スラムで生まれて育った俺は逃げ出した少女と一緒に悪人どもを成敗する~全てを手に入れた悪人どもを倒していたら最強の暗殺者になってました~

わんた

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俺はそれを受け入れる

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 朝食を食べたあとは、中古の服でも買おうかと考えていると、アーリーが話したそうに見ていることに気づく。

 律儀なことに、話しかけるタイミングを見計らっているようだ。もしかしたら、話して良いと言うまで黙って見ているつもりなのかもしれない。

「言いたいことがあるなら、遠慮なく言え。見つめられたままだと飯が不味くなる」

 いきなり声をかけられたアーリーは、ばつが悪そうな顔をしながら、口を何度かパクパクと開閉させる。

 俺に何を伝えたいのか、そのこと自体に興味はないが、アーリーの行動は、魚のようで面白い。

 黙って見ていることにした。

「あの……私を助けてくださったときに使った回復ポーションですが、働いてお金を返します。だから、見捨てないでください」

 子供なんていつも腹を空かせているもんだから、もっと食べたいというのかと思っていたが、どうやら違っていたようだ。

 神聖魔法を使えることは伝えていないので、回復ポーションを使ったと勘違いしているのは、まぁ、わかる。訂正する気はないので、そのままだ。

 暗殺業もそうだが、巻き込まれることを考えると、伝えるべきではない。

 全てはアーリーが賭けに勝って手に入れたものなので、何一つ返す必要はない。さらに教会に無期限で住めるので、俺が死なない限り見捨てることもない。飯代くらいはサービスしておいてやる。

 だから、彼女が不安に感じていることは、まったくもって杞憂なのだが……一人の生活が長すぎて、なんと声をかければいいかわからない。子供の扱い方なんてしらんぞ。

 仕方がない。事実をそのまま伝えよう。

「お前は俺との勝負、コイントスに勝った。それは賭け事が好きな女神が、教会にいてよいと認めたことになる。見捨てるはずがないだろ。そんなことをしたら天罰が下る」

 比喩でもなく、神との誓いを破ったら本当に天罰が下るから怖い。特に俺は神からの寵愛を受けて、神聖魔法が使えるようになっている。他よりヒドイ仕打ちが待っているに違いない。

 追い出したくても追い出せないが、正しい表現となる。余計な荷物を背負ったことにはなるが、賭けに負けた俺には、文句を言う資格はなかった。

「教会が安全だと思うのであれば、ずっと住み続ければいい。俺はそれを受け入れる。それとだ、言い忘れていたが、逃げ出した組織には、金で話をつける段取りをしているから不安にならなくていいぞ」

 無言が続き、アーリーから涙がこぼれ落ちた。

 手で押しとどめようとするが、効果はない。むしろ、勢いは強くなる。

 ポタポタと、ほほをつたって地面に落ちていき、黒く濡らしていく。

 こんな時、どうすれば良いかわからない。
 やはり子供は苦手だ。
 ただ、見ていることしか出来なかった。

「組織のことまで……ぐすっ……ありがとう……ございます」
「俺が懇意にしている組織——笑うシルクハットは、北地区全体の元締めだからな。すぐに処理されると思うが、それまでは俺と一緒に行動するように」
「は……い」

 残っていた肉を一気にに口に入れると、飲み込んで、串を地面に投げ捨てる。

 アーリーの頭を乱暴に撫でてから、立ち上がった。

「ここがスラムだとはいえ、血だらけの服装はマズイ。新しいのを買いに行くぞ」

 まだ目をこすってグズグズしていたので、手を取って立ち上がらせる。そのまま一緒に古着屋へ歩き出したのだった。
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