5 / 33
05 倉敷さん1(宅配便の人/45歳)
しおりを挟む宅配便の仕事というのは、結構重労働だったりする。
しかし、届けた先で感謝されることはそう多くはない。むしろ、少しでも希望時間を過ぎたり、何度もチャイムを押しても気付かれずに後回しにしたりすると、高確率で苦情を言われたりするストレスの多い仕事だ。
某宅配便で働く倉敷45歳には最近、そのストレスを癒してくれる、最高の出会いがあった。
同性ではあるが、倉敷は独身で相手も独身だ。浮気や不倫にはならないし、合意の上での行為であるため犯罪にもならない。
彼とは恋人同士ではないが、所謂セフレ、セックスフレンドという関係だった。そういう関係になったのは一年ほど前、あれは寒い冬の日だった。
彼の勤める工場への配達を担当することになり、何度か工場へ荷物を届けに行っていた。
数回目の配達をした日の帰り道、倉敷はとてつもなく疲れていた。同じ事業所の別の者が不在票を入れたのだが、その者が急遽帰宅することになり、たまたま空いていた自分が再配達をした時のことだった。
荷物を届けるためチャイムを押して住人が出て来るのを待っていたのだが、家には明かりがついているしエアコンも動いている。きっと気づかないのだろうと思い、数分ほど待っていた。
すると住人と思われる高齢の女性が現れ、物凄い形相で怒っていたのだ。ずっと家にいたのに不在にされたと怒っていたが、とりあえず謝罪して荷物を渡した。
補聴器をしているのが見えたので、もしかするとその時ちょうど補聴器を外していて、チャイムの音が聞こえなかったのかもしれない。
あまりにも激怒しているので何度か謝り、次からは気を付けると言ったのだが、女性は言葉を聞かずに起こり続けていた。その時に言われた言葉があまりにも酷く、罵詈雑言の連続だった。
今まで何度かそういう経験はあったが、あれほどの言葉は聞いたことがなかった。
お互いに非があるとは思えず、それでも何度か謝罪して頭を下げたというのに、女性は荷物を奪うように受け取ると、こちらをギロリと睨みつけて扉を思い切り閉めてしまった。
宅配員というのは本当にストレスの溜まる仕事だとしみじみ思い、ふらふらと事業所へ帰ったのだ。
心身ともに疲れ果て、雪の降る暗い夜道をトボトボと歩いて家に帰っている時、よく行くコンビニの前に来た。ビールとつまみでも買って帰るかと立ち止まり中に入った。
適当に選んでレジに並び、帰ろうかと思ったのだが、真っ暗な部屋に帰るのが寂しくなり、近くの公園のブランコに座ってビールを一気に飲んだ。とても虚しい気持ちだった。
誰かに慰めてもらいたくて、だが、誰もいない。ブランコに座ったまま俯き、溜め息を吐いた。
すると、一人の男が声を掛けてきたのだ。
「あのー、大丈夫ですか?」
「えっ?」
突然頭上から聞こえてきた声に驚き、倉敷は顔を上げた。
すると見知らぬ男が白い気を吐きながら、自分を上から見下ろしていたのだ。
倉敷は自分が不審者かと思われたのかと焦り、すぐに返事をした。
「いやいやっ、俺は不審者じゃないっ!ちょっと疲れて、…ここで、ビール飲んでただけだ」
「疲れて?」
男は倉敷の焦った顔と言葉にクスッと笑い、話しかけてきた。
「不審者だなんて思ってないですよ。寒いのにブランコに座って俯いてたから、具合でも悪いのかと思って声をかけたんです」
「そうだったのか、…そうか」
「やけに疲れてるみたいですね」
「…ちょっと、な」
すると男は倉敷の正面に来てしゃがみ込み、ブランコに座ったまま暗い顔をしている倉敷を見上げた。
ドキッ
何故だか男の笑顔に胸が高鳴り、倉敷は言葉を詰まらせた。そんな倉敷を見て、男は優しい笑顔で口を開いた。
「早く帰らないと家族が心配しているのでは?」
「…あー、俺は独身だし、家族はいない。帰ってもどうせ一人だから、誰も心配しねぇよ」
「そうなんですか。じゃあ俺と同じですね。俺も独身でアパートに一人で住んでます。ははっ、これも何かの縁ですし、僕も一緒にビールでも飲もうかな。いいです?」
男の提案に、倉敷は少し困惑したように男を見た。
今出会ったばかりの人間と、こんな真っ暗な公園でビールを飲むというのだ。どちらが不審者か、わかったもんじゃあない。
倉敷は確認のため、男に尋ねてみる。
「んん?本気かあ?」
「本気ですよ、どうせ暇ですし。…あ、明日も仕事ですか?それなら呼び止めるのは…迷惑になりますね」
男は笑いながら頭を下げた。倉敷は心配してせっかく声をかけてくれた男に対して申し訳なく思い、男の提案を受け入れることにした。
見上げたままの男と視線を合わせ、倉敷が少し笑いながら言う。
「明日は休みだ。久しぶりの日曜休みだ。…まあ、そうだな、じゃあ俺んとこで飲むか?アンタが泥棒やら詐欺師とかでも、別に盗まれて困るようなモンもないしな」
「俺は泥棒でも詐欺師でもないですよ、この近くの工場で働いてますし」
「そうなのか?何処だ?もしかすると俺の担当地区かもしれないな」
「配達員さんでしたか。工場はこの先にあるー…」
倉敷は男と話をしながらコンビニへ行き、適当にビール数本とつまみを買った。
歩きながら男が勤めているという工場の名前を聞き、自分が最近担当になったのを思い出して意気投合した。配達便の事業名を言うと、男は嬉しそうに笑っていた。
倉敷の住むアパートに着き、二人で部屋に入るとすぐに酒盛りが始まった。
意外と話は盛り上がり、出会ったばかりだというのに、倉敷は男に今日あった出来事を話した。ただの愚痴だというのに、男は笑いながら慰めや励ましの言葉をかけてくれた。
男の笑顔を見る度に何故か心臓が脈打ち、倉敷の顔は赤くなっていた。
そこで倉敷はハッとしたように男に聞いた。
「アンタ、名前何ていうんだ?俺は倉敷だ」
「そういえばまだ自己紹介もしてなかったですね、はははっ。俺は結城と言います。今度工場に来た時に俺の顔を見たら、是非声を掛けてくださいね」
「ああ、そうするよ」
男の名前は結城久弥。工場で労働している37歳ということだ。
自分よりも年下の男に愚痴を聞かせ、挙句の果てには慰めて貰っているという事実に、倉敷は少し恥ずかしくなった。
それを伝えると、結城は笑っていた。
ドキッ
出会ってまだ数時間だというのに、倉敷は結城の笑顔を見る度に心臓がドキドキしていた。
11
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる