騎士団長、狼王の花嫁になるーー拾った子犬はワーウルフの王子でした

鳥海あおい

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第三章

4.しめやかな時間

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『父さんは隠居して骨をうずめてしまうのはまだ早くない?』
 
息子はまっすぐな目で彼を見て行った。

『エリクシールは今、人手不足で、有能な人材ならすぐに登用しているんだ。父さんなら、一師団長にすぐ任命されるぐらいの腕と経験があるし、大歓迎されると思う』

『…無理だ。できない』

グレンはきっぱりと断った。

一度殺し合いをした相手である。つまり目の前にいる相手が、長年一緒だった仲間たちを殺したかもしれないということになるのだ。ありえない。
いくら事情があり、末端の兵士たちは命令されただけとはいえ臣下として下るのは心情的にも矜持的に受けつけなかった。
だが、今レオンがどのように暮らしているのかをこの目で見たいという気持ちもあったから、レオンに伴って一度エリクシールに行ってみる心算ではあった。

グレンが思案にくれている間に、宴はさらにたけなわになっていた。
ロイド王と先程まで話し込んでいたレオンは、今は若いワーウルフ達と酒を飲み交わしている。
ヴォルフランドに来る道中で同行していてたメンバーとかなり仲良くなったらしく、楽しそうな様子だった。
本当は同世代であるレオンとシエルがそんな風に仲良くなってくれることをグレンは密かに望んでいたが、腹を痛めた息子が楽しくすごしている様をみるにつけ、今度は腹をいためなかったほうの息子がどうしているのかが気にかかってきた。

シエルは先ほどまでレティシアの横に座っていたはずだったが、今は離席していて、賑やかな宴の中にその姿はない。だが、何故か探すまでもなく不思議とグレンにはシエルの居場所がわかるのだった。
だから引き寄せられるように、だが迷いなくグレンはシエルを探し当てることができた。

宴の賑わいから少し距離を置いて、シエルは会場の外の廊下、窓のそばに佇んでいた。
黒銀の髪が月の光を浴びて光沢を帯びているように見える。
手に酒のコップを持ったままじっと身じろぎもせずに外を見ている姿はまるで一服の絵のように見えた。
だが。シエルのほうでもグレン接近にすぐに気づいたらしく、ゆっくりと振り向いた。

「シエル、大丈夫か?会場にいなくていいのか?」

あのようなことがあった後では思わず身体がすくむ。しかも二人きりである。普通に話しかけるのは実際はかなりの勇気がいったが、だが、そうしなければ二度と普通に話せないような気がして、グレンは勇気をふるいおこした。

「ーー大丈夫。ちょっと人いきれに疲れて休憩してただけなんだ。それにしても、息子さん見つかってよかった。おめでとうございます」

シエルの言葉と態度もどことなくぎくしゃぐしていた。
とはいえ最も昨夜の今日でいつも通りの態度であったらそれはそれで良識を疑ったかもしれない。

「…ありがとう」

「大事な息子さんも見つかったし、これで何事も未練なくここを去れるわけだね」

「・・・シエル」

露悪的的な言い方をしているが、内心傷ついている様子がうかがえてグレンは怒る気にはなれなかった。

「シエル、レオンと同じくらいお前のことだって大事に思っている。息子として」

「息子として?」

「息子として・・・」

続けようと思ったが、シエルが苦しげにしてるので、グレンは続けるのをやめた。

「そんなことは望んでない」

「でもお前はこの国の王子だ。普通とは責任が違う。確かに俺はΩではあるかもしれないがこの通りのご風体だし、何より年だ。シエルはちゃんとした若い女の子ときちんと恋愛をして、結婚したほうがいい」

「レンがそれ言う?」

今まで静かに佇んでいたシエルがキッと振りむいた。
怒気を含んだ青い双眸がグレンを睨んだ。

「好きなだけではどうにもならないこともある。お前はまだ若い。もう少ししたら俺の言うことが正しいとわかる」

「…レンの言っていることは正しいのかもしれないけど、残酷だよね。僕はレンが好きって言ってるのにそんなこと」

「シエル。やめよう。喧嘩したままお前とお別れしたくないんだ」

「……」

時間は有限である。
特に、40代に入ったグレンにとってはそうだ。
限られた時間をいがみあってすごしたくなかった。
どのみち距離という隔てがあれば、いずれにしても気持ちは変わるだろう。

グレンは自分より高いところにあるシエルの頭を撫でてやった。小さい頃に、子狼のときにそうしたように。

「そういう優しさは、ずるい」

「ごめんな」

微かに震える手が震えたが、シエルはグレンの内心の恐怖を察知したように微動だにせず目を伏せてじっとそれを受け入れた。

賑やかな酒盛りの音が聞こえる中、そこだけしめやかに時間が流れているような気がした。

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