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第9話 未来に向けた変化
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IDの交換が終わったのでスマホをしまおうとしたら、通知音がなった。舞衣さんのアイコンに未読の数字が表示されている。目の前にいるのにテキストを送ったみたいだ。
気になって開いてみると、『テキストで少し話したいです』と丁寧な言葉でお願いされていた。チャットだと口調がかわるんだ。
声を出すのもしんどいぐらい体調が悪いのだろうから、断ることはしない。
『もちろん』
『よかったです』
返事するとすぐに追加のテキストが来る。指の動きがすごく早い。チャット慣れしている。キーボードなら負けない自信があるけど、スマホの操作は舞衣さんの勝ちだな。
『誕生日教えてもらえませんか?』
『11月18日だよ』
『私は11月20日だから優希くんは義兄さんになるんですね。学校じゃ恥ずかしくてい言えないけど、家とかならそう呼びますね』
脳に電撃が走った。
思わず舞衣さんの顔を凝視するほどの衝撃。俺は家族の一員なりたいと思うだけで、兄妹という関係に変わることを忘れていたのだ。
これからずっと義兄さんと呼ばれるのだろうか。
少し恥ずかしくてくすぐったい気持ちになるけど、同時に何かが満たされるような感覚もある。
『呼び方、嫌でした?』
『そんなことないよ!』
『よかったです』
すぐに返事しなかったから不安になったのかな。可愛い女の子に義兄さんと呼ばれて嫌がる男なんていないのに!
『それとこの前の食事会で変なことを言ってごめんなさい。義兄さんのことが嫌いってわけじゃなく、ただ急に近づかれて驚いただけで…………』
顔合わせでレストランに行ったとき、離れてと言われて嫌われたと思っていたけど、実際は違っていた?
チャットでのやり取りがもどかしく、直接聞こうと思って舞衣さんをみると涙を目に浮かべながらじっと、俺を見ていた。
葛藤、後悔、懺悔、そういった感情が混ざり合っているような顔だ。もう一度スマホを見ると、クマがお辞儀をして謝罪しているスタンプが送られている。
ふっと気持ちが緩んだ。
悩んでいたのは俺だけじゃなく、舞衣さんも同じだったのだ。
まともに話したことなんてなく、いきなり家族になると紹介され、自分でも気づかないところでお互いに気が動転していたんだろうし、失言の一つや二つ、しても不思議じゃない。
あの時の言葉は本心じゃなかったというのであれば俺は信じる。信じたいと思ったのだ。
『俺も悪いところはあっただろうし、気にしてないから謝らなくてもいいよ』
『義兄さんは全然悪くないから!』
そんなことはないと思うけど、強く否定するほどでもない。
せっかく仲直り、というかお互いに勘違いしていた部分がなくなったのだから、波風は立てたくない。素直に受け入れようかな。
『ありがとう』
ここでチャットは止まった。他に話すことはない。
今度こそスマホをしまうと舞衣さんを再び見る。
目に溜まっていた涙は消えていて安らかな表情をしていた。きっと俺も同じだろう。
心に刺さっていた小骨が取れて、すっきりとしているのだろうか。今なら前向きな気持ちで配信ができそうだ。
メメさんがID交換をお勧めしてくれなければ、俺は舞衣さんと距離をとって関わらないようにしていたと思うし、関係の修復はかなりの時間を要したはず。少なくともこんな順調に進むことはなかっただろうから、後でお礼を言っておかないと。
これから多少過激な変態コメントをされても、おおめに見てあげるからね。
「父さんの様子を見てくるね」
大丈夫とは言っていたけど舞衣さんは体調が悪い。やっぱり一緒にいるであろう美紀恵さんにも話した方がいいと思って立ち上がる。
「だ、ダメ。もっと……」
急に腕を引っ張られてバランスを崩してしまった。
ベッドに倒れ込んでしまう。
寝ている舞衣さんに覆い被さるようなことはなかったけど、密着するような感じで隣にいる。顔が近い。薄くも瑞々しい唇が目の前にあって、気を抜いたら吸い込まれてしまいそうだ。って、なんか近づいてない!?
舞衣さんの目がゆっくりと閉じかけ……。
「おーい。飯食べに行くぞー!」
父さんの声がすると同時にドアが開いたので、俺たちは勢いよくベッドから降りた。
「もう、そんな時間ですか」
体調が悪いはずの舞衣さんは、しっかりとした足取りで行ってしまう。
残された俺は左胸に手を当ててみる。心臓は人生で一番早く鼓動していた。それこそ、先ほどチャットをやり取りしていた時以上だ。
友達のいない学校、二人だけの家族、少数の常連に囲まれた配信。
俺の人生は代わり映えなく、良く言えば安定していた。
今でもそれが心地よいと思っているし、悪い選択ではなかったと思う。
だけど俺の人生は、嵐のようにやってきた舞衣さんによって大きく変化してしまった。どうなるか予想がつかない。
学校はクラスが違うから話す機会はないだろうけど、家では舞衣さんをはじめとして、美紀恵さんとも交流は増えるだろう。
安定した生活を続けていた俺にとって大きな変化だ。
それが良いのか悪いのかは判断できないけど、嫌な気分ではない。
ケンカやすれ違いとかいっぱい起こっても、きっと最後はみんなで笑い合えると信じているから。
気になって開いてみると、『テキストで少し話したいです』と丁寧な言葉でお願いされていた。チャットだと口調がかわるんだ。
声を出すのもしんどいぐらい体調が悪いのだろうから、断ることはしない。
『もちろん』
『よかったです』
返事するとすぐに追加のテキストが来る。指の動きがすごく早い。チャット慣れしている。キーボードなら負けない自信があるけど、スマホの操作は舞衣さんの勝ちだな。
『誕生日教えてもらえませんか?』
『11月18日だよ』
『私は11月20日だから優希くんは義兄さんになるんですね。学校じゃ恥ずかしくてい言えないけど、家とかならそう呼びますね』
脳に電撃が走った。
思わず舞衣さんの顔を凝視するほどの衝撃。俺は家族の一員なりたいと思うだけで、兄妹という関係に変わることを忘れていたのだ。
これからずっと義兄さんと呼ばれるのだろうか。
少し恥ずかしくてくすぐったい気持ちになるけど、同時に何かが満たされるような感覚もある。
『呼び方、嫌でした?』
『そんなことないよ!』
『よかったです』
すぐに返事しなかったから不安になったのかな。可愛い女の子に義兄さんと呼ばれて嫌がる男なんていないのに!
『それとこの前の食事会で変なことを言ってごめんなさい。義兄さんのことが嫌いってわけじゃなく、ただ急に近づかれて驚いただけで…………』
顔合わせでレストランに行ったとき、離れてと言われて嫌われたと思っていたけど、実際は違っていた?
チャットでのやり取りがもどかしく、直接聞こうと思って舞衣さんをみると涙を目に浮かべながらじっと、俺を見ていた。
葛藤、後悔、懺悔、そういった感情が混ざり合っているような顔だ。もう一度スマホを見ると、クマがお辞儀をして謝罪しているスタンプが送られている。
ふっと気持ちが緩んだ。
悩んでいたのは俺だけじゃなく、舞衣さんも同じだったのだ。
まともに話したことなんてなく、いきなり家族になると紹介され、自分でも気づかないところでお互いに気が動転していたんだろうし、失言の一つや二つ、しても不思議じゃない。
あの時の言葉は本心じゃなかったというのであれば俺は信じる。信じたいと思ったのだ。
『俺も悪いところはあっただろうし、気にしてないから謝らなくてもいいよ』
『義兄さんは全然悪くないから!』
そんなことはないと思うけど、強く否定するほどでもない。
せっかく仲直り、というかお互いに勘違いしていた部分がなくなったのだから、波風は立てたくない。素直に受け入れようかな。
『ありがとう』
ここでチャットは止まった。他に話すことはない。
今度こそスマホをしまうと舞衣さんを再び見る。
目に溜まっていた涙は消えていて安らかな表情をしていた。きっと俺も同じだろう。
心に刺さっていた小骨が取れて、すっきりとしているのだろうか。今なら前向きな気持ちで配信ができそうだ。
メメさんがID交換をお勧めしてくれなければ、俺は舞衣さんと距離をとって関わらないようにしていたと思うし、関係の修復はかなりの時間を要したはず。少なくともこんな順調に進むことはなかっただろうから、後でお礼を言っておかないと。
これから多少過激な変態コメントをされても、おおめに見てあげるからね。
「父さんの様子を見てくるね」
大丈夫とは言っていたけど舞衣さんは体調が悪い。やっぱり一緒にいるであろう美紀恵さんにも話した方がいいと思って立ち上がる。
「だ、ダメ。もっと……」
急に腕を引っ張られてバランスを崩してしまった。
ベッドに倒れ込んでしまう。
寝ている舞衣さんに覆い被さるようなことはなかったけど、密着するような感じで隣にいる。顔が近い。薄くも瑞々しい唇が目の前にあって、気を抜いたら吸い込まれてしまいそうだ。って、なんか近づいてない!?
舞衣さんの目がゆっくりと閉じかけ……。
「おーい。飯食べに行くぞー!」
父さんの声がすると同時にドアが開いたので、俺たちは勢いよくベッドから降りた。
「もう、そんな時間ですか」
体調が悪いはずの舞衣さんは、しっかりとした足取りで行ってしまう。
残された俺は左胸に手を当ててみる。心臓は人生で一番早く鼓動していた。それこそ、先ほどチャットをやり取りしていた時以上だ。
友達のいない学校、二人だけの家族、少数の常連に囲まれた配信。
俺の人生は代わり映えなく、良く言えば安定していた。
今でもそれが心地よいと思っているし、悪い選択ではなかったと思う。
だけど俺の人生は、嵐のようにやってきた舞衣さんによって大きく変化してしまった。どうなるか予想がつかない。
学校はクラスが違うから話す機会はないだろうけど、家では舞衣さんをはじめとして、美紀恵さんとも交流は増えるだろう。
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