裏切られた霊力使いの最強剣士は、拾った魔物付きの少女を弟子にしたら育てすぎてしまった〜二人は幻の理想郷を目指して旅をする〜

わんた

文字の大きさ
35 / 47

悪くない目標だ

しおりを挟む
 パーティ会場は、三百人ほど入れる広さがあった。窓が一定間隔で設置されていて騎士が警備している。襲撃を警戒しているのだ。

 身分の低い者から入場すると決まっているため、貴族たちの姿はない。警備や配膳をしているメイド以外は誰もいなかった。

 賑やかしとして呼ばれた商人や上級平民たちは、料理や酒が乗っているテーブルの方に行くものの出入り口近くで集まっている。身分が高いほど部屋の奥に行くルールとなっているので、こういった配置になっていた。

 当然、ペイジも手前の方にいる。

 ケーキがある皿を持ちながら、談笑している人々を眺めていた。

「一人なのが不思議ですか?」

 暇つぶしのため、後ろで護衛に徹しているハラディンに声をかける。

「多少は。雇い主がここまで嫌われているとは思わなかったぞ」

「ははは、痛いところを突かれてしまいましたね」

 気分を悪くせず軽く笑っていた。本人はこういった状況になることは織り込み済みで、耐えられる状況なのだ。

 流石、裏商人といったところだろう。精神の強さは人一倍あった。

「寂しくはないのか?」
 
「私と親しいと思われたら表での商売がしにくくなりますから。仲間はずれになるのは当然です」

 言葉とは逆に悲しさといった感情が声に含まれていた。

 耐えられるだけで何も感じない、というわけではない。個人で麻薬を売りさばく商人には手に入らないものを見せつけられ、憧れを抱くのは自然なことだ。

「もう少しであちら側に行けます。そうなったら、あいつら全員を叩きのめせるほどのデカい商会を作って見せますよ」

 死や逮捕のリスクを背負ってまで禁制品を取り扱ってきた理由が、自分だけの商会を立ち上げることにあった。

 資金、コネクション、商売の知識や技術がそろってようやくスタートラインに立てるほど難易度が高く、普通は単独でやろうなんて思わない。

 明らかに一人で見るには大きすぎる夢なのである。

 だが、ペイジは諦めなかった。

 決して社会的に正しいとは言えないが、血がにじむような努力を重ねてのし上がってきたのだ。夢まであと一歩。もう目の前まである。

「悪くない目標だ。手伝うことは出来んが応援ぐらいはしてるぞ」

 話を聞きながらハラディンは会場を襲撃するであろうクレイアのことを思い浮かべていた。

 ペイジからは殺して欲しいと言われているが、そんな気は毛頭ない。例え世界を敵に回しても戦友を殺すことはないだろう。

 だからといって、ペイジを見捨てる気にもなれない。

 魔物付きの少女を拾うぐらい情が深い彼は、お互いに大きな傷を負わない結果に出来ればと考えていた。

「ありがとうございます。今日は頼らせてもらいますよ」

 ペイジは話を終えるとケーキを食べ始めると、ハラディンは服を引っ張られた。

 視線を下にすると指をくわえたメーデゥが、物欲しそうな顔をして食事が乗ったテーブルを見ていた。

「食べていい?」

 許可を出そうと口を開きかけて止めた。

 昼の出来事を思い出したからだ。

 魔物の魂が暴走する可能性は残っている。下手に刺激をすれば襲撃が起こる前に大きな騒ぎを起こしてしまう。これは誰も望まないこと。避けるべき展開であった。

「俺たちは護衛の仕事中だ。飯を食べている間に事件が起こったら初動は遅れてしまう。だから、今は我慢するんだ」

「わかった」

 ハラディンの言葉には忠実に従うメーデゥは素直に諦めた。

 食べ物を見れば食べたくなるので、自然と視線は外に向く。

 人間よりも夜目が利くため、窓から手押しの荷台に乗っている大きい紀鉄の箱が屋敷に搬入される様子を目撃した。運んでいるのはメイドだ。

 一般的に大きい荷物は前日までには運び込むのだが、そのような常識をメーデゥは知らない。

 準備で忙しいんだな、としか思わなかった。

「ついに貴族の方々が来るぞっ!」

 周囲のざわつきが大きくなった。

 視線を野外から室内に戻すと、二階にいる楽団が音楽を奏でた。

 宝石のついたアクセサリーをつけた女性と、ハラディンたちよりも上質なタキシードを着ている男性がペアで何組も入ってくる。席はある程度決まっているようで、会場の中心までいくとテーブルで談笑を始めた。

 ペイジやボンドといった平民は、その姿を見ているだけ。話しかけられず、まるで見えない壁があるようだった。

「いやー。貴族の皆様はお美しい方ばかりだ。会場がいっきに華やかになりましたね」

「そうか? 派手なだけで――」

「場の空気を読んで、そこは同意して下さいって!」

 せっかくペイジが貴族の気分を良くしようと発言したのに、ハラディンが台無しにしてしまいそうだった。改めて戦い以外は役に立たないとわかり、もう話を振るのはやめとようと決心したのである。

「悪かったよ。で、近くに行かないのか?」

「まだです。新しく就任された男爵様が入場して挨拶を終えるまで、我々はここで待機なんです」

「面倒な手続きがあるんだな」

「尊い方と話すにはそれなりの手順があるんですよ」

 同じ人間なのに、そんな差があるのか? などと思ったハラディンだったが、先ほど注意されたばかりだったので口には出さなかった。

 ため息を吐くと何も言わずに周囲の警戒を再開する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

処理中です...