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うるさい
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メーデゥたちは港に向かっている。
背の高い建物が多いので遠くまでは見通せない。
代わり映えしない光景が続く。
「まだ?」
歩き続けるのに飽きてきた。宿を出たときに感じていてた高揚感は消失している。気分の上がり下がりが大きいのは、体に溶け込んだ魔物の魂が悪さをしているから。
考える前に行動してしまうことがある。
これも魔物付きが人間に嫌われる理由の一つであった。
「もう少しだ」
「でも疲れた」
さらに人が多く酔ってしまったのだ。気持ち悪くなってしまいメーデゥ立ち止まる。
こうなったらしばらくは歩けない。休むにしても道の真ん中では色々と危ないので、ハラディンは少女の両脇の下に手を入れると軽々と持ち上げた。
「どうしたの?」
「抱っこしてやる」
「なにそれ?」
「こうすることを言うんだよ」
メーデゥと体が密着する。腕を背中と尻に回してしっかりと固定した。
「これが抱っこだ。感想は?」
耳元で優しくささやかれ、少女は未知の感情に満たされた。
今まで他人は敵でしかなかった。常に警戒していたのに、ハラディンだけは心に隙はできてしまう。しかも嫌だと感じない。心地よさすらすらある。
死に怯える日々が思い出せないぐらいの多幸感を覚えているからこそ、強い不安に襲われてしまった。
実は今、夢の中で、目覚めたらあの暗くて狭い床下収納の場所に戻ってしまい、変態に売り飛ばされてしまうのではないか。
回避したはずの悲劇的な未来が脳裏に浮かんでしまうのだ。
ハラディンが幻ではなく実在する人間だと確信したく、メーデゥは腕に力を入れて強く抱きしめた。
「どうした? 落ちそうで怖いのか?」
今感じていることを言葉にする術を持っていない少女は黙ったまま。反応はない。
ふぅと息を吐くとハラディンは背中を軽く叩く。
それが安心しろと伝えるようだった。
メーデゥを抱きかかえて二十分ほど歩いている。
潮の香りが強くなってきた。
「港が近いぞ」
声をかけても反応がないので、メーデゥの顔を見ると目を閉じていた。安らかな顔をして眠っている。気持ちよさそうだ。
起こすのも悪いと思い、抱きかかえたまま歩く。
道なりに進んで右に曲がると建物はなくなり視界が開けた。
目の前に海が広がっている。透明度は高い。空は青く地平線の先まで見えて、どこまでも行けそうな気がした。
「どけどけーー!」
荷物を満載した馬車がハラディンの横を通り抜けていった。
港の近くに作られた倉庫前で止まると男どもが集まって、馬車から木箱を降ろしていく。
別の場所では船に乗り込む人間や家畜の姿まである。
町の中で最も人口密集度が高い。非常に賑やかである。
他人にぶつからないよう注意しながら歩き、一際豪華な船の前で立ち止まった。
「もうすぐ出航になる! さっさと荷物を積み込め!」
船長が大声で指示を出している。
背中に積み荷を乗せた男たちが板の上を歩いて船に入っていく。
調度品や香辛料、宝石など高く売れる物が入っているのだが、一部は麻薬などの禁制品も混じっている。船を使って大陸中にばら撒かれているのだ。
ハラディンと同行したペイジの荷物も数日後には、船に乗って他国に売られていく。
「うるさい」
目を擦りながらメーデゥが起きた。
フードが落ちかけたのでハラディンが深くかぶらせる。
「起きたのか? 前を見てみろ。海があるぞ」
振り返ったメーデゥが目にしたのは、どこまでも広がる青い海だ。遠くに船が浮かんでいて飛び跳ねる魚まで見える。風はべたついていて潮の香りが強く、森の中とは全く違うと五感が教えてくれる。
生まれて一度も見たことがない光景だ。
情報の処理がおいつかず、ただただ圧倒されている。
「感想はあるか?」
「すごい。キラキラしてる」
すーっと腕を伸ばして荷物が積み込まれている船を指さす。
「沈まないの?」
「穴が空かなければ沈まないな。あれに乗れば遠くの国にも簡単に行けるぞ」
「師匠の故郷にも?」
「…………そうだな」
生まれ故郷の島は残っているが、行ったところで誰も生きてない。建物もドラゴン族に破壊され尽くしてしまったので、懐かしいと思うことすら難しいだろう。
「いつか行ってみたい」
「大きくなったらな」
都合の悪い話題を終わらすためにメーデゥを地面に下ろすと、小さい手をつないで歩き出す。
目的地はない。ブラブラと港町を観光していると、日傘を差したドレス姿の女性たちが視界に入る。少し離れた場所には身なりの良い男性もいて、ハラディンは貴族の集まりだと判断した。
近づいてからまれたら面倒であるが、別の道では船乗りが談笑をしている。酒を飲んでいるヤツもいて、こちらも近づきたくはない。道幅の広い今の道を使った方が安全だ。
貴族の集団からできるだけ離れながら道を進んでいく。幸いなことに貴族たちは話がもりあがっているようで、二人の存在を気にする者はいない。
不審に思われないようゆっくりと通り過ぎようとする。
会話の一部が耳に入ってきた。
「明日、叙任される男爵の出身を聞いたか?」
「そういえば教えてもらってないな。どこなんだ」
「ダブク王国があったプルデン島だよ」
それはハラディンが住んでいた場所の名前だ。
気になって立ち止まってしまう。
「ドラゴン族に滅ぼされた国の人間か。なんで閣下は男爵にするんだ。考えが分からん」
「さぁなー。俺にも分からん。会ったときに探りを入れよう」
さらに会話を聞こうとするが、ハラディンは腕を引っ張られて我に返る。
「何かあったの?」
「なんでもない。先に行くぞ」
故郷の話は気になるが、今は魔物付きの少女のエスコートする時間だ。
後ろ髪を引かれる思いをしながら、ハラディンは再び歩き出した。
背の高い建物が多いので遠くまでは見通せない。
代わり映えしない光景が続く。
「まだ?」
歩き続けるのに飽きてきた。宿を出たときに感じていてた高揚感は消失している。気分の上がり下がりが大きいのは、体に溶け込んだ魔物の魂が悪さをしているから。
考える前に行動してしまうことがある。
これも魔物付きが人間に嫌われる理由の一つであった。
「もう少しだ」
「でも疲れた」
さらに人が多く酔ってしまったのだ。気持ち悪くなってしまいメーデゥ立ち止まる。
こうなったらしばらくは歩けない。休むにしても道の真ん中では色々と危ないので、ハラディンは少女の両脇の下に手を入れると軽々と持ち上げた。
「どうしたの?」
「抱っこしてやる」
「なにそれ?」
「こうすることを言うんだよ」
メーデゥと体が密着する。腕を背中と尻に回してしっかりと固定した。
「これが抱っこだ。感想は?」
耳元で優しくささやかれ、少女は未知の感情に満たされた。
今まで他人は敵でしかなかった。常に警戒していたのに、ハラディンだけは心に隙はできてしまう。しかも嫌だと感じない。心地よさすらすらある。
死に怯える日々が思い出せないぐらいの多幸感を覚えているからこそ、強い不安に襲われてしまった。
実は今、夢の中で、目覚めたらあの暗くて狭い床下収納の場所に戻ってしまい、変態に売り飛ばされてしまうのではないか。
回避したはずの悲劇的な未来が脳裏に浮かんでしまうのだ。
ハラディンが幻ではなく実在する人間だと確信したく、メーデゥは腕に力を入れて強く抱きしめた。
「どうした? 落ちそうで怖いのか?」
今感じていることを言葉にする術を持っていない少女は黙ったまま。反応はない。
ふぅと息を吐くとハラディンは背中を軽く叩く。
それが安心しろと伝えるようだった。
メーデゥを抱きかかえて二十分ほど歩いている。
潮の香りが強くなってきた。
「港が近いぞ」
声をかけても反応がないので、メーデゥの顔を見ると目を閉じていた。安らかな顔をして眠っている。気持ちよさそうだ。
起こすのも悪いと思い、抱きかかえたまま歩く。
道なりに進んで右に曲がると建物はなくなり視界が開けた。
目の前に海が広がっている。透明度は高い。空は青く地平線の先まで見えて、どこまでも行けそうな気がした。
「どけどけーー!」
荷物を満載した馬車がハラディンの横を通り抜けていった。
港の近くに作られた倉庫前で止まると男どもが集まって、馬車から木箱を降ろしていく。
別の場所では船に乗り込む人間や家畜の姿まである。
町の中で最も人口密集度が高い。非常に賑やかである。
他人にぶつからないよう注意しながら歩き、一際豪華な船の前で立ち止まった。
「もうすぐ出航になる! さっさと荷物を積み込め!」
船長が大声で指示を出している。
背中に積み荷を乗せた男たちが板の上を歩いて船に入っていく。
調度品や香辛料、宝石など高く売れる物が入っているのだが、一部は麻薬などの禁制品も混じっている。船を使って大陸中にばら撒かれているのだ。
ハラディンと同行したペイジの荷物も数日後には、船に乗って他国に売られていく。
「うるさい」
目を擦りながらメーデゥが起きた。
フードが落ちかけたのでハラディンが深くかぶらせる。
「起きたのか? 前を見てみろ。海があるぞ」
振り返ったメーデゥが目にしたのは、どこまでも広がる青い海だ。遠くに船が浮かんでいて飛び跳ねる魚まで見える。風はべたついていて潮の香りが強く、森の中とは全く違うと五感が教えてくれる。
生まれて一度も見たことがない光景だ。
情報の処理がおいつかず、ただただ圧倒されている。
「感想はあるか?」
「すごい。キラキラしてる」
すーっと腕を伸ばして荷物が積み込まれている船を指さす。
「沈まないの?」
「穴が空かなければ沈まないな。あれに乗れば遠くの国にも簡単に行けるぞ」
「師匠の故郷にも?」
「…………そうだな」
生まれ故郷の島は残っているが、行ったところで誰も生きてない。建物もドラゴン族に破壊され尽くしてしまったので、懐かしいと思うことすら難しいだろう。
「いつか行ってみたい」
「大きくなったらな」
都合の悪い話題を終わらすためにメーデゥを地面に下ろすと、小さい手をつないで歩き出す。
目的地はない。ブラブラと港町を観光していると、日傘を差したドレス姿の女性たちが視界に入る。少し離れた場所には身なりの良い男性もいて、ハラディンは貴族の集まりだと判断した。
近づいてからまれたら面倒であるが、別の道では船乗りが談笑をしている。酒を飲んでいるヤツもいて、こちらも近づきたくはない。道幅の広い今の道を使った方が安全だ。
貴族の集団からできるだけ離れながら道を進んでいく。幸いなことに貴族たちは話がもりあがっているようで、二人の存在を気にする者はいない。
不審に思われないようゆっくりと通り過ぎようとする。
会話の一部が耳に入ってきた。
「明日、叙任される男爵の出身を聞いたか?」
「そういえば教えてもらってないな。どこなんだ」
「ダブク王国があったプルデン島だよ」
それはハラディンが住んでいた場所の名前だ。
気になって立ち止まってしまう。
「ドラゴン族に滅ぼされた国の人間か。なんで閣下は男爵にするんだ。考えが分からん」
「さぁなー。俺にも分からん。会ったときに探りを入れよう」
さらに会話を聞こうとするが、ハラディンは腕を引っ張られて我に返る。
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後ろ髪を引かれる思いをしながら、ハラディンは再び歩き出した。
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