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マルク VS トモ

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マルクは、なんとかしてヒロトをドイツに来させようとしていた。
でも、居場所がつかめない。
データにアクセスしようとしても、出来ないからだ。
エドワードは頼りにならないし、父親である『御』からは、部外者であるパースのクリニックボスを選ぶと言ってくれるし。
リョウイチを連れてパースに来たのは、色々と役立ってくれるだろうと思ったからだ。
だけど、予想外の展開が待ち受けていた。
まず、クリニックボスは、リョウイチが学長をしている大学の卒業生だと云う事だ。
しかも、イタリア王子に香港マフィアのジュニアだと?

そして、側付きのアランが彼等にボコボコにされてる。
しかも、アランはシンガポール銃撃戦の、黒幕だと?
ジョシュアは、アランに殺された?
フィルが居たので、フィルに色々と連れて貰って調べまくっていた。
分かった事は、幾つかあった。
その最たるものは、クリニックボスのトモアキ・フクヤマ。
彼が、カギを握っている。
それに、フィルは何かを知ってそうだ。
シンガポールに戻る前日、フィルは、やっと重い口を開いたのだ。
 「クリニックボスは、シンガポールマフィアのドンの気に入りだ。次代のドンに考えてるらしい」と。

私の目には、クリニックボスは口の重い人間に見えた。
じっ……と、顔を見てくる。
ノーベル賞を取った人間は、どこか普通の人間とは違う。
この男も、そうだった。
あまり収穫のないまま帰らないといけないのか。
それなら、せめてコイツを連れて帰ろう。

しかし、コイツは隙が有りそうで無い。
リョウイチに話を持ちかけると、あいつは言ってきた。
 「ボスは昔から頑固だから、説得させるのは骨が折れる仕事だよ。でも筋を通せば、分かる人間だ」と。

だからリョウイチに説得役を任せていたのに、全然と言っていいほど歯が立たない。
仕方ない、気を失わせるか。
しかし、ここには薬関係のモノが置いてない。
殴るか、と思い狙ってると、隙がないので出来ない。
銃尻で殴ろうとしたら、彼は言ってきた。
 「そんな物を、ここで見せないで下さい」
 「誰に、何を言ってるんだ?」
 「ミスター、貴方です」と、振り向いて言ってくる。
 「クリニックとはいえ、ここは病院です。病院に、ソレは必要ありません」

この私に正論を言い放ってくる気か?
それはウィルだけで十分だ。
そう思うと、私は蹴った。
当たったと思ってたのに、当たらなかった。
二度、三度と蹴ったが、空を蹴るだけだ。
(なんでだ?)

リョウイチが溜息を吐いて言ってくる。
 「マルク、無理だよ。ボスは龍三から合気道と少林寺を習い、師範をしていた。気配には敏感だよ」

リュウゾウって、あのリューゾーかよ。
くそぅ……、くそったれ!
私は、クリニックボスに言ってやった。
 「私はドイツに戻る。お前も来るんだ!」
 「嫌です。私は、ここから離れない」

ガチャ。

一瞬だけど、身体が微かに震えたのが見て取れた。
リョウイチが庇おうとしてくるが無視だ。
 「最後通達だ。一緒に来い」
 「どうしてですか?」
 「お前に興味を持ってる人がドイツに居る。その人に会ってもらう」
 「それなら、その人に連絡してください。こう見えて、私は忙しいんです」

腹が立った。
 「ごたくは、そこまでにしろ!」
 「マルク、撃つな!やめろ!」
リョウイチが叫んでるが、それも無視だ。

スカッ……。

銃尻は、空を殴る。
 「逃げるなっ!!」
 「痛いのは嫌です。それに私は何もしていません」
腹に当てるつもりで拳を繰り出したり、足で蹴ったりするが当たらない。

スッ……、スッ……。
蹴りっ、蹴りっ……。

 「くそったれ!」
ワルサーを麻酔銃に替えてレベルをMAXにして撃った。
クリニックボスは避けてくれるが、その内の一発が掠りそうで掠らなかった。

リョウイチが何かを言ってる。
 「ボスッ!人を盾にする癖は直ってないなっ」
 「だって、側に居るのは、学長だけ……」


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