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第1章――5 【 VS殺人鬼/吸血鬼の憤怒 】
第48話 センリVS殺人鬼
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「(おっも!)」
受け止めた剣の重さに、腕だけでなく全身が軋むように悲鳴が上がる。一瞬でも力を抜けばたちまち吹っ飛ばされてしまいそうな馬鹿力相手に、僕は全身に力を込めて鍔迫り合いを送った。
あともう何秒持つかという所で均衡を崩すかのように殺人鬼なる異形の怪物が後方へと大きく跳んだ。
理由はよく分からないけど一度態勢を整えるため距離を取った相手に内心助かりつつ、僕は警戒したままちらりと後ろに視線を向けた。
「大丈夫? マーガレット」
「センリ⁉ 貴方、どうしてここに⁉」
「悲鳴が聞こえたんだ。だから来た」
逃げる人々とは逆方向に進んでいけば自ずと現場に着く。そう理由を手短に説明すると、マーガレットはありえないと首を横に振った。
「なんで来たのよ⁉ アレは貴方が敵う相手じゃない! すぐ逃げて!」
「……勝てなくても時間稼ぎくらいにはなると思ったから」
「バカなの⁉ そんあ、わざわざ死に来るみたいな真似……」
「死ぬために来たんじゃないよ。これ以上、誰も死なせないために来たんだ」
そう決意して戦場に来た。けれど、それは既に手遅れだったらしい。
血だまりを作って倒れている冒険者二人に視線を向けながら、僕はマーガレットに訊ねた。
「二人は?」
「分からない。けど……」
「……分かった。遅れて、ごめん」
「謝らないで。来てくれただけで、嬉しい」
安堵を顔に浮かべるマーガレットに、僕の胸に生じた罪悪感がわずかに和らいだのを感じた。
もう少し早く合流できていれば、二人を犠牲にせずに済んだかもしれない。悔やんでも悔やみきれないこの後悔は、だからこそこれ以上犠牲者を増やさないための決意に替えなきゃならない。
「マーガレット、立てる?」
「ごめん。腰が抜けて、今はまだ立てない」
「そっか……」
できれば立って欲しかったけど、直前に死を感じたであろう彼女に無理は言えなかった。とはいえ、僕の実力でマーガレットを庇いながら戦うのはまだ無理だ。
「……なんとかしてあいつの気を僕に引かないと」
まだ動かない、何か図っているような怪物から視線を逸らず剣を強く握り直して、
「マーガレット。動けるようになったらすぐ増援を呼んで欲しい。ここはギルドから近いし、これだけの騒ぎならあと数分もすれば皆駆けつけに来てくれるかもしれないけど……頼めるかな」
「う、うん。……センリ、本当にあんな化け物と戦う気なの?」
「そうしたくなくても、そうせざるを得ないでしょ」
それに、コイツを野放しにはできない。ここで逃せば、また新たな被害が出てしまう。だからこそ、コイツはこの場で絶対に倒さなくちゃならないんだ。――たとえ、僕が犠牲になったとしても。
ちりちりと、呼吸さえもできない極限の膠着状態が続く。
やがて、最初にこの均衡を破ったのは、怪物の耳をもつんざくような絶叫だった。
「ヴオオオオオオオオオオオオオ!」
「うるさっ⁉」
「……なんて雄叫びッ⁉」
この世の憎悪を煮詰めたような絶叫に僕とマーガレットが堪らず苦悶に顔を歪ませる。
そしてそれを皮切りに、怪物が僕に向かってけたたましく突貫してきた。
「来る……っ!」
当たれば致命傷当たれば当たれば致命傷当たれば致命傷当たれば致命傷――だから全力で!
「くっそ! やっぱりおもっ!」
「いなした‼」
目にも終えぬ速度で迫る一閃。それを研ぎ澄ました集中力と動きの予測で辛うじていなした。
剣と剣が擦れて火花が散る。
「(一撃でもまともに食らえば死ぬと思っていい。だから死ぬ気でいなし続けろ!)」
「ヴォアアアアアアア!」
眼前に死の気配。一瞬でも怯めば僕の視界はたちまち真っ赤に染まる。あまりにも極限なこの攻防が、自分自身すらも知り得なかった僕の限界を引き出させた。
「(……辛うじてだけど、太刀筋が見える……っ!)
左右から間断なく降り掛かる剣撃を、僕は紙一重で捌き続けた。
確かに一撃は重く速い。しかし動きが単調で読みやすい。まるでリズムゲームのように決まったパターンで攻撃してきている気がする。それにこの攻撃、どこで……。
「っ!」
「センリ!」
「大丈夫! 掠っただけ!」
いなし切れなかった剣の切っ先が頬を掠め、鋭い痛みと熱が走って顔を歪ませる。傷口から血が垂れているが、それを拭う暇などある訳がない。
「はあっ!」
「――ッッッ!」
パターンを見切ってカウンターを狙う。しかし相手の動きの方が僅かに速く、こちらの攻撃はまともに当たらなかった。
「(ダメだ。攻撃はどうにかいなせても、こっちの攻撃が通らないんじゃ勝ち目がない!)」
力でゴリ押せない僕の攻撃戦法は細かい攻撃を与えて相手の体力を削ってから確実に仕留める。しかし、それも攻撃が当たらなければ意味がない。
一撃必殺の鉾と絶対回避の盾。熾烈を極めるこの応酬に綻びが生じ始めたのは、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……やば」
絶え間なく攻撃を浴びせ続けられ、それをギリギリで躱し続けていた盾の方だった。
「(くっそ、だんだん身体が追い付かなくなってきた……)」
極限の集中と常に身体に纏わり付く恐怖の中での戦闘は自分の想像以上に体力の消耗が激しく、徐々に裂傷が増えていく。
「(耐えろ……せめて増援が来るまで!)」
気力を振り絞れ!
「うあああああああああああ!」
「ヴォアアアアアアアアアアッッッ‼」
僕にできることはそれくらいだ。コイツをどこにも行かせない。一分でも、一秒でも長くコイツをこの場に引き留めさせる。少しでもコイツの全てを削れ、他を襲うとする戦意を。戦う体力を。思考する体力を。逃げる体力を。
剣と剣がぶつかり合う。火花を散らして。腹の底から上げた声と声にもならない声がぶつけ合う。覚悟と殺意が、互いの剣に乗って衝突する。
「――センリ!」
声が聞こえた。リリスの声だ。
ここにはいないはずの愛しの彼女の声が頭の中で聞こえて、こんな状況にも関わらず思わずフッ、と笑ってしまった。
「……ごめん。リリス」
脳裏に彼女の愛しい笑顔が浮かぶ。その刹那――空中を真っ二つに割られた剣の切っ先が舞って、直後に視界を真っ赤に染め上げるほどの血飛沫が上がった。
……マーガレット、ダメだ。逃げて。
身体から力が抜けて、身体が倒れる。横になった視界に映ったのは、僕を守ろうと剣を握っているマーガレットの姿だった。
……くそ。動け、動いてよ。
もう指の一本すら動かない。徐々に視界も暗くなってきた。僕を守ろうと必死に怪物に立ち向かっているマーガレットが剣諸共吹っ飛ばされた。どうやら、怪物はマーガレットよりも先に僕を殺そうとしているらしい。
……今のうちに、にげ、て……。
完全に意識が途切れる寸前。視界に映ったのはまだ微かに生命にしがみついてる敵の息の根を止めんと剣を振おうとしている怪物の姿。
……ちゃんと、リリスに好きだって伝えたかったな。
死に際に彼女に抱く恋慕を伝えられなかったことを悔やみながら、僕の異世界転移は幕を閉じようと――
「私のセンリに触るな。このグズが」
「――っ⁉」
意識が完全に途切れる寸前。僕が最後に見たのは、凛々しく立つ、赤髪が綺麗な女性だった――。
受け止めた剣の重さに、腕だけでなく全身が軋むように悲鳴が上がる。一瞬でも力を抜けばたちまち吹っ飛ばされてしまいそうな馬鹿力相手に、僕は全身に力を込めて鍔迫り合いを送った。
あともう何秒持つかという所で均衡を崩すかのように殺人鬼なる異形の怪物が後方へと大きく跳んだ。
理由はよく分からないけど一度態勢を整えるため距離を取った相手に内心助かりつつ、僕は警戒したままちらりと後ろに視線を向けた。
「大丈夫? マーガレット」
「センリ⁉ 貴方、どうしてここに⁉」
「悲鳴が聞こえたんだ。だから来た」
逃げる人々とは逆方向に進んでいけば自ずと現場に着く。そう理由を手短に説明すると、マーガレットはありえないと首を横に振った。
「なんで来たのよ⁉ アレは貴方が敵う相手じゃない! すぐ逃げて!」
「……勝てなくても時間稼ぎくらいにはなると思ったから」
「バカなの⁉ そんあ、わざわざ死に来るみたいな真似……」
「死ぬために来たんじゃないよ。これ以上、誰も死なせないために来たんだ」
そう決意して戦場に来た。けれど、それは既に手遅れだったらしい。
血だまりを作って倒れている冒険者二人に視線を向けながら、僕はマーガレットに訊ねた。
「二人は?」
「分からない。けど……」
「……分かった。遅れて、ごめん」
「謝らないで。来てくれただけで、嬉しい」
安堵を顔に浮かべるマーガレットに、僕の胸に生じた罪悪感がわずかに和らいだのを感じた。
もう少し早く合流できていれば、二人を犠牲にせずに済んだかもしれない。悔やんでも悔やみきれないこの後悔は、だからこそこれ以上犠牲者を増やさないための決意に替えなきゃならない。
「マーガレット、立てる?」
「ごめん。腰が抜けて、今はまだ立てない」
「そっか……」
できれば立って欲しかったけど、直前に死を感じたであろう彼女に無理は言えなかった。とはいえ、僕の実力でマーガレットを庇いながら戦うのはまだ無理だ。
「……なんとかしてあいつの気を僕に引かないと」
まだ動かない、何か図っているような怪物から視線を逸らず剣を強く握り直して、
「マーガレット。動けるようになったらすぐ増援を呼んで欲しい。ここはギルドから近いし、これだけの騒ぎならあと数分もすれば皆駆けつけに来てくれるかもしれないけど……頼めるかな」
「う、うん。……センリ、本当にあんな化け物と戦う気なの?」
「そうしたくなくても、そうせざるを得ないでしょ」
それに、コイツを野放しにはできない。ここで逃せば、また新たな被害が出てしまう。だからこそ、コイツはこの場で絶対に倒さなくちゃならないんだ。――たとえ、僕が犠牲になったとしても。
ちりちりと、呼吸さえもできない極限の膠着状態が続く。
やがて、最初にこの均衡を破ったのは、怪物の耳をもつんざくような絶叫だった。
「ヴオオオオオオオオオオオオオ!」
「うるさっ⁉」
「……なんて雄叫びッ⁉」
この世の憎悪を煮詰めたような絶叫に僕とマーガレットが堪らず苦悶に顔を歪ませる。
そしてそれを皮切りに、怪物が僕に向かってけたたましく突貫してきた。
「来る……っ!」
当たれば致命傷当たれば当たれば致命傷当たれば致命傷当たれば致命傷――だから全力で!
「くっそ! やっぱりおもっ!」
「いなした‼」
目にも終えぬ速度で迫る一閃。それを研ぎ澄ました集中力と動きの予測で辛うじていなした。
剣と剣が擦れて火花が散る。
「(一撃でもまともに食らえば死ぬと思っていい。だから死ぬ気でいなし続けろ!)」
「ヴォアアアアアアア!」
眼前に死の気配。一瞬でも怯めば僕の視界はたちまち真っ赤に染まる。あまりにも極限なこの攻防が、自分自身すらも知り得なかった僕の限界を引き出させた。
「(……辛うじてだけど、太刀筋が見える……っ!)
左右から間断なく降り掛かる剣撃を、僕は紙一重で捌き続けた。
確かに一撃は重く速い。しかし動きが単調で読みやすい。まるでリズムゲームのように決まったパターンで攻撃してきている気がする。それにこの攻撃、どこで……。
「っ!」
「センリ!」
「大丈夫! 掠っただけ!」
いなし切れなかった剣の切っ先が頬を掠め、鋭い痛みと熱が走って顔を歪ませる。傷口から血が垂れているが、それを拭う暇などある訳がない。
「はあっ!」
「――ッッッ!」
パターンを見切ってカウンターを狙う。しかし相手の動きの方が僅かに速く、こちらの攻撃はまともに当たらなかった。
「(ダメだ。攻撃はどうにかいなせても、こっちの攻撃が通らないんじゃ勝ち目がない!)」
力でゴリ押せない僕の攻撃戦法は細かい攻撃を与えて相手の体力を削ってから確実に仕留める。しかし、それも攻撃が当たらなければ意味がない。
一撃必殺の鉾と絶対回避の盾。熾烈を極めるこの応酬に綻びが生じ始めたのは、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……やば」
絶え間なく攻撃を浴びせ続けられ、それをギリギリで躱し続けていた盾の方だった。
「(くっそ、だんだん身体が追い付かなくなってきた……)」
極限の集中と常に身体に纏わり付く恐怖の中での戦闘は自分の想像以上に体力の消耗が激しく、徐々に裂傷が増えていく。
「(耐えろ……せめて増援が来るまで!)」
気力を振り絞れ!
「うあああああああああああ!」
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僕にできることはそれくらいだ。コイツをどこにも行かせない。一分でも、一秒でも長くコイツをこの場に引き留めさせる。少しでもコイツの全てを削れ、他を襲うとする戦意を。戦う体力を。思考する体力を。逃げる体力を。
剣と剣がぶつかり合う。火花を散らして。腹の底から上げた声と声にもならない声がぶつけ合う。覚悟と殺意が、互いの剣に乗って衝突する。
「――センリ!」
声が聞こえた。リリスの声だ。
ここにはいないはずの愛しの彼女の声が頭の中で聞こえて、こんな状況にも関わらず思わずフッ、と笑ってしまった。
「……ごめん。リリス」
脳裏に彼女の愛しい笑顔が浮かぶ。その刹那――空中を真っ二つに割られた剣の切っ先が舞って、直後に視界を真っ赤に染め上げるほどの血飛沫が上がった。
……マーガレット、ダメだ。逃げて。
身体から力が抜けて、身体が倒れる。横になった視界に映ったのは、僕を守ろうと剣を握っているマーガレットの姿だった。
……くそ。動け、動いてよ。
もう指の一本すら動かない。徐々に視界も暗くなってきた。僕を守ろうと必死に怪物に立ち向かっているマーガレットが剣諸共吹っ飛ばされた。どうやら、怪物はマーガレットよりも先に僕を殺そうとしているらしい。
……今のうちに、にげ、て……。
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……ちゃんと、リリスに好きだって伝えたかったな。
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