借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた

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第16話 助けて!師匠!

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 個人活動している錬金術師で、素材の保管施設を貸してくれそうな人物に心当たりがあった。

 あの人は現役を引退していて、俺のことも知っているから話は聞いてくれる。関係も良好なので、土下座でもすれば施設の一部は貸してくれるはずだ。

 問題があるとしたら、住んでいる場所が渋谷じゃないことかな。

「素材保管施設を貸してくれるかもしれない錬金術師に連絡してみる。ダメなら、ネットで探して声をかけてみよう」

 スマホを取り出すと、記憶していた電話番号を入力していく。

 今回の相手はチャットアプリに連絡先を入れていないため、ユミも知らない相手だ。

 通話ボタンを押すとしばらくして相手が出た。

「裕真か。連絡なんて珍しいね」

 声に鋭い響きがある。年老いてもなお芯の通った音色で、背筋が伸びる気持ちと同時に懐かしさを覚えた。

「ばーちゃん元気だった?」
「変わりないよ。医者も驚くぐらい元気さ」

 俺の両親は死んでいて親戚もいないが、錬金術師の師匠は生きている。それがばーちゃんと呼んでいる、多恵たえさんだ。

 中学を卒業してから弟子入りをして成人するまでお世話になっていたので、俺としては祖母に近しい親愛の気持ちを持っている。

 ばーちゃんは俺のことを愛弟子といってくれるから、きっと同じ気持ちだろう。

「ちょっと相談したいことがあるんだけど、会いに行っても良いかな?」
「こっちは引退して暇なんだ。いつでもおいで」
「今日でもいい?」
「ああ、大丈夫だ。菓子折りを忘れるんじゃないよ」

 最後に要望を言って、ばーちゃんは通話を切ってしまった。

 スマホをぽいっと投げると着替えを始める。

 ユミがじーっと、俺を見ていた。

「先ほど通話した相手は誰ですか?」

 問い詰めるような雰囲気だ。

 知らない人と会話していたから、仲間外れにされたと思ってすねているのかな。

「師匠だよ」
「マスターのですか!?」
「うん。言ったことなかったっけ」
「初めて聞きました……」

 教えてなかったか。そういえば、ばーちゃんもユミのことを知らない。

 人工精霊は作るの大変だったんだし、弟子の成長を教えるために紹介がてら自慢しよう。

 俺は、なんて師匠思いなんだろう。

「これから会いに行く。ユミもついてきてくれるよね?」
「もちろんです! おめかししないと!」

 素のままでも十分美しいのだが、ユミは洗面台に行って化粧を始めた。

 眉毛を少し切って整え、よく分からない物を顔に塗っている。これがメイクってやつか。

「ばーちゃんに会うだけなんだから、そこまでしなくていいのに」
「マスターの偉大なる師匠に会うんですよ! 何を言っているんですか!」

 よく分からないけど怒られてしまった。

 ユミの中だと、ばーちゃんの存在はかなり大きいらしい。

 俺にとって大切な人だから悪い気はしないけど、今まで見たことがないほど気合いを入れているみたいで、鬼気迫るって感じだ。少し怖い。

 鬼の形相で鏡を見ているユミを見なかったことにして、着替えを終えると外を見る。

 天気は晴れだ。

 今日も暑そうだなー。

「マスター、終わりました。行きましょう」

 声をかけられたので振り返ると、いつもの3割増しで可愛いユミが立っていた。

 ロングスカートと半袖のシャツを着ている。清楚な感じだ。

 10歳の少女が少し背伸びをした感じがして、そこが可愛い。

「うん。行こうか」

 家を出ると渋谷でチョコケーキを買って、電車に乗る。

 目的地は東京なんだけど23区外で、埼玉県に隣接している場所だ。

 電車を乗り継いで駅に着くとバスに乗る。ユミは窓から外の景色を見て楽しんでいるようだ。たまに遠出するのも悪くないな。

 バスでの移動時間は20分ぐらいだった。降りてから歩いていると、廃校になった小学校や寂れた商店街が見えてくる。

 歩いている人は少なく、車の行き来は多い。
 東京なのに田舎っぽい風景だ。

 そんな中、大きい日本家屋が見えてきた。白い塀に囲まれていて、今時珍しい瓦屋根だ。庭は広く砂利が敷かれていて、苔や植物、池なんかがある。それぞれ正式名称はあるんだろうけど、俺は知らないのでよく分からなかった。

 無断で庭へ侵入すると、石で作られた道を進んで行く。途中に灯籠が見えた。いつも思うんだけど、地震が起きたら倒れそうだよね。

「マスター、勝手に入って大丈夫なんですか?」
「うん。ばーちゃんは気にしないよ」

 失礼なことをしていないか気にしているユミの頭を撫でて、玄関の前まで進んだ。

 インターホンを鳴らして待っていると、格子状の引き戸が開いた。

 小さいけど背筋はピンと伸びた女性が立っている。顔には年を感じさせる深い皺が刻まれているけど、目は昔から変わらず鋭い。

 俺を見ると、ニカッと笑ってくれた。

「愛弟子よ。よく来たね」
「三年ぶりかな? お土産持ってきたよ」

 ばーちゃんがチョコケーキの箱を受け取ったので、一歩横に移動してユミの姿を見せる。

「この娘は誰だい?」
「俺が作った人工精霊のユミだよ。で、抱きかかえているのはミスリル水銀で作ったゴーレムのミスラム」
「初めまして。マスターの偉大なる師匠、多恵様」

 ユミがおじぎをすると、ミスラムもなんとなく頭を下げたような気がした。

「人工精霊とミスリル水銀ゴーレムねぇ……いつ作ったんだい?」

 僅かだけど眉を上げて、一瞬だけ驚いた顔をしていた。

 自慢は成功だ。弟子の成長を喜んでくれていることだろう。

「ユミは去年で、ミスラムは数日前だよ」
「ふむ」

 考え事を始めてしまった。

 一緒に住んでいたときも、たまにこういう仕草をしていたので俺は気にならないけど、初対面のユミは別のようだ。顔色が悪くなっている。

「私のような者が挨拶をしてしまい申し訳ございません! すぐに立ち去ります」
「待った!」

 背を向けようとしたユミの肩に、ばーちゃんの手が置かれた。

「わしは、ユミとミスラムを歓迎しよう。中に入りな」

 ばーちゃんは家の中に入って廊下の奥へ進んでしまった。

「認められたみたいだ。お化粧のおかげかな? 良かったね」
「はい」

 返事をしたけどユミは動こうとしない。まだ不安なのかな。マスターとして一肌脱ごう。

 抱えているミスラムを廊下に投げると、ユミの手を握った。

「マスター?」
「これなら安心でしょ」
「……はい!」

 やっぱりユミは笑顔が似合う。

 俺は満足だよ。

 土間で靴を脱いでから家に上がって、ばーちゃんの後をついていくと、畳の客間に入って座布団に座る。

 ようやく、お願いについて話せそうだ。
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