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貴族殺しか
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港エリアを一周したハラディンは近くにある飯屋へ入った。
船乗りが普段から利用しているため店内は男ばかりだ。
酒や肉を食べ、騒いでいる。
少女が入ったら間違いなく絡まれてしまうのだが、刀をぶら下げて周囲ににらみをきかせているハラディンのおかげでトラブルは避けられている。
酒に酔っていたとしても、危険人物の判断ぐらいはつくのだ。
テーブルに座るとメーデゥはハラディンの膝の上に座った。
「椅子の方が良いんじゃないか?」
「見えちゃう」
手が離れて寂しくなったからとは言えず、尻尾が隠れているお尻の部分を叩いた。
万が一でも見えてしまえば大きなトラブルになるとアピールしたのである。
「確かにそうだな。気をつけるに越したことはない」
本音に気づけないハラディンは納得すると、店員に視線を送って呼ぶ。
すぐに女性の給仕が気づいてテーブルに駆け寄った。
「ステーキを二つ、それと適当な飲み物をくれ」
「銀貨三枚でお願いしますー!」
給仕が手を出した。
ここでメーデゥは、はっと気づいた。
文明的な食事をするには金が必要なことに。
ハラディンは金なんて持っていない。一緒に旅をしていたからわかることだ。
まさかこの場にいる人間を斬り殺してから食事をするのではないかと、怯えながら推移を見も待っている。
「これで大丈夫か?」
なんとハラディンが懐から銀貨を三枚取り出して給仕に渡した。
「ありがとうございますー!」
元気よく返事をして注文を伝えに去って行った。
二人になるとメーデゥが上を向いて、ハラディンの顔を見ながら聞く。
「盗んだお金?」
「違う。ペイジから護衛の報酬をもらったんだよ」
宿を出る直前、町に滞在する資金という意味も込めて銀貨数六十枚をもらっていた。
護衛費の相場よりも高いのは、機嫌を取ってお近づきになりたいといった下心があるからだ。
「よかった」
ほっとした顔をしたメーデゥは前を見ると周囲を興味深く見る。こんな大勢いるのに誰も魔物付きだと気づいてない。それが不思議でたまらなかった。
人間よりも性能の良い耳がいろんな声を拾っていく。
「ミミちゃんのお尻がプリプリしてて俺を誘惑してくるんだよ!」
「現地妻が三人になったぜ! ガキなんか五人いる!」
「てめぇ! それ以上言ったらぶっ殺すぞ!」
「例のぶつは船に入れた。あとは奴隷を積み込むだけだ」
「密航者を見つけたから海に落としてやったぜ!」
下品な内容から物騒な会話まで聞こえてきた。どれもメーデゥの興味を引くことはない。他に面白そうな声が聞こえないか集中し続ける。
「新しい男爵は命を狙われているらしい」
ハラディンに関わることだったので、思わずピクリと犬耳が動いてしまった。
同郷の人間が貴族の仲間入りするのであれば、普通は祝福する。メーデゥですらわかることだが、なぜか話を聞いた彼は悲しい顔をしていた。
事情を知りたいとは思うが、なんて言えば良いのか分からずここまで来てしまっている。
お互いにコミュニケーション能力が低いため、今以上に深く関わろうとしたら時間が必要だろう。
「貴族殺しか。最近は聞かない話だな」
「見つかれば一族郎党皆殺しだ。すべてを捨てでも殺したいと思われるほど恨まれてなければ、普通は誰もやらんよ」
「だよなぁ……」
もっと話を聞きたい。メーデゥは目を閉じて意識を集中させようとしたが、肉の焼ける匂いに負けてしまった。じゅーと音がする方を向く。
給仕が両手にステーキが乗った皿を持っていた。
どんと、音を立ててテーブルに置かれる。
「おまたせ! 熱いうちに食べてねーー!」
見ているだけで涎が出てしまう。
皿に置かれた肉を手で掴もうとしたら、ハラディンに止められた。
「フォークとナイフを使って食べるんだ」
「どうやって?」
店で食事をしたことがないためマナーなんて当然知らない。
メーデゥは干し肉と同じように手づかみで食べるのが正しいと思っていた。
「こうするんだ。見て学べ」
両手にナイフとフォークを持ったハラディンが、ステーキを切っていく。
一口サイズにすると、フォークで突き刺してメーデゥの口元に持って行った。
「いいの?」
「そのために切ったんだ。遠慮するな」
目を輝かせながら、フォークに付いた肉をパクリと食べる。肉汁が口に広がった。少し遅れて塩の味が混ざる。しっかりと血が抜かれているため臭くはない。噛めば肉に詰まっていたうまみが出てきて、さらに幸福感が高まる。
肉といえば固くてしょっぱいか、腐っていて酷い臭いがするものである少女の常識が壊された瞬間であった。
味を堪能してから飲み込む。
目の前にまた切り分けられた肉があった。
「まだ食べられるか?」
「うん」
パクッと食べる。また先ほどの幸せを感じる。
止めようとしても尻尾が左右に売れてしまう。ハラディンの体で隠せてなければ魔物付きとしてバレていたかもしれない。膝の上に乗っていて正解だった。
「もっと食べたい」
口を開けて待っていると、ハラディンはまた肉を食べさせる。
もうメーデゥの頭は肉のことでいっぱいだ。他に考えられない。
先ほど聞いた会話のことなんて忘れてしまっていた。
船乗りが普段から利用しているため店内は男ばかりだ。
酒や肉を食べ、騒いでいる。
少女が入ったら間違いなく絡まれてしまうのだが、刀をぶら下げて周囲ににらみをきかせているハラディンのおかげでトラブルは避けられている。
酒に酔っていたとしても、危険人物の判断ぐらいはつくのだ。
テーブルに座るとメーデゥはハラディンの膝の上に座った。
「椅子の方が良いんじゃないか?」
「見えちゃう」
手が離れて寂しくなったからとは言えず、尻尾が隠れているお尻の部分を叩いた。
万が一でも見えてしまえば大きなトラブルになるとアピールしたのである。
「確かにそうだな。気をつけるに越したことはない」
本音に気づけないハラディンは納得すると、店員に視線を送って呼ぶ。
すぐに女性の給仕が気づいてテーブルに駆け寄った。
「ステーキを二つ、それと適当な飲み物をくれ」
「銀貨三枚でお願いしますー!」
給仕が手を出した。
ここでメーデゥは、はっと気づいた。
文明的な食事をするには金が必要なことに。
ハラディンは金なんて持っていない。一緒に旅をしていたからわかることだ。
まさかこの場にいる人間を斬り殺してから食事をするのではないかと、怯えながら推移を見も待っている。
「これで大丈夫か?」
なんとハラディンが懐から銀貨を三枚取り出して給仕に渡した。
「ありがとうございますー!」
元気よく返事をして注文を伝えに去って行った。
二人になるとメーデゥが上を向いて、ハラディンの顔を見ながら聞く。
「盗んだお金?」
「違う。ペイジから護衛の報酬をもらったんだよ」
宿を出る直前、町に滞在する資金という意味も込めて銀貨数六十枚をもらっていた。
護衛費の相場よりも高いのは、機嫌を取ってお近づきになりたいといった下心があるからだ。
「よかった」
ほっとした顔をしたメーデゥは前を見ると周囲を興味深く見る。こんな大勢いるのに誰も魔物付きだと気づいてない。それが不思議でたまらなかった。
人間よりも性能の良い耳がいろんな声を拾っていく。
「ミミちゃんのお尻がプリプリしてて俺を誘惑してくるんだよ!」
「現地妻が三人になったぜ! ガキなんか五人いる!」
「てめぇ! それ以上言ったらぶっ殺すぞ!」
「例のぶつは船に入れた。あとは奴隷を積み込むだけだ」
「密航者を見つけたから海に落としてやったぜ!」
下品な内容から物騒な会話まで聞こえてきた。どれもメーデゥの興味を引くことはない。他に面白そうな声が聞こえないか集中し続ける。
「新しい男爵は命を狙われているらしい」
ハラディンに関わることだったので、思わずピクリと犬耳が動いてしまった。
同郷の人間が貴族の仲間入りするのであれば、普通は祝福する。メーデゥですらわかることだが、なぜか話を聞いた彼は悲しい顔をしていた。
事情を知りたいとは思うが、なんて言えば良いのか分からずここまで来てしまっている。
お互いにコミュニケーション能力が低いため、今以上に深く関わろうとしたら時間が必要だろう。
「貴族殺しか。最近は聞かない話だな」
「見つかれば一族郎党皆殺しだ。すべてを捨てでも殺したいと思われるほど恨まれてなければ、普通は誰もやらんよ」
「だよなぁ……」
もっと話を聞きたい。メーデゥは目を閉じて意識を集中させようとしたが、肉の焼ける匂いに負けてしまった。じゅーと音がする方を向く。
給仕が両手にステーキが乗った皿を持っていた。
どんと、音を立ててテーブルに置かれる。
「おまたせ! 熱いうちに食べてねーー!」
見ているだけで涎が出てしまう。
皿に置かれた肉を手で掴もうとしたら、ハラディンに止められた。
「フォークとナイフを使って食べるんだ」
「どうやって?」
店で食事をしたことがないためマナーなんて当然知らない。
メーデゥは干し肉と同じように手づかみで食べるのが正しいと思っていた。
「こうするんだ。見て学べ」
両手にナイフとフォークを持ったハラディンが、ステーキを切っていく。
一口サイズにすると、フォークで突き刺してメーデゥの口元に持って行った。
「いいの?」
「そのために切ったんだ。遠慮するな」
目を輝かせながら、フォークに付いた肉をパクリと食べる。肉汁が口に広がった。少し遅れて塩の味が混ざる。しっかりと血が抜かれているため臭くはない。噛めば肉に詰まっていたうまみが出てきて、さらに幸福感が高まる。
肉といえば固くてしょっぱいか、腐っていて酷い臭いがするものである少女の常識が壊された瞬間であった。
味を堪能してから飲み込む。
目の前にまた切り分けられた肉があった。
「まだ食べられるか?」
「うん」
パクッと食べる。また先ほどの幸せを感じる。
止めようとしても尻尾が左右に売れてしまう。ハラディンの体で隠せてなければ魔物付きとしてバレていたかもしれない。膝の上に乗っていて正解だった。
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