騎士団長、狼王の花嫁になるーー拾った子犬はワーウルフの王子でした

鳥海あおい

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第四章

5尋問

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グレンが再び起きたのは配膳の盆が床に置かれたガチャンという音のせいだった。

やたらと喉がいがらっぽい気がしたが、身体の芯の危うい気配を漂わせていた熱は落ち着いている気がする。
ただ、打撃を受けた部分はもちろんなのだが、剣がかすった足の傷がズキズキし、腫れぼったく熱を持っていた。懸念した通り、化膿している。
発熱する予感がした。


それから、ふと違和感を覚える。

自分は昨日ステファンと話した後に鉄格子の側の床で力尽きて寝てしまったような気がするのだが、目覚めた今、ちゃんと寝台の上にいる。
無意識のうちに自分で戻ったのだろうかと思ってから、はっとする。

夢だと思っていたが、まさか、まさか本当にシエルが来て・・・なんていうことがあるだろうか。
まだ温もりが残っているような気がして
現実と夢のどちらだったのか判別がつかないまま、グレンは思わずシエルがいた痕跡を求めてうろうろと牢内を歩き回ったが、結局確証を得ることができないまま座り込んだ。

食欲はあまりないのだが、食べないと体力を消耗してしまう。むりやり気味に食べものを口に押し込む。
パサパサのパンは食べると口の中の乾いてしまい、なんだかげんなりしてしまった。
夢が現実だったとしてシエルがもし狼の姿で来たとしても、もしグレンを寝台まで運ぼうとして人型になったら素っ裸であるなと想像すると、なんとなく笑えてくる。

ワーウルフ達が狼になったほうが身軽で素早いのに滅多に完全な獣型にならないのは、このへんに理由があるようだった。服が脱げてしまう上に、手が使えないので服が持てないから移動先でものすごく困る事になってしまう。
現実逃避に他ならなかったが、そんな下らないことなどを想像でもしないとこれからまた始まる時間への憂鬱さをまぎらわせられない。

(とにかく早く帰ってきてくれ、レオン…)

他力本願ではあるが、グレンはひたすら祈った。


*


「本当に何も知らない」

もう何十回目か聞かれたかわからない尋問にグレンはバカの一つ覚えのようにこたえた。
牢から出されて昨日と同様、枷をつけられたまま薄暗い尋問室まで連れていかれるのにグレンは唯々諾々と従った。
グレンは隠し事が苦手である。
とぼけ続けるのはなかなか骨が折れるので鬱々としてくる。
しかも昨日はクライヴは忙しかったようで時々しか顔をださなかったが、今日は腰を据えて尋問に立ち会うようでさらに憂鬱さが増した。
机を隔てて座ったクライヴはぞっとするような鋭い目でグレンの一挙一動を、また、一言一句を見据えている。
黒いワーウルフをグレンはぼんやりと眺めた。
シエルのいとこであるから面影に似た部分はある。
だが、レオンの話が本当ならば、彼が生れたばかりのシエルを誘拐してさらに殺害を試み、今さらに親族を弑虐せんとしているのだ。身内を害してまでして王になりたいとは理解不能だと、グレンはつい思ってしまう。
彼のような一兵卒から見ても王様の仕事とはかなり大変そうだ。

「・・・俺たちは庭でロイド様とお会いしたが、挨拶だけしてすぐに別れた」

「じゃあ何故あなたの息子は逃げたのか?」

「わかりません。ああ見えて小心なので、いきなり濡れ衣をきせられそうになったので驚いたのかも」

さすがに自分で言っていても馬鹿馬鹿しいことを言っていると思ったが、立ち会っている周りのワーウルフたちにも失笑ものだったらしい。

「苦しい言いわけだな」

だな…と、心の中で同意をした瞬間、胸倉をつかまれたと思うと、グレンの体は床に叩きつけられた。
とっさに受け身をとれなかったので石畳の床にぶつけた部分がかなり痛い。足の傷を打ったのでズキズキがかなりひどくなり、グレンは演技でなく苦鳴の声をあげた。
再び座るように言われ、よろよろと椅子に戻る。

「何も言わないなら罪人のように手足を先から少しずつ切り落とすか」

今、机を隔てたむこうに座り尋問を担当しているのは、あたりがきついのでどうやらクライヴの手の内の者なのかもしれない。ぞっとするような事を言いだしたが、別の者が即座に反対の意を唱えた。

「それはやりすぎではないのか。かりにもグレン殿はシエル殿下の恩人。シエル殿下をさらった犯人達は結局、国外追放だった。それに比べると重すぎる拷問だ」

「しかし、彼は同胞ではない」

「だからといって、まだ関与してるとは決まっていないのにやりすぎだ」

「シエル殿下は殺さなければいいと言っていた。この男は元々騎士だから、生半可な痛みでは口を割らないだろうから仕方ない」

昨日から牢と審問の場には何人ものワーウルフ達が立ち会っているが、結局のところ人間に対してに好意的な者と好意的でない者が入り交じっているのですぐに対立が始まってしまう。
こうなるとグレンは机の木目を見ながらワーウルフたちの諍いを聞いていることしかできなかった。
痛みには慣れてはいるが、だからといって痛い目にあいたいわけではない。今日もなんとか穏便にすまないだろうかと思いながらグレンそっちのけでもめ始めたのを聞きながら時間がかせげるからありがたいと思っていると、つかのま忘れていた足の傷の疼きがよりひどくなってくる。
グレンはなるべくそこから意識をそらすようにするが、そうこうするうちにだんだんと悪寒が這い上がってきて、だんだんぼうっとしてくる。
朝懸念していた通り、傷から発熱しかけているのだった。
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