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メーデゥにも見せてやりたい
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外壁をくぐり抜けてバックス港町に入った。
港があるので海が近く潮の香りがする。歩いている人々の表情は明るく身なりも良い。景気が良く領主が圧政を敷いてないこと一目でわかる。
門から続く大通りを進んでいく。
「まずは商業ギルドに寄ります」
偽装のためとはいえ小麦を運んでいるのだ。捨てるなんてもったいない。少しでも利益を確保するため、ギルドに売却する予定だ。
同行している足を折った男も、そこでお別れである。
町中に入れば野盗に襲われる心配はないため、ハラディンは荷台に飛び乗って座る。
「無事に町の中へ入った。思っていたよりも人が多い」
外の様子が分からないメーデゥに状況を伝えるため、目に入った光景を小声で伝え始めた。
「活気があって良い町だと言えるだろう。港があるから情報が集まりやすい。魔物付きの村について調べるには適した場所だ」
言葉が途切れると、床からコンコンと音がした。
声を出す代わりに叩いて返事したのだ。
無視して良いのに律儀である。ハラディンは少女のことを気に入り始めてしまった。
「旅人の数も多い。日差しが強いからフードをかぶっているヤツもいるし、変装して町中でも散歩してみるか? 興味あるなら一回だけ音を出してくれ」
思ってもみなかった提案にメーデゥは戸惑っていた。
外を歩き回るのはリスクが高い割にリターンが少ない。
もし正体がばれてしまえば迷惑をかけてしまう。存在そのものが罪ともいえる魔物付きと一緒にいるのだから、ハラディンだって迫害の対処となるのだ。
ただでやられるような男ではなく、尋常じゃない強さがあることは知っているが、野盗崩れの傭兵と訓練された兵では強さは違う。この前みたいに上手くいくとは思えなかった。
二回ノックして断ると思ったメーデゥは、寝転がりながら拳に力を入れる。
「海が見えてきたな。島国生まれだからか落ち着く。メーデゥにも見せてやりたい」
コン、と一回だけ床が叩かれた。
ハラディンの生まれ故郷に興味を持ち一緒に海というのを見たくなってしまい、提案を受け入れてしまったのだ。
本来なら傭兵団から好事家に売られて死んでいた身だ。もし存在がバレたときは迷惑をかけるまえに自害しよう。そうすればリスクなんて存在しない。
なとも歪んだ考え方ではあるが、メーデゥはそうやって自分に言い訳をして、欲望に流されていく。
「よし、宿が決まったらすぐに観光するぞ」
床が一度だけノックされる。
「海は見たことあるか?」
二回のノック。
「そうか。なら、俺が見せてやる。海だけじゃない。いろんな場所に連れて行って、美味いものをいっぱい食べるんだ。死ぬまでに思い出を作りまくるぞ」
控えめなノックが一回。
興味と不安が混ざって躊躇いがちだった。
心境の変化を感じとったハラディンは、ふぅとため息を吐いた。
「絶対に安全、守ってやるとは言えないが、何かあっても先には死なせない。それだけは約束する」
他者の命を背負いたくないから一人で旅していたのだ。先ほどのような発言なんてする予定はなかったのだが、なぜか口に出てしまった。
「ありがとう」
消えてしまえそうな声でつぶやかれた言葉は、長く停滞していたハラディンの時間が動き出す前兆であった。
* * *
ギルドで小麦を積み下ろし、足を折った男と別れると、商人が行きつけだと紹介した宿へきた。
荷台を倉庫に入れると床をこじ開ける。眠そうな目をしていたメーデゥの姿があった。体を丸めていて出会った時と同じように見えるが、表情は大きく違う。
ハラディンの姿を見るとパッと笑顔に変わり、跳んで抱きつく。
生まれてから一度も甘えたことがないため、彼女は未知の感情を抑える方法を知らない。
尻尾を大きく振っているため外套から出てしまっていた。
他人がいたら大騒ぎになっていただろうが、この場にはハラディンと商人しかいないので問題にはなからなかった。
「いやはや、ハラディン様は好かれてますねぇ」
言いながら数歩後ろに下がった。自分には飛びつくな、触れたくないという感情が発露した結果である。
たとえ脅されてもハラディン以外に触れようとは思わないメーデゥは、そのような商人の姿を見ても傷つくことはない。ただ単に同行しているが、本質的には敵だと認識しているのである。
「ここだと誰が来るかわからない。部屋まで大人しくするんだ」
「やだ」
拒否すると頬を顔に擦り付ける。マーキングしているのだが本人には自覚がない。
やりたくなったからやる。それ以上の言葉が思いつかない。
「従わないと観光ができなくなるぞ。それでもいいのか?」
「……やだ」
「だったら離れろ」
「うん」
しょんぼりとしながら、ハラディンから離れてると地面に立つ。
落ち込み気味であるため尻尾は外套の内側で力なく垂れている。耳もぺたんとなっていて、じっくりと観察しなければ魔物付きには見えない。現時点でできる変装としては完璧だった。
「行くぞ」
頭を軽く叩いて元気を出せと伝えてから、ハラディンが歩き出す。メーデゥも続くと商人とともに宿の中に入っていった。
港があるので海が近く潮の香りがする。歩いている人々の表情は明るく身なりも良い。景気が良く領主が圧政を敷いてないこと一目でわかる。
門から続く大通りを進んでいく。
「まずは商業ギルドに寄ります」
偽装のためとはいえ小麦を運んでいるのだ。捨てるなんてもったいない。少しでも利益を確保するため、ギルドに売却する予定だ。
同行している足を折った男も、そこでお別れである。
町中に入れば野盗に襲われる心配はないため、ハラディンは荷台に飛び乗って座る。
「無事に町の中へ入った。思っていたよりも人が多い」
外の様子が分からないメーデゥに状況を伝えるため、目に入った光景を小声で伝え始めた。
「活気があって良い町だと言えるだろう。港があるから情報が集まりやすい。魔物付きの村について調べるには適した場所だ」
言葉が途切れると、床からコンコンと音がした。
声を出す代わりに叩いて返事したのだ。
無視して良いのに律儀である。ハラディンは少女のことを気に入り始めてしまった。
「旅人の数も多い。日差しが強いからフードをかぶっているヤツもいるし、変装して町中でも散歩してみるか? 興味あるなら一回だけ音を出してくれ」
思ってもみなかった提案にメーデゥは戸惑っていた。
外を歩き回るのはリスクが高い割にリターンが少ない。
もし正体がばれてしまえば迷惑をかけてしまう。存在そのものが罪ともいえる魔物付きと一緒にいるのだから、ハラディンだって迫害の対処となるのだ。
ただでやられるような男ではなく、尋常じゃない強さがあることは知っているが、野盗崩れの傭兵と訓練された兵では強さは違う。この前みたいに上手くいくとは思えなかった。
二回ノックして断ると思ったメーデゥは、寝転がりながら拳に力を入れる。
「海が見えてきたな。島国生まれだからか落ち着く。メーデゥにも見せてやりたい」
コン、と一回だけ床が叩かれた。
ハラディンの生まれ故郷に興味を持ち一緒に海というのを見たくなってしまい、提案を受け入れてしまったのだ。
本来なら傭兵団から好事家に売られて死んでいた身だ。もし存在がバレたときは迷惑をかけるまえに自害しよう。そうすればリスクなんて存在しない。
なとも歪んだ考え方ではあるが、メーデゥはそうやって自分に言い訳をして、欲望に流されていく。
「よし、宿が決まったらすぐに観光するぞ」
床が一度だけノックされる。
「海は見たことあるか?」
二回のノック。
「そうか。なら、俺が見せてやる。海だけじゃない。いろんな場所に連れて行って、美味いものをいっぱい食べるんだ。死ぬまでに思い出を作りまくるぞ」
控えめなノックが一回。
興味と不安が混ざって躊躇いがちだった。
心境の変化を感じとったハラディンは、ふぅとため息を吐いた。
「絶対に安全、守ってやるとは言えないが、何かあっても先には死なせない。それだけは約束する」
他者の命を背負いたくないから一人で旅していたのだ。先ほどのような発言なんてする予定はなかったのだが、なぜか口に出てしまった。
「ありがとう」
消えてしまえそうな声でつぶやかれた言葉は、長く停滞していたハラディンの時間が動き出す前兆であった。
* * *
ギルドで小麦を積み下ろし、足を折った男と別れると、商人が行きつけだと紹介した宿へきた。
荷台を倉庫に入れると床をこじ開ける。眠そうな目をしていたメーデゥの姿があった。体を丸めていて出会った時と同じように見えるが、表情は大きく違う。
ハラディンの姿を見るとパッと笑顔に変わり、跳んで抱きつく。
生まれてから一度も甘えたことがないため、彼女は未知の感情を抑える方法を知らない。
尻尾を大きく振っているため外套から出てしまっていた。
他人がいたら大騒ぎになっていただろうが、この場にはハラディンと商人しかいないので問題にはなからなかった。
「いやはや、ハラディン様は好かれてますねぇ」
言いながら数歩後ろに下がった。自分には飛びつくな、触れたくないという感情が発露した結果である。
たとえ脅されてもハラディン以外に触れようとは思わないメーデゥは、そのような商人の姿を見ても傷つくことはない。ただ単に同行しているが、本質的には敵だと認識しているのである。
「ここだと誰が来るかわからない。部屋まで大人しくするんだ」
「やだ」
拒否すると頬を顔に擦り付ける。マーキングしているのだが本人には自覚がない。
やりたくなったからやる。それ以上の言葉が思いつかない。
「従わないと観光ができなくなるぞ。それでもいいのか?」
「……やだ」
「だったら離れろ」
「うん」
しょんぼりとしながら、ハラディンから離れてると地面に立つ。
落ち込み気味であるため尻尾は外套の内側で力なく垂れている。耳もぺたんとなっていて、じっくりと観察しなければ魔物付きには見えない。現時点でできる変装としては完璧だった。
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