアが勢いよく外れた。
俺の後ろに立っていたカネコは思いっきり木の板にぶつかり壁に跳ね飛ばされ、俺は下半身まるだしの間抜けなかっこうのままあ然として個室に立ち尽くしていた。  

「呼んだ~?呼ばれて飛び出てジャンジャジャ~ン!」

四角く開けた空間にど派手な衣装に身をつつんだカンナがにこやかに立っていた。先程と違うのは履いていたハイヒールが折れてることくらいか…って…

(蹴って壊したのかよ――)

助かってありがたかったが、かなり引いていると、カンナはきれいにネイルを施してストーンでギラギラしている爪先できれいに張り紙を指した。

「ほら、これ」

咄嗟に動けないでいるカネコの胸倉をつかむと、引きずり上げた。 

「この貼ってあるやつ見たぁ?『いかがわしい行為禁止!!』って……あるのが見えねえのか!?」

前半はハスキー声なオネェ声だったが、後半はどすのきいた地声で、めちゃくちゃ迫力がある。


「カ·ネ·コちゃん、人のものに手を出しちゃだめよぉ~。舐めたことしてると、あんたもあたしのネコにしてやんわよ♡カだけに」

(こわっ…)

思いっきりびびっているカネコをぽいっと捨てると、カンナはへらりと笑うと便器にへたり込んでしまっていた俺の手を捉えた。
ぐいっと無言のまま引かれ、手早く服を直されると、そのままツカツカと早足にトイレから連れ出される。
トイレで起きたことなど誰も知るよしもなく、フロアは何事も変化ないように見えた。人々は各々笑いさざめいたり踊ったり、飲んだり思い思いに過ごしている。その人波を抜け、蛇に睨まれたカエルのように逆らえないまま俺はそのままカンナに引っ張られていった。


*

そのまま俺は有無を言わさずバー「KANNA」に連れていかれた。
本日は休業のため、もちろん誰もいない。
俺は事態のめまぐるしさと、わけわからなさにもう心の中はなかばパニックであった。
お店に入ると手をはなしてくれたが、強く握られていた腕がじんじんした。  
カネコにひねられた肩も痛い。腕を上げ下げしてみたが、少し痛めたのかもしれない。

黙ったままカンナは缶ビールを投げてよこした。
自分はタバコに火をつけて、ふぅっと煙をはく。
沈黙が気まずく、俺はとりあえずビールを開けガブガブ飲んだ。

「ひっどい男ねぇ~」

…って、第一声がこれ!?
俺が言いたいやつなんだわ!と怒鳴りたくなったが、カンナの立板に水のごとき喋りになかなか割り込めない。

「クロちゃん全くあれから顔をださないしぃ。寂しいじゃない。薄情なんだらさあ。あれってヤリ捨てよねぇ。乙女心が傷ついちゃうわよね。もっとたくさんしようねって約束したじゃないの。それにさっきだって」

「…当ったり前だろ!俺はタチなのにお前に掘られられるわ、ネコになったって噂されるわ碌なことないわ!」

そういえばよく考えると、なんで逃げれるのにノコノコここまでついて来たんだろう。だが、いきなりヤられるんじゃないかと思っていたので、ホッとしたのも事実だった。

「そのせいで、カネコにも犯られかけたじゃねーか!」

「もー、そんなに怒んないでよね。助けてあげたじゃないの」

そうだった!
確かにカンナがこなければ、カネコにあの場で犯られていた。俺は渋々ながらお礼を言った。そういえばあのドアはどうなったのか…あのままで大丈夫なのだろうか……

「…ありがとう、助かった」

「いえいえ、クロちゃんの貞操が守られてよかったわよ~」

「トイレのドアやったあれって、空手?」

「そぉ。これでも黒帯なのよぉ。アタシって意外性のある女でしょ?」

あれ、これはいつものお店のママモードじゃないか?と、俺は気づいた。
距離を感じるというか、愛想はいいけどよそよそしいし、しかも名前呼びもコージから、クロちゃんに戻ってるし。
ほっとしたような中に、少しだけチクリと棘が残る。
俺にとってみたら大事件だった処女喪失がカンナにとっては大した事がないというのはそれでそれでムカつく気がした。
いや、でもこうやってそっけなくして気をひく作戦なのかも。そうに決まってる。

「まあ、でも…」
ほら、きた!
俺の心臓がドキンと、脈打った。

「助けてあげたんだから、お礼をもらわなきゃかしら」

やっぱこうくると思った、と思った瞬間、ざわりと肌がざわめいた。
時の感覚が蘇りそうになる。

――嫌だ。
あんな事嫌にきまってる。

前回は泥酔状態だったし、キスが気持ちよくてなんとなく流されて致してしまったが、今回は大して飲んでない上に酔いはほぼぶっとんでる。流されるなんて、ありえない。
だが、カンナが優雅な仕草でタバコを灰皿に押し付けてからゆっくりと近よってきても、何故か俺の体はまるで抵抗を忘れてしまったように動かなかった。
先程のカネコにはあれほど抗ったというのに、だ。

「あっ…」

衣連れとともに、カンナのつけている香水なのか、華やかな花のような匂いが近づいてきて、俺は思わず瞠目した。 
ざわざわと体の体中で何かがさざめき、先程解され腫れぼったくなった内側が疼く。

カンナの手が肩にかかる。
息遣いを耳元に感じ、体が我知らず震えた。
これは恐怖からだ。
決して期待からではありえないと、俺は自分に言い聞かせた。

「…なーんてねッ」

カンナの声に、俺は思わず目をあけた。

「今日は色々あって疲れたでしょ?それ一杯飲んだし、帰ってゆっくりしなさい」
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