オークは人となり、人と生きる

araya

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第1章 オークから人へ

1 産声

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そこに住む知性ある存在は、この世界を『アース』と呼んでいた。

『アース』には魔力と呼ばれる概念があり、魔法と呼ばれる力と魔物と呼ばれる生物がいる。
『アース』に住む人は大きく分類して2種類。
人間族と亜人族だ。

しかしそんな分類は人が形式上定めたものであり、一言に亜人と言ってもその姿は種によって大きく異なる。
人間に比較的に近い獣人種もいれば、人間の上半身に馬の胴体を持つケンタウロスのような種族も存在するのだ。

その一方で、頭に角と2mを超える体躯を除けば人間と姿の違いが殆どないオーガと呼ばれる種族や、茶色い体色と尖った耳をしてはいるが、人間の子供の姿に近いゴブリンなど、人間に近い姿であっても亜人ではなく魔物とされる種族もある。

オークもその種族の一つだ。
緑色の巨体に豚と人間を掛け合わせたような醜悪な顔をしているが、二足歩行で道具を使う。
そんな彼らが魔物とされる理由は、やはり彼らが決定的に人と相容れない存在だからだろう。
彼らにとって人の雄は餌であり、雌は性処理の道具でしかない。
彼らの発する声も人には鳴き声にしか聞こえず、人の言葉を理解する個体も確認されていないため、言語による意思疎通は不可能である。
この事実は人がオークを魔物と分類する十分な理由になった。

しかし、何事にも例外は存在するものだ。



とあるオークの中で目覚めた『それ』は、自分がオークであることを理解している。
たが、それと同時に何か別の存在だったような感覚に襲われていた。
オークとしての記憶はある、しかしそれを無理やり頭にねじ込まれたような異物感が脳を支配しているのだ。

(なんだよ、これ…)

今まで自分がオークとしてとっていた行動を、理性という目を通して見たのだ。
善悪感や道徳心などないはずの自分が、確かに今『後悔』している。
そして『それ』は再度自分が食べているものに目を向けた。
既に生き絶えた人間族の女性。
逃げられないように四肢を引きちぎったため、酷く無惨な有様だ。

そして何よりオークは絶望した。
四肢を千切りその腕を食いながら、自分はその女性を犯していたからだ。

なんて醜悪さだ。
込み上げてくる自分への怒りと今にも逆流しそうな胃液を抑えながら、女性のからだに入っていた自分のものを引き抜いた。
女性の血で赤く染まったそれを見て遂に吐き気を抑えられなくなり、腹の中のものが全て吐き出された。
そして頬を津たる涙を肌で感じながら、自らの汚物にまみれた『それ』は、怒りと悲しみを孕んだ絶叫という名の産声を森に轟かせるのだった。


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