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第1章 オークから人へ
2 ひとつ目の選択
しおりを挟むその後の彼の行動はおよそオークの取るものとはかけ離れていた。
彼は女性を埋めたのだ。
せめて無惨な体を晒さないように、残る体を魔物達に食い荒らされないように、そして何よりこれ以上見ていたくなかったからだ。
そうして彼は自分のこれからを考える。知性を持ってしまった今となってはオークとしての生活はできないだろう。
だが目的も目標もないのだ。
そして彼は記憶にすがった。
オークとして暮らした住処に戻ろう、と。
そこには同族がいる。
もしかしたらこうなったのは自分だけではないのかもしれない。そうあって欲しいという思いを胸に、彼は歩き出した。
彼が住処に帰るのは6日ぶりである。
オークは基本的に集団で行動するが、稀に単独で住処を離れる場合もある。
その理由は、餌や性処理の為だ。
集団の狩りの場合は山分けとなるが、単独で手に入れたものは個人の所有物になるのである。
記憶を頼りにたどり着いた住処は、大きな洞窟だった。
縦幅3m、横幅6mもある入り口から洞窟が続き、天井に所々光を取り入れる為の穴が開いている。
無論夜になれば真っ暗闇だが、オークは暗闇でも目が効くので問題にはならない。
「フゴフゴ」
「フゴ、フゴゴ」
入り口で2匹のオークが話している。
知性を得た今でも言葉は理解できた。
どうやら彼が住処を離れた日に、複数の人間を捕らえたらしい。
この洞窟は森の奥深くにあるため普段人間が来ることは殆どないのだが、それが連続したということは、もしかすると自分が殺した女性の仲間かもしれない。
そんな考えが頭に浮かび、居ても立っても居られず走り出した。
洞窟の最奥の広間で彼が見たのは、オークに代わる代わる犯される4人の若い人間の女性の姿だった。
恐らく陵辱は6日間休みなく続いたのだろう。苦しみに耐えられなかった3人の女性が、感情を失った虚ろな目をしている。
1人だけ、真っ赤な髪を持つ女性だけが、辛うじて叫ぶ気力を残していた。だがそれが無くなるのも時間の問題だろう。オーク達は下品な笑い声と共に、その女性を殴りながら犯し続けている。
彼は自分の思考を呪った。
こんな奴らに知性を求めたのか、と。
彼はその光景を目に焼き付けたまま、何も出来ず呆然とその場に立ち尽くした。
あれからどれくらい時が経っただろう。
オーク達は行為に飽きたのか、彼女達を放置して広間から出て行った。
彼と女性達だけになった広間には、先ほどオークに殴られていた女性のすすり泣きだけが静かに響いていた。
それを聴きながら、彼は頭の中でどうすべきか考えていた。
彼女達を殺すか、否かだ。
このままオーク達の慰みものになり続けて死ぬよりは、今すぐに死なせるべきじゃないか?
結論は思っていたより早くでた。
恐らく自分が殺したのは彼女達の仲間だ。
1人だけ逃れて迷っていた所を自分に捕まったのだろう。
ならせめてもの償いに、彼女達は楽にしよう、と。
彼はゆっくりと赤髪の女性に近づき、その手を女性の首にかけた。
そして力を込めようとした、その時だ。
その手に痛みが走った。
赤髪の女性が彼の手に噛みついたのだ。
恐らく渾身の力を込めたのだろうが、その力はあまりに弱かった。
女性は涙を流しながら彼を睨む。
その力と反比例した強い眼力に気圧され、彼は女性の首から手を離した。
女性は手から口を離すと、そのまま意思を失ってしまった。
彼は自分の手に残った噛み傷を見つめていた。
しばらくして、2匹のオークが広間に入ってきた。
そして気絶している彼女を犯そうと近寄る。
彼女達が何故この森に来たのかはしらない。
だがこんな筈ではなかったのだろう。
後悔しただろう。
怖いだろう。
憎いだろう。
悲しいだろう。
辛いだろう。
しかしそれでも、
(あれは生きたい者の目だ)
彼は背後からオーク達の頭を掴んだ。
「フガ!?」
「フゴォ!?」
突然の出来事に戸惑うオーク達。
そして彼はそのまま、腕に渾身の力を入れた。
まるで果物のように頭は潰れ、依り代を失った体はピクリとも動かない。
彼は選んだ。
彼女達を助ける道を。
もう引き返せないし、逃げ場などない。
だがそれでも、彼の心に後悔はなかった。
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