ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナーが推しと付き合うまで

わんた

文字の大きさ
6 / 43

第6話 舞衣:耐久、推しの声

しおりを挟む
 推しのラジオ配信が始まったので、すぐに友達と別れて聞きながら帰路についている。

 変わらず聖夜、ううん。優希くんの声は私の脳を溶かしてくれる。理性、常識、思考、そういった余計なものを奪い去って本能だけで楽しめるのは、あの魔法の声があるから。

 他の人じゃ絶対に経験できないことを、優希くんはすんなりとやってしまう。やりすぎてしまう。

 配信で声を聞く分にはまだ耐えられるけど、近くで話をされたら耐えられない。この前は気絶しちゃうぐらいの快感物質がドバドバと出てしまって、まともに会話ができなかった。

 早く誤解を解かなければいけないのに。

 焦燥感を覚えながらも私の指は勝手に動いてコメントを書き込んでいく。久々にイヤホンから伝わる声をきけて感情が高まり、いつもの下ネタを三行も書いてしまった。後は送信するだけ。

「悩み事があって楽しく話せないから、解決するまでは難しいかも」

 指が止まった。

 推しの聖夜――優希くんが悩んでいる?

 言葉の意味を理解した瞬間、胸がバクバクと激しく鼓動して呼吸が浅くなる。

 きっと私のことだ。私のせいだ。心当たりなんて沢山ある。

 書きためた下ネタをすべて削除すると質問を書き込む。

 反応はすぐにあった。

「詳しくは言えないけど、これから一緒に住む人に少し嫌われているかもしれないんだ」

 勘違いでも、考えすぎでもなかった。やっぱり優希くんのリアルボイスに耐えられない私が原因で、推しを悩ませてしまっている。万死に値する行為だ。本当なら土下座して全力で謝罪してから二度と関わらないようにするべき何だろうけど、それだけはどうしてもできない。

 一緒に住めるチャンスを逃してしまうぐらいなら死んだ方がマシだよ。

 私との関係を諦めて欲しくなくて必死にコメントを書き込み、最後はチャットのID交換をする約束まで取り付けた。よかった。まだ希望は残っている。

 安心したら力が抜けてしまって、スマホを持つ手をだらりと降ろしながら一人で歩く。

 いつもは楽しいことを考えながら景色を楽しんでいるんだけど、今日はそれどころじゃない。優希くんが話しかけてきたときに、どうすれば好感度を上げられるかアイデアを出さないと。

 問題は近くで聞くと脳から変な物質が出てしまう声、なんだよね。

 耐えられるようになれば後は自慢のコミュニケーション能力でなんとかできる……はず。でも強力な快感を覚えてしまうほどの声って、耐えられるものなのかな? 普通に考えてもムリなんだけど。どうやってママは……はっ!?

 そうだ。
 私が特定の声に弱いのは遺伝だったっ!

 娘の私が言うのも少し変だけど、ママは重度の声オタクだ。血のつながった私の父と結婚したのも声が目当てだった。

 でも私が十歳ぐらいの時に酒の飲み過ぎで声が変わってしまい、そこから急速に冷めて離婚。ものすごい資産家だったから、別れるときに住んでいる大きな家と大金を手に入れたみたい。

 その後はしばらく独身生活を楽しんでいたけど、優希くんのお父さんと出会ってまた変わってしまう。声を聞かないと生きていけないと猛アピールして口説き落とし、冷静になる時間を与えずに再婚を決めたと自慢げに語っていた。

 相手がシングルファザーだったから良かったけど、結婚したままだったらハニートラップを仕掛けて離婚させていたと思う。それほど強い執着を持っているというのは、私にだけわかる。確信している。

 幸いなことに私とママは声の好みが地味に違うみたいで、優希くんが話しても大した反応はない。あと数十年経って声に渋みが出てきたらわからないけど、今はまだ声オタクの先輩として頼れる。

 推しを口説き落として結婚までした先輩であり、親であるママなら対策を知っているかも!

 天才的なひらめきだ。

 耳で妊娠する声を聞いた私の頭は冴え渡っている!

 すぐにチャットを立ち上げてママに相談すると、妙案があると言われた。

 早く答えが知りたくて住宅街を走って家に入る。ママは玄関で待っていてくれた。

「私は何をすれば良いの!?」

 一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに怪しい笑みに変わった。

「秘密兵器を貸してあげる。私の部屋に行きましょう」

 玄関からリビングに入ると、エレベーターに乗って3階に移動する。

 昔は夫婦で使っていた大きな主寝室のドアが開いていた。中を覗くとママが高そうなヘッドホンを持って笑っていた。

「こっちにおいで」
「う、うん」

 嫌な予感はしたけど、優希くんと一緒に住むためだと気合を入れて主寝室に入る。

 キングサイイズはある大きなベッドの上で横になった。

「目を閉じてね」

 言われた通りにするとヘッドホンをつけられた。波の音が聞こえる。

 これから優希くんの声が流れるのかななんて思っていたら、手や足首に冷たい感触がした。思わず目を開けてみると手錠がつけられていてベッドにつなげられている。

 引っ張ってみても途中で引っかかってしまい、立ち上がれない。

「ママ?」

 私が発した疑問の声は無視された。

 ふんふん、と機嫌よさそうに鼻歌を口ずさみながらデスクに座ってパソコンを操作している。何度かクリックをして再生する音源を決めると、波の音が優希くんの声に変わった。

「結婚しよう」
「っっんん!?」

 突然、甘い声で求婚されてしまい変な声が出ちゃった。

 性能の良いマイクで録音したのか、耳元でささやかれているような感覚があって、脳が一瞬にして蕩けてしまう。

「いいねぇ。思った通りの反応。さすが私の娘」

 私をいじめて楽しむなんて性格が悪い! 辰巳さんに言いつけてーーっん!

 また優希くんの声が流れた。今度は吐息まじりに愛を伝えてくれる。

 寝る前に妄想していたシチュエーションがヘッドホンからとめどなく流れてきて、脳からは私をバカにする何かがドバドバと出ている。理性は崩壊して何も考えられない。

「私もしゅきぃぃぃ……」
「俺もだよ。一緒になろう」

 偶然にも私の声と優希くんの反応があった。

 うん! そうする! 声帯の中に住むね!

 襲いに行こうと立ちあがろうとして失敗、バランスを崩して倒れてしまう。

 そうだ。手錠で繋がっていたんだ。

「まだまだこれからだよ。舞衣は耐えられるかな?」

 さらにいろんなボイスがヘッドホンから流れ、耳を犯していく。

 愛を囁くだけじゃなく、ちょっとした暴言まで吐かれ、クズっぽい性格もいいなって思ってしまった。あの声ならなんでも許せる。

 お金だっていっぱいあげるから、ずっと声を聞かせて!

 手足を動かしてなんとか拘束から解放されようとするけど、手錠は引きちぎれない。私の脳を溶かす声が下半身を熱くしていく。

 溜まりに溜まった欲望を吐き出したい。早く、早く!

「あー、そろそろ限界が来たね」

 優希くんの声が一気に大きくなった。頭から体、四肢の末端にかけて電撃が流れる。足の指をピンと伸ばして全身に力が入って、しばらくすると、ふと脱力してしまう。

 全身から大量の汗が流れ出ていて運動した後みたいな息切れをしている。力が入らないから唇から涎が流れ落ち、拘束されているから拭くことすら出来ない。

 私はママに何をされてしまったのだろう。

 これで優希くんと普通に話せるようになるのかな?

 曖昧になっていく意識の中、今回の訓練に意味があるのか疑問ばかり浮かんでいる。

「これほどキツい声を浴び続ければ、少しは持つようになるでしょ。冷静に話せるようになったら、性格の方もちゃんと見定めるのよ」

 彼が素敵なのは配信で知っているから心配しないで。

 私を騙すような悪い人じゃないから。それに推しと付き合うなんて考えただけでも恐ろしいことだから、友達兼義兄としての関係で終わるよ。

 だから余計なことは絶対にしないでね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...