裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
24 / 47

貴族殺しか

しおりを挟む
 港エリアを一周したハラディンは近くにある飯屋へ入った。

 船乗りが普段から利用しているため店内は男ばかりだ。

 酒や肉を食べ、騒いでいる。

 少女が入ったら間違いなく絡まれてしまうのだが、刀をぶら下げて周囲ににらみをきかせているハラディンのおかげでトラブルは避けられている。

 酒に酔っていたとしても、危険人物の判断ぐらいはつくのだ。

 テーブルに座るとメーデゥはハラディンの膝の上に座った。

「椅子の方が良いんじゃないか?」

「見えちゃう」

 手が離れて寂しくなったからとは言えず、尻尾が隠れているお尻の部分を叩いた。

 万が一でも見えてしまえば大きなトラブルになるとアピールしたのである。

「確かにそうだな。気をつけるに越したことはない」

 本音に気づけないハラディンは納得すると、店員に視線を送って呼ぶ。

 すぐに女性の給仕が気づいてテーブルに駆け寄った。

「ステーキを二つ、それと適当な飲み物をくれ」

「銀貨三枚でお願いしますー!」

 給仕が手を出した。

 ここでメーデゥは、はっと気づいた。

 文明的な食事をするには金が必要なことに。

 ハラディンは金なんて持っていない。一緒に旅をしていたからわかることだ。

 まさかこの場にいる人間を斬り殺してから食事をするのではないかと、怯えながら推移を見も待っている。

「これで大丈夫か?」

 なんとハラディンが懐から銀貨を三枚取り出して給仕に渡した。

「ありがとうございますー!」

 元気よく返事をして注文を伝えに去って行った。

 二人になるとメーデゥが上を向いて、ハラディンの顔を見ながら聞く。

「盗んだお金?」

「違う。ペイジから護衛の報酬をもらったんだよ」

 宿を出る直前、町に滞在する資金という意味も込めて銀貨数六十枚をもらっていた。

 護衛費の相場よりも高いのは、機嫌を取ってお近づきになりたいといった下心があるからだ。

「よかった」

 ほっとした顔をしたメーデゥは前を見ると周囲を興味深く見る。こんな大勢いるのに誰も魔物付きだと気づいてない。それが不思議でたまらなかった。

 人間よりも性能の良い耳がいろんな声を拾っていく。

「ミミちゃんのお尻がプリプリしてて俺を誘惑してくるんだよ!」

「現地妻が三人になったぜ! ガキなんか五人いる!」

「てめぇ! それ以上言ったらぶっ殺すぞ!」
 
「例のぶつは船に入れた。あとは奴隷を積み込むだけだ」

「密航者を見つけたから海に落としてやったぜ!」

 下品な内容から物騒な会話まで聞こえてきた。どれもメーデゥの興味を引くことはない。他に面白そうな声が聞こえないか集中し続ける。
 
「新しい男爵は命を狙われているらしい」

 ハラディンに関わることだったので、思わずピクリと犬耳が動いてしまった。

 同郷の人間が貴族の仲間入りするのであれば、普通は祝福する。メーデゥですらわかることだが、なぜか話を聞いた彼は悲しい顔をしていた。
 
 事情を知りたいとは思うが、なんて言えば良いのか分からずここまで来てしまっている。

 お互いにコミュニケーション能力が低いため、今以上に深く関わろうとしたら時間が必要だろう。

「貴族殺しか。最近は聞かない話だな」

「見つかれば一族郎党皆殺しだ。すべてを捨てでも殺したいと思われるほど恨まれてなければ、普通は誰もやらんよ」

「だよなぁ……」

 もっと話を聞きたい。メーデゥは目を閉じて意識を集中させようとしたが、肉の焼ける匂いに負けてしまった。じゅーと音がする方を向く。

 給仕が両手にステーキが乗った皿を持っていた。

 どんと、音を立ててテーブルに置かれる。

「おまたせ! 熱いうちに食べてねーー!」

 見ているだけで涎が出てしまう。

 皿に置かれた肉を手で掴もうとしたら、ハラディンに止められた。

「フォークとナイフを使って食べるんだ」

「どうやって?」

 店で食事をしたことがないためマナーなんて当然知らない。

 メーデゥは干し肉と同じように手づかみで食べるのが正しいと思っていた。

「こうするんだ。見て学べ」

 両手にナイフとフォークを持ったハラディンが、ステーキを切っていく。

 一口サイズにすると、フォークで突き刺してメーデゥの口元に持って行った。

「いいの?」

「そのために切ったんだ。遠慮するな」

 目を輝かせながら、フォークに付いた肉をパクリと食べる。肉汁が口に広がった。少し遅れて塩の味が混ざる。しっかりと血が抜かれているため臭くはない。噛めば肉に詰まっていたうまみが出てきて、さらに幸福感が高まる。

 肉といえば固くてしょっぱいか、腐っていて酷い臭いがするものである少女の常識が壊された瞬間であった。

 味を堪能してから飲み込む。

 目の前にまた切り分けられた肉があった。

「まだ食べられるか?」

「うん」

 パクッと食べる。また先ほどの幸せを感じる。

 止めようとしても尻尾が左右に売れてしまう。ハラディンの体で隠せてなければ魔物付きとしてバレていたかもしれない。膝の上に乗っていて正解だった。

「もっと食べたい」

 口を開けて待っていると、ハラディンはまた肉を食べさせる。
 
 もうメーデゥの頭は肉のことでいっぱいだ。他に考えられない。

 先ほど聞いた会話のことなんて忘れてしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...