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お待たせしましたーー!
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ひな鳥のように食べさせてもらっているメーデゥは、結局二人分のステーキを腹に収めてしまった。
体に混ざった魔物の血がもっと肉をよこせと訴えてきて、少女に似つかわしくないほどの食欲を見せたのである。
「お腹減った」
「まだ食べたいのかよ。子供の食欲は恐ろしいな……」
魔物付きだから食欲が旺盛なだけだ。普通は少女が大人二人分のステーキなんて食べないのだが、突っ込みが不在であるためハラディンは勘違いしたままである。
また給仕にステーキを追加注文すると、水で薄めたワインを飲みながら待つ。
店内は変わらず騒がしい。
「銀貨10枚で二階に行こうぜ~」
給仕の尻をもみながら隣の男が交渉をし出した。
興味を持ったメーデゥが見ようとしたので、ハラディンは急いで頭を抑えると窓の方に顔を向ける。
「どうしたの?」
「ああいったのを覚えるのはまだ早い。外の景色を眺めるぞ」
ついでにメーデゥの耳も押さえて聞こえないようにする。
子供を連れてくるような店じゃなかったと後悔しながら行き交う人々を見ていると、一瞬ではあるが間違いなく、ハラディンの知り合いだった姿が見えた。
鮮血のように長く真っ赤な髪を忘れるはずがない。
故郷の島でドラゴン族と一緒に戦った女性である。他の仲間と一緒に大陸へ来た後は別行動をしていたため、もう会うことはないと思っていなかった。
この町のに滞在している理由が気になる。
一人だったら間違いなく追いかけていただろうが、メーデゥを置いていくわけにはいかないため、席は立てない。このときばかりは連れがいることを後悔してしまった。
「お待たせしましたーー!」
店員がステーキの乗った皿をテーブルに置いた。
メーデゥが顔を上げて食べさせてと目で訴えてくる。
「フォークとナイフの使い方は学んだだろ? 自分で食べてみたらどうだ」
「ダメ、なの?」
戦い方を教えるときは自ら行動する少女が、食事の時だけ甘えてくる。
このギャップにやられてしまったハラディンは断れない。おねだりされた時点で拒否する選択はなかったのである。
「別に構わん。腹が満たされるまで食べさせ続けてやる」
返事なんてせずにあーんと口を開いて待つ。
心を許している証拠だ。
出会ったときの不安なんて一切ない。生まれて初めて感じる多幸感に包まれつつ、ステーキを五皿まで食べきってしまった。
* * *
町を観光した日の夜。
疲れと満腹感によってメーデゥは早々に寝てしまった。
商人のペイジは別室で一人晩酌をしている。禁制品をすべて売りさばいて、ハラディンに特別ボーナスを渡すほど機嫌は良い。アルコールによって前後に頭を動かしてしまうほど酔っていた。
そんな二人に気づかれないよう、ハラディンは足音を立てずに宿を出て行く。
持っているのは刀だけ。外套すらまとわず夜道を歩く。剣呑な雰囲気をまとっているので辻斬りに見えるはずだ。
日が落ちていて気温は低い。凍えるほどではないが肌寒さは感じる。
懐かしい顔を探しながら港に着いた。不昼は賑やかだったが今は人の気配が少ない。倉庫の間にできている細い通路に数名いるぐらいだ。
彼らはよそ者のハラディンを見ているが、近づいてくることはない。垂れ流している霊力に圧倒されているのだ。
近づけば殺される。
理屈ではなく直感が教えてくれるため、余計なトラブルは回避できていた。
一人の例外を除けば。
「相変わらず気配を消すのが下手だな。店にいたときからハラディンがいるってわかったぞ」
「お前だって人のことは言えないだろ。派手な髪色をしているから、すぐにわかった」
振り返ったハラディンは話しかけてきた女性をまっすぐ見る。
暗闇の中でも光っているように見える赤い髪をしたクレイアが立っていた。
ハラディンとは生まれた村が同じで一緒に育っていた関係だ。さらにドラゴン族から故郷を守るため民兵に志願して、三番隊の隊長として活躍した戦友である。
他の部隊の生き残りと一緒に大陸まで逃げ延び、そこで二人は別れて別行動をしていた。
「三年ぶりか?」
「二年だよ。時間にルーズなところは変わってないようだね」
「……クレイアは少し変わったみたいだな」
静かに体から放たれている霊力から、ハラディンは敏感に変化を感じ取っていた。
「当然だよ。私たちを見捨てて大陸にまで逃げた貴族を殺し回っていれば、魂の色も変わるさ」
別れるまでは黄金のように輝く色をした霊力だったが、今は赤黒く変色している。この二年でどれほどの血を浴びてきたのかハラディンは想像がつかない。
荒んだような目つきもしていて、何かに取り憑かれているのではないかと錯覚してしまう。
「復讐か……」
「何か言いたそうだね」
クレイアの体から強い霊力が放たれて、空中に赤黒い槍がいくつも出現した。
これは霊力を一時的に物質化させる霊技である。
彼女はこの技を使ってドラゴン族を次々と打ち倒し、隊長にまでのぼり詰めた女傑だ。森の中で殺した護衛の男とは比べものにならないほどの実力を持っている。
そんな相手が、恨みがたっぷりとこもった目でハラディンを見ていた。
体に混ざった魔物の血がもっと肉をよこせと訴えてきて、少女に似つかわしくないほどの食欲を見せたのである。
「お腹減った」
「まだ食べたいのかよ。子供の食欲は恐ろしいな……」
魔物付きだから食欲が旺盛なだけだ。普通は少女が大人二人分のステーキなんて食べないのだが、突っ込みが不在であるためハラディンは勘違いしたままである。
また給仕にステーキを追加注文すると、水で薄めたワインを飲みながら待つ。
店内は変わらず騒がしい。
「銀貨10枚で二階に行こうぜ~」
給仕の尻をもみながら隣の男が交渉をし出した。
興味を持ったメーデゥが見ようとしたので、ハラディンは急いで頭を抑えると窓の方に顔を向ける。
「どうしたの?」
「ああいったのを覚えるのはまだ早い。外の景色を眺めるぞ」
ついでにメーデゥの耳も押さえて聞こえないようにする。
子供を連れてくるような店じゃなかったと後悔しながら行き交う人々を見ていると、一瞬ではあるが間違いなく、ハラディンの知り合いだった姿が見えた。
鮮血のように長く真っ赤な髪を忘れるはずがない。
故郷の島でドラゴン族と一緒に戦った女性である。他の仲間と一緒に大陸へ来た後は別行動をしていたため、もう会うことはないと思っていなかった。
この町のに滞在している理由が気になる。
一人だったら間違いなく追いかけていただろうが、メーデゥを置いていくわけにはいかないため、席は立てない。このときばかりは連れがいることを後悔してしまった。
「お待たせしましたーー!」
店員がステーキの乗った皿をテーブルに置いた。
メーデゥが顔を上げて食べさせてと目で訴えてくる。
「フォークとナイフの使い方は学んだだろ? 自分で食べてみたらどうだ」
「ダメ、なの?」
戦い方を教えるときは自ら行動する少女が、食事の時だけ甘えてくる。
このギャップにやられてしまったハラディンは断れない。おねだりされた時点で拒否する選択はなかったのである。
「別に構わん。腹が満たされるまで食べさせ続けてやる」
返事なんてせずにあーんと口を開いて待つ。
心を許している証拠だ。
出会ったときの不安なんて一切ない。生まれて初めて感じる多幸感に包まれつつ、ステーキを五皿まで食べきってしまった。
* * *
町を観光した日の夜。
疲れと満腹感によってメーデゥは早々に寝てしまった。
商人のペイジは別室で一人晩酌をしている。禁制品をすべて売りさばいて、ハラディンに特別ボーナスを渡すほど機嫌は良い。アルコールによって前後に頭を動かしてしまうほど酔っていた。
そんな二人に気づかれないよう、ハラディンは足音を立てずに宿を出て行く。
持っているのは刀だけ。外套すらまとわず夜道を歩く。剣呑な雰囲気をまとっているので辻斬りに見えるはずだ。
日が落ちていて気温は低い。凍えるほどではないが肌寒さは感じる。
懐かしい顔を探しながら港に着いた。不昼は賑やかだったが今は人の気配が少ない。倉庫の間にできている細い通路に数名いるぐらいだ。
彼らはよそ者のハラディンを見ているが、近づいてくることはない。垂れ流している霊力に圧倒されているのだ。
近づけば殺される。
理屈ではなく直感が教えてくれるため、余計なトラブルは回避できていた。
一人の例外を除けば。
「相変わらず気配を消すのが下手だな。店にいたときからハラディンがいるってわかったぞ」
「お前だって人のことは言えないだろ。派手な髪色をしているから、すぐにわかった」
振り返ったハラディンは話しかけてきた女性をまっすぐ見る。
暗闇の中でも光っているように見える赤い髪をしたクレイアが立っていた。
ハラディンとは生まれた村が同じで一緒に育っていた関係だ。さらにドラゴン族から故郷を守るため民兵に志願して、三番隊の隊長として活躍した戦友である。
他の部隊の生き残りと一緒に大陸まで逃げ延び、そこで二人は別れて別行動をしていた。
「三年ぶりか?」
「二年だよ。時間にルーズなところは変わってないようだね」
「……クレイアは少し変わったみたいだな」
静かに体から放たれている霊力から、ハラディンは敏感に変化を感じ取っていた。
「当然だよ。私たちを見捨てて大陸にまで逃げた貴族を殺し回っていれば、魂の色も変わるさ」
別れるまでは黄金のように輝く色をした霊力だったが、今は赤黒く変色している。この二年でどれほどの血を浴びてきたのかハラディンは想像がつかない。
荒んだような目つきもしていて、何かに取り憑かれているのではないかと錯覚してしまう。
「復讐か……」
「何か言いたそうだね」
クレイアの体から強い霊力が放たれて、空中に赤黒い槍がいくつも出現した。
これは霊力を一時的に物質化させる霊技である。
彼女はこの技を使ってドラゴン族を次々と打ち倒し、隊長にまでのぼり詰めた女傑だ。森の中で殺した護衛の男とは比べものにならないほどの実力を持っている。
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