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花火

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マルクが戻ってこないのを不思議に思った諒一は、まだジェットで言い争ってるのかなと思い、翌日の便で日本に戻る決心をした。
 「お爺様。明日の便で、日本に帰ろうと思います」
 「そうか。達者でおれよ」
 「ありがとうございます。恐らく、もう来ないと思います。なにしろ、私も年を取ったので、お爺様と会うのは、今日が最後になるかと思います」

その時、音がした。

ドンッ!

音は続いて聞こえてくる。

ドンッ、ドンッ! 
ドドンッ!!


 「ん? あれは、花火の音ですか? こんな時間に……」
 「花火? もう正月は過ぎてるし、大体今は朝」
 「何の音でしょうかね?」

なにやらザワザワと騒がしい。
パイロットリーダーが駆け足で来る。
 「御。御寛ぎのところ、申し訳ありません」

リーダーの顔が青褪めている。
 「何があった? ジェットが爆発したのか?」
 「いえ、ジェットよりドーベルマンが放し飼い状態になっております。どうやら人肉を欲しているようで、パイロットやリペアマンが何人も犠牲に……」


なっ!?

今度はフランツの慌てた声が聞こえてくる。
 「御、大変です。マルク様が」
 「フランツ、どうした?」
 「マルク様が……、これを……、マルク様が……」

フランツが持ってる物を見ると、御はフランツに聞いた。
 「ドーベルマンか?」
 「おそらくダイナマイトかと……。ダイナマイト特融の臭いが、奥の格納庫の方に……。それに、焦げた肉の塊も散らばってます」
 「あいつは外だけでなく、内でも敵が多いからな」
 「ドーベルマンの方は、どうしましょう?」
御は、即答で返した。
 「ドーベルマンにアレを与えてやってくれ」
 「全滅させるのですか?」
 「エドが来た」
 「え?」
 「自分の屋敷に残ってるのを迎えに来た、と言ってきた。5匹共エドに甘えていたよ」

 「御……」
 「フランツ、全滅ではないよ。5匹はパースに行った。ここに残ってる彼等に、今までよく頑張ったと言ってやりたい。アレを、彼等に与えてやってくれないか。方法は任す」
 「分かりました」

そして、御はパイロットリーダーにも言った。
 「リーダー。主のいないジェットは直さなくても良い」
 「畏まりました」


諒一は、声に出していた。
 「お爺様。それでは、先ほどの音は……」
 「諒一。あの音は花火だよ。マルクが打ち上げた花火だ」


諒一の目には、涙が溢れていた。
自分にも欲はあった。いつかは、お爺様の跡を継いで、『御』になるという欲が。
でも、70歳を過ぎると飛行機事故で亡くなるかもしれない、という気持ちが出てきたのだ、
そうなると、日本から出ようという気は失せてきたのだ。

 「マルク……」
諒一は泣いていた。
昔、まだドイツに居た頃の自分に、マルクは優しく、色々と教えてくれた。
そんなにも年齢が離れていないので、叔父と甥という関係ではなく、兄弟感覚でいたものだ。


その様子を、御は見ていた。
 「諒一。マルクの為に涙を流してくれるのか。ありがとう」
 「だって……、こんな……、こんなのは嫌です」

ふっ……。




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