裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

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殺しに行くのか?

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「死んでいったヤツらは自分たちの分まで生きて欲しいと言っていた。復讐はその願いに反する行動だぞ?」

「知ってる。でもさ、目的もなく生きているだけの男に言われたくないよ」

 故郷、戦友、地位、金、すべてを失ったハラディンは、仲間から託された最後の言葉に従ってただ死なないだけでいた。

 それは生きて欲しいという言葉の表面をなぞっただけで、真意とは違う。そんなことは指摘されるまでもわかっている。だがハラディンは変われなかった。

「俺のことは関係ないだろ」

「そうね。私たちはもう無関係。だからほっといて」

 子供のころは日が暮れるまで一緒に遊んでいた。背中を任せてドラゴン族との死闘も繰り広げたクレイアが、ハラディンを拒否している。事実を悲しんでいた。
 
 復讐は止めろ、誰も望んでいないと言いたいのだが、言葉にしてしまえばすぐにでも宙に浮かんでいる赤黒い槍が飛んでくるだろう。

 引き留めることは言わず、ハラディンは気になることだけを確認する。
 
「…………殺しに行くのか?」

 誰とは言わずとも二人とも分かっている。

 ドラゴン族と戦っているハラディンたちを見捨てて、大陸へ逃げた亡国の貴族や豪商、騎士たちだ。彼らは贅沢な暮らしをする代わりに外敵から守る義務を持っていたのだが、自分たちの命ほしさに国民を見捨てたのである。

 残されたのは無力な平民と騎士の代わりに残された民兵のみ。

 あのときを思い出すだけで、クレイアは腸が煮えくりかえるような気持ちになる。

「赤黒くなった魂に誓って、死んだ仲間の代わりに子孫もろとも殺してやる。長い時間をかけて計画したんだ。止めようとするならハラディンであっても容赦しない」

「気に入らないのは俺も同じだ。好きにすれば良いさ」

 体から力をぬたハラディンは歩き出すと、クレイアの前に立つ。

「俺は今でも戦友だと思っている。死ぬなよ」

 返事は聞くことなく肩を叩いて去って行く。

 数年ぶりの再会は、ほんの数分で終わってしまった。

* * *

 翌朝、ハラディン目覚めると下着姿のメーデゥに抱きつかれていた。なぜか裸のまま上下逆さまになっていて、足が顔に当たっている。尻尾が脇の下にあたってくすぐったい。

「おい、離れろ」

 押しのけようとするが足を掴まれてしまって動かない。必死に抵抗されてしまっている。

 叩いて起こそうとして腕を振り上げたが、寝顔が視界に入って止まる。相手は推定十歳ちょっとの少女だ。魔物付きとして人間以上の身体能力を持っているが子供なのだ。

 さすがに暴力はよくいないだろうと思いとどまる。

 諦めてなすがままにされているとドアがノックされた。

「ハラディン様、一緒に朝食を食べませんか」

 声の主はペイジである。
 朝から一仕事を終えて誘いに来たのだ。

 返事をしようと口を開いたらタイミング悪くメーデゥの足が入ってしまう。もごもごと言ってしまい言葉にならなかった。慌てて口から出すと咳き込んでしまう。

「ハラディン様?」

 すぐに返事がないのはおかしい。宿の従業員に魔物付きの存在がバレれてしまったのであれば、一秒でも早く口を封じなければならない。

 悪いと思いつつもペイジはドアを開く。
 
 ベッドの上でからみあっている男女の姿があった。

 なるほど。魔物付きを連れていたのは、そういう特殊な性癖だったのか。

 共感はできないが、魔物と戦いすぎて新しい扉を開いてしまったのかもしれない。そう納得できたのである。

「私は先に食事をしておりますので、ごゆっくりと……」

「おい! まて!」
 
 誤解されたままドアが閉められた。

 ハラディンは腕を伸ばしたまま固まってしまう。

 早く事情を説明しなければと焦っているが、メーデゥは起きる気配がない。抱きついたままだ。

「起きてくれ!」

 声で起きないのであれば他の方法をとるしかない。
 脇をくすぐっている尻尾を掴むと軽く噛む。

「ひゃいっ!?」

 彼女にとって尻尾は敏感な部分だったようで、今まで聞いたことがない声を出しながら飛び起きた。目をキョロキョロと動かして周囲を確認してから、誰もいないと安心して下を見る。

「……」

 ハラディンと目が合った。全身を見られている。

 今まで裸をさらしても恥ずかしいと感じたことはなかったメーデゥだが、なぜか彼の前では違う。顔が真っ赤になって気持ちがかき乱されるのだ。

 精神が未成熟な少女に、今の感情は言葉にはできない。

 理由が不明なまま座り込んでしまう。

「みないで……」

 何もしていないどころか被害者でもあるハラディンだったが、強い罪悪感を覚えてしまう。

 誤解を解くのは後回しにして、ベッドからおりると床に散らばっている服をベッドの上へ投げる。

「部屋の外でまってるから着替えるんだ。一人で出来るよな?」

「うん」

 犬耳をぺたんとさせたまま弱々しく返事をした。

 今まで一人で生きてきたのだ。任せても大丈夫だろう。そうやって自己完結したハラディンは部屋から出てドアを閉める。腕を組みながら壁により掛かった。

 先に食堂へ行かないのは人前へ出る前に変装をチェックしたいからである。

 ペイジが余計なことをしゃべってないことを祈りつつ、少女が出てくるのを待っていた。
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